手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

触診の感覚について

2017-12-02 21:12:28 | 学生さん・研修中の方のために
「細かな触診が難しいです」「繊細な感覚がわかりません」

というお悩みを時々伺います。


細かな触診の感覚というのは『わずかな違いを大きく感じられる』感覚ともいえます。

誰でも魚の小骨が歯と歯の隙間に挟まったら、とっても大きく感じられるのでないでしょうか。

わずかなものを大きく感じているのですね。

すでに身につけている感覚です。


触診の感覚を磨くというのは、特殊な力を身につけることではありません。

そのようなすでに身につけている能力を、他でも使えるように練習していくだけです。


だから決して身構えないように、焦らないように。

感覚というのは「難しい」とか「わからない」と思うと、余計にわからなくなるものですから。

自分で勝手にハードルを上げるようなことをしてはいけません。


焼き魚を食べるときは、のどに骨が刺さらないよう注意して慎重にかみ砕きます。

でも決して変に身構えたりせず、自然な感じで食べています。

触診もそんなつもりで練習を繰り返していく。

それに尽きるのではないかと思います。

学ぶということについて

2017-11-10 20:52:43 | 学生さん・研修中の方のために
「今後の人生を考えるといろいろ不安だけど、オステオパシーを学んでいきたい」

という主旨のメッセージを若手のセラピストさんからいただき、私なりの「学ぶ」ということについて返信させていただきました。

とくに若い方々の参考になればと思い、こちらでもご紹介させていただきます。

以下本文の一部

・・・

不安になるのは迷いがあるためかもしれませんが、迷う必要はありませんよ。

生涯かけてオステオパシーを学ぶ!と意欲的になるのは良いのですが、必要以上に肩肘を張る必要もないでしょう。

私たちが真に学ばなければいけないのは、結局のところ、人間とは?生命とは?ということではないかと思います。

そして人間を学ぶなら、年中無休で一緒にいる自分自身から学ぶことがいちばん (^^)

主体的に自己を見つめ、そこから人間、生命を学ぼうとし、その態度を保ち続ける。

オステオパシーを含む手技療法は、自己を学ぶための手段のひとつでしかないと思います。

オステオパシー哲学といいますが、哲学とはひとつの考え方、ものの見方ですから。

そして、自己を学ぶことを通して、人さまの、社会の役に立つことを行うのが仕事というものなのでしょう。

隣接領域の運動、栄養、心理、医学、薬学をはじめ、政治、社会、経済、科学、芸術、宗教なども皆同じかもしれません。

反対に、自己を学ぶということなくただ概念の世界を巡り続ける。

あるいは手段にとらわれ続けたなら、何を学んだとしても、社会的な体裁はともかく、内面的な満足と安心を得ることは難しいのではないかと思います。

私が学びを楽しんでいるように見えるとしたら、たぶんそのあたりに理由があるのかも。

今この瞬間に、自分の心と体と環境との間で起こっている事実を直視し、そこから学ぼうとするならば、手段はそれぞれの関心に応じて気楽に選べばよいのだろうと思います。

「何でもいいけど どうでもよくない」わけですね 笑

一回の呼吸、一歩の歩み、その時々の心の揺れから学んでいってくださいね。

触診:意識の置きどころ

2017-06-07 06:23:36 | 学生さん・研修中の方のために
「手技療法で触診をしている時、どこに意識を置いたらいいのでしょうか?

