手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

治療する (片づける)順序はどうする?その2

2008-04-25 22:39:19 | 治療についてのひとりごと
前回からのつづき。


≪今回のお話は、臨床に入ってまだ間がない方向けにつくってみました。≫




散らかった部屋を掃除をするとき、みなさんはどのような手順でそれを行いますか?





まずザッと部屋を見まわして、いちばん生活に支障をきたしているところ、ベッドの上が散らかって寝る場所もないとか、タンスの前にモノがあふれて引き出しが開けられないとか、そのようなところから始めようとするのではないでしょうか。


(ベッドにたどり着くまでの、足の踏み場をまずつくらなきゃいけないこともありますが…)


片づける場所を決めたら、その中でも大きくて目立つもの、脱ぎ散らかした服や、広げられた雑誌などから片づけるはずです。


こうして散らかり度合いのボリュームを減らし、あるていど動けるようにスペースをつくったうえで、閉まらなくなった引き出しを閉まるようにしたり、掃除機をかけたりすると思います。





最初から引き出しの中の小物を片づけたり、拭き掃除をするなんていう方…、いらっしゃるかもしれませんが、どちらかというと少数派ではないでしょうか。どうでしょう???





機能障害への治療の順序も、このような掃除と同じ発想で行うことができます。





問診や視診がすんで触診に移ったときには、その患者さんにとっていちばんツライ、生活に支障が出て困っているところから順に診ていくようにします。


そして、治療してはいけない禁忌の状態ではないと判断できたら、身体のなかにある大きくて目立つ制限から治療をはじめます。


続いて反応をみて、2番目に目立つところ、3番目に目立つところとすすめていきます。





とても大ざっぱな言い方ですが、機能障害とは、組織に疲労が積み重なって溜まりに溜まり、身体が耐え切れなくなって悲鳴をあげている状態が症状として現れたものというとらえ方もできます。





この場合、まずやるべきことは疲労のボリュームを減らしていくことだと考えるわけです。





ボリュームを減らすには、目立っている制限に大きな疲労がたまっていると予想されるので、そこから治療を始めたほうが効率はよいはずです。


これらを探す手掛かりが分からないときは、同じような作用をする協力筋、反対の作用をする拮抗筋、または隣接する関節などを診てゆくとよいでしょう。


これは頭の中だけで考えるのではなく、きちんとていねいに触診して確認することが大切です


とくに慢性的な症状になればなるほど、あちらこちらに回復力を妨げている要素があるはずです。そのため治療範囲はある程度広がるので、より広い範囲を視野に入れて診る必要があります





よく、『痛いところだけ治療しても良くならない』と言われるのは、このことを意味しているんですね。





「そんな広い範囲を診て判断することなんて、なかなかできません」という方、はじめは出来なくて当然ですから、アセらずに症状が出ている部位の近くから、順に疲労のボリュームを減らしていけば大丈夫ですよ





患者さんの症状の変化もよくみて下さい。あるていどまで回復して足踏み状態が続くようなら、身体のなかの隠れた疲労を見逃しているのかもしれません。生活の中に何か理由があるのかもしれません。または他の病気のためかもしれません。


よく話をきいて、とにかくていねいに身体を触診する。そして、「おかしい。これは、筋肉や関節の問題ではない」と思ったら、キチンと医師に診察していただくことが大切です。





筋肉の症状については、書籍でもよく紹介されている、トリガーポイントの関連痛領域も覚えておくと、とても役に立ちます





このように、一歩一歩すすめていく方法はとても地味なようですが、堅実な方法です。


ちょうど野球でいうならヒットでつなげて得点を上げていく方法でしょうか。これに対して、前回紹介したような特定の部位を予め重視して、そこを治療するのは一発ホームランを狙う方法といえるかもしれません





どちらの方法をとるかは自分で決めることですが、個人的には今回ご紹介した方法をオススメしたいです。





理由はこちらの方が、その患者さんのありのままの状態を診ることになるからです。


この方法は、患者さんが生活の中でムリをしていることと、身体の状態を結びつけて一つのストーリーをつくりだすことが比較的容易です。


私自身はこのように身体からその患者さん独自のストーリーをつむぎ出すということも、手技療法で治療を行う意義のひとつではないかなと考えています


こうすることで患者さんは、何がどのように影響して症状が出たのか、ということをより理解しやすくなります。それによって不安が少なくなるとともに必要な対処法もわかるので、これからの生活をより元気に送っていけるのではないかと思っています





もちろん一歩ずつ手さぐりで診るといっても、各部位ごとの評価や治療のコツなど重要なポイントはありますから、それらはセミナーにてご紹介する予定です。




今回のお話はとても大きな内容をまとめたので、改めて読み直すとたいへん荒削りな内容ですが、ちょっとでも何かのヒントになれば嬉しいです

治療する (片づける)順序はどうする?その1

2008-04-19 21:01:30 | 治療についてのひとりごと
お掃除シリーズの4回目です。



突然ですが、例えば「筋筋膜性腰痛」の診断を受けた患者さんを診るとき、どのような順序で治療をすすめますか?



