手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

触診の感触について:「軽度の炎症」「癒着を剥離させたとき」

2014-12-27 16:56:28 | 学生さん・研修中の方のために
触診したときの感触というのは、実際に体験してみないとなかなかわからないものです。

それは料理の味を知るというのと同じこと。

でも言葉でその雰囲気を知っておくことも、何かの参考になるかもしれません。

そのような思いで、ひとつのエピソードをご紹介したいと思います。



先日、PTそしてトレーナーとして活躍されている方が来院されました。

「追い込んでトレーニングをした直後の身体を、どのようにケアするのか体験したいです」というめずらしいご要望でした。



激しいトレーニングをした後は、筋肉も炎症を起こして熱を持っていることがよくあります。

そのためマッサージを行うときもさするように、ゆさぶるようにして、軽く刺激を加えることによって「流れをよくする」ようなイメージで行うのがふつうです。

もちろん筋肉そのものに対して、強い刺激を加えるなど持ってのほか、とされています。



でも、それくらいしかできないというわけではありません。

皮下組織などの浅筋膜を滑らせたり、筋間中隔などの深筋膜の間を分け入っていくような感じで手を進め、その隙間を広げるようなイメージで刺激を加えることもあります。



例えば今回のケースで行ったことなら、大胸筋表面の皮下組織を滑走させ、大胸筋と小胸筋との間に奥まで指を進めて組織を離開させる。

大腿直筋と内側広筋、外側広筋の両サイドの筋間部分から手を進めていく、などです。



浅筋膜や深筋膜にはリンパなどの脈管系も発達していることから、それによってその還流が促されるためなのか、より速やかに回復していくような印象を持っています。

ですから「流れをよくする」というよりも「流れがよくなる」状況を作っておくようなイメージでしょうか。

もともと筋膜に制限があった方ほど、変化を自覚しやすいようです。



この方法は、それなりに刺激を加えます。

そのため、筋肉そのものにはできるだけ負担をかけないよう、癒着を起こした結合組織に刺激を集める、あるいは炎症部分を避ける触診の技術、とくに深部の筋間部分を狙うなら解剖学の知識は必要です。



では、炎症を起こした筋の感触とはどのようなものでしょうか?

高い熱を持って明らかに腫れているならわかりやすいでしょう。

でもそこまでいっていない、軽度の炎症であるケースもよくあります。



その場合は、軽く触れると表面がふわっとして妙にやわらかく、軽く圧迫を加えると虚脱した感じで、正常な組織にみられる適度な弾力性がありません。

そして、はじめはわかりにくいかもしれませんが、じっとそのまま待っていると奥のほうからジンジンとした軽い熱感が伝わってくる、このような感覚があります。

これに対して癒着を起こした筋膜は、筋間部分から触れていくとビーンと糸が張っているようなツッパリ感があり、押さえると明らかに正常よりも強い弾力性があります。



このように炎症を起こした組織と、癒着のある組織はコントラストが比較的ハッキリしています。

その違いを感じ分けながら、筋間部分に刺激を集めるようにコントロールしていきます。



言葉で書くと簡単ですが、もちろん経験を重ねることは必要です。

私の場合は、自分がケガをしたときに練習していました。

「転んでもタダでは起きず」をご参照ください。≫



話を戻し、続いて脛骨内側と筋肉の境目に、シンスプリント後のような瘢痕部分を認めました。

触診で、ここには追い込んでトレーニングをした痕跡がないことが確認できたので、ASTRを使って癒着をはがしていきました。

ここは受けていても泣きがけっこう入るところです。



この部分の癒着をはがしたときは、「ビリッ」とか「バシッ」とか「メリメリ」などと音を立てて外れることがあるので、最初はビビります。

でも音が出たときに痛みが走るということは経験上ありません。



このときの感触は、ちょうど机につけたセロテープを両端から引っぱって外れたときのような感じです。



決して、糸が切れたような、ちぎれる感覚ではありません。



音も軽い感じです。

これに対して、肉離れなど組織が断裂したときは、「ブツッ」とか「グズッ」というように重く鈍い音です。

だから慣れてくると、バチッと音がしても平然として続けることができます。



今回は「軽度の炎症」や「癒着を剥離」した時の感触について、私なりの表現を用いてご紹介したのですが、このような言葉は実際にやってみたときにヒントになるというだけのものです。

言葉をいくら覚えたところで、触れて経験しなければ役に立ちません。

知識が増えても実践が伴わなければ、不安だけが増えていきます。



だから「百聞は一見にしかず」そして「百見は一触にしかず(byとっすぃー)」

まずは仲間同士で、徹底的に身体に触れて感じて体験してください。

一度でも体験すれば自分のものにできます。



ご注意)仲間同士とはいえ、断裂を経験する必要はありませんのであしからず!!



