手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

身体をみるときの「目」の使い方 その2

2014-11-29 17:57:42 | 学生さん・研修中の方のために
前回ご紹介したような、上下左右の両端を見ながら視点を真ん中に落としておくというのが、しっくり来ないという方もいらっしゃると思います。

私も意識できる範囲を少しでも広げようと、自分なりに工夫しました。



目の使い方を含め、技術はセンスにゆだねられているケースも少なくありません。

個人のセンスに差があるのはどうしようもないことですが、努力して練習すれば磨かれて上達していきます。



それなら努力しがいのある方法を作っていくことができれば、よりスムーズに上達できるはず。

それが役に立つ人たちも、なかにはいるのではないか。

このように考えて、あれこれ工夫してきたことをこのブログでお伝えしています。



今回ご紹介する方法は、今でも自分の目の状態を確認するために時々やっています。

これはあくまで導入篇で、雰囲気さえつかめば日常生活の中で練習するのがよいと思います。



みなさんの周囲にも、視界に入っているはずなのに手を振っても気づかないという方、いらっしゃると思います。

それを気づきやすくするための練習と言ってもよいかもしれません。



まずはじめに、目の前に両手の人差し指を出して並べます。


どちらかの人差し指のツメに視点を落としながら、反対側の手をゆっくり外に広げていきます。


その時、視点は正面のツメに残したまま、外に移動しているツメを意識して見るようにします。



どんどんボヤケてくるはずですが気にせず、外のツメに意識を持っていくようにしてください。

ある程度、手を広げたところで止め、その状態でみるようにします。



ここで試しに、いったん目をしばらく閉じてみてください。

目を開けたら、まん中のツメを「凝視」しながら外のツメを見てください。

ツメの線までハッキリ見るくらいのつもりで見ます。



視点を落としただけのときと比べて、どちらの見方のほうが外のツメを見やすいでしょうか。

どちらがハッキリ見やすいかというよりも、より楽に見やすいか、そこにあるのが意識しやすいかということです。

わかりにくければ、外の指を軽く振って動かしてみてください。

よりわかりやすいはずです。



おそらく、視点を落としただけのほうが楽に見えると思うのですがいかがでしょう?

そちらのほうが目元の力が抜けるために、全体が楽に見やすくなるのかもしれませんね。



なぜ視点を落とすような感覚でみるのか、感覚的に理解していただけたでしょうか。

それとも難しいと感じたかな?



では、ゆっくり元に戻していきましょう。

戻している途中も、外のツメを見続けてください。

だんだんハッキリ見えてきて、最後に元の位置に戻ります。

今度は反対側を外に広げ、まん中のツメに視点を落としながら外のツメをみるように意識してみてください。




同様の方法で上下・前後も練習してみましょう。


慣れてきたら円や八の字など、適当に動かしてみてもよいでしょう。

先ほどお話ししましたように、はっきり見るのが目的ではなく、さほど努力しなくても楽に見られる、そこにあるのが意識できるようになるというのがねらいです。

気軽に練習してみてください。



慣れないうちは、白など単一色の壁を背景にするなど、あまりゴチャゴチャしていないほうがわかりやすいでしょう。

人によって苦手な方向があるかもしれません。

私の場合は比較すると右より左、下より上が苦手です。

自分の見やすい方向、苦手な方向を理解しておくことも大切です。



慣れてきたら日常生活のなかでも、上下左右を意識してまん中に視点を落とすという目の使い方を練習してみてください。

歩いているときや、電車に乗っているとき、歯を磨いているときなど、できるときにできるところで練習しましょう。



視点を落とすといっても、決してボーッとするわけではありませんよ。

視野を広げて見るようにします。

東洋医学の漢方四診では、視診のことを「望診」と呼びます。

まさに、景色を望むような目の使い方で見るわけですね。



日常生活のなかで使えるようになってくれば、臨床でもふつうに使えるようになりますよ。


次回は12月13日(土)更新、臨床での活用イメージをご紹介します。

身体をみるときの「目」の使い方 その1

2014-11-15 16:44:45 | 学生さん・研修中の方のために
臨床は視診からはじまります。

場合によって、カーテンやドアの向こうから聞こえてくる足音を聞くことからということもありますが、ふつうは見ることからでしょう。

患者さんが入って来て、歩き方、立ち方、あいさつの仕方、座り方、問診中にお話しされるときの姿勢、身振り手振りなどの動きからそれとなく観察し、おおよその見当をつけて可動域検査などに入っていきます。

そのときみなさんは、どのようにして目を使っていますか?



どのような動きが理想なのか?観察する上での具体的なポイントなどは学校やセミナーで教わったり、テキストにも紹介されていたりします。

けれども、自分自身の目の使い方を学ぶ機会は、あまりないのではないでしょうか。

今回のテーマは、身体をみるときの「目」の使い方です。

異常な緊張や動きを見つけるための目の使い方、と言ってもよいでしょう。



とはいっても、これが正しいということではなく方法のひとつです。

ですからはじめは参考程度に試みて、しっくり来るようなら取り入れるようにしてみて下さい。



まず、身体をみるときは一点を見つめないようにします。

肩を診るときは肩だけ、腰を診るときに腰だけを見るのではないということです。

そのような見方をすると、その部分しか見えず、他の部位とのつながりを視覚的に捉えにくくなります。



野球でバッターボックスに入ったとき、ピッチャーの持つボールをジーッと見るでしょうか。

格闘技の試合のとき、相手の拳を凝視するでしょうか。

相手の目を見るという方法も教わることがありますが、これもにらむようにみるのではないはずです。



相手の全体をぼんやりと見ながら、相手の目など身体の一部に視点を落としておくように見る。

このような使い方をするのではないかと思います。

球技や格闘技をされる方、いかがでしょうか?



