手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

「よい」もみかえしと、「わるい」もみかえし

2009-05-30 20:00:00 | 治療についてのひとりごと
≪ほんとうはメンテナンスの記事を書く予定でしたが変更しました。気ままなブログでスミマセン







「もみかえし」ということばがあります。


マッサージなど手技療法による反応のひとつで、治療後にかえって痛みがでたり、だるくなったりすることですね。


これには「よい」もみかえしと、「わるい」もみかえしがあります。







「よい」もみかえしとは、組織の癒着が除かれたり、緊張がゆるむことで代謝が再開されて起こる現象といえます。


ちょうど、シモヤケやアカギレが治るときには痛カユくなる、というものに似ているかもしれません。


これに対して「わるい」もみかえしとは、組織を傷めるような刺激を与えたために局所的な炎症を起こしている状態です。


イメージでは、首の寝違えを起こしたような感じでしょう


では、どうすると組織を傷めるような刺激の与え方になるのでしょうか







いくつかあるかと思いますが、そのひとつに指先でこねるような刺激の入れ方を行ったときにも起こりやすいのではないかと思います。


つまり、指節関節(IP関節)や中手指節関節(MP関節)を動かすような刺激の与え方ですね。


このように母指を伸ばした状態から、


(写真は指節関節のみの動きを示しています)


曲げて、また伸ばしてという、こねるような感じです。




とくにマッサージや指圧を一生懸命行うあまり、このような動きをしてしまう方もいらっしゃいます。


ASTRでもフックをしっかりかけようとするあまり、ついついこねてしまう方がいらっしゃいます。


危ないかもしれません







なぜ、このようにすると組織にダメージを与えるのか?


私の想像ですが、組織をすりつぶすような動きになるためではないかと考えています


たとえば、マッサージの「揉捏法(じゅうねつほう)」つまり「もむ」という技法は、圧迫を加えた状態で、ヨコ方向に反復して動かすわけですが、このとき組織にかかる力は圧迫と横方向への運動の2方向です。


これに指先を曲げる動きが入ると、状況によっては3方向の力が加わってすりつぶすような動きになり、患者側の条件によってはダメージを与えてしまうのではないかなどと想像しています


例えば寝たきりの高齢者など、皮膚が極端に弱くもろくなった(脆弱)患者にみられる「床ずれ」は、長時間の圧迫だけではなく、ずれる力(揃断力)が加わることで発生するといわれています。


このように複合した力が組織にかかることで過剰な刺激になってしまい、ダメージを与えやすくなってしまうのではないでしょうか?


あくまでも想像ですが








もちろん、このような方法が絶対的に悪いというわけではなく、使いようによっては線維化や癒着をはがすアプローチ法にもなると思いますが、リスクは高そうだと思います。


それに軽くならともかく、しっかり圧迫を加えたまま指節関節を動かすことは、術者も指を傷めるリスクが同時に高くなります


指先には力が入らないようにということを、何度もお伝えしてきましたが、言いかえればそれは、指節関節を動かさないということです


指節関節は伸ばしたなら伸ばしたまま、曲げたなら曲げたまま使うのがよいでしょう







もみかえしについては、それが良いものであるのか、悪いものであるのか、冷静な状態なら患者さんは直感的に理解していらっしゃるようです


よいもみかえしなら、気にしつつもドンと構えていられるというか、落ち着いて様子をみていることができ、わるいもみかえしなら、切迫感のようなものを感じられるようです。


ただ、よいもみかえしの場合でも、これに不安が加わるとマイナスの影響が出てしまうでしょうから、あらかじめきちんと説明しておくことが大切でしょう





☆ブログの目次(PDF)を作りました 2014.01.03☆)
手技療法の寺子屋ブログを始めてから今月でまる6年になり、おかげさまで記事も300を越えました。
これだけの量になると、全体をみたり記事を探すのも手間がかかるかもしれません。
そこで、少しでもタイトルを調べやすくできるように、このお休みを使って目次を作ってみました。
手技療法を学ばれている方、興味を持たれている方にご活用いただき、お役に立てれば幸いです。