そんな質問をいただいたことがありました。

どこに意識を置いて治療しているかは、経験を積んだ治療家でもそれぞれ違うかもしれません。

意識はかたちがハッキリと見れないものですし、私も自分の『意識』を常に意識しているわけではありません。

だから、的確な答えはなかなか難しいところ。


練習を重ねて場数を踏むことはとても大切ですが、指導する側として「とにかく場数を踏め」だけでは芸がありません。

そのため、触診の時の意識を感覚的にイメージしていくための方便として

「車を運転している時の、目の使い方と同じですよ

とお話ししています。


免許を持っている方なら運転中、進行方向に対して全体を眺めるようにしつつ、視線は近くや遠く、右や左に移動させて、安全を確認しながら運転していると思います。

触診の意識も同じようなものと、わかりやすさを優先してそう喩えています。

言い換えたら「一点だけを見ていると事故る」

「よそ見をしていると事故る」ということ。


『~する』を『~するべからず』としたら、

「一点に留まるべからず」「気を散らすべからず」

そんな感じでしょうか。

スポーツでもきっと同じではないかと思います。


とはいえ車の運転なら乗り始めの頃は、どうしても目の前に集中してしまうもの。

きっと、多くの方が経験していることでしょう。

いきなり全体を見るなんてセンスのある人ならできるかもしれませんが、全員に求めるのはムリがあります。

ふつうは運転に慣れるに従って、視野が広がっていきます。


手技療法でも同じことで、いきなり全体を診るよう意識するのはムリがあるでしょう。

ですから私は触診の基本を伝えるとき、はじめは

「まわりと比べて硬いところ」を意識して触れるようにお話ししています。

これなら慣れない方でも比較的わかりやすいのではないでしょうか。

運転なら目の前を見ている状態です。


次いで、路上に出るようになって道路が混み始めて来たら、2~3台前の車のブレーキランプに注意して運転するでしょう。

触診でも触れたところから、次第に深い部分へと意識を移していきます。

やがて、スピードを出す高速道路に乗るようになったら、視線は遠くを見るようになります。

視線の先と、自分の車の間を走っている他の車との位置関係を大よそ把握しながら運転し、必要に応じて近くにも視線を移します。


触診でも遠くに視線を移すように、さらに深いところに意識を移していきます。

たとえば触れた身体の反対側に意識を置いて、手と意識を置いている反対側との間を感じ取ろうとする。

あるいは、加えた力がどのように伝わっているかを感じ取ろうとする、など。

反対側に意識を置くというと、不思議な感じがするかもしれませんが、わかるかどうかは別にしてそのつもりで診るということ。

不思議と意識を遠くに置いたほうが、近くのものを感じ取りやすいということもあります。


さらに運転に慣れてくると、隣の車線を走っている車が、ウインカーも出さないで車線変更しようとする動きを、はじめの挙動の段階で察知するようになります。

触診でも慣れてくると、離れた部分に違和感を持つようになります。

挙動不審な車に自然と目が行くように、挙動不審な組織???に意識が行く感じですね。


いかがでしょう。

このようにみれば触診の時の意識も、車の運転と同じように段階的に学べばよく、自分の能力に応じて用いればよい、ということがお分かりいただけるでしょうか。

身の丈に応じた臨床を、「わかる」ところから、「できる」ところから、「浅い」ところから行っていけばよいわけですね。


ちなみにちょっとマニアックな話しですが、私が触診時の意識の用い方で勉強になったのは、武人の心法を記した「不動智神妙録」という沢庵和尚の本です。

沢庵和尚は江戸時代の禅僧で、宮本武蔵や柳生宗矩・十兵衛の小説にもよく出て来る方です。

(かくいう私は、ケンカや勝負ごとにはめっぽう弱いのです(^-^; )

技術や発想法というものを学ぶときに、昔の人の本はとても役に立ちました。

興味を持たれた方はググってみてください

ひとりできる!クラニアル・リズミック・インパルス(CRI)触診練習法 その7

2016-01-23 17:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回は、CRIに同調したらその動きを誇張するアプローチを練習しました。