身体を診るときも同じようにします。

基本は、上下や左右の端を同時に見ながら、そのまん中に視点を落とすような感じです。

左右の肩を見ながら、のど元あたりに視点を落とす。


頭頂部と骨盤を同時に見ながら、胸椎あたりに視点を落とす、そのような感じです。




視点を「落とす」と書きましたが、あくまでイメージです。

「ただそこにある」という感じ。

「添える」「置く」そんなイメージでも構いません。

視線で「押す」のではなく、そっと「触れる」感じです。



難しく感じるなら「にらむ」の反対の見方と言ってもよいでしょう。

刺すように見るのではないのですね。



あるいは相手を通り越して、その後ろ側を見ているという感じでもよいかもしれません。

自分にとって馴染みやすいイメージを使うようにしてください。



このような目の使い方をすると、全体がより見やすく、また異常な部位や動きを見つけやすいように感じます。

見つけやすいというより、違和感を持ちやすくなるという感じでしょうか?

だからといって、目の使い方を変えただけで急に異常な部位がわかるようになる、というわけではありません。



もともと感覚が鋭ければ、さほど身体のことを勉強しなくても、ピンと来る方もいらっしゃるかもしれません。

でもそうでない場合は、理想的な動きを学んでおく必要があるでしょう。

その動きが頭の中でイメージできているから、それから大きく外れた動きを見たとき違和感を持てるのだろうと思います。



もしくはとにかく場数を踏むことで、何となく平均的な動かし方を感覚的に覚えていく場合もあるでしょう。

スポーツや武道などは、感覚的に覚え込むまで練習し、場数を重ねて身につけるということが多いかもしれません。



ただ、まったく経験のないうちから、このような見方をする必要はありません。

触診でも慣れないうちは、目標をしっかり見ながら練習するようにしましょう。

ある程度、臨床に慣れて余裕が出てきた方で、これまで目の使い方を意識などしたことがなかったという方、ものは試しと思って練習してみてはいかがでしょう。



はじめのうちは、ピンと来にくいかもしれません。

でも根気よく続けていれば、ある日これまで解けなかった問題が突然わかるような感じで、「何だかこのへんが気になるなぁ」という感じでみえるようになっていきます。

もしも、なかなかこの目の使い方が上手くいかないようなら、次回ご紹介する方法で練習してみてください。



次回は11月29日(土)更新です。


母指圧迫での手による力の加え方 その3

2014-11-01 08:08:00 | 学生さん・研修中の方のために
これまでコンタクトの方法や手首を用いた力の加え方、そして組織固定の大切さを復習してきました。

今回は母指の力を用いて刺激すると、どうなるのかを体験していただきたいと思います。



これまでと同じように母指の指紋部を肘の方に向けて、外転位をとった状態で前腕の屈筋に当て、四指は伸筋側に当てます。

ティッシュプルをして組織を固定することも、忘れずに行いましょう。




この状態で母指を屈曲させる力を使い、シッカリと圧迫してみてください。






母指を屈曲させる力を使ったときには、母指丘がより硬くなります。

力を加えたまま、しばらくキープしましょう。

どれくらい我慢できますか?



それほど時間が経たないうちに、母指が疲れてくるはずです。

そのとき、母指で圧迫している前腕の組織の状態を、きちんと感じ取ることができているでしょうか?

おそらく疲労の感覚に邪魔をされて、わかりにくくなっているはずです。



手首を尺屈させて力を出したときと比べるといかがでしょう?

きっと手首を用いたときのほうが、より大きな力を持続して出すことができたはずです。



それに手首のほうが圧力も、より深部に伝わっていることが感じられたでしょう。

母指に強い力が入っている場合は、刺激が表面に散っている感じがするのではないかと思います。



簡単に力を加えることができるものの、その力も小さく、表面的で持続しない。

力みが入り、疲労もたまりやすいために、触診の感度も低くなる。

そのまま長期間用い続けると、指を傷めやすい。

これが母指の力で圧迫するということです。

このようにデメリットが多いので、母指の力は指の形を保つためだけに用いるようにするわけです。

実感できましたか?



そして手首も、肘や肩を使った力には及びません。
「母指圧迫における「肘」の活用」シリーズ

「圧迫法では肘は少し曲げて使う」シリーズ



私の場合、手首の力は皮膚のあそびをとり、組織を固定するために用いています。

ですから、今回は尺屈や背屈で力を加えましたが、実際には最低でも前腕を動かす、すなわち肩を動かして刺激を加えるようにします。



前腕が動くということは胸郭が動くということなので、手首の力よりも格段に大きな力を生み出すことができます。



さらには体幹を動かす、下半身を動かすことで力を加えるようにしていきます。
「体重を乗せるということ」

こうして、より遠くから力を加えるほど、安定した大きな力を生み出すことができます。

できるだけ遠くから、力を伝えられるようにするのが理想です。



余談ですが、母指圧迫には指節関節を曲げた状態をつくり、指先で圧迫するという方法もあります。

このかたちは、指紋部での圧迫よりも指を曲げる力を使いがちなのですが、そうではなく前腕を動かすようにします。






慣れないうちは意識して押さえようとすると、ついつい母指に力を入れがちです。

けれども今回のお話から、母指の力を使って圧迫しても、コントロールされた大きな力を出しにくい。

労多くして得るものが少ないということがわかれば、余計な力を入れることも少なくなるのではないでしょうか。

このことをよく理解して、くれぐれも指を傷めないように練習してくださいね。