手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

セラピストの母指を守る工夫 その5

2012-08-25 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
このシリーズでは手技療法、とくに筋筋膜へのアプローチで多用される母指を傷めないように守りつつ、いかに上手くつかっていくかという工夫の仕方を考えてきました。


大切なのは、自分にとって楽に操作できるかどうかだと私は思っています。


そうなると、学校などで教えられる方法からは離れてきてしまうこともあります。





たとえば、指圧では母指圧迫のとき、母指のMP関節(中手指節関節)を外に出すように指導されます。



そうすることで母指丘が緊張するのを防ぎ、骨格で支えやすくなるからです。


しかし、私のようにIP関節が反らないタイプは、指先が立った状態で圧迫することになります。





聞いた話では、かつてトンカチで自分の母指を叩き、IP関節を反れるようにしたという先輩もいらしたようです。


自分にはそこまでの根性はありません。


というわけで私のような者は、母指丘の緊張が少なくて済む角度や、使い方を覚えていく必要があるわけです。





ただ、私の指にとって負担を少なくしようとすると、前回ご紹介したように身体を斜めにすることになるので、加わる圧力も斜めのほうになります。


これは指圧の三原則のひとつ、体表面(あるいは指圧点や、押す面という表現もあります)に対して垂直に圧を加えるという「垂直圧の原則」に反しているかもしれません。


けれども直接法の場合、制限のある組織に対して最も抵抗の強い方向に刺激を加えるのが、効率よくリリースさせる上で有効になります。

そのために抵抗の強い方向へ、自分にとってより負担の少ない方法でアプローチする工夫をします。



ですから指圧の原則にもこだわっておらず、ただ圧迫法と呼んでいます。





そういえば以前、ASTRについて母指のIP関節が反る方から「母指フックで指先が反ってしまい、上手くフックできません」 という相談を受けたことがありました。


「母指でのフック その1 ~フックの技法~」もご参照ください ≫


フックできないように感じるのは、母指の指先でフックしようとしているからです。


指先は反ったまま、IP関節付近でフックしてもまったく問題ありません。


大切なのは、制限のある組織をフックして固定することです。


さきほどと同じ話で、自分の身体に負担が少なく、効果を挙げることができる方法であれば何でもかまわないわけです。





患者さんの状態と、セラピストの身体的な条件によって最適なアプローチは異なってきます。


多くのテクニックは患者さんを基準に、どう操作すべきか解説されています。


そうしないと説明のやりようがないので仕方のないことではあります。


でも、みなさんがテクニックを自分のものにするには、その解説を元に、自分自身の身体に合うように工夫する必要があります。

今回のシリーズでお伝えしたかったのは、みなさんそれぞれの工夫の仕方です。





ときどき、自分は指が反るからやりにくい、あるいは、反らないからやりにくいという話を聞くことがあります。


そのような、ないものねだりをしなくても工夫次第で何とでもなるものだというのは、これまでの話からおわかりいただけると思います。





みんなそれぞれが試行錯誤を重ねながら、自分の身体に無理をかけない、歩行するように自然な治療ができるようになればいいですよね。


私自身もまだまだですが、あれこれ工夫をしているうちに、少しずつですが効率よく治療できるようになっています。


そうなると嬉しいものです。


工夫は無限ですね。





これからも精進を重ねていきたいと思っています。

セラピストの母指を守る工夫 その4

2012-08-18 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
体性機能障害への手技療法(直接法)によるアプローチの基本は、制限に対して最も抵抗の強い方向に刺激を加えることだと私は考えています。


そのため、母指圧迫の場合なら、母指をさまざまな角度で用いることになります。


角度の変化によって、母指丘に不必要な力を加えないようにしなければなりません。





前回まで、母指丘の筋は支えるために使うこと、母指のバランスを鍛えること、そしてより少ない負担で支えることができる範囲を知りました。


今回はそれらを踏まえた上で、まとめの練習です。

では、はじめましょう。





「その1」で行ったように、ベッドの上で母指圧迫の状態を作り、反対側の示・中指で母指丘をモニターします。



次に、母指に軽く体重を乗せながらバランスをとります。


可能なら示~小指を浮かしておくほうが、母指の感覚がはっきりしますが、つらいようなら無理はしないでください。



そのまま、母指の角度(MP関節・CM関節)を変え、いろいろな方向に動かして圧迫してみましょう。


バランスをとりながら、母指丘を必要以上に緊張させないように注意してくださいね。





角度によって母指丘の緊張が変化するのがわかると思います。


このとき、母指の力で角度を変えるのではなく、前腕の位置を移動させることで変えるようにしてください。


試しに比べてみると、それぞれの使い方で印象の異なるのが感じとれると思います。


体重をかけつつ角度を変え、母指丘への負担が少なく感じる範囲を覚えておきましょう。





自分の感覚が基準なので、「だいたいこんな感じかな?」で結構です。


実際に使ってみて母指に無理を感じるようなら、改めてチェックし範囲を狭めればよいだけのことです。





母指丘をモニターしているため、前回よりもわかりやすくなっているのではないでしょうか。


母指丘のモニターも参考にしつつ、母指全体の状態、自分にとって楽で負担が少ないかを感じ取るようにしましょう。


前回確認しましたように、母指丘の緊張が必要以上に強くなる角度は、傷めるリスクが高くなるので、できるだけ用いないようにしたほうが無難です。


ときどき用いるぐらいならよいのですが、習慣にはしないほうがよいでしょう。





この練習は、母指のIP関節(指節間関節)が反る方ならよいのですが、私のような反らないタイプの方は少し問題があることに気がつくかもしれません。


それは、このように指を立てると母指丘の緊張は少なくなりますが、指先が当たるために自分の指も痛くなること。



そして、爪が当たり始めるので、患者さんの皮膚を傷つける可能性が生まれてくることです。


だからといって、母指を伸展して寝かせるようにすると、母指丘の筋は強く緊張してしまいます。






困ってしまいますね。


このようなときは、どうすればよかったのでしょうか?






