手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

セミナーを活かすということ

2014-09-20 19:31:17 | 学生さん・研修中の方のために
セミナー講師をしていると、その後のことが気になります。

だから受講された方にお会いすると「セミナーの内容を現場で使えていますか?」と折に触れてたずねます。



「めっちゃ使っています

「ところどころ使っています

「まだあまり使えていません

など、いろいろな返事をいただきます。



現場で使えるものを提供するのが講師の務め、そう思っているので情報収集をしているのですが、お伝えしたことを使うかどうかはご本人の自由です。

でもその中で、気になる返事をされる方がいます。

「今の職場はやり方が決まっていて、なかなか使えないんです



職場によって、部位や回数などの手順が決められていることがあります。

これもサービスのあり方のひとつですから、良いとか悪いとかではありません。



この方法の長所は、経験が浅くても最低限のラインを早く身につけやすいということ。

そして、手順を決めることにより、そのグループで統一されたサービスを提供できるということでしょう。

ある程度は手順を決めておかないと、新人は右往左往するし、みんなバラバラになっては収拾がつかなくなりますからね。



反対に短所は、決められた手順が患者さんひとりひとりの状態に合うとは限らないということ。

手順を覚えてある程度できるようになると、パターンにハマってしまい、流れ作業的になってダレやすくなること。

私もかけ出しの時に、施術の途中で居眠りをしてしまい、起こされて叱られた経験があります。



そして、職場の雰囲気や方針によっては、他の方法を勝手に行うのは難しいということ。

だから、先のセリフにあったように、セミナーで学んだことがなかなか現場で使えないというわけですね。

でもこれは、とてももったいない考え方だと思います。



セミナーで繰り返し繰り返し力を入れてお伝えしているのは、とてもシンプルなこと。

「触診は、触れてから離すまでのすべてのプロセスを味わうようにする」

「触診で緊張の分布をみて、範囲・深さ・方向を特定する」

「おじぎをしたら刺激が加わるポジションをとる」

「小さな操作は大きな動作で」

「腰が動いて手がついていく」

「皮膚のあそびをとって組織を固定する」etc

表現の違いはあったとしても、これらはあらゆる手技療法を用いる上で共通する基本だと思います。

セミナーでテーマとしている部位やテクニックは、これらの基本を体得するための手段として取り上げているにすぎない、そう言ってよいかもしれません。



どのようなセミナーを受けても、学んだ方法をそのまま使えるなら、それに越したことはないでしょう。

でもより大切なのは様々な状況下で、基本に則った操作ができるようになることだと思います。

そのために、ぜひやっていただきたいのは、日頃用いている方法が基本に沿って行えているかどうか、振り返ってチェックすることです。



意外と惰性に流されて、おろそかになっていることがあるかもしれませんよ。

そのようなところをひとつひとつ洗い出して、自動的に基本に則った操作が出来るようになるまで、丁寧に練習してみてください。

これができれば、同じことをしていても質はかなり上がりますし、新たな技術の習得も容易になります。



このようなことも、セミナーを活かす方法のひとつだと思います。



どこかに所属している以上、何らかの制約があるのは当然のこと。

その中でクサらずに、できることをコツコツとやっていく。

自分の力が60%しか出せない現場で、65%さらには70%の力を出すにはどうすればよいのか工夫するのがプロというもの。

それでも内側から突き上げてくる何かがあるのであれば、思い切って職場を変えてみるというのもひとつかもしれません。


圧迫法では肘は少し曲げて使う その2

2014-09-06 17:28:40 | 学生さん・研修中の方のために
圧迫の時、肘が伸びきっているのがなぜ良くないのか?

みなさん考えられたでしょうか?

