手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

ひとりでできる!!肋骨の可動性検査練習法 その12≪体動に伴う評価≫

2013-01-26 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回のシリーズでは、肋骨の可動性検査を中心にご紹介してきましたが、それは呼吸に伴う動きをみるというものでした。

呼吸以外でも、身体の運動のときに肋骨は動きます。

体動時の制限というもの当然ありますから、その動きの中で評価する技術も必要になります。

でもこれまでやってきたことが身についていれば難しくありません。

きっと大丈夫ですよ。

ここから先は細かく解説しませんので、みなさんが自分の胸郭の動きを自分の手でよく観察して、感覚を磨いていってください。



屈曲・伸展・側屈・回旋の動きをみていきましょう。

どのレベルでもかまいませんので、左右の肋間部に指をコンタクトしてみてください。

手掌を当ててより広い範囲で動きをみてもよいのですが、まずは個々のレベルから始めるほうがよいと思います。



まずは屈曲です。

体幹を前屈させたとき、肋間部はどのように変化して動くでしょうか?


力を抜いてただ前屈させたときと、力を入れて前屈させたときの違いも比べてみましょう。

また、屈曲位で深呼吸した時の肋骨の動きも調べておきましょう。



続いて伸展です。

前屈のときと同じように運動に伴う肋骨の動き、深呼吸をした時の動きを調べてみてください。




側屈はどうでしょう。


ここでは肋骨の動きは左右で大きく異なってきます。

とくに側屈した状態での深呼吸は面白い動きをすると思いますよ。



最後に回旋です。


側屈と同様に左右で動きは大きく異なります。



回旋に伴う肋骨の動きの左右差は面白いですね。

指を肋間部の前面寄りにコンタクトして回旋してみましょう。

ここでは右に大きく回旋した状態で、呼吸を止めてみてください。

右の肋間部は表面が緊張してくるのに対し、左は右より深いところが緊張していると思います。



これは右に回旋することで、右は外肋間筋が、左は内肋間筋がストレッチされることで緊張している感触を捉えています。

(ピンときにくい方は、解剖図を参照して筋の走行を考えてみてくださいね。

 
    ≪ 外肋間筋 ≫


    ≪ 内肋間筋 ≫


外肋間筋が表層に、内肋間筋は深層にあるので、このような深い浅いの差ができるわけですね。

面白いと思いませんか?



ひとつひとつのレベルで経験を積んだら、手掌を当てて広い範囲の動きをつかむようにします。

体動の時に動かないところをみつけたら、個々のレベルの動きを調べ、アプローチしていくわけですね。

シンプルにマッサージしたり、呼吸も利用したり、側屈や回旋の運動を利用したりと、いろいろなバリエーションでアプローチできます。

ここまで来たら、評価からアプローチの流れが何となくイメージできるようになっているのではないでしょうか。

いろいろ工夫してみてくださいね。



さて、今回のシリーズは肋骨の可動性検査ということでしたが、治療の流れもイメージしていただきたかったので、徒手的なアプローチも少しご紹介してきました。

シリーズのはじめにもお話ししましたが、胸郭への手技療法によるアプローチは、まだまだマイナーですが、さまざまな可能性があると思います。

ぜひ役立ててください。


ひとりでできる!!肋骨の可動性検査練習法 その11≪第一肋骨≫

2013-01-19 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
これまでは中・下部肋骨に対するモビライゼーションをご紹介してきました。

今回は上部肋骨にあたる第1肋骨です。



「じつは第一肋骨の位置が、はっきりとはわからないんです」という方、ときどきいらっしゃいます。

大まかには胸郭の上面を押さえればよいわけですが、第一肋骨動きを評価して治療するためには、きちんとわかってコンタクト出来ている必要があります。

というわけで第一肋骨の触診を練習しましょう。




まず、人差し指の橈側を、反対の首すじの外側に押し当てます。


このとき人差し指の指紋部は下方に向いています。



人差し指を首すじに押し当てたまま、下方に移動させます。


すると頸の付け根あたりで、指紋部分に骨らしき硬いものが当たって指が止まると思います。


ここは、第7頸椎の横突起である可能性が高いです。


触れているのは首の外側で、すぐ後ろには上部僧帽筋の前縁というところになります。



ひとりで練習をしていると、「ここが、第7頸椎の横突起なのかな?」と確信を持ちにくいかもしれません。

気持ちはわかります。

でも、あとから確認できるので、そこをひとまず第7頸椎の横突起と仮定して先に進みましょう。



第7頸椎の横突起を下方に押さえながら、指を外側に移動させます。

すると段差があって、もう一段下に下がるように指が落ち、また硬いところに当たって止まると思います。


そこが第一肋骨です。


もしわかりにくいという方は、肘をテーブルについて鎖骨が軽く上がるようにすると、このあたりの緊張が緩むので触れやすくなるでしょう。



段差を落ちて止まったところで、いちど大きく深呼吸をしてみてください。

吸気に伴って人差し指の指紋部が持ちあげられ、呼気の時には下がっていく感触がありますか?

