手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

関節機能障害の表記について その1

2011-03-26 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
関節機能障害の表し方にはいくつかありますが、その言葉の意味を整理しておかないと混乱してしまうことがあります。


私も学び始めのころ、ごちゃ混ぜになっていたので、本を読んでも頭のなかでイメージできず、何が何だかさっぱりわからなくなった経験があります。





関節機能障害の表し方はいくつかありますが(英語も合わせると何やらごちゃごちゃになります)、大きく分けると、その関節を構成している骨の位置や状態を示すものと、骨が動かない方向を示すものの2通りあります。


位置や状態を示すものを「変位(または病変)」と呼びます。


かたい、抵抗が強い、動かしにくい方向を示すものを「制限」と呼びます。


この「病変」と「制限」という言葉は、表現は異なっても同じ状態を示しています。



図を用いてお話しします。





まず、中立位の骨があったとします。



この骨の位置が中立位に対して、左へ位置が変わってしまった場合「左変位」となります。



左に変位してしまった骨は、反対方向である右に動かそうとしても、かたくて動かしにくいので「右制限」とも表記します。



ですから、「左変位」と「右制限」は左右の表現は反対でも同じ状態なわけです。





ここで、もしかしたら、左に変位してしまったから右への制限が生まれてしまったのか、それとも、右への制限があるために中立位が変化して左に変位してしまったのか、という疑問を持つかもしれません。


みなさんはどちらだと思いますか?





結論としては、ケースバイケースで両方あり得ると思います。


猫背という屈曲の変位を取り続けていたために、伸展への制限が生まれてしまった。


捻挫の治癒過程で生じた線維化という制限により、中立位が変化して変位してしまった。


慢性化すればするほど、ニワトリとタマゴの関係でどっちがどっちやら、なかなかわかりません。


何はともあれ行うべきことは可動性の回復なので、どちらか先かわからないからといって実施上大きな問題にはならないと私は感じています。





とにもかくにも「変位(=病変)」と「制限」は意味(状態)は同じ状態を反対の表現で示している、と理解しておけば整理しやすいかもしれません。

椎骨など、もともと動きの少ない骨は、触診でも動きのかたさはあるけど、位置の変化はほとんど問題ないと感じることがあります。


その場合でも例えば右回旋制限なら、左回旋変位と表記します。





でも、どうしてわざわざこのように混乱するような、二通りの表現があるのでしょうか?


どちらか一方にしたほうが、スッキリしてわかりやすいはずです。


それには理由があります。


続きは次回に。


テクニックを自分のものにするための工夫 その6

2011-03-19 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回の続きから≫


囲碁には、攻めの考え方や手順の決まったかたちである「定石」というものがあるそうです。


これに対して、自分で自由勝手に打っていくのを「我流」としましょう。


「定石」はテキストなどでも解説されていますが、定石だけ頑張って身につけても、初段までしか行かないそうです。


反対に、我流でひたすら打ち続けても初段までしか進まないそうです。


二段以上になろうと思ったら、定石と我流を上手く組み合わることができなれければ強くなれないのだそうです。


これは臨床にも通じることだと私は思います。


手本としてのコンセプトと、現場の状況に臨機応変に対応できるアレンジ、本当は両方大切なのです。





前回はわかりやすくするために、決まったコンセプトと自由なアレンジを対比するような形でお話ししましたが、それはスパッと切り分けできるものではなく、実際にはその人がどちらにより強いアクセントを置いているかという、力の配分の違いにすぎません。


あるコンセプトに則っている人も、工夫や改善は必要ですし、アレンジ中心で決まったコンセプトに依っていない人も、コンセプトの影響は多かれ少なかれ受けています。


(細かく考えればアレンジ中心の人も、どんどんアレンジをするというコンセプトのようなものを持っているということになるかもしれませんが、そうなると深みにはまるので、今回は脇に置きます。)





