手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

ひとりでできる!!間接法の練習≪おまけの話‐2≫ その12

2012-04-28 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回からのつづき≫


次に、一部分を使って練習することについて。


「ひとりでできる!!練習法」シリーズでは、身体の一部分だけ使って練習しています。


一部分の練習だけでは、頼りなく感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。





確かに、一部分がみれたからといって全体がみれるとは限りません。


けれども一部分がみれないようでは、全体などみれっこないというのも確かなことです。


この一部分の動きがわかれば、やがて全身の動きがわかるようになっていきます。


大切なことは、動きが「ある」「ない」(大きすぎる・少ないも含めて)状態とは、どのような感触であるのか。


また、動きが回復していく感触とはどのようなものであるのかを、身体にしみ込ませておくことです。





それがなぜ大切なのか?


いくつか理由はありますが、たとえば関節モビライゼーションは刺激のグレードを、ある方法では5段階、別の方法では3段階など、メソッドによって異なる分類をしていることがあります。


どのような方法を学んだときでも自分の感覚がベースにあれば、あるグレードはどのような刺激のことを指しているのか感覚的に理解できます。


刺激の分類が、それぞれのメソッドによって異なっていても混乱しません。





これがグレードの分類を知識だけで細かく記憶しようと思ったら、覚えるメソッドが増えれば増えるほど整理はたいへんになります。

そちらにエネルギーを取られすぎると、かえって実践がおぼつかなくなるかもしれません。


ですから知識を整理する上でも、自分の中に確かな動きの感覚をじっくりと養っておくことはとても大切になります。





また臨床では、組織の状態が各グレードにクリアに分類できるケースばかりではありません。


あるグレードとグレードの、中間程度の刺激を必要としている状態のこともあります。


その場合、自分の感覚で匙加減をして、刺激を調整しなければなりません。


それができるためには、身体でさまざまな感触を覚えておく必要があるわけです。





その土台になるものを、身体の一部分を使って鍛えているわけです。


ですから、たった一部分だからといって、軽くみてはいけません。


徹底的に練習してくださいね。





さいごに、学びと充実感について。


このシリーズのはじめのほうでも少しふれましたが、直接法と間接法それぞれのアプローチを身につけておくと、刺激を加える技術的な幅がグッと大きくなります。


これは、セラピストとして治療の幅が広がることを意味します。


私自身は、こちらもシリーズのはじめにお話ししたように、間接法をメインに使っている訳ではありません。


それでも、いざとなったら使えるという思いがあることで、気持ちに余裕を持てています。


ただ幅が広がるとは、それだけ目の前の患者さんにはどのような刺激が最適かなど、より多くのことを判断しなければなりません。


これには経験と知識、そして刺激に対する組織の反応を素早く感じとる触診技術に磨きをかける必要があります。





ひとつひとつを確実にとはいえ、学べば学ぶほどさらに多くのことを学ばなければいけませんね。


たいへんですが、できることが増えてくると、私たち自身も仕事をより面白く感じるようになります。


一日の仕事が終わった時「今日も面白かった」「良い仕事ができた」と感じられることは、とても幸せなことだと思います。