今回は持続的に伸張するテクニックを、前頭骨と頭頂骨で紹介します。

いずれも骨を持ち上げるように操作するので、前頭骨リフト・頭頂骨リフトと呼ばれています。



まずは前頭骨リフトから。

仰臥位で、両四指で前頭骨外側をおおうように軽く触れます。


リフトアップするからといって急に持ち上げようとせず、しばらく手を頭に馴染ませるようにしてCRIに同調させます。



手が前頭骨にフィットしたような感覚が得られたら、人差し指で内方へごく軽く圧を加えます。

そのまま前頭骨を持ち上げるようなイメージで、天井方向へごくわずかに引き上げます。

ほんのごくわずか、皮一枚持ち上げるようなイメージでよいでしょう。



リフトアップする時は手や指の力で行うのではなく、肘を天井方向へ出すように、つまり肩甲骨を動かして体幹寄りの大きな筋肉を用いて操作します。

「小さな操作は大きな動作で」ですね。

しつこいですが、大切なことなので何度もお話しします。



わずかながらでも持ち上げていると、前頭部がビヨ~ンと伸びていくような感覚を覚えるかもしれません。

頭の中のどのあたりが伸びているのか、よく感じ取るようにしてみてください。

テキストでは大脳鎌など頭蓋内のどこが、などと書かれていることがありますが、ここでは自分で体験している感覚を味わいましょう。



伸びている感覚が少なくなって来たら、ゆっくり手を戻してCRIを再評価します。

練習を終えてから、その感覚を持った位置が解剖学的に何であったのか調べてみてください。

このように感覚をつかんで意味を知るという流れも、とても勉強になります。



続いて頭頂骨リフト。

側頭部の頭方に四指の指紋部でコンタクトして、CRIに同調して評価しながら手に馴染ませ、そのまま頭方へ皮一枚のイメージで持ち上げます。


ここでも手先ではなく、肩甲骨を挙上させるようにして操作します。



頭の中のどこが伸びているか感じ取りましょう。

先ほどの前頭骨リフトの場合とは異なるはずです。

伸びている感覚が少なくなって来たら、ゆっくり手を戻してCRIを再評価します。

頭をはじめ、身体の感じる印象はいかがでしょうか?



ところで、これまでCRIは5gごく軽くふれるとわかるとお話してきました。

多くのテキストにもそのように書かれています。

でも慣れてくると、通常の圧迫をしている時でもわかるようになります。

ごく軽く触れないとわからないというのも、一種の固定観念なのかもしれません。

ただ、それには身体の力を使って楽に操作できる必要があります。

すべての手技療法に共通する基本ですね。



このシリーズでは、CRIの触診についてその練習法をご紹介してきました。

頭蓋仙骨療法のような細やかなテクニックは、セラピストにとっても向き不向きや、あるいは好みの分かれるものかもしれません。

結果的に合わないならそれでよいのですが、手技療法をしっかり学ぼうとしている方は、自分自身の幅を広げる意味でも一度は触れてみてよいのではないかと思います。



私も臨床で頭蓋仙骨療法を使う頻度は、そんなに高くはありません。

それはいくら練習をしても、得意な人ほどに結果を出せなかったという、自分とテクニックとの相性もあるかもしれません。



もしくは、受けていてわかりやすい臨床を目指しているという、個人的スタンスが理由になっているからかもしれません。

頭蓋仙骨療法は受けている人の感覚が鋭いとわかるのですが、そうでない方にとっては何をされているのかわからないということも少なくありませんから。



白状すると、頭蓋仙骨療法をやっていると私自身がどうしようもなく眠たくなるという個人的な欠点もあります。

これがいちばん大きい理由かもしれません。



でも、頭蓋仙骨療法が非常に役に立ったケースもいくつか経験してきましたし、何よりCRIを感じる練習をしてきたことは、触診力そのものを鍛えることにとても役立っています。

このシリーズのはじめにお話ししましたが、今でも夜布団に入った時は頭に触れながらそのまま寝ていることがあり、このような練習はずっと続けていくと思います。



あっ、もしかしたらこの練習のせいで、臨床でもすぐに眠たくなるのかも!!



≪シリーズ完:次回は2月6日更新です≫

ひとりできる!クラニアル・リズミック・インパルス(CRI)触診練習法 その6

2016-01-09 17:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回までは頭蓋・骨盤・胸郭でCRIを触診して、そのリズムに同調するという練習をしてきました。



今回は、同調しつつCRIの動きを誇張していく練習です。

同調するとは頭の膨らみ(= 屈曲 = 外旋)や縮み(= 伸展 = 内旋)の動きについていくことです。

これまで練習してきたものですね。



そして、誇張するとはCRIの振幅を増やすように手でサポートすること。

頭蓋仙骨療法で行われる実際のアプローチのひとつです。



頭蓋からいきましょう。

はじめに練習した仰臥位をとり、頭蓋にコンタクトしてCRIを触診します。




CRIに同調したら、その動きを誇張するようにします。

誇張するという表現がピンと来にくければ、リズムのスピードを変えることはせず、大げさに動かすという表現でもよいかもしれません。



注意点は、動かすのは手や指の力で行うのではないということ!!

