手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

機能制限の「芯」を捉える感覚を養う その3

2011-09-24 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
制限の芯を捉えるというのは触診上の感覚的なことなので、誰にでも確認できる具体的・客観的なものとして示すことは難しいでしょう。


ですから、セラピスト自身の中に感覚的な基準ができないうちは、自信が持てずに不安に感じることもあるかもしれません。


そのようなときはいちど、わざとまったく見当外れの方向に向かって圧力を加え、そのときの感触と、自分なりに芯を狙ったときの感触を比較してみてください。


下の図の左側のように



わざと外した時は、ねらったときよりも抵抗感が少ないはずです。


こうしてねらった時と、わざと外した時を比較することで、自分の中で判断する手掛かりができます。





練習の時には、芯を外した方向に圧を加えたまま、じょじょにねらった方向に向きを変えていき、そのプロセスの中で生じる感覚の変化を感じとるということも試してみてください。


少しずつ抵抗感が強くなっていくはずです。


この、感覚の変化を感じるというのがとても大切です。


芯を外した感覚と芯をねらった感覚、そして両者の間を変化していく感覚を理解すれば、その先にある、より芯を捉えた感覚を予想しやすくなり、それに向けて工夫を重ねていけます。


下の図の右側のように






このような方法を覚えておくことで、自分ひとりでもテクニックを上達させていくことができます。


楽に芯を捉えるような、身体の動かし方を工夫していけばよいわけです。


それができている時は、テクニックのフォームも無理なく自然できれいなはずです。





テクニックを学んだ時、はじめのうちは手順やかたちを覚える必要があります。


あるていどそれができたら、患者さんがもつ固有の制限をリリースするため、制限に合わせたフォームをその場その場でつくっていかなければなりません。


覚えたかたちをただ当てはめただけでは、効果もいまひとつだと思います。


効果を出せる、切れ味の鋭いテクニックを使えるようになるための手掛かりになるのが、今回のテーマであった芯の捉え方です。


芯の捉え方を、 「等尺性収縮後リラクゼーションを触診で感じよう」「ひとりでできる!!関節モビライゼーション(直接法)練習法」など、これまでご紹介してきた触診の練習法や、みなさんが日頃使っているテクニックに組み込んで練習してみてください。


技術が、もうワンステップ上がるはずです。


機能制限の「芯」を捉える感覚を養う その2

2011-09-17 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回は机とペンを用いて芯を捉える感覚を体験していただきました。


では、人体にある機能制限の芯を捉えるとなると、どのようになるのでしょうか。





機能制限が解剖的に何に該当しているのかは、ひとまず脇に置いておいて、触診上ではさまざまな感覚で触れます。


小豆状でコリコリしたものや、紡錘状でビニールに包まれたウインナーのように弾力性のあるもの。


ソバのように索状のもの、組織間が広い範囲で癒着しているのか板のようになっているもの、あるいはこれらの組み合わせなどいろいろなバリエーションがあります。


治療をするときは、これら制限の状態に合わせて刺激を加えることになります。


ひとつひとつをやっていては大変なので、ここではさまざまなタイプの制限を解除する上で共通する基本を押さえておきましょう。





シンプルな図で考えます。


身体の中に、小豆状(オレンジ色)の制限・コリがあったとします。




それに対して下の図のように、青矢印の部分へ圧迫刺激を加えたとしましょう。




するといかがでしょう。


おそらく緑矢印の方向に、制限が逃げていくような予感がしませんか?