そして、できることが増えるということは、さまざまな状態の患者さんに対応できるということ。


多くの患者さんを笑顔にさせることができるということです。


手技療法が対処できる体性機能障害は、単独で命に直接かかわるようなことはないものの、患者さんの仕事や生活にとって大きな問題となっていることがあります。


ですから機能障害がよくなる、ならないで、患者さんの人生が変わってしまうこともあります。


その患者さんにとって、私たちはたいへん意味のある治療をしていることになるわけです。


長くこの仕事をしていらっしゃる方なら、ご経験はあるのではないでしょうか。





こうして学べば学ぶほど、自分やまわりの人の喜びが増えるというのはステキなことだと思いませんか。


それによって、私たちもより充実感をもって仕事をすることができるのだと思います。





よく「自分の仕事に誇りを持て」と言われます。


その核になっているのは、自分の内面で感じる充実感だと思います。


充実感が外に向かってかもし出されたとき、誇りとして自然と現れるのではないでしょうか。


ときどき、これみよがしに肩肘を張っているような方をみることがありますが、なにも不自然にそのようなことをする必要はないわけですね。





もちろん、落ち込むときだってときにはあります。


数日では立ち直れない場合だってあるでしょう。


でも、自分の中で仕事への充実感があれば、起き上がり小法師のようにまた起き上がって歩き出すことができます。


それ以前よりも強くなって。





伝えたいことを思いつくままお話ししたので、ずいぶん脱線してしましました。


私は仕事には、自分の人生観が現れるものだと思っていますので、このようなお話しになってしまいました。





この手技療法の寺子屋ブログでお伝えしているような練習法も、ひとつひとつは地味なもの、ちいさな石ころです。


けれどもそれを積み重ねていくことで、やがて強固な礎石のひとつとなり、セラピストとしての幅を広げ、多くの患者さんの役に立ち、みなさんの内面の充実感につながっていくものと私は信じています。


毎度のことながら、まとまりがないさいごになりましたが、「おまけの話」なので勘弁してくださいね。



ひとりでできる!!間接法の練習≪おまけの話‐1≫ その11 (ありがとう1500人)

2012-04-21 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回まで、10回にわたって間接法の練習を行ってきましたがいかがでしたか?


得手不得手がけっこうハッキリ分かれる間接法ですが、苦手だという方「自分にもできるかも」という気持ちになっていただけたでしょうか。


基本的なところはきっちり押さえたつもりですので、あとは全身どの部位でも、この基本に則って練習すると習得しやすいのではないかと思います。





間接法という用語について、少し補足しておきたいことがあります。


今回のシリーズでは直接法を、かたい方向、抵抗の強い方向、制限のある方向、動かしにくい方向に動かしていく治療手技としました。


反対に間接法は、やわからい方向、抵抗が弱い方向、制限のない方向、動かしやすい方向に動かしていく方法でした。


多くはこのような用い方をされますが、まれに異なる意味で用いられることがあるかもしれません。


それは、目標となる関節を構成する骨に「直接」コンタクトして操作する方法を「直接法」と表現される場合です。


この場合、「間接法」はいくつかの関節を介して「間接」的に、目標となる関節を操作する方法を意味します。


以前、「徒手的テクニックの使い分け3~関節面への他動運動~」で、小さいテコを使ったモビライゼーションと大きいテコを使ったモビライゼーションについてお話ししました。