手技療法の寺子屋ブログ「目次」


手技療法習得へのステップ1‐ リラクゼーション余話

2009-05-23 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
これまでお伝えしてきたように、リラクゼーションのためのマッサージや指圧は手技療法の基本になります


ところが、手技療法を学んでいる方の中には、リラクゼーションやマッサージを小バカにする方もいらっしゃいます


これは治療としての色合いが濃い理論や、矯正法などいかにもそれらしいテクニックを学んでいる方にみられます。



実は私もそうでした



とんでもない勘違いでした。何か複雑そうなことを学んでいれば、ちょっと偉くなった気がするというのは浅はかな錯覚だったと今となっては反省しています






矯正法と比べて、マッサージや指圧はシンプルに見えるかもしれませんが、だからといってホンマのホンマに簡単かというと、決してそうではありません


ちょうど包丁で野菜を切るのは誰でもできますが、切り方にこだわればとても高度な技術が必要になることと同じです


私はいろいろなテクニックを学んでいるうちに、最近はマッサージや指圧などもよく使うようになりました。


結局は身体がどういう状態かを見極める「評価」や「診断」が大切で、それを変えることができるなら、どのようなテクニックを使ってもよいからです。


(これは松本不二生先生から繰り返し教わりました)






包丁でいうならマッサージや指圧は万能包丁で、特殊な名称の付いたテクニックは出刃や刺身包丁ということになるでしょうか。


慣れてくれば万能包丁でも、相当なことができるはずです


手技療法でも同じですね


(ちなみに私は料理はからっきしダメです






ただこのリラクゼーションやマッサージ批判の中には、漫然と流れ作業的に行っているということを指摘するものも含まれますが、これについては私も同意見です


リラクゼーションを学ぶ段階では、基本的な型を反復練習することが大切だと前々回の記事で書きましたが、型にハマリきってしまうのは問題だと思います


慣れてくれば居眠りしながらでもマッサージができるかもしれませんが、きびしい言い方をすればこれは堕落といえるでしょう


リラクゼーションとは、リラックスするという目的そのものであると同時に、技能的にはメンテナンスやトリートメントへとつながる過程であるといえます。


ですから、家族の健康のために覚えるだけならここまででもよいのですが、プロとしてやっていくなら、ある時期にきたらメンテナンスへとステップアップしていかなければならないと思います








ところで私のいうリラクゼーションとは、気持ち良くなってうっとりしてしまう、ことだけを意味するのではありません。


私の治療院は、一部の方から「激痛治療院」と呼ばれています。


もちろん、すき好んでそのようなことをしているのではなく、必要上やむなく行っているのですが、ではその痛い治療を受けている人はリラックスできないかというと、意外とそうでもないと思っています。


治療を受けながら「痛いイタ~イ」といっている患者さんの脈拍は上がっていませんし、その直後にウツラウツラとされるときもあります。


また、お腹がグルグルッと鳴る時もあります。


お腹が鳴るというのは、腸が動いていることですから、副交感神経が働いている。つまり、リラックスしているということになります


…ちょっと強引かな?