身体の力を使うようにします。



寺子屋ブログでは「小さな操作は大きな動作で」と繰り返しお話してきました。

微妙な小さい操作の時ほど、身体を使って動かさないと上手くコントロールすることが難しくなります。



この場合、頭蓋の膨張と収縮に伴って脇を動かすように操作する、動きとしては前腕が外方へ広がったり、内方へ閉じたる力を頭部へ伝えるとよいでしょう。

くれぐれも手先の力で操作しないように注意しましょう。



数分間繰り返したら誇張することを止め、再びCRIのリズムに同調して動きを確認します。

最初に触診して評価したときと比べて、動きが大きくなっているようでしたらまずはOKです。



手を離し、頭の感覚がふだんと何か違うか意識してみてください。

温かい感じがしたり、柔らかくなった感じがしたり、何だかリラックスできていれば成功!!

頭痛や頭重など症状が改善されていたとしたらバンバンザイです。



続いて大腿部、骨盤、胸郭でも同様に試みます。







膨らんだりしぼんだり、伸びたり縮んだり、広がったり閉じたりという動きを誇張するようにします。

小さな操作は多いな動作で、を忘れずに!

それぞれで印象がどのように変化するか、その感触をよく味わいましょう。



CRIを感じる練習は、マッサージを行う上での評価としても役立ちますよ。

何らかの機能障害が存在すると、その周囲のCRIが低下していることがあります。

はじめに、筋や関節の触診と合わせてCRIの状態を評価しておきましょう。



マッサージなどの軟部組織へのアプローチや、関節モビライゼーションなどの関節へのアプローチを行って再評価する際、CRIの動きも確認するようにします。

施術後にCRIの振幅が大きくなっていたら、即時的効果はハッキリしなかったとしても、よい方法へ働きかけたと判断でき、患者さんにも落ち着いて経過を見守るようにお伝えすることができます。



このように筋膜リリースや関節モビライゼーション、頭蓋仙骨治療(CST)などあらゆるテクニックは、それぞれ組み合わせて使うことができるもの。

テクニックのカテゴリーに縛られず、状況に合わせて異なるテクニックを自由に組み合わせて展開させる能力も、学習の進歩に伴って求められていくのではないかと思います。



頭部は仰臥位で行いましたが、慣れてきたら座位で行ってみましょう。

腕の重さが気になるなら、肘はテーブルについて支えをつくることで負担を分散すれば、楽に触診できます。



余談ですが、手で触れなくてもバーカーを着てフードをかぶることによって、頭に触れているフードの感触からCRIを感じることができます。

はじめにご紹介した両手で風船に触れ、CRIを感じるトレーニングをすることと同じですね。



ということは、着ている服の感触から練習することも可能になるということになります。

肺呼吸の動きは感じることが出来るわけですから、CRIも繊細になるだけで別ものではありません。

とはいえ、これを感じるのはなかなかたいへんですが。



外出して信号や電車を待っているとき、着ている服の感触を手掛かりに身体のCRIを感じる練習することは、周囲のざわめきなどの情報を遮断しなければならないので集中力を高めることになります。

