(前回のつづきから)
寝返りをうてるようになった患者さんですが、次の願いは「自宅のトイレを使って、自分で用を足せるようになりたい」というご希望でした。
自分で用を足せるということは、とても大切です。
排泄に介助が必要になることで、無気力から抑うつ状態になる方もいらっしゃるからです。
排泄は日常生活動作のなかでも、人間の尊厳とより強くかかわっているといっても決してオーバーではないと思います。
その患者さんは当時、ベッド脇においたポータブルトイレで、介助を受けながら用を足していらっしゃいました。
そこから自立して自宅トイレを使うとなると、なかなかたいへんな道のりです。
それでも患者さんはめげませんでした。
起き上がりの訓練や座位保持、立ち上がり、立位バランス、四つ這い歩行、介助歩行など一生懸命にリハビリされました。
その過程でおこる筋肉疲労の回復や、可動域の改善には手技療法を用いました。
運動機能の向上にともなって、自室からトイレまで安全に移動できるように、ご本人とご家族、担当のケアマネさんと相談して手すりの設置など住宅改修を行いました。
私の訪問日時に工事を合わせて手すりの高さを決めたのですが、気負われていたためでしょうか、その時の患者さんの緊張された面持ちがよく記憶に残っています。
こうして訪問をはじめてから5ヶ月目、ついに手すりにつかまり歩行をしながら自立してトイレが使えるようになられたのでした
ここまで回復しただけでもすばらしいことですが、患者さんの希望はさらに膨らみます。
「家の外を歩きたい」
「外を歩いて風に吹かれたり、急に降った雨にあたって『ひどい雨だったね』っていってみたい」
お歳が90代なかばとはいえ、これまでの経過から考えて、雨風はともかく杖をついて歩くことは可能だろうと私は思いました。
ところが、なんと患者さんのご希望は「杖なしで」
とにかく、屋外での杖なし歩行をめざしてトレーニングをつづけました。
外を歩くとなると、デコボコして不規則な地面に対応できるようにならないといけず、より高いバランス感覚が求められます。
そこで片足立ちになったり、さらに眼をつぶったりというトレーニングも重ね、杖歩行も練習しました。
こうして訪問開始から10ヶ月がたったころ、ご自宅の庭で杖がなくても数メートルほど歩けるようになりました。
私の担当は1年で終了したのですが、最後には10メートルおきにつかまって休みながら、80メートルほど歩けるようになっていらっしゃいました。
再び歩けるようになったとき、患者さんはおっしゃいました。
「歩ける人生はすばらしいですね」
『ことば』はどのような経験を重ねてきて何を感じてきたかによって、そこに込めた意味が変わってくると思います。
患者さんのおっしゃったことばの意味を、私はすべて汲み取れてはいないでしょう。
それでも、このことばは私の心のなかに深くひびいて忘れられないものになりました。
今回ご紹介したのは、ASTRで治療した最高齢の患者さんのエピソードでしたが、このお話しは治療、とくに在宅での機能回復を行っていくうえで、ASTRを含めた手技療法のポジションというものをよく示しているといえます。
またまたつづきは次回に
寝返りをうてるようになった患者さんですが、次の願いは「自宅のトイレを使って、自分で用を足せるようになりたい」というご希望でした。
自分で用を足せるということは、とても大切です。
排泄に介助が必要になることで、無気力から抑うつ状態になる方もいらっしゃるからです。
排泄は日常生活動作のなかでも、人間の尊厳とより強くかかわっているといっても決してオーバーではないと思います。
その患者さんは当時、ベッド脇においたポータブルトイレで、介助を受けながら用を足していらっしゃいました。
そこから自立して自宅トイレを使うとなると、なかなかたいへんな道のりです。
それでも患者さんはめげませんでした。
起き上がりの訓練や座位保持、立ち上がり、立位バランス、四つ這い歩行、介助歩行など一生懸命にリハビリされました。
その過程でおこる筋肉疲労の回復や、可動域の改善には手技療法を用いました。
運動機能の向上にともなって、自室からトイレまで安全に移動できるように、ご本人とご家族、担当のケアマネさんと相談して手すりの設置など住宅改修を行いました。
私の訪問日時に工事を合わせて手すりの高さを決めたのですが、気負われていたためでしょうか、その時の患者さんの緊張された面持ちがよく記憶に残っています。
こうして訪問をはじめてから5ヶ月目、ついに手すりにつかまり歩行をしながら自立してトイレが使えるようになられたのでした
ここまで回復しただけでもすばらしいことですが、患者さんの希望はさらに膨らみます。
「家の外を歩きたい」
「外を歩いて風に吹かれたり、急に降った雨にあたって『ひどい雨だったね』っていってみたい」
お歳が90代なかばとはいえ、これまでの経過から考えて、雨風はともかく杖をついて歩くことは可能だろうと私は思いました。
ところが、なんと患者さんのご希望は「杖なしで」
とにかく、屋外での杖なし歩行をめざしてトレーニングをつづけました。
外を歩くとなると、デコボコして不規則な地面に対応できるようにならないといけず、より高いバランス感覚が求められます。
そこで片足立ちになったり、さらに眼をつぶったりというトレーニングも重ね、杖歩行も練習しました。
こうして訪問開始から10ヶ月がたったころ、ご自宅の庭で杖がなくても数メートルほど歩けるようになりました。
私の担当は1年で終了したのですが、最後には10メートルおきにつかまって休みながら、80メートルほど歩けるようになっていらっしゃいました。
再び歩けるようになったとき、患者さんはおっしゃいました。
「歩ける人生はすばらしいですね」
『ことば』はどのような経験を重ねてきて何を感じてきたかによって、そこに込めた意味が変わってくると思います。
患者さんのおっしゃったことばの意味を、私はすべて汲み取れてはいないでしょう。
それでも、このことばは私の心のなかに深くひびいて忘れられないものになりました。
今回ご紹介したのは、ASTRで治療した最高齢の患者さんのエピソードでしたが、このお話しは治療、とくに在宅での機能回復を行っていくうえで、ASTRを含めた手技療法のポジションというものをよく示しているといえます。
またまたつづきは次回に