手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

怖がる患者さんとの思い出(関係づくりについて)その6

2012-06-09 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回からの続き≫


おばちゃんの左となり、健側に座ることができた私は次の提案をしました。



「リハビリで、痛いほうの右肩を動かされることが怖いわけですよね


『そう


「では、痛くない方の左肩を使って、どのようなことをするのか体験してみましょうか」





ここで私はことば掛けの仕方を「体験しませんか」ではなく、より積極的な誘いである「体験してみましょうか」に変えています。


おばちゃんとの関係も少しずつできていたので、抵抗や拒絶はありませんでした。


それに、痛くない方を触れられるわけですから、おばちゃんにとって怖いことではありません。


この提案には、すんなりOKが出ました。





健側の左肩に触れて、まずマッサージなど関節を動かさない状態で周囲の筋肉をゆるめる操作を行い、続いて、長軸方向への牽引などを体験していただきました。


ここではマッサージなどの内容より、触れることができたというのが大きなポイントです。


私たちは患者さんの身体に触れる触診によって、組織の状態を知ろうとします。


一方で患者さんは自分の身体に触れられることで、セラピストの手の柔らかさや温かさ、親和的な触れ方などを実感することができます。


この意味はとても大きく、場合によってはことばによる説明がほとんどなくても、信頼関係が出来上がってしまいます。





治療院を開業してからのこと、ある患者さんが知人の方を紹介したいとお話し下さいました。


ただその知人の方は、病院に行ったら相手が医師だろうが誰だろうが、自分が納得できるまで徹底的に質問して離さないスッポンのような方だというのです。


そのため患者さんは、かえって私に迷惑をかけるようなことがあるのではないかと心配していらっしゃいました。


ところが実際にいらしてみると、とくに質問攻めをされることもなく、すんなり終わってしまいました。





 
あとで 「じつは紹介して下さった方が、スッポンだからと言って心配していたんですよ」とお話しをしたら、笑ってこうお答えになりました。


『身体に触れられて、大丈夫だと思いました』


それを聞いたとき、触れるということはやはりたいへんなことだと改めて思いました。


患者さんはセラピストに自分の身体を任せてよいかどうか、触れられた瞬間に感じとっていらっしゃるわけです。





また、ある患者さんがこのように話していたことがありました。


「あそこの病院は、身体に触りもしないで判断したんですよ


医師が診断をするうえで、身体に触れるということは必須ではないかもしれませんが、この患者さんはそれを不満に感じていらっしゃったのでした。


触れるということは、患者さんの情緒に大きな影響を及ぼすようです。





だからといって、ただ触れればよいというわけではなく、このようなことを話す患者さんもいました。


「あの先生の触り方がキライ


触れるということは難しいことです。


手は言葉よりもなお、ごまかしが利きません。


そのためには練習あるのみです。





おばちゃんは、どのような印象をもたれたのでしょうか。


ひととおり終わって「このような感じなのですがどうでしょう。いちど右肩でも受けてみますか?」とおたずねしました。





コクリ。


おばちゃんはうなずいてくれました。


幸い良い印象を持っていただけたようです。





これでようやく、本格的にリハビリをはじめることができます。


まずは、疼痛の解消と可動域を回復させるため、保護的なアプローチからスタートしていきました。





おばちゃんはやがて数回のリハビリを経るうちに、顔をしかめるくらいの積極的なアプローチにも冗談を言いながら耐えられるようにもなられました。


どのような話をしたのか今では思い出せないのですが、とにかく発想が面白くて私も笑いながらリハビリをしていたのを覚えています。


その後、可動域も回復して痛みもなくなり、ふたたび元気に生活をされるようになったのでした。





今回ご紹介したケースは、はじめはネガティブな反応が激しくても、短期間で関係をつくることができたので、わかりやすいモデルだったのではないかと思います。


もちろん、もっと時間がかかることも多いですし、いろいろ働きかけても上手くいかず、心を閉ざしてしまった患者さんもいらっしゃいました。


とくに自費での治療を行っている現在では、回復に時間を必要とし、かつ患者さんもネガティブな反応を示している場合、上手く関係を作ることの難しさをより感じています。





次回は、このシリーズのまとめです。

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