また、体幹や四肢のCRIを感じとれるようになることは、身体で触診できる能力が高目ることになるように思います。

私はこのようにして、少しのあい間の時間を使って練習してきました。

地道な積み重ねが大きな違いを生み出していくことになります。



積み重ねの結果、技術が向上して結果が伴うようになれば、困っている方に喜んでいただけ、自分もやりがいを感じ仕事が面白くなる。

努力する価値は十分にあると思います。



やがて努力を努力と感じなくなって来たらしめたもの。

最近は、努力している感じがプンプン漂っているうちはまだまだなのかもしれない。

そのように感じるようになりました。



次回も練習法が続きます。


≪次回(1月23日更新)に続く≫


ひとりできる!クラニアル・リズミック・インパルス(CRI)触診練習法 その5

2015-12-26 16:07:37 | 学生さん・研修中の方のために
大腿部の動きがわかれば、今度は骨盤でのCRI触診です。

仰臥位になって、両側の骨盤に手を当てます。




骨盤の場合は外に広がったり、閉じたりという動きが多いかもしれません。

もちろん、それ以外の動きでもOKです。



骨盤では肺呼吸の動きに惑わされるようになるかもしれません。

わざわざ肺呼吸と書いているのは、頭蓋療法ではCRIを原始的な呼吸として一次呼吸と表現されており、肺呼吸を二次呼吸としています。

どちらも同じ「呼吸」なので、ここでは混乱を避けるために念のため肺呼吸とします。



肺呼吸の動きでわからないという場合の対策として、いったん肺呼吸の動きについていって手を同調させるようにします。

数分間同調しているうちに、肺呼吸のリズムとは異なるゆっくりしたリズムを感じ始めるかもしれません。

そのリズムがCRIなので、こんどはそちらに同調するようにします。



それでもわからなければ、大腿部や頭蓋に戻って練習を繰り返し、CRIのリズムを手に刻み込むようにします。

それから骨盤にリベンジすると、いずれ肺呼吸とCRIを感じ分けることができるようになるはずです。

根気よく練習しましょう。



つづいて胸郭に移ります。

仰臥位で骨盤の両側に当てていた手を、そのまま下部の胸郭に当てて感じ取るようにします。



ここではさらに肺呼吸の動きが強くなるので、CRIを感じる難易度は上がるかもしれません。



料理の味見で塩加減をみるとき「しょっぱさ」に集中するように、CRIに集中して触診してください。

集中するといっても決して力ますに。

景色を眺めながら、ひとつの山に視点を定めるようなイメージで触れるのも方法でしょう。



ところで、ここでコンタクトしている胸郭には肺や肝臓があります。

内臓マニュピレーションでは内臓の動きを感じるということを練習するのですが、CRIに集中するということができれば内臓マニュピレーションを学んだ際、臓器固有の動きとされる「自動力」を感じ取ることにも役立つでしょう。

≪次回(1月9日更新)に続く≫


ひとりできる!クラニアル・リズミック・インパルス(CRI)触診練習法 その4・・・臨床にのぞむ姿勢

2015-12-12 17:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回から、CRIを大腿や体幹で感じるという練習です。