何度か深呼吸を繰り返して確認してみてください。



では来た道を戻って段差を上がり、先ほどの第7頸椎の横突起と仮定したところを指紋部で触れ、もう一度深呼吸してみてください。

今度はどうでしょう?

指紋部が持ちあげられたり、下がったりする感触は、先ほどと比べて少ないのではないでしょうか。

そうだとしたら、ここが第7頸椎の横突起だと確認できたことになります。

頸椎だから呼吸に伴う動きは少ないのですね。
(斜角筋など周囲の軟部組織の緊張により、動きがあるように感じてしまうこともあるかもしれません)



再び一段下りて、第一肋骨に触れます。

そこから上部僧帽筋の前縁の前方をたどりながら指を外側に進めていきましょう。


そのルート上にあるのは第一肋骨です。

ここには前・中斜筋が付着しているので、この筋の緊張が強い場合は肋骨は触れにくくなります。


鎖骨まできたら第一肋骨は、鎖骨の下に入って内側の胸骨に向かって行きます。




左右の動きを比較してみましょう。

何か違いがありましたか?

さらに仲間にも触れさせてもらい、動きの個人差を感覚として覚えておきましょう。



第1肋骨には斜角筋が付着していますが、呼吸の補助などで斜角筋が働き過ぎて緊張すると、第1肋骨を上方に引き上げて吸気位で固定してしまいます。

そのため、第1肋骨は呼気制限が多いように感じています。

斜角筋が緊張していたら、それにアプローチした後、第1肋骨が呼気で下がるか再評価するというかたちでもよいでしょう。

個人的には、斜角筋の緊張や短縮にはASTRをよく用いています。



再評価しても第一肋骨が下がらない場合は、呼気制限のときの呼吸を用いた肋骨のモビライゼーションを行います。

呼気の時に肋骨を押し下げて、吸気で抵抗するわけですね。



第1肋骨は胸郭出口症候群の評価や治療などでも大切な部位となります。

よく練習しておきたいところです。





≪おまけの話≫
おすすめしたいアプリ、Vissible Bodyシリーズ。

解剖学のアプリなのですが、人体を立体的に好きな角度から自由に見られるものです。
また指定した部位を隠したり、半透明にしたりもできます。
今回のブログの解剖イラストにも使用しました。

これまでセミナーのレジュメなど資料を作るときも、ちょうどよい角度から描いた解剖のイラストがないこともあったのですが、これなら自分の思ったとおりのものが使えそう。
解剖実習をしたことのない、私のようなコメディカルの人たちには、人体の立体的なイメージが持ちやすくなって学習の助けになると思います。

私が購入したのはiphone用のHuman Anatomy Atlas2ですが、このようなアプリが3000円ほどなんてすごい時代になったものです。
はじめに買ったのは骨と筋肉だけのMuscular Premium Anatomyで、こちらも600円とコスパは高いと思います。
他にもいくつかシリーズがあります。

Vissible Body


ひとりでできる!!肋骨の可動性検査練習法 その10≪大事な大事なティッシュプル2≫

2013-01-12 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
吸気制限・呼気制限に対する肋骨のモビライゼーション、皮膚のあそびをとることを課題にして練習していただきましたが上手くいきましたか?

あそびをとる方向については、組織を固定できればどの方向でもよいのですが、私の経験上とりやすい方向をここではご紹介します。



まず吸気制限での皮膚のあそびをとる方向は、肋間部に沿って後上方から前下方にとって(皮膚を引っ張って)、目標となる肋骨下縁にコンタクトします。


そこから肋骨の下縁に触れて上に押し上げます。




カチッと固定できるのが、感覚的につかむことができるでしょうか。

ただ押さえたときとは安定感がまったく違うはずです。



呼気制限では反対に、皮膚のあそびは肋間部に沿って前下方から後上方にとって(皮膚を引っ張って)、目標となる肋骨上縁にコンタクトします。


そこから肋骨を下に押し上げます。




では、皮膚のあそびをとった上で、呼吸を用いた肋骨のモビライゼーションを行ってみてください。

違いをわかっていただけたでしょうか!!



