手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

触診の大切さ・・・症例を通して

2016-07-11 21:39:11 | 治療についてのひとりごと
今回は体制機能障害の評価において、触診の大切さを教えてくれるエピソードの紹介です。

3年前にFBへ投稿した古い記事ですが、ご参考になれば幸いです。



左手首の痛みでお悩みの方が来院されました。

お話を伺うと約半年前、手の使い過ぎで左母指背側に痛みを感じ始めたので病院を受診したところ、ドケルバン病との診断を受けられました。

その後、ステロイド注射など保存療法を続けたものの改善せず、痛みは手関節の背面に広がったそうです。

回復が思わしくないため、大学病院を受診したら手術を勧められ、他に方法はないものかと探されたところ、知人の方から紹介を受け、来院されたのでした。




お体を拝見すると、左母指の屈曲で橈骨茎状突起付近に痛み、手関節背面全体に圧迫刺激に対する過敏性を訴えられます。

しかし、短母指伸筋腱・長母指外転筋腱は腱鞘をスムーズに滑走し、腫れや熱感など炎症の所見は認められませんでした。

(筋腹は軽度萎縮してたのですが、患者さんが自分でゴリゴリとマッサージしていたらしく、内出血の後がありました(^_^;))

また、5ヶ月も経過しているわりには、腱や腱鞘に線維性の硬さも感じません。



ただ、橈骨茎状突起付近の筋膜の滑走制限を認め、加えて手関節の前方偏位によるアライメントの変化、そして短母指外転筋の緊張を確認しました。

いずれも、機械的