ですから、前回お話ししたある程度学んだら好みに合わせて選べばよいというのは取捨選択するというのではなく、強調するポイントであるアクセントの位置を決めるというだけの話です。


ひとつを選んで他を捨てるわけではなく、アクセントの位置を決めるだけなので、問題ならいつでも変えて構わない訳ですから、気軽に考えればよいわけです。


もし、何かを選ぶために他を捨てるような感覚を持ったとしたら、それは本人がそう感じてしまっただけであって、実際は、手技療法の考え方やテクニックは相互に関連してつながりあっています。


これは、何がよいのか、何を自分は取り入れるべきかを迷って身動きが取れなくなっている方に、強くお伝えしたいメッセージです。





さて、思いつくまま書いているので、例によって話が散漫になって収集がつかなくなってきました。


エッ、「結局何が言いたいのかわからない」ですって。








とにもかくにもさいごにまとめますと、このシリーズでお伝えしたかったことは、


・その治療法は何を目的にしているかということが大切なので、技術としての型や手順を学んでいて、違和感をもったら自分に合うようにアレンジすればよいということ。


・テクニックをアレンジする力が、新しいテクニックの習得をずっと早める「技を盗む」力になるということ。


・治療の考え方であるコンセプトはさまざまなものがあるが、それぞれの長所や短所を理解しつつ、好みに合わせて自分のスタイルを作ればよいということ。



この3つになるかと思います。





まくしたてるようにお話ししてきましたが、何かのヒントになればうれしいです。

テクニックを自分のものにするための工夫 その5

2011-03-12 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回は技術的な範囲のお話でしたが、なかにはもっと手厳しく、「NAGSを例に出しているが、このテクニックはマリガンコンセプトの中に含まれるテクニックなのだから、そのコンセプトを学ばないでテクニックだけ語るなどもってのほか!!」と、指摘したくなる方もいらっしゃるかもしれません。


コンセプトとなると、これまでの技術的な話だけではなく治療の考え方になるので、ここから先は、もっと基本的な臨床のスタイルの話になっていきます。


コンセプトやメソッドと呼ばれるものでは、ある特定の切り口から身体を眺め、評価から治療まで、システム化もしくはステップ化されています。


なかでもマリガンコンセプトは、マニュアルセラピーの中でも大きな潮流となっており、エビデンスの蓄積も進んでいると伺っています。





そんななかで、マリガンコンセプトを学んだわけでもない、それどころか日本での窓口になっている団体のセミナーにも出ていない私がテクニックについてあれこれ言うことに、真剣にマリガンコンセプトを普及させようとしている方は不愉快に感じられたかもしれません。


けれども私は実用主義的なので、役に立つものならドンドン取り入れ、自由に組み合わせて使うというスタンスを持っています。


そんな私の背景にある考え方は、またいつかお話ししたいと思いますが、既存のコンセプトやメソッドに則っているわけでもなく、きちんとシステム化やステップ化されているわけではなく、現場に合わせて変えるので、見方によっては場当たりてきに見えるかもしれません。


頸椎のNAGSも、関節の可動性を回復させるモビライゼーションのひとつ、という捉え方です。





だからといって特定のコンセプトやメソッドを大事にしている方たちと、ぶつかろうという気持ちはありません。





両者の違いは、犬を飼うなら血統書付きが良いと考えているのか、雑種がよいと考えているのかの違いと同じだと思っています。


血統書付きの犬もいないと困るでしょうし、雑種もいないと遺伝的に弱くなる(はずでしたっけ?)から困るでしょう。


ひとつのコンセプトを大切にされている方は、私にはブリーダーさんのように見えます。


これに対して私は、雑種を集めて育てているようなものです。


(ちなみに子どもの頃はじめて飼った犬は雑種の捨て犬でしたし、今飼っている3匹の猫もすべて、雑種の捨て猫でした。もともと雑種好きなのかもしれません


血統書付きでも雑種でも、自分のペットはかわいいと思うものですし、世の中的には両方必要です。


金子みすずさんの詩『わたしと小鳥と鈴と』のように、「みんな違って みんないい」わけです。


自分の臨床スタイルを決めるとき、コンセプトに則った血統書付きの方法をとるのか、自由に組み合わせていく雑種の方法をとるのか、自分の好みに合わせて決めればよいのですよ。





