手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

制限のある方向にASTRをかける

2009-10-31 20:00:00 | ASTRについて
ASTRは筋肉の長軸に沿って行うのが、テキスト的なお約束です


このような方向で (だ円形のものが筋肉です)



実際、長軸方向に行うのがほとんどです。







だからといって、この方向ばかりというわけではありません


例えば、外傷後や不動などによって起こる線維化は長軸方向とは限りません。


網目状にランダムな方向に起こります。


これによってスムーズな筋の動きが妨げられ、やがて機能障害を招いてしまいます


これに対しては、線維化によって最も動きが制限されている方向にASTRを行う必要があります。


このような感じで









前回紹介したような評価によって制限がある場所を検出したら、その部位に触れて上下・左右・斜めに組織を動かしてみましょう。


その中で、最も動きにくい方向はどこでしょう?


その方向に合わせてASTRをかけてみましょう。








部位によってはもしかしたら、回旋しながらストレッチをかけた方が上手くいくかもしれません


フックしている組織をよくモニターして、もっとも張力がかかる方向を捜しながらストレッチしましょう。


このように大切なことは、テクニックを制限に当てはめるのではなく、制限の状態に合わせてテクニックをつくっていくということです







はじめは難しいかもしれませんが、ASTRに慣れてきたら、ぜひチャレンジしてみて下さい。


効果も違ってくるはずです

整形外科テストと軟部組織の評価を同時に行う

2009-10-24 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
私たちは、徒手的な整形外科テストを日ごろからよく行っています。


ラセーグテストや、SLRなどの腰椎のテンションサインをはじめ、胸郭出口症候群を評価するライトテスト、陽性なら頸椎の神経根障害を疑うスパーリングテストなどなど。


関節可動域(ROM)検査もよく行いますよね。


(私はROM検査を目測で行っているので、いい加減だと思います)







みなさんは、その時一緒に軟部組織の評価も行っていますか?

やっていないなら、ぜひ行ってみて下さい







ラセーグテストやSLRなら、下肢を挙上して陽性の有無を確認し、続いてそのままハムストリングスの状態を触診します


このとき、緊張状態の分布を把握するようにしましょう。


ちょうどハムストリングスはストレッチされている状態なので、ある程度緊張していますが、もともと短縮があるところは、周囲よりもより強く緊張しているはずです。







それはどこでしょうか?


起始側でしょうか?


停止側でしょうか?


外側でしょうか?


内側でしょうか?







おおまかにでも構わないので、緊張状態の分布をイメージとしてつかんでおきましょう。


これを把握しておくことは、治療のときにとても大切になります。







記録としてはハムストの短縮と記されたとしても、実際はハムストの全てが短縮しているとは限りません


例えば、過去に肉ばなれを起こした部位の周囲が線維化を起こしているときなどです。


(昔の事だったら、患者さん本人も忘れていることがあります)


ASTRなど手技療法を用いるときは、その部分に刺激を集中させる必要があります。


その部位がわからないまま、ただ漠然とハムスト全体を刺激しても、効果を上げないかもしれません






ライトテストなら、胸郭の状態を触診しましょう。


スパーリングテストなら、頚部側面の状態も触診しましょう。


緊張状態の分布は、頭の中で地図のように図的にイメージしておくようにします。







これが慣れてくると、筋骨格系の状態を3次元的にイメージできるようになりますよ


器用な人と不器用な人 その3

2009-10-17 20:20:00 | 学生さん・研修中の方のために
器用な人はテクニックを学ぶとき、要領よく勘どころを押さえて、あっという間に覚えてしまいます。


不器用な私から見れば、ホントにうらやましい限りでした







ところで、器用な人を観察していると2通りの人がいます


身につけたテクニックを説明できる人と、そうでない人です。


説明できる人は申し分ないのですが、できない人はちょっと注意が必要です


というのは、センスの良さを活かし感覚のみで行えていても、それがなぜ上手くできているのかがわかっていないと、スランプに陥ったとき立ち直るきっかけがなかなかつかめないからです。







そんな方にオススメしたいのが、不器用な人に教えるということです


不器用な人に教えるときは、技術を分解して説明できなければなりません。


あれこれ考えながら、単純化したり、かみ砕いたり、『例え』を使って教えていると「あっ、こんなことを自分はやっていたんだ」という新たな発見があります。


その瞬間、技術はより確かなものになっています


これをくり返していくことで、無意識に行っていたことを意識できるようになり、スランプにも強くなっていくわけです。







ときにはどのように教えてよいかわからず、お手上げになってしまうかもしれません


もしかしたら不器用な人に対して、イライラするかもしれません


そんな経験ってありませんか?