ここでの小さいテコが直接法で、大きいテコが間接法となります。



      ≪ 小さいテコ:直接法 ≫


      ≪ 大きいテコ:間接法 ≫


何だかややこしいですね。





手技療法のなかには統一されていない用語もあるので、混乱してしまうことがときどきあります。


たとえば、仙骨が前方へうなずように傾くことを、ふつうは運動学に則って「屈曲(=点頭:nutation)」と呼んでいます。


ところがオステオパシーの頭蓋仙骨テクニック(CST)では、同じ動きを「伸展」と表現します。


これは蝶形後頭軟骨結合を基準にする、CSTの特徴的な考え方のためですが、詳しいお話は省きます。


とにかくこれを理解しないでCSTを学ぶと、骨盤に関して何が何やらということになりかねません。


その場合は、前後の文脈や話しの流れから判断するしかないかもしれませんが、用語の統一は業界にとって必要だと思います。





さて、この「ひとりでできる!!練習法」シリーズも、これまでずいぶんいろいろな方法をご紹介してきました。


脊柱・骨盤の自動運動による可動性の触診や、肩・膝を用いた関節構成運動の触診、他動的な関節あそび検査も行いました。


関節モビライゼーションや筋肉エネルギーテクニックなど、直接法や間接法によるテクニックの練習法もやってきましたよね。


手技療法の習得するために、身につけておいたほうがよいものが、ある程度はカバーできるようになってきたかなと思います。


練習相手がいなくても、ヤル気さえあればいろいろできるものです。





せっかくの機会なので、「ひとりでできる!!練習法」を通して、伝えておきたかったことをいくつかお話ししましょう。


まずは、学んで習得するまでのスピードについて。


前回は一話だけで、間接法による関節モビライゼーションの練習を終わらせることができました。


そのようにできたのは、関節あそび検査にはじまり、直接法による関節モビライゼーション、間接法による筋筋膜リリースやストレッチの練習を積み重ねてきたからです。


これが、いきなり間接法による関節モビライゼーションを覚えようと思ったらそうはいきません。





このように手技療法は、ひとつの方法をきちんと習得すれば、それを次のテクニックにも生かすことができるので、学べば学ぶほど身につけるスピードは速くなっていきます。


スポーツや武道、料理なども同じはずです。


ですから、習得しなければならないことが多いからといって決してあせらず、ひとつひとつの基本技術を確実に身につけるようにしていってください。


結局はそれが近道になります。


いくら手数を多く覚えたからといって、基本ができていないとテクニックの切れ味が悪くなり、効果は上げにくいのではないかと思います。





≪次回につづく≫








おかげさまで週間訪問者が1500人になりました。
週1回の更新で続けてきた「手技療法の寺子屋」ブログは、はじまってからもうすぐ4年6か月になりますが、前回初めて週間訪問者が延べ1500人を超えました。
ちょうど一年ほど前、1000人をこえましたので、この1年で500人増えたことになります。
1500というのは、とても大きな人数だと思います。
このブログでは「手技療法に共通する基本は何か」「どうすれば基本を効率よく身につけることができるか」という問いを主なテーマとして、私なりの考え方で少しずつまとめてきました。
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ひとりでできる!!間接法の練習≪関節モビライゼーション≫ その10

2012-04-14 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
間接法のまとめとして、今回は関節モビライゼーションの練習をしましょう。


ここまでお話ししてきた間接法と、過去にお伝えした直接法による関節モビライゼーションの組み合わせです。


ですから細かい解説はあえて行いません。


みなさんにたずねながら進めますので、これまで練習してきたことを生かしてみてください。





「昔のことは忘れちゃった」という方は「関節あそび検査練習法」シリーズと「関節モビライゼーション(直接法)練習法」シリーズを復習しましょう。

「ひとりでできる関節あそび検査練習法1」

「関節モビライゼーション(直接法)練習法」


続いて、今回の間接法の練習シリーズも念のため復習しておいてください。





よろしいですか?


では示指DIP関節を対象にして、関節モビライゼーションによる間接法の練習を行いましょう。


「関節あそび検査練習法」や「関節モビライゼーション(直接法)練習法」では、以下のように示指の中節骨と末節骨を固定し、DIP関節の側方すべり検査とそのモビライゼーションを行いました。





骨を固定するときには、どのように固定したでしょうか?





続いて、天井側・床側に末節骨を側方にすべらせて、関節のあそびを確認してください。


どのように力を加えて操作するのでしょうか?





このとき、エンドフィール(関節終端感覚)だけを感じるのではありません。


動かし始めからエンドフィールに至るまでのすべてを感じとり、なめらかに動いているかどうかなど、動きの質も評価するようにしましょう。





関節あそび検査の結果、仮に天井方向に側方すべりが制限されていたとします。


直接法ならそのまま天井方向にモビライゼーションをかけますが、今回は間接法なので床方向に動かします。




間接法で練習した、組織がゆるむ程度を感じながら操作しましょう。


ほんのわずか動かしただけで、ゆるむポジションにくるのではないかと思います。





操作する力に注意してください。手先で動かすのではありません。


手先で動かすと、ゆるむポジションを感じとりにくくなるだけではなく、組織がリリースしていく変化のプロセスも感じとることが難しくなります。


「小さな操作は大きな動作で行う」ですよ。





ゆるむポジションがわかれば、そのまましばらくキープしてください。


これが間接法による関節モビライゼーションになります。





関節がリリースするとき、どのように感じますか?