皮膚のあそびをとることは、料理なら「塩」に例えることができます。

塩は素材の味や旨みを引き出し、料理のおいしさを演出してくれます。

塩なしには料理のおいしさは半減するでしょう。

けれども見た目には、塩が料理に入っているかどうかなどはまずわかりません。



同じように皮膚のあそびをとることは、テクニックの持つ効果を引き出してくれます。

皮膚のあそびを取ることなしには、刺激が分散して効果は半減するでしょう。

皮膚のあそびをとる操作をしているかどうかは、一般の人が見てもまずわかりません。

けれどもその有無が、テクニックの効果を左右することになるのです。



ところで、みなさんはこの業界にいると、治療の武勇伝をいろいろ聞いたことがあるのではないでしょうか。

「どこに行っても治らなかったものを治した」というものです。

(治したという考え方そのものが、どうかとも思うのですが

何年か臨床をやっていたら、自分でも経験することがあるでしょう。

私もあります。



しかし私の場合、そんなに変わった治療をして良くなったという経験はありません。

基本的には緊張の分布をみて、動きが少なくなり制限されたところを、手で刺激を加えて再び動かせるようにするということが中心です。

あとはセルフケアをお話して、必要に応じて筋力強化や使い方のアドバイスをしているだけです。



ではなぜ患者さんはその時まで、良くなるチャンスをなかなか得ることができなかったのでしょうか?

評価ができていたのに制限が残っているという場合、皮膚のあそびをとることをはじめ、制限の芯を捉えて治療することが出来ていなかったということも、ひとつの要因となっているのではないかと思います。

きびしい指摘かもしれませんが、基本ができていなかった可能性があります。

私たちが基本という、為すべきことを為さないために患者さんが良くなるきっかけを作れないでは悲劇ですし、為すべきことを為しただけで武勇伝になるのは滑稽な話です。

≪ 『機能制限の「芯」を捉える感覚を養う』シリーズ、「神の手」より「孫の手」をご参照ください≫



皮膚のあそびをとるなんて些細なことです。

特に意識しなくても、センスのある方はやっています。

そのためか、セミナーや研修会などでもサラッと触れられる程度か、無視されることも少なくありません。

しかし、このようなことをきちんと徹底してやれているかどうかが、引いては業界全体の水準にも関わってくることではないかと思います。

コンタクトした時、きちんと皮膚のあそびがとれているかどうか、特にはじめのうちは意識してチェックしておいたほうがよいでしょう。



今回は、モビライゼーションで皮膚のあそびをとる操作のお話でしたが、指圧やマッサージでも同じです。

ASTRのフックも、皮膚のあそびをとっている一面もあります。

ぜひ日ごろ自分がよく用いている技法を、皮膚のあそびをとるという視点でチェックしてみてください。

きっと何か気づくことがあると思いますよ。



次回は第一肋骨です。


ひとりでできる!!肋骨の可動性検査練習法 その9≪大事な大事なティッシュプル1≫

2013-01-05 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前々回とその前に、呼吸を用いた肋骨のモビライゼーションを行いましたが、「指がすべりそうで、やりにくかった」という方いませんでしたか?

そうだとしたら、それは皮膚のあそびが取れていなかったためです。

皮膚のあそびをとるということは、とっても大切なポイントで、今回の肋骨だけではなく関節モビライゼーション、軟部組織へのアプローチなど手技療法のテクニック全般にいえることです。



「皮膚のあそびをとる」ことは「ティッシュプル(tissue pull)」と呼ばれています。

骨やトリガーポイントなど、目標とする部位の固定を確実にするために、皮膚からその部位までの、軟部組織のゆとりを除いてピッとつっぱった状態にすることです。



なぜこのような操作が重要なのか、実際に体験していただきましょう。

一方の肘を曲げて肘頭の先端部分に対し、反対の四指(当たるのは2本指ほどでしょう)で圧迫を加えてみます。

まずはそのまま素直に当てて、しっかり押さえてみましょう。




安定感を持って力を加えることができるでしょうか?

わずかにグラグラ動いて不安定感があり、しっかり圧迫できていない感じはありませんか。

そうだとしたら、それは皮膚のあそびが取れていないからです。



皮膚のあそびがとれず不安定なままだと、身体の力を手に伝えにくくなり、また手先に力が入りやすくなります。

そのため、的確な強さと方向に刺激を加えることや、刺激を加えながら組織の状態をモニターしておくことが難しくなってしまいます。

結果的に治療がうまくいかず、さらにはダメージを与えてしまうリスクも高くなってしまいます。

皮膚のあそびをとる重要性を理解していただけたでしょうか。



では、「皮膚のあそびをとる」とはどういうことなのか。

肘頭よりも上腕骨側に四指を触れ、皮膚の動き(あそび)が肘頭で止まるように、皮膚を前腕方向に引っ張って止めます。




その状態で、押さえてみてください。



いかがでしょう?

安定感がまるで違い、しっかり刺激が入ると思います(誘導尋問かな)。

これが、皮膚のあそびをとるということです。

あそびをとる方向は、刺激を加えるときに組織を固定できていればどの方向でもかまいません。



それでは以前行った、吸気制限・呼気制限に対する肋骨のモビライゼーションを、とくに皮膚のあそびをとることを意識して復習しましょう。



あそびのとり方を、みなさんそれぞれで工夫して行ってみてください。