あくまで経験上なのですが、このような緊張した、あるいは覚醒したリラックス状態というのもあるのではないかと思っています


ちょうどスポーツ選手が、ボールや相手の動きがよく見えているという状態と同じかもしれません


…でも、同じとはいえないかも






もしかしたら、緊張⇒リラクゼーションという流れで起こる変化があるのかも


筋活動が起こった後に筋がリラックスするという、等尺性収縮後リラクゼーションのように。


または、冷たい水に手を入れた後、はじめは血管収縮が起こってもその後に血管が広がり、かえって血流が増えるという二次性の血管拡張反射のように。


身近な例では、運動をした後で気分がスッキリすることに近いのかもしれません


そういえば、関節モビライゼーション行うとはじめは交感神経が興奮し、さらに持続すると交感神経が抑制されたという実験の報告もありました。


このような感じで、二次的に身体全体のリラクゼーションが起こるという現象もあるのではないでしょうか。



う~ん、一般的なリラックスのイメージと少し違いますから、何をもってリラックスとするのかということを考えないといけないかもしれませんね

手技療法習得へのステップ1‐リラクゼーション その2

2009-05-16 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回からのつづき≫

手技療法を行う上で、患者さんと「呼吸を合わせる」ことは大切です


いくら押そうが矯正しようが、患者さんが身構えて力んだ状態では治療効果は望めないでしょう


手技療法によって筋骨格系の機能障害を改善するというのは、つきつめれば軟部組織の緊張状態や運動パターンを変化させるということだからです。






「呼吸を合わせる」というと、患者さんが息を吸ったときには刺激を緩め、吐いたときに刺激を入れることで患者さんはリラックスする、というように教わったのではないでしょうか。


これは導入のための手段ではありますが、あまりそれにとらわれると本質的なことを見失ってしまうのではないかと思います






社交ダンスでも上手いペアは「呼吸がピッタリ合っている」などと表現されます。


でも、本当に二人の呼気と吸気がピッタリ合っているということではありません。


二人が一体になって踊っていることですね


「呼吸を合わせる」とは、ただ呼吸のリズムを合わせるのではなく、本来別々のものがまるで一体になっているかのような違和感がないことをいうのだろうと思います。


つまり、ここでは治療者と患者が一体感をもった状態だといえます。


この一体感を持った状態を保ちつつ、一定の手順やリズムでマッサージを行うことができれば、技能としてリラクゼーションのステップはクリアしたといえるでしょう。






エッ、一体感ってどんな感覚なの?って!!


これは難しい


一体感の全体像を、ことばとして的確に表現することは、私にはできません


ちょうど砂糖の甘さや塩のしょっぱさを、食べたことのない人に伝えるようなものでしょうか。






一体感をいちばん体得しやすい方法は「指圧」かもしれません


指圧の基本は安定持続圧です。


どこでもかまわないのですが、相手に身体を預けるように押してそのまま持続します。


試しに、目を閉じて30秒ほどジッと待ってみましょう


するとどうでしょう?目を閉じることで、視覚情報を遮断すると相手と自分の境界があいまいでわからなくなるのではないでしょうか。


これが一体感の最もシンプルなものです。






治療中にこの感覚をキープできれば、患者はリラックスして治療の刺激を受け入れている、呼吸の合った状態だといえるでしょう。


反対にこの感覚が保てないときは、患者が緊張しているか、治療者に不自然な力が入っているときですから、いったん手を休めて仕切り直さなければなりません。


そうしないと、患者さんにダメージを与えてしまう可能性もあるからです


別の機会にまた書きたいのですが、一体感を体得しているのといないのでは、触診の精度もまったく違ってきます。


触れられたときの印象も違います。それを体得してれば安心して身体を任せられる感じがするものです。






リラクゼーションでのゴールは、「押す」「もむ」「さする」などの基本技法はもちろんですが、このように患者さんと一体感をもって「触れる」ようになるということだと私は思っています。


そのためにも基本的な型を覚えて反復練習をし、ムリのない身体の使い方を身につけておく必要があるわけですね






(ちなみに一体感について、私は経絡指圧の故・増永静人先生の書籍から多くを学びました。国家資格を取得したあと、増永先生の開設された医王会指圧センターでも所員としてお世話になりました

手技療法習得へのステップ1‐リラクゼーション 

2009-05-09 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
手技療法におけるリラクゼーションは、心身ともにリラックスして疲労を回復させることを目的としています。


リラクゼーションを技能習得の最初のステップとして捉えたとき、この段階の大きな目標として「触れることに慣れる」ということが挙げられるでしょう


解剖や生理を学ぶ重要性はいうまでもありませんが、これは野球でいうならルールブックを読むというのに近いです。


それだけで野球が上手くなるわけではなく、実際に練習しなければ何もできません






「触れることに慣れる」といっても、はじめはどこにどう触れていいのかわからないので「型を覚える」ということからスタートします。


あらゆるスポーツや芸事も、ここからはじまるはずです。


どのような型を学ぶかについていろいろ迷うかもしれませんが、まずは自分と縁のあった学校や勤め先で教わる手順を覚えればよいでしょう。


テクニックとしては、マッサージをはじめに習うと思います。


このときに大切なことが、型をはじめとした「基本練習の反復」です


すべての習い事で共通する鉄則のようなものですね。






この反復練習を通して「身体の使い方」を覚えるわけです。


ここで意識していただきたいのが、練習しながら自分の身体の声に耳を傾けるということです


ひととおりの型を覚えたら、ぜひ早いうちに習慣にして下さい。


というのも、はじめのうちは「押す」とか「動かす」など、何かを「する」ことに意識が奪われて、自分の身体がどのように動いて、どこに力が入っているかということまでなかなか気が回りません。