ただこれは、ある程度経験を積んでからの話で、はじめのうちはテクニック同様に、縁があったりや興味を持ったコンセプトをまず学んでみるほうが習得はスムーズです。


右も左もわからないうちは、そのコンセプトが矢印になってくれるからです。


そのとき、型や手順などの技術的なことを学んだときと同様に、そのコンセプトは一体何を言いたいのか、そのコンセプトで説明のつかないのはどのようなものかを考えるようにしてくださいね。





ときどき、あるコンセプトに深く傾倒している方から、「このコンセプト(または治療法)はすばらしい」とか「奥深い」という賛美のことばを見聞きします。


けれどもそれは、ペットの飼い主が「うちのワンちゃん、かわいいでしょう」と言っていることと同じなので、サラッと聞き流しましょう。


華美な飾りことばにとらわれるのは、冷静な判断の妨げになります。


すばらしさや奥深さは、みなさんがそのコンセプトの主張している内容をよくみて考えたうえで、自身で感じ取ればよいことです。


とにかく、コンセプトという考え方の「型」を学んでいても、自分で考えるということを忘れないでください。


考えるというのは、患者さんがコンセプトの中のどのカテゴリーに分類されるということだけではなく、先ほども申しましたようにコンセプトそのものの位置付けや特徴のことです。


これが、個人のスタイルを決めるということだけでなく、臨床に向かう時の姿勢として大切なことになります。





なぜそれが大切か?話の例えは、ペットから囲碁に大きく変わります。


次回、シリーズ最終回は、そのお話をして締めくくりたいと思います。


テクニックを自分のものにするための工夫 その4

2011-03-05 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
手技療法のなかには、さまざまなコンセプトやメソッド、そしてそれらに含まれるテクニックがありますが、各セラピストによって、その受け止め方もさまざまです。


コンセプトやテクニックを柔軟に変化させて用いる人もいれば、かたちにこだわり、一途でかたくなな人もいます。


はじめて学ぶ方は、そのコンセプトやテクニックを教えてくれる方の影響を多かれ少なかれ受けます。


どれほどスゴイ先生だったとしても、その人ひとりの話を聞くだけでは、偏ったり、視野が狭くなってしまう可能性があるかもしれません。


できるだけ、いろいろな方の話しを聞いて、自分に納得できるものを取り入れるのが理想です。


そこで、ここからは私のコンセプトやテクニックに対する考え方(距離のとり方)をお伝えして、みなさんの参考にしていただきたいと思います。





私はテクニックを、自分の使い勝手の良いようにどんどん変えていくほうです。


このシリーズでは、テクニックのアレンジについて例を挙げてお話してきました。


ご覧になっていて、なかには「考案した先生が考えたかたちを、きちんと学んで、それを守らなければならないのではないか」という考えを持った方もいらっしゃったかもしれません。