その前にCRIの触診に絡めて、臨床にのぞむ姿勢についてのお話を少し。



前々回の「その2」でも触れましたが、CRIは全身どこでも触れることができるとされています。

理由は、脳脊髄液は脳や脊髄を覆う硬膜から神経鞘を経て全身に送られるということから。

全身に送られる「から」感じ取ることができるというものが、因果関係の説明になっているかどうかはわかりませんが、とにかく触れることは可能です。



きちんと解説がされているように見えても、それはあくまで仮説であり、真偽はわからないことも多いでしょう。

だからといって、検証されてエビデンスが得られるまでやりませんでは、いつ使えるようになるかわかりません。

そうなったら、改善する可能性があった患者さんのチャンスを、私たちが逃させてしまうことにもなります。



まずは危険がないことは確認でき、実際に役に立つのなら使用していくということで良いと私は思います。

なぜ自転車に乗れるのか?を明らかにする前に、とにかく自転車に乗れるようになっておこう!という感じでしょうか。

現場では実用主義であることも求められます。



また反対に、解剖学的な説明のつじつまが合っているからといって、直ちにその説が正しいと安易に断定することにも注意したいところです。

仮説通りに結果が出たからといって、必ずしもそれが正しいとは限らず、他のメカニズムが作用している可能性もあるはず。

寄らば大樹の陰で、権威のあるメソッドや大先生が言っていることだからといって鵜呑みにするのは危険です。



何かを簡単に決めつけるというのは、セラピストにとっても楽なことだと思います。

安心感すら持つこともあるでしょう。

けれどもそれは落とし穴になるかもしれません。



安易な断定は視野を狭め、考えるということを鈍らせてしまいがち。

それに視点が固定されると、目の前で起こっているさまざまな現象の見落としも多くなります。

結果的にリスクが大きくなる可能性もあるでしょう。



もちろん、患者さんに安心していただくための方便として断定形を使うというのなら、時と場合によってはそれもひとつの方法だとは思います。

でも、私たち自身が思い込んでしまっているとしたら話しはべつ。



現場にいる者には、臨床という不安定で不確実なものに対して、ドンと構えていられるようなある種の図太さ。

すぐに答えは出なくても、焦ることなく現象を見つめ続け、 問うことそのものを楽しめる気持ちの余裕。

そして、できることを確実に行っていく実行力が求められると思います。



そうは言っても、なかなか難しいことなので、これは自戒を込めて。

テーマから脱線したお話でした。



それでは話を戻して練習をはじめましょう。

まずは大腿部から。

イスに座り両手で大腿部に触れます。




いったんしっかり乗せてから、少しずつ圧力を弱めて軽く触れる。

または「5gの力」や「皮膚をつけて骨を浮かす」など自分が持ちやすいイメージを利用するのもよいでしょう。



大腿部でCRIを感知すると、横方向にゆっくり動いていると感じることもあれば、前後方向にそれを感じることもあるでしょう。

仲間どうしで練習したとき、同じモデルの同じ部位に触れた時、セラピストによって動きの感じ方が異なる場合があります。



このような結果を生じやすいことが、客観性に乏しいといわれる一因なのですがそれはともかく。

どちらでも自分が感じたことを、まずは正解として構いません。

客観的な基準を求めることができればベストですが、それが難しい場合は治療の前と後で比較できるようにしておきましょう。



自分の中で前後比較できるということが、実施する上で最低限必要です。

それが自分にとって確信を持つきっかけとなり、自信につながります。

自信を持って治療できなければ、セラピストも患者さんも互いに不安になります。

はじめに感じたのが前後なら前後方向、横なら横方向の動きがどのように変化するか確認できるように練習しましょう。



慣れないうちは、CRIを感知してもしばらくしたらわからなくなるということをくり返すかもしれません。

でもそれはみんなが通る道。



諦めずに続けていれば、そのリズムの存在感が非常に大きいように感じて外さななくなりますよ。

落ち着きと根気が大切です。


≪次回(12月26日更新)に続く≫


ひとりできる!クラニアル・リズミック・インパルス(CRI)触診練習法 その3

2015-11-28 17:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
頭蓋の動きであるクラニオ・リズミック・インパルス(cranial rhythmic impulse:CRI)の触診について、はじめから5gの軽いタッチで触れようとするのではなく、しっかり触れてから圧力を減らし軽くしていくことで手指の余計な力みを防ぐというコツをご紹介しました。