ですから不自然でムリな身体の使い方をしていても気がつかず、そのうち身体を傷めてしまうことがあります。


そうならないよう、練習のときに何かムリがかかっていないか、窮屈な感じがしないか、自分の身体によく問いかけてみてください。





あまり深く考えず、楽に行えているどうかを「感じる」ようにします





そしてムリで窮屈な感じがするようなら、身体の動かし方をいろいろ変えて工夫し、楽に感じるポジションを探してみてください。


身近にアドバイスをしてくれる方がいない場合は、試行錯誤が続くと思います


それでも大丈夫です。というよりも試行錯誤が大切です


その状況では上手くいかなかったかもしれませんが、結果的には動きのレパートリーを増やしていることになるからです






仮に工夫を重ねる中で多少痛みが出たとしても、習慣になっているわけではありませんので心配ありません。


休ませるなりケアをすることですぐ回復しますし、さらに工夫を重ねることで起こらなくなるはずです。


そうそう、この自分でケアする方法を工夫するというのも、患者さんにセルフケアの方法を教えるときに役立ちます。


本当にダメで煮詰まるまで、あえて誰のアドバイスも受けないというのも、大きな糧になるはずです


慣れてくると、実際の治療中にムリな姿勢や動かし方をしていると、半分無意識に修正するようになってきますよ。






さて、次に大切になるのが患者さんと「呼吸を合わせる」ということです。


≪次回につづく≫



手技療法習得のステップについて

2009-05-02 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
手技療法にはさまざまな名称のついたテクニックがあり、習得するための練習法もそれぞれで考えられていますが、手技療法としての大きなくくりの中でまとめられた習得法はまだありません


そのために、手技療法を学ぼうとする人は各自がそれぞれのテクニックをバラバラに学んで、自分の中でまとめていくということになります。






それで上手くいけばよいのですが、下手をすると場当たり的で、自分でも何のために行っているのかわからないということになりかねません


このような状況のままでは、せっかくこの業界に志して入ってきてくれた方にも、そんな治療法を受ける患者さんにとっても不幸なことではないでしょうか。


ですから、手技療法として統一的な習得のステップ化を行っていく必要があると思います。


とはいってもまったく新しいものをつくるというのではなく、すでにあるものを整理するだけですよ






現在、手技療法は大きく分けて「慰安」「保健(予防)」「医療(治療)」の3つの目的で行われているといえます。


ウ~ン、なんだか硬くみえますね


ちょっとヨコ文字を使ってみましょう


「リラクゼーション」「メンテナンス」「トリートメント」こんなところでどうでしょう


いくらか今ふうになったでしょうか?






文字どおりリラックスして疲労を回復させることを目的とした「リラクゼーション」


症状が起こる以前に身体に現れた変調に対してあらかじめ予防的処置を行い、良好な身体機能を保つことを目的とした「メンテナンス」


東洋医学でいう「未病知」ですね


そして、実際に現れた症状を手がかりにして身体機能の回復を目的とした「トリートメント」


これまでこれらは、身体に働きかけるという視点から捉えられていることが多かったと思います。






もちろんそれが本筋なのですが、私はこれらを「リラクゼーション」「メンテナンス」「トリートメント」という具合に、手技療法を習得していくステップとしても用いることができると思います。


今までも、それぞれの現場の感覚で同じようなことが行われていたはずですが、今後のこともありますし、なんらかのかたちでまとめておく必要があるのではないでしょうか。


そこで、習得のステップという観点から私なりにまとめてみたいと思います


(次回につづく)