「我流に陥るのはよくないのでは


確かにそのような考え方もあると思います。


でも、テキストで示されているようなテクニックのかたちと、自分自身が効果を挙げやすいかたちは、必ずしもイコールではないと思います。


ですからそのテクニックのもつ目的を理解し、それにかなうなら自分に合うようにアレンジすべきだと考えています。





こう聞くと、今度は反対に「そんなこと、当たり前じゃないですか?」と思われる方もいるでしょう。


ただそう思っていても、いざ実行となったとき知らないうちに自分に枠をはめていることがあります。


すると、指示されたかたちにこだわっているために「ダメだ、できない」と壁にぶつかり、現場では使えていないという方が少なくありません。


自分に合うように工夫さえすれば使えるテクニックなのに、あきらめてしまうのはもったいないです。





「はじめからアレンジなんてとてもできませんよ


確かにその通りかもしれません。


テクニックのかたちをアレンジするには、自分のなかで基礎ができている必要があります。


その基礎が「身体の使い方」だと私は思います。


身体の使い方を身につけることによって、正確な触診やテクニックが行えるようになります。


セラピスト自身の身体も傷めにくくなり、体性機能障害の発生も感覚的に理解しやすくなります。


そして新しいテクニックを学んだときも、自分の体格に合うように自由にアレンジすることができます。





ただ、身体の使い方を身につけるのも、やはりテクニックの習得を通してです。


そのあたりが何だか矛盾しているようで、どうしていいかわからなくなる感じがするのかもしれません。


せっかくですから、ここで身体の使い方やアレンジする力を養うステップのモデルをお話しましょう。





はじめにどのテクニックから学んでもよいのですが、私の印象では、いきなり相手の身体を大きく動かす関節モビライゼーションを学ぶと、相手を動かすことに精一杯で自分の身体どころではないかもしれません。


できれば、相手の身体を動かすことの少ない、マッサージ(最近では軟部組織モビライゼーションという表現も使われていますね)や筋筋膜リリースをはじめに学んだほうが、自分の身体の動きに集中しやすいので、よいのではないかと思っています。





まずはそのテクニックのもつ、かたちをきちんと学びましょう。


その際、そのテクニックの中でも、自分が無理せず楽に行える技法と、やりにくい技法をみつけ、その違いが何であるかをよくみましょう。


手の位置でしょうか?


自分の立ち位置でしょうか?


相手との距離でしょうか?


苦手な部分だけに目が向いて「うまくできない」とボヤきがちですが、このように得意な技法と何が違うのか比較することで、なぜ上手くいかないか、どうすればできるようになるのか、そのヒントが得られます。


「なぜうまくできないか」だけではなく、「なぜうまくできているのか」を知ることもとても大切なのです。


そこから工夫を重ねて、自分の力で苦手を克服できたら、それだけ自分の力になります。





苦手な部分を、先輩からアドバイスしてもらって「うまくいった」としてもそれで終わりにせず、どうしてうまくできたのか?できなかった自分と何が違うのかを考えましょう。


他の苦手な方法も、同じ原因でうまくできていないのかもしれません。


当てはめて工夫してみましょう。


こうして、身体の使い方を少しずつ覚え、自分に合うようにアレンジする力が養われます。





さらに、手技療法全体に共通する基本的な身体の使い方はまだ整備されていないので、共通する使い方とは一体何なのかを知るためにも、いくつかのテクニックを学んだほうがよいと私は考えています。


どのように特徴のあるテクニックでも、身体の操作に関する重要なところは他と共通しているはずですから、新たに学ぶときにはその共通性を見極めるようにしましょう。


そうすることで、あらゆるテクニックに応用できる、基本的な身体の使い方を身につけていくことができるはずです。


こうして、自分にとって不自然なかたちを避けるために手順や型から離れてもポイントを外さず、より効率的に行うことができるようになります。


ご紹介したNAGSの工夫も、私がこれまで学んで身につけてきたことから、自分にとってムリなく行えるようにアレンジしています。





基本的な身体の使い方を身につけ、テクニックの目的にかない、無理なく効果を挙げることができたら、アレンジすることは何も問題ないと思います


前回までのお話で、アレンジする力を身につけるための例をご紹介したつもりです。





今回は技術的な範囲のお話ですが、なかにはもっと手厳しく、「NAGSを例に出しているが、このテクニックはマリガンコンセプトの中に含まれるテクニックなのだから、そのコンセプトを学ばないでテクニックだけ語るなどもってのほか!!」と、もの申したくなる方もいらっしゃるかもしれません。


話が膨らみますが、次回はそれについてのお話をしましょう。