そうです。


橈骨の角度を変えればよかったのですね。


今はこのように、橈骨はベッドに対してほぼ垂直になっていると思います。



そのまま、母指の角度に橈骨が近づくよう身体を傾けてみてください。






母指丘の緊張はいかがですか?


支えに必要な程度の緊張にまで、落ち着いているのではないでしょうか。


この角度で使うようにすれば良いわけです。


ASTRの母指フックで、母指と橈骨が一直線になるようにとお話したのは、このような理由からです。





いかがでしょう。実践する上でのイメージがわいてきたでしょうか。


あとは自分の感覚を頼りに、それぞれの部位で工夫するようになさってみてください。


次回はまとめです。





今のところまじめに更新中!!






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セラピストの母指を守る工夫 その3

2012-08-11 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回は、母指のバランス感覚を養うトレーニングを行いました。


そのときのポイントは、橈骨から母指のラインをできるだけ直線状にし、骨格で支えるようにするというものでした。


それができた上で、今回は母指丘を不要に緊張させないよう注意しながら、母指の角度を少し変えていく練習です。





それでは前回と同じように、指どうしは付け、体幹から離すポジションをとってください。



いちど母指に圧迫する力を加え、母指丘の感覚を記憶し、力を緩めて下さい。



その位置から、前の方向に少しだけ母指の角度(MP関節・CM関節)を変え、再び母指を圧迫して下さい。

           ≪前方≫





橈骨の直線ラインからは外れますが、ある範囲内なら、母指丘の緊張はさほど強くならなくて済むはずです。


その範囲を超えると、母指丘の緊張が高まり、負担に感じ始めるはずです。


楽に支えられる範囲をよく覚えておいてください。





後ろ・上・下、あるいは他の方向でも試してみてください。

           ≪後方≫


           ≪上方≫


           ≪下方≫





なぜこの練習をするのかというと、橈骨から親指のラインをそろえ、骨格で支えるのは理想なのですが、臨床ではポジションによって、理想どおりにはいかないことが多々あります。


そこであらかじめ、母指丘の負担が大きくならない範囲を知っておくわけです。


すると臨床で母指を用いた際、角度がその範囲を超えるようなら、橈骨の角度や身体のポジションそのものを変えるように工夫することで、母指を傷めるリスクを軽減することができます。





それでもポジションに無理があったり、患者さんの組織の緊張が強くて母指に負担を感じるなら、母指を重ねるなり、肘や膝などそれ以外の部位を用いればよいわけです。


このように考えると、かんたんなことですね。


母指に力がないと悩む必要はないのですよ。


セラピストの母指を守る工夫 その2

2012-08-04 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回は、手技療法で母指を用いるときの、必要最低限の力を覚えていただきました。


ただセラピストによっては、母指で押そうとしていなくても、必要以上に力が入っていることがあるようです。


その原因は、母指のバランス感覚が弱いためかもしれません。


圧迫するかたちをとったとき、グラグラするから力が入ってしまうというわけです。


今回は、そのチェック兼トレーニング法の紹介です。



まず、両手の母指から小指までを開いた状態でくっつけ、母指から手根、小指にわたるラインを体幹につけて固定します。



母指は日ごろ、圧迫法を用いているときの角度にしておきましょう。





続いて、脇を閉めて母指に力を加えます。


加える力は、母指が苦痛でない程度で結構です。


母指丘に力を入れるのではなく、あくまで脇を閉める力を使います。


母指どうしの当たっているところに痛みを感じるなら、ハンカチなどを挟んでもよいでしょう。


このとき母指丘には、前回確認した母指の支えに必要な力だけが入っています。





では、そのまま手を体幹から数センチ離してください。



このとき母指はグラグラしないでしょうか?


母指丘の緊張は、体幹につけているときと比べて、ほとんど変わらないでしょうか?


母指がグラグラする、あるいは、母指丘の緊張がはっきり強くなっている場合、母指のバランス感覚が弱い可能性があります。





もしそうなら、このチェック方法がそのままトレーニング法になります。


母指が安定し、母指丘の緊張が体幹固定時とさほど変わらなくなるまで、暇をみつけてはこのトレーニングを続けてみてください。


ポイントは両肘を張り、橈骨から母指を直線に近いラインで並べるようにするということです。


そうすると骨格で主に支え、筋は補助的に働くだけで済み、バランスもとりやすくなるわけです。



母指のMP関節が伸展しまう方は、反っていても構いませんので、基節骨から橈骨が直線に近づくようにしておいてください。





試しに、母指に圧迫を加えたまま、手首の位置を前後・上下に移動させ、このラインから外してみてください。



           ≪前方≫


           ≪後方≫


           ≪上方≫


           ≪下方≫




直線のラインから離れるほど、母指丘の緊張が高くなっていくことを確認できると思います。


母指を骨格で支えることができないために、母指丘を力ませて筋の力で支えようとしているのです。


元に戻して、骨格で支えてみてください。


安定感が違うと思います。


まずはこの状態で、バランスが保てるように練習してください。