でも実はこれって、上手く教えられない自分に傷ついて、その怒りを相手にぶつけているにすぎないのかもしれませんね







世の中、なかなか自分の思い通りにはならないものです。


だから、人に一生懸命教えたとしても、相手の理解して飲み込むスピードが、こちらの思い通りになるはずありません。


本当に教えることが上手な人は、相手が飲み込むまでそれを「待つ」ことができます







「待つ」ということは、臨床でもとても大切な意味を持ちます。


とくに私たちが対象としているような、体性機能障害は広い意味での生活習慣病といえます。


生活習慣病は、患者さん本人が自分の生活の中にある原因に気付いて納得し、行動に移さないと最終的には良くなりません


ところが、いくらそれが正しくて合理的だとしても、すぐに実行されるとは限りません。


人間は感情の生き物でもあるので、「わかっちゃいるけど」というのも人情でしょう。







そこで、伝えるべきことは伝えつつ、根気よく「待つ」ことが必要になります。


だから、器用でせっかちな人にとって、不器用な人に根気よく教えることは、心を鍛えることにもなります


そのように考えたら、これはすばらしい機会ですよね







さて、器用な人と不器用な人について書いてきました。


このお話を通して私がお伝えしたかったことは、器用な人は無意識に行っていたことを意識化させる、不器用な人は漠然としていたことを明確にさせることが必要で、見た目の速い遅いはあるものの、内面的には似たようなことが行わなければならないということです。


それは何か?



粘り強く課題と向き合い続けて「心を鍛える」ことです。



このようなことをあんまり書くと説教臭くなるので、「心の何を鍛えるのか」については、紹介したプロセスの中から察してくださいね







技術は単なる技術にすぎないという考え方もあるかもしれませんが、心を鍛えることを怠った人は、腕は良くても、他人よりできることでプライドを満たしているような、横柄な人になっている印象があります


技術の向上と心を鍛えること、この二つは切っても切れない関係だと私は思っています。






このようなことを書いてしまったからには、私も精進しないといけませんね

器用な人と不器用な人 その2

2009-10-10 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
とても不器用な人がはじめに何かを習おうとしたとき、何か深い霧の中を歩いているような感覚になるかもしれません







練習でおおまかにはできても、細かいところは何をどうして良いかわからず、自分でもハッキリわかるほど手足の動きもぎこちないでしょう


やがて気持ちが続かなくなってくると、「どこまでできるようになっているか」 というように冷静に自分をみることができなくなってきます。


そして、「全くできない」 「とにかく全然ダメ」 というように、『できない』 ことに意識が集中してしまいがちになります。







でもここで腐ってはいけません。

自分との勝負のしどころです







何かをしようとしている以上、全くできていないなどということはあり得ません。


そこで、自分自身へこのように問いかけてみて下さい。


「全くできていないのを0点、完璧にできているのを100点だとしたら、自分は今何点だろうか?


他人に聞いてはいけません。あくまで自分で考えて下さい。間違っていたとしても構いません。感じたままで結構です。


20点でしょうか?35点でしょうか?40点でしょうか?







仮に20点だったとしたら、次はこう問いかけましょう。


「20点を25点にするには、どうすればいいだろうか?」


いきなり100点を目指すというと、現実的ではないでしょうし、気もなえるでしょう。


でも5点アップを狙うなら、可能だと思いませんか?








5点だけなら、手のかたちか、肩の高さか、体幹の向きか、脚の位置を変えるだけで達成できるはずです。


どうすればよいか考えましょう。


そうはいわれても、どこが悪いかもわからないかもしれません


それでも考え続けましょう


これが重要なプロセスです。







悩んで考えて試して失敗して、また悩んでもわからなかったとき、ここで経験者からのアドバイスが本当の意味で生きてきます


漫然と聞いたアドバイスを行っているだけでは、なかなか身につきません。


ある種の「飢え」や「渇望感」が必要です。


アドバイスを受けたら、まずはそこだけを徹底的に練習して、できるようになりましょう







ほんの少しでも、やりやすくなっているようなら達成です


間違いなく前進しています。


ではつづいて、30点をめざすにはどうすればよいでしょう?