今回は私の意見をお話したいと思います。

これが正しい、あるいはこれだけが理由だとは限らないのですが、参考になさってご自分でも再考してみてください。



肘を伸ばしたままで入るということは、スポーツなら棒立ちになっているということと同じです。

どのようなスポーツや武道でも、棒立ちになったままでは自由に体を動かすことが出来ません。

それによってパフォーマンスが低下し、故障の原因にもなるわけです。



具体的にみて行きましょう。

まずは、肘を伸ばして使っていると、肩が上がりやすくなります。


肩が上がると体重を乗せたときに、肩がさらにすくんで手に力が伝わらなくなるというもったいないことになります。

肘を曲げておくことで肩が落ちやすくなり、身体の力を効率的に伝えることができます。




また、身体は平面ではなく曲面であり、さらに機能障害を起こしている部位を的確に押さえようとすれば、角度の微調整が必要になります。

肘をピンと伸ばしたまま関節がロックし、上肢が一本の棒のようになっているとします。

その状態で微調整しようとすると、身体の動きが必要以上に大きくなり、安定した体勢をとりにくくなることがあります。


いくら「小さな操作は大きな動作」といっても限度があるわけですね。



でもふつうは、ここまでして無理な姿勢をとろうとはしません。

するとどうするかというと、手先の力で角度を調整して押そうとします。

これは今まで繰り返しお話してきましたように、指を傷める良くない方法です。



肘を少し曲げておくことによって自由に動かしやすくしておけば、角度の微調整も容易にでき、体勢を崩すことも避けられます。


ただ、肘を曲げてその角度を力まずキープさせる「支える」という操作は、ある程度の慣れが必要かもしれません。

状況によって肘を深く曲げる体勢をとることもありますが、その角度を支えることがつらいようなら、肘を体幹につけて安定させるとよいでしょう。



また手根部を用いる場合、肘を伸ばしたままでは体重を乗せる際に前にのめりがちです。


こうすると手首を過伸展して圧迫することになり、手首を傷めやすくなります。
≪ 「ひとりでできる!!ステップ式筋膜リリース練習法 その4」 もご参照ください≫

肘を曲げておくと、前のめりしにくくなるので過伸展を未然に防ぎやすくなると共に、膝を曲げて腰を落とす力の加え方で操作しやすくなります。


腰を落とすことで体重を加える方法は、刺激のコントロールがしやすいので私がオススメする操作法です。
≪ 「体重を乗せるということ」 もご参照ください。≫



それから、肘が伸びきったまま体重を乗せるような方法では、患者さんが不意に力を入れたり身体を動かしたりした時、力を抜くのがワンテンポ遅れる可能性が高いように思います。

肘を少し曲げておけば、そのような時も瞬時に力を抜きやすくなります。

それによって、ダメージを与えてしまう危険性を未然に防ぐことができます。



あるいは肘を曲げた状態でいれば、必要に応じて伸ばそうとすることで、さらに力を加えることができます。

これが伸びきったままでは、それ以上、肘で力を生み出すことはできません。

もったいないことですね。



それに、肘を伸ばし切った状態は独特な窮屈感があり、触診の感度が低下する印象を個人的に持っています。

その結果、細かな触診ができず、精度の高いアプローチが難しくなります。



以上のことから、肘を伸ばしきって使うのを習慣にすることは私は望ましくないと考えています。

技術を習得する段階でのひとつのプロセスとして、あるいは一般の方が家庭で行うときのために用いるのは簡便なので良いのですが、プロの技術としてははたしてどうでしょう?



みなさんのお考えはいかがでしたか?

今回は母指・手根部圧迫の際の肘についてのお話でしたが、それ以外のことも経験を積んだら教わったことを鵜呑みにせず、本当にそれが効率的なのか、身体に負担をかけていないのか、よく考えてください。

意外とムリがかかる方法で指導を受けていることもあるのですが、私たちははじめて習ったものは無批判に受け入れがちです。

自分の身体と相談して、よく考えるようにしましょう。



それに、このように使い方と運動の効率性、機能障害の発生プロセスを考えることは、実践に即した活きた勉強になるのでとても大切です。

身体を動かしながら、あれこれ考えてみてくださいね。

 

次回は9月22日(土)更新します。