この5gという表現ですが、これではっきりイメージできる、わかるという方もいるでしょうし、ピンと来にくい方もいるでしょう。

明確な指標は理解を容易にしますが、感じ取るときにあまり意識しすぎてそれに囚われてしまうと、かえって感覚の足を引っ張ってしまうことがあるかもしれません。

そこで他の表現をご紹介します。



ソフトなタッチのコツは、

「皮膚をつけて骨を浮かす」

というものです。



骨というのは指節骨や中手骨のこと。


皮膚(指紋部)は頭部に触れているけど、その圧力が骨まで及んでいない。

皮膚は接触しているけど、骨はまるで宙に浮いているかのような感覚で触れるということです。

5gと言われると数字を意識し過ぎて硬くなってしまう方は、このよう表現のイメージを持って触れてみてください。



いろいろ練習してわからないという方、イチかバチかの方法もあります。

それは、意図的にゆっくり手を動かすというものです。



頭にコンタクトしたら、仮に一分間に10回を目安として5秒でわずかに手を膨らませ、続く5秒で元に戻すということをくり返します。

このリズムをしばらくくり返して、さほど意識しなくてもできるようしておきます。



これを数分間続けているうちに、自分の手の動きとは異なるリズムが気になり出すことがあります。

手をそのリズムに同調して動かすようにしてみてください。

それがCRIの可能性があります。

上手くいけばこの方法でわかるかもしれません。



いろいろお話ししましたが、どうしてもわからないなら、わかる人にリードしてもらうというのが一番でしょう。

自分が頭にコンタクトした手の上から、手を重ねて触れてもらい、CRIに同調してその動きを感じ取られるようにリードしていただきます。

「CRIの動きがわかりません」と私に相談にみえた方も、これでわかるようになったということが少なくありません。



ただ、リードするには技量が求められるので、身近にいない場合は仲間をつくって練習するとよいでしょう。

ひとりで黙々と練習するより、グループという「場」の力を借りたほうが理解を助けるかもしれません。

それになかなかわからないものを、ひとりでコツコツ練習するのはモチベーションを保つのも大変ですから。



一度でもCRIの動きを感じ取れたら、それは「塩の味を知った」ということと同じです。

いちど塩をなめればその味を忘れることはないように、いちどCRIの感覚をつかめば、その後わからなくなることがあっても、記憶を頼りに確率を高めていくことはできます。

「この味は塩とは違う」「この味は近い」という感じで。



そして、呼吸や脈拍など身体の中にいろいろ存在する動きの中からCRIを感じ取るということは、料理なら味見で塩加減をみるということ似ています。

料理の味見をしたとき、いろいろな味を感じます。

でも塩の味がわかっていれば、いろいろな味の中から意識をそれに集中して、塩加減をみることがでるでしょう。

CRIの動きがわかっていれば、頭に触れた時のいろいろな動きの中から、CRIの動きに意識を集中して調べることが出来るわけです。



このように考えれば「自分にもできそうだ」という気持ちになれるでしょうか?

すぐには無理でも「なるほど、それと同じことか」と理解できれば十分です。



感覚を養うときは、心のどこかで感じている「自分にはムリかもしれない」というで気持ちをできるだけ無くすことができるように、心のハードルを下げるということがとても大切だと思います。




次回は下肢や体幹のCRIを感じる練習です。

≪次回(12月12日更新)に続く≫



ひとりできる!クラニアル・リズミック・インパルス(CRI)触診練習法 その2

2015-11-14 17:03:17 | 学生さん・研修中の方のために
前回は頭蓋療法について、そして頭蓋の動きであるクラニオ・リズミック・インパルス(cranial rhythmic impulse:CRI)の触診についてご紹介しましたが、その感覚はつかめたでしょうか?

「むずしかった!!」という方、少なくないと思います。

はじめからひとりで練習したら、わからないのが普通なのでガッカリしなくても大丈夫。



今回は、頭部を軽く触れるコツをご紹介します。


CRIを感じるには5gの力で触れるとされているので、そうとう軽く触れることになります。

ところがここでよくみられる失敗が、軽くを意識し過ぎるあまり、かえって指に力が入って硬くなってしまうことです。

そうなったらCRIを感じ取ることは難しいでしょう。



はじめての方におすすめしたいのは、まずは頭部を包むようにしっかりと触れ、そこから手を浮かすように軽くしていくという触れ方です。

はじめから適度な触れ方を狙うのではなくて、いったんしっかり当てて触れた後、じょじょに力を抜いていきます。

このようにすると、指に余計な力が入ることをある程度防ぐことができます。



また徐々にタッチを軽くしていくことで、自分が感じ取ることが可能な強さのところで止めやすくなります。

軽くすることばかり意識がいって、自分がわからなければ意味がありません。

コンタクトする圧力が多少強くても、自分がわかるということが大切だと思います。

わかったという感覚をつかんでから、さらにより軽いタッチでも感じ取ることができるようトレーニングしていけばよいわけですから。

まずはこの方法で、何となくでも感覚がつかめるかどうか、練習してみてください。



CRIを感知すると、コンタクトしている手を外に押し出そうとするように、頭が中から膨張をし、やがて収縮します。

収縮は能動的というよりも、空気が抜けるような感じでしょうか。

わずかに空気が入って風船が膨らんだり、わずかに空気が抜けてしぼんだりするような印象です。

CRIを触診することができたら、そのリズムに同調して動きについていけるように練習します。



ところで風船といえば、実際に膨らませた風船に両手で軽くコンタクトして動きを感じとるという練習も、頭蓋仙骨療法を学んだはじめの頃に教わって練習していました。

この場合も膨張と収縮を感じるのですが、風船は動かないので自分の手の動きを感じているということになります。



手にもCRIが?と疑問を持つのが普通ですが、脳脊髄液は脳脊髄を覆う硬膜から神経鞘を経て全身に送られることが近年明らかにされたことから、CRIも全身どこでも感知されるのだと説明されています。