前回試していただいた、ペンを傾けて押さえた状態に似ていますね。


どうやら芯を外しているようです。





では、下の図のように制限の真ん中を捉えたらどうでしょう。



見ていても安定感があり、制限が逃げてしまうような気はしません。


きっとこれは芯を捉えているはずです。





このようにイラスト示すと理解しやすいと思うのですが、触診上で芯を捉えている場合とそうでない場合の違いは、どのように判断すればよいのでしょうか。


はじめからすぐわかるというのは難しいかもしれませんですが、少しずつ上達するようにトレーニングしていきましょう





今回は圧迫法で行います。


対象はどこでもかまわないのですが、大腿四頭筋の内側広筋にしましょう。


立位でイスの座面に片脚をのせて外に倒し(外旋)、内側広筋が天井側を向くようにします。


手掌を大腿部に当て、さすりながらもっとも緊張している部分を探します



軟部組織の触診は連続的変化を追う 【 触診五話 その三 】もご参照ください≫



上手くみつからなければ、反対側を調べたり、範囲を広げて調べてみてください。


症状を出していなくても、誰でも緊張が高まっている部分はあるはずです。


あくまで練習ですから、気軽に探しましょう。


その部分がみつかったら、これを機能制限とします。





つづいて制限に対し母指を重ねて圧迫し、芯を捉える方向を探していきます。




はじめのうちは、はっきりした目標を定めておいたほうがよいでしょう。


私がおすすめしたいのは「抵抗の強さ(かたさの強さ)」をみるということです。


経験的に機能制限の芯は、もっとも抵抗の強い方向(かたい方向)に存在しています。


緊張亢進や短縮は、筋収縮や線維化、あるいは組織の粘性が高まることによって組織の抵抗が強くなっています。


制限をみつけたら前後左右、時計回り、反時計回りと、いろいろな向きに圧力を加え、もっとも抵抗の強い方向を探してみて下さい。


はじめは時間がかかるかもしれませんが、根気よく練習してください。





慣れてきたら、「しっくりくる」「手ごたえがある」「当たっている」など感覚に従って、素早く捉えていくことができます。

自転車も、はじめはバランスが上手く取れずフラフラするので、かなり意識して乗らなければいけませんが、慣れれば無意識にバランスをとって乗っていられるということと同じです。


身体の感覚を養っていかなければなりません。


制限の芯を上手く捉えると、はた目には同じようなことをしているようでも、治療の効果がまったく違ってきます。


よく感覚を味わいながら練習してください。





なかには練習を重ねても、これが芯を捉えているのかどうかわからずに、自信を持てないこともあるか思います。


そのようなときのための方法を、次回ご紹介します。

機能制限の「芯」を捉える感覚を養う その1

2011-09-10 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
野球やゴルフ、テニスなど球技では「芯を捉える」「ジャストミートする」という表現がよく使われます。


打撃系の格闘技でも、「相手の芯を打ちぬく」という表現が用いられたりします。


ボールの芯を捉えたときは、ムリな力を入れなくても、勢いがあって安定した打球になりますし、格闘技で相手の芯を捉えたときには、大きなダメージを与えることができます。





芯を捉えることは、マッサージや筋筋膜リリース、ASTRや関節モビライゼーションなど、手技療法のテクニックを用いるときにも大切になります。


つまり、機能制限の芯を捉えて刺激を与えるわけです。


そうすることで制限を解除し、組織をリリースさせることが効率よく速やかに行えます。


芯を捉えるとセラピスト自身も手ごたえを感じ、患者さんも効いている感じ、ツボにはまっている感じをもちます。


反対に制限の芯を捉えていないと、テクニックの効果がなかなか現れません。


セラピストは手ごたえを感じず、患者さんも受けていてしっくり来ない、ツボが外れている感覚をもちます。


芯を捉えることの大切さは、手技療法ではあまりうるさく言われませんが、とても大切ではないかと私は思っています。




では、芯を捉えるとはいったいどのような感覚なのでしょうか。


感覚的なことを、ことばで表現するのはなかなか難しいのですが、ちょっとチャレンジしてみたいと思います。





まずボールを打つ場合、芯を捉えたときはムリな力を入れなくても、勢いがあって安定した打球になるということは、力の伝達にムリやロスがなく、効率よく伝わっているということになります。