同じことをくり返してみてください。







こういう経験を何度も繰り返すと、そのうち「何ができないから上手くいかないのか」がわかるようになってきます。


これを意識できるようになったら大進歩です


できるようになるためには、「はっきりしないもの」が「はっきりわかるようになる」までの過程を、何度も繰り返し経験する必要があります。








実は、はじめに点数を決めて欲しいといいましたが、それに大きな意味があるのではありません。


漠然としたものを、少しずつはっきりしたものに変えていく手段として利用しただけです。


漠然としているものを明確にさせる。
これは不器用な人が「技術」を身につける上での必要条件だと思います








「それはわかったけど、こんなことを延々とくり返さなきゃいけないの」と、途方にくれる方もいらっしゃるかもしれませんが心配ありません。


同じようなパターンを何度も経験することで、部位が変わっても習得までのスピードは早くなっています。


「学習」しているからですね。







これまでのプロセスをくり返していくと、いつの間にか50点になり70点になりと上がっていきます。


不器用な人は常に地固めをしながら、前に進んでいるようなものですから、進歩は遅いかもしれませんが、そのぶん揺るぎないものになります。


マイナス面ばかりではなく、このようなプラスの面もよく理解し、ご紹介した方法を参考にしつつ、歩んでいって欲しいと思います







ところで、私のように悩むことがクセになっている人は、いつまでたっても「あれができていない」「これができていない」と悩み続けるかもしれません。


そんなときは、このように問いかけてみてください。


「3ヶ月や半年前と比べて、同じことで悩んでいるだろうか?」


悩んでいる内容が変わっているようなら進歩していますよ







つづいては器用な人についてです。







≪次回につづく



器用な人と不器用な人 その1

2009-10-03 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
ASTRなどのテクニックを練習していると、あっという間に身につける人もいれば、なかなか覚えることができない人もいます。


器用な人と不器用な人ですね。


人にはいろいろな個性があるので、これは仕方のないことです







不器用な人へ。


まわりの人がドンドンできるようになっていくと、焦ってしまうかもしれません


でも、大丈夫ですよ







何を隠そう、私も大の不器用です


私がこの道に進むと決めた時、親からも「お前みたいな不器用なのが、そんな仕事についたらケガ人がでるワィ」と言われました。


ようやく資格を取った後も、しばらく身体を診させてもらえないほど、手先については全く信用されていませんでした。







実の親からもらったお墨付きのとおり、身につけるまでには、やはり手間ひまかかりました


一緒に学んだ仲間からは「手と足がバラバラに動いている」と笑われたこともありました。


働き始めて駆け出しのころ、あまりの下手さ?のためか、施術していた患者さんに「ちょっとアンタ寝てみなさい」と突然言われ、うつ伏せにさせられ「こうするのよ!!」と背中を押されたこともありました。


新人として現場に出たら、まわりからいろいろ言われるものですが、実際に患者さんからマッサージされた人というのは珍しいのではないでしょうか。


悔しくて悔しくて、電車に乗っているときまで自分の身体を使って練習をしていたら、変質者にみられてしまいました


今となっては良い思い出…というか、今でも似たようなことが続いているところもあるのですが…。







ちなみに、家族からは今でも仕事以外のことは信用されていません。


例えば、車のタイヤ交換は禁止令がでています


脱輪しそうで安心して乗れないからだそうです


そんなこんなはあっても、おかげさまで無事に独立して、ごはんを食べていけるようになりました







このように不器用な人は、技術を身につけるまでは大変な思いをしなければなりませんが、一度覚えてしまえば強いですよ


そのひとつは「スランプに強い」ということが挙げられるでしょう。


技術は人が行うものである以上、どうしても波があります


上達すればその波は小さくなって安定するのですが、全くなくなることはなく、それが大きく落ち込んだときはスランプになります。


不器用な人は習得する過程で、ひとつひとつの技術を、地道に地道に積み重ねて覚えてきている (というよりもそうせざるをえない) ので、いざスランプになっても、どこがおかしいかを自分で見つけやすいのです。


私がセミナーで、受講生の方に上手くアドバイスできていたとしたら、それは私自身がすでに経験済みだからです







それに、不器用な人は言ってしまえばスランプみたいなものがはじめから続くわけですから、メンタル面も鍛えられているわけですね。


というわけで、身につけてからスランプになったとしても立ち直りが早いです


もしかしたらスランプに陥ったことすら、気づいていないことがあるかもしれません。







そんなわけですから、いかにして身につけるまでを乗り越えていくかがカギになります







どれだけ粘り強く続けられるかが勝負です。


それには、「何としても身につけたい!!」と思えるかが絶対条件になります。


私の場合は、手技療法に対して情熱を傾けることができましたが、同じことを経理やITの分野でできるかというと、そうはいきません。


やはり「コレダッ!!」という分野でなければ、粘り強さは発揮できないと思います。


その思いさえあれば見込みは十分にあります。







ただそうは言っても道の途中でつまづき、心が折れそうになることもあるはずです


そんなとき、自分自身に対して行って欲しい問いかけがあります。







(次回につづく)