その確かさはともかく、このような解剖学的な仕組みが明らかになる前から、手足でもCRIは確認されていたので、頭蓋仙骨療法を現場で用いるならとにかく感じ取れるようになっておきましょう。

≪次回(11月28日更新)に続く≫


ひとりできる!クラニアル・リズミック・インパルス(CRI)触診練習法 その1

2015-10-31 16:15:33 | 学生さん・研修中の方のために
頭蓋仙骨療法という手技療法のテクニックがあります。

もともとオステオパシーの頭蓋療法を起源として発展してきましたが、現在ではリハビリテーションやボディーワークの分野でも取り入れられるようになり、呼び名もそれぞれで少しずつ異なるようです。



このテクニックは頭蓋骨が動く、それも一定のリズムを持って呼吸のように膨張と収縮を繰り返して動いている、という標準的な医学の知識からすると???なことが前提となって組み立てられています。

動きといっても5~12μm。

ひと昔前まで、仙腸関節は動かない不動関節であると解剖学の教科書にも書かれていたことを思えば、何をもって動くとするかという基準や程度の問題なのかもしれないですね。



その動きがどのようなものによってもたらされるのかについては、脳脊髄液の産生と排出のバランス、硬膜そのもの動き、あるいは脳脊髄そのものの動きなど諸説があります。

またその回数は、1分間に6~10回というものもあれば、8~12、あるいは10~15回というものもありばらつきが見られます。

これほどばらつきがあるなら、もしかしたら頭蓋の動きの中にいくつかの異なるリズムがあって、セラピストによってどのリズムを感じているかによる違いが生じているという可能性もあるかもしれません。

胸に手を当てた時、心臓の動きと呼吸の動きのどちらに意識をするかによって、感じるリズムが異なるということに似ているのかも。



頭蓋の動きはクラニアル・リズミック・インパルス(cranial rhythmic impulse:CRI)と表現されているので、これからはCRIと書くことにします。

CRIのリズムや動きが、何らかの理由で機能異常を起こすことによって、頭痛、頚肩部痛など疼痛症状のほか、内臓や自律神経系の機能障害に加え、不安や抑うつが起こるとされ、頭蓋仙骨療法はそのタイプの機能異常にに対して有効な技法です。

具体的には異常な動きの頭蓋骨にコンタクトし、任意の方向に伸張するなど持続的な刺激を加えたり、CRIと同調しながらその動きを誇張するような操作を加えることで、CRIが正常なリズムと動きに近づくように誘導します。



触れるといっても5gの力で触れて操作します。

はじめて聞いたら「5gってオイオイ、一円玉5枚の重さで操作するの?」という感じですよね。



5~12μmの動きに対して5gの力で触れて操作することから、頭蓋療法はとても繊細なテクニックとされています。



そのようなわけですからCRIを触診して感じ取れるようになるには、ふつうはとても根気と忍耐のいる練習が必要で、ここでつまずいている方も少なくないかもしれません。

今回のシリーズはCRIを触診する練習法を、感じ取れるようになるためのポイントも含め、ご紹介したいと思います。



練習にはいろいろな方法が考えられますが、通常の触診よりも集中力を必要とするので、静かな環境で練習することが望ましいでしょう。

ひとりで行うなら、夜布団に入ったときもよいです。

私は今でも布団に入ったときに練習していて、そのまま眠ってしまうこともよくあります。

この技法はリラクゼーションとしても優れているので、ちょうどよいかもしれません。



まず仰臥位で手掌を側頭部に、指は頭頂部をくるむように当てます。


このとき、肘の力はできるだけ抜いておくようにします。

腕の重みで屈曲しているようなイメージでしょうか。



肘に力が入ったまま触診していると、筋が疲労したとき(この場合は特に上腕三頭筋)動きを感じるどころではなくなってしまいます。

はじめから頭に触れず、腕に力みが入っていないことを確認したうえで触れるようにするとよいかもしれません。



では、一円玉5枚の重さ(百円玉1枚もほぼ同じ)で触れてみて、肺呼吸の動きとは異なるリズムを感じられるかどうか、チャレンジしてみてください。

≪次回(11月14日更新)に続く≫