切り傷や骨折は、治療する手順がハッキリしています。

切り傷なら、傷口を洗って消毒してバンソウコウなどで保護しておく。

骨折なら折れたところを整復して固定する。

これは、世界中どこにいっても同じでしょう






ところが「筋筋膜性腰痛」などの機能障害への治療で、そのように統一されたすすめ方というのは今のところないといっていいと思います。


そのためでしょうか。マッサージや指圧、オステオパシーにカイロに整体など、手技療法の世界には体を診るための理論といいますか、仮説がたくさんあります。


よくみられるのは、背骨や骨盤など特定の部位を重視して、そこを中心に仮説を組み立てる、というものです。





この世界に飛び込んだころ、あまりにもいろんな考え方があるので、私は面食らってしまいました





『背骨がまっすぐであれば、体は健康になる!』

ウンウンなるほど。それなら、背骨を注意してみればいいわけね





『いやいや、土台は骨盤なのだから骨盤のバランスが一番大切。』

そういわれたら、そうかもしれんなぁ





『体は足のウラで支えているのだから、足の歪みが全身に影響している!!』

エッ、ちょっと待って





『それより手のほうがっ!!』 

『いいやっ、アゴの状態こそっ!!』

『なんのなんの肋骨のバランスがっ!!』

『あなた方は物質の世界にとらわれすぎているっ、気の流れこそ肝心なのですぞ!!』

アーッ、もう何がなんやらワカランようになってきた






こうなると理屈に振り回されてどこから治療すればいいのか、私はわからなくなったのでした


みなさんもそんな経験はありませんでしたか?


このようなわけのわからない状態のなかで、どのように治療を進めればよいのでしょうか?





自分が魅力を感じた治療法にドップリつかってしまう。


例えば、脊柱もしくは骨盤の歪みを中心にして考えるというのも、それはそれでひとつの方法だと思います。


この方法の長所は、身体の異常をパターン化しやすいということです。


ナントカ型、カントカ型とパターン化することで、理解がスムーズになり、パターンにのっとって離れたところで起こる変化も予想できます。




ただし、そのときに注意しなければならないのは、仮説をムリやり身体に当てはめてはいけないということです。




常に仮説が正しいかどうか、確認しつつ進める態度を忘れないようにしなければなりません。


そして、つじつまが合わないようなことが起こったとき、決してそれをあいまいにしない。


謙虚に考えて、仮説が通用するケースとそうでないケースを明らかにするという態度がとても大切だと思います。





実際にあったことで、患者さんは苦痛を感じていても、「骨盤は整っているから問題ない」と言われて、途方にくれている方もいらっしゃいました。


こうなると悲劇です。






代替療法を行う人の中には、現在の医療を批判してこのようなことを言う方もいます。


「病気を診て、病人を診ていない」


しかし、反対に私たちが


「背骨を診て、病人を診ていない」


ということにならないよう、よく省みることが大切だと思います。






また本筋から脱線してしまいましたね






では本題に戻って、あらかじめ特定の部位を重視する、パターン化して考えるなどということをせずに、治療部位を決めていくという方法はないのでしょうか?


それが、掃除をするときの発想です。


つづきは次回に

「散らかっている(機能的障害)」から「故障している(器質的障害)」へ

2008-04-11 23:40:20 | 治療についてのひとりごと
お掃除シリーズの3回目。


今回は、部屋の汚れや散らかり(機能的障害)を放置しておくと、家具の故障(器質的障害)に結びつくというお話し。




例えば、タンスの引き出しにモノがあふれてなかなか引けないのを、ムリに引っぱる!! なんてことを何年もくり返していれば、そのうち金具が外れて壊れてしまうこともあります


ダンボールなど弱い箱の上にいろいろ積んでおくと、箱がだんだん変形してきて、そのうちグッシャとつぶれてしまいます







このようなことが起こるのは、身体でも同じなんですね。







例えば、ふくらはぎの筋肉が硬くなったまま、ムリをしスポーツをしていると、アキレス腱がブチッと切れてしまうこともあります





ギックリ腰だってそうですよ。





ギックリ腰はとくべつ重いものを持たなくても、ほんのちょっとしたはずみ、なにげなく振り向いたとか、少ししゃがんだときでも起こることがあります。


きっかけが大したことないと、患者さんのなかには「べつに腰にムリをかけた覚えはないんだけどなぁ」と、不思議そうにお話される方もいらっしゃいます。


でも、腰がまったく問題ない状態なのに、少し動かしただけでギクッと傷めてしまうことなんてほとんどありません。


たいていは知らず知らずのうちに疲れをため、少しずつ身体が硬くなってきて限界を超えたとき、ちょうど ダムが決壊するかのように


ギクッ!!  


となるわけです。


少しずつ硬くなると、それに慣れてしまってなかなか異常に気づきにくいこともあります。




ギックリ腰のように急激でなくても、スジの硬さによって、関節のかたよった部分に負担がかかり続け、やがて変形にもつながってしまいます。




このように、身体の中の機能的障害がベースになって、やがて器質的障害に結びつくこともあるわけです。


日頃からの手入れや整理整頓が大切なのは、家具も身体も同じことですね






ところで、






この「ダムが決壊するように」という例え、これは自分では大したことをしていないのに、急に痛み出したことを不思議がっている患者さんへ説明するにはピッタリの表現で、私は愛用しています



細かいところはハッキリしなくても、感覚的に理解されるのかもしれません。



患者さんに説明するときに、理路整然と話しことはもちろん大切なことですが、ときに「例え」や「イメージ」を交えて伝えたほうが、すんなり納得していただけることもあります。



ただ、場合によってはかえって混乱させたり、不安をあおったりとマイナスに働くこともあるので十分な配慮が必要です



「ダムが決壊するように」という例えも、イメージが強烈ですから、不安が強い患者さんには不向きだと思います。



「ことば」は道具ですから、その使い方によって薬にも毒にもなります。十分に注意したうえで使いたいですね。



こんなことを書いている私も、「今の言い方はよくわかってもらえたな 」 「あの表現はよくなかったかな? 」などと反省を繰り返す日々です。


精進精進

掃除(治療)にかかる手間と時間

2008-04-05 00:01:21 | 治療についてのひとりごと
お掃除シリーズの2回目。



前回は、手技療法で部屋の掃除(機能的障害の治療)はできるけど、修理(器質的障害の治療)はできないとお話しました。



今回は掃除の例えをつかって、回復までにどれほど手間がかかるかというお話しです。







部屋の汚れも3日分なら、散らかるといっても大したことはないでしょう(例外もあるでしょうが…そう、私のことです)。



汚れもせいぜいホコリ程度でしょうから、パッパと片づけて、サラッとぞうきんで拭いたり、掃除機をかける程度で済みます



身体なら、ソフトでやさしい癒し系のマッサージで対応できる範囲でしょうか。






3ヶ月分の汚れになると、サラッと済ませるわけにはいかないかもしれません



散らかり具合もひどくなっているでしょうから、まずはそれらをセッセと片づけて、拭き掃除もゴシゴシこすらないといけないところも出てくるでしょう。



時間も少しかかってきます



身体なら、スジのこわばりも強くなっているでしょうから、ゴシゴシと刺激が必要になるところがあるかもしれません。







3年分の汚れ…、想像するだけで恐ろしい



ゴミ屋敷状態でしょうか



こうなったら、散らかったものをヨイショヨイショと片づけて、壁や床にもいろんなモノがこびりついているでしょうから、拭くだけでは追いつかず、ゴリゴリと削り取らなきゃいけないところもあるでしょう。



時間も1日ではとても足らないはずです



身体ならガッチガチになっているところがあるでしょうから、そこにはゴリゴリと痛い刺激が必要かも。



回復までの時間も手間も当然かかるでしょうから、ちょっと長い目で見なければいけません







3日、3ヶ月、3年と大ざっぱに書きましたが、汚れ(疲れ)の程度は、その人がどのような生活を送っているかによっても変わってきます。



つまり、回復までの時間や手間は、疲労・こわばりの程度や、それがどれほどの時間をかけてたまったかによって変わってくるということですね










そんなもん当たり前やないカ~ッ!!





という声が聞こえてきそう



そう、掃除なら散らかっていたらそれだけ時間がかかるというのは、誰でもすぐにわかる話なんです。



ところが身体のことになると、ヒドイくらい疲れがたまっていても 「サラッととれるだろう」と、考えている方もけっこういらっしゃいます。





それも人情というものなんでしょうねぇ