次回は、1月10日(土)更新です。
今年もありがとうございました。
みなさん、どうぞよいお年を。

身体をみるときの「目」の使い方 その3

2014-12-13 17:01:50 | 学生さん・研修中の方のために
異常な姿勢や動きをみる時の目の使い方として、視界に入る両サイドを見ながらまん中に視点を落とすようにするというのが、このシリーズでご紹介している方法です。

今回はその目の使い方を、私が臨床でどのように用いているのか、ご参考までに紹介します。



はじめは全体を見ながら、まん中に視点を落とした状態で、患者さんの自由な動きや、自動運動による可動域検査を観察します。

実際に、姿勢や動きで違和感を持つところがあったら、次にその部分に視点を落として動きや姿勢をみるようにします。

違和感を持つ場所がいくつかあったら、視点を落とす場所を順に変えていけばよいでしょう。



姿勢に違和感があるというのは左右差がある、あるいは中心からの偏りが大きいということです。

これは勉強が必要とはいえ、基準がはっきりしているし、動かないぶんまだわかりやすいですね。



これに対して、動きに違和感があるというのは、協調性がおかしいということです。

動かし方の順序、動きのリズムといった感じでしょうか。

こちらは静的な姿勢より、変化があるため難しく感じる方が多いでしょう。

前々回にお話したような、知識や経験がより求めらます。



動きをみるときに持つ違和感というのは、どのような感じなのでしょうか?

あくまでイメージですが、たとえば規則正しく行進している集団を見ているとします。

その中で、ひとりだけ手足を左右反対に動かしている人がいたら、みなさんはまず全体の動きが「何だか変だ?」と漠然と感じるはずです。

これが、身体の動きを見た時に持つ違和感です。



そして次に視点を移して、おかしな動きの人を見つけ、「あの人の手足の動きが反対だ」と具体的な理由を特定するわけです。

同じように、違和感を持ったらおかしな部位を見つけて「肩甲骨が動いていない」とか、「股関節が伸びていない」という感じで理由を特定していきます。

スポーツトレーナーやコーチをされている方は、きっとこのように見ているのではないかと思うのですがいかがでしょう?

手技療法を使うなら、ここから特定した部位への触診に入っていきます。



触診をする時も、手で触れたところに視点を落としながら上下左右の端をみるようにします。

例えば肘を触診するときは、手と肩を見ながら肘に視点を落とす。


骨盤のPSIS(上後腸骨棘)を触診するときも、PSISだけを見るのではありません。


触れた左右の骨盤を見ながら、上方へは胸郭さらに可能なら頭へ、下方へは大腿さらにポジション的に可能なら足部まで視界に入れるようにします。



このような目の使い方が慣れて来て、これまで学んできた解剖学と連動するようになれば、触れている部位を中心にして、その周辺の骨や筋肉の解剖が頭の中で立体的に浮き上がりイメージできるようになっていきます。

ちょうどソロバンの得意な人が暗算をする時、頭の中でイメージされたソロバンが勝手に動いているという感覚、それに近いのかもしれません。

もちろんこのようなイメージが浮かび上がるようになるには、ソロバンと同じようにかなり練習しなければいけません。



評価が決定して治療に入り、刺激を加え始めたら、視点を他に移すようにするとよいでしょう。

例えば骨盤に刺激を加えたとき、視点を胸郭あたりに落として骨盤から頭までを見ておくようにする。


そうすると、骨盤に刺激を加えたことによって起こる、上半身の変化を観察しやすくなります。

あるいは反対に、膝あたり視点を落として大腿から足部まで見ておくようにすると、下半身の変化を観察しやすくなります。




同じように、手首に刺激を加えたなら肘あたりに視点を落として、肩のあたりまで見ておくようにする。


足首に刺激を加えた時は、骨盤あたりに視点を落として、頭部まで見ておくようにする。


練習を重ねると、加えた刺激がどのように広がって伝わっていくのかということが、何となく見えるにようになっていきます。



このようなことができるようになると、身体を診る精度は格段に向上します。

そして、何がどのように変化したのか、あれこれ考えるわけです。

こうなると臨床がますます面白くなっていきますよ。



今回のシリーズは「目」の使い方がテーマでしたが、実は私は見ることについて「触れる」ことよりも得意ではありませんでした。

とくに動きを見るのは苦手で、今でも早い動きになるとさっぱりです。



はじめは目の付け所がどこかわからず、学んだ動作分析やパターンやポイントを押さえて見ようとしても、なかなかしっくり来ませんでした。

やがて、ぼんやりと全体をみるようになり、ご紹介した見方の練習をするようになりました。



日常生活の中でも、意識してトレーニングを続けました。

その成果なのか、ようやくふつうよりもややゆっくりのスピードなら、何とか目が追いつくようになっていきました。



身につけるまでがたいへんなのは、他の技術と同じですが、努力する価値は十分にあると思います。

ぜひチャレンジしてみてください。



次回は12月27日(土)更新です。