そのような力の伝達をより身近に感じるために、試していただきたいことがあります。


机の上にペンを立て、人差し指の先で押さえてみてください。


このときペンが机に対して垂直に立ち、指先に加える力も机に対して垂直なら、ムリな力をかけなくても、安定してペンを支えることができます。




指先に加わった力が、ペンから机へと効率よくスムーズに力が伝わっていることが、感じて取れると思います。


「芯を捉える」というのは、さまざまな側面があると思いますが、もっともシンプルなものとして、このときの感覚がそうだといえるでしょう。





では次に、指の位置を横に少しずらしてみてください。



指の位置がずれることで、ペンが傾いて机の上ですべり出そうとするはずです。


このとき、どのような感覚を覚えるか、よく感じ取ってみてください。


先ほどのような安定感や、スムーズな力の伝達は感じ取れないのではないでしょうか。


それだけではなく、指先にはペンがすべらないように、力みも加わっていると思います。


これが芯を外している感覚です。


芯が外れた状態で支えようとすると、不安定さを補うために不要な力も必要となり、エネルギーのロスが大きくなります。





芯を捉えたときと、外したときの違い、おわかりになったでしょうか。


この感覚をよく覚えておいてください。


続いて、人体の機能的な制限の芯を捉えてみましょう。

こまめにしたい手指の手入れ その2

2011-09-03 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
以前、 「こまめにしたい手指の手入れ」では、掃除道や打鍵器の柄を使って手内筋の疲労をとる方法をご紹介しました。


今回はその続編、ストレッチの方法です。





やり方はかんたんです。


中指なら、中指だけ机の端に乗せて伸展し、他の指は握っておくようにします。



握れないなら無理をしないで、力を抜いておくだけでもかまいません。


このとき、手首を屈曲させる力を用いるのではなく、乗せた指に身体をあずけるようにしてストレッチします。


どうぞ試してみてください。





意外に伸びている感覚をもちませんか?





つづいて、中指を机の上で回転させて、橈屈・尺屈させます。


          ≪ 橈屈 ≫


          ≪ 尺屈 ≫

時間があるときは、回転させるときにゆっくり動かし、どの角度でどの組織が伸びているのか、じっくり感じ取るようにします。


もっとも伸びにくい組織に対して、そのままストレッチをかけ続け、組織の伸張性が回復していく様子を観察しましょう。


セルフケアをするのは、そのまま手技療法のトレーニングになります。

同じ方法で、示指・薬指・小指も行いましょう。





ちなみに、伸びにくい組織を弛緩させた状態で、反対の手で圧迫を加え、横方向に伸ばすようにフックして、ストレッチするとASTRになります。


ストレッチだけではなかなか伸びてこないときには試してみてください。





このストレッチによって中様筋などの手内筋はもちろんですが、指間部の根元にある水かきの部分(解剖学的には何と呼ぶのでしたっけ?どなたかご存知の方は教えてください)、にある皮膚や筋膜もストレッチされます。


調べてみると、この部分が短縮している患者さんは意外にいらっしゃいます。


先日、手の痛みでいらっしゃった寿司職人さんは、毎日長時間シャリを握り続けているために、指が完全に伸びなくなっており、また、この水かきの部分の伸張性も悪くなっていました。


私もASTRをつかって伸ばすようにお手伝いしつつ、仕事の合間にこのストレッチを、調理場の角を利用して行っていただくことで、指が伸びるようになり、痛みもよくなりました。





母指の場合は、基節骨を机の端に乗せて伸展すれば、長・短母指屈筋のストレッチとなり、



中手骨を机の端に乗せて伸展すれば、母指内転筋のストレッチとなります。



両者をよく比較して、伸び具合を感じてみてください。


母指内転筋が伸びている感覚は、なかなか面白いのではないでしょうか。


(面白いという感覚はおかしいかな?


他の指でも行ったように指を回転して、橈屈・尺屈させ組織のどのように組織が伸びるか感じましょう。







今回ご紹介したストレッチは簡単な方法ですが、ピアニストなど指を使う方にとても喜ばれます。


私も仕事の合間、カルテに目を通しているときや、次の患者さんが入っていらっしゃる間にちょこちょこと行っています。


それだけでも指の疲れ方がぜんぜん違ってきますよ。



「こまめにしたい手指の手入れ」でご紹介した方法と合わせて、役立ててください。