感じとり方はセラピストによって個人差があると思いますが、私はフワッと関節が膨らんで温かくなるような印象を持ちます。





リリースを感じたら、再評価してみてください。


動きの範囲や質は変化したでしょうか。


側方すべりのみ練習しましたが、余裕ができたら前後のすべり・傾斜・軸回旋など多方向へ同時に行ってみるとよいでしょう。


より精度の高いアプローチとなります。





関節にアプローチする場合も、このような間接法を中心に使っているというセラピストもいますが、私の場合は、このシリーズのはじめにお話ししたような用い方をしています。


みなさんそれぞれ、自分のスタイルに合わせて取り入れていただければと思います。


次回は、このシリーズのまとめ(おまけの話)です。


ひとりでできる!!間接法の練習≪拮抗筋のストレッチ≫ その9

2012-04-07 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回の続き≫


なかには練習をしていて「前腕の屈筋が弛緩した位置を感じとることが、どうしても難しい」という方もいらっしゃったかもしれません。


そのような場合はワンステップおいて、ストレッチしている拮抗筋の状態に注目し、感じ取る練習をしてもよいでしょう。





まず屈曲の時は、前腕伸筋が十分にストレッチされる角度で止めます。



前腕の回内・回外(手関節の側屈)では、もっとも伸筋がストレッチされると感じたところで止めます。


手首の回内・回外でも、同様にします。


弛緩させた場合と比べ、ストレッチしたときの張力を感じとるほうが、より簡単ではないでしょうか。





最も伸筋がストレッチされるポジションが決まったら、意識を屈筋のほうにもっていき、弛緩した状態というのを感覚で覚えるようにします。


以前、「体性機能障害の評価の流れ4~エンドフィール 2~」で、「やわらかい」よりも「かたい」ほうが知覚しやすいので、そちらから練習することをおすすめしました。


徹底的にかたさを感じとる練習をすると、その対極にあるやわらかさも感じ取りやすくなる、というのがその理由でした。


今回ご紹介した方法は、緊張と弛緩という対極の状態を、ひとつの姿勢で作り出しているので、弛緩したやわらかい状態を覚えるためのよい練習法になるかもしれません。





話のついでですが、やはりこのような技術を身につけるときには器用・不器用があらわれてしまいます。


不器用な人、あせりはとくに禁物ですよ。


あせってしまう方は、気持ちのどこかで「どうせ自分は不器用なんだからのんびりいこう」と、良い意味での開き直りを持つことも大切だと思います。


短期的な結果を期待せず、地道に練習を重ね、自分の中で技術が熟成してくるのを待ちましょう。


器用な人はすぐにわかり、どんどんできるようになっていくのですが、不器用な人はゆっくりと一歩ずつ、地道に積み重ねていくしかありません。

( 「器用な人と不器用な人」シリーズもご参照ください。)


私は自分が不器用ですから、不器用な人でもステップ バイ ステップで進んでいけるような技術の習得法をつくることができたらと思っています。





さて今回ご紹介したのは、対象とした筋を間接法によってリリースするため、拮抗筋のストレッチをするというものでした。

これが、カウンター(拮抗筋)にストレイン(この場合はストレッチ)をかける、カウンターストレインというテクニックの意味になります。


もしくは、特定のポジションをとって組織をリリースするテクニックという、ポジショナルリリースセラピーというものです。


ポジショナルリリースセラピーは、カウンターストレインが商標登録されている関係で使われている別称のようです。





カウンターストレイン(ポジショナルリリースセラピー)では、はじめに押えると飛び上がるくらい痛い圧痛点(ジャンピングポイント/テンダーポイント)を探します。


今回の前腕屈筋なら、手首または内側上顆の周辺に出現します。


続いて圧痛点をモニターしながら、それが軽減・消失する姿勢を探します。


今回の練習ではモニターがなかったので、自分の筋の感覚を頼りに行ったわけです。





圧痛点が軽減・消失する姿勢がみつかれば、一定時間(教科書的には90秒)そのまま保ちます。


その姿勢が、もっとも筋が弛緩するポジションということになります。


時間がくれば、ゆっくりもとに戻して、飛び上がるような圧痛点が軽減・消失しているかどうか確認します。





慣れてきたら、リリースを感じた時点で姿勢を戻してもかまいません。


圧痛点がなくなる姿勢を探すには、圧痛点が弛緩していく様子を感じとる必要があります。


筋膜リリースのところで、コンタクトした部位の弛緩を感じとる練習をしたことが、ここで生きてくるわけですね。


このようにカウンターストレイン(ポジショナルリリースセラピー)は、圧痛点を手掛かりに進めていくテクニックです。





今回ご紹介した技法は、筋紡錘の異常などによって筋緊張(筋トーヌス)が亢進している場合に有効です。


ただ、線維化などによって組織そのものが短縮している場合は、直接的にストレッチをして伸ばしていく必要があるでしょう。





次回は、関節のあそびを回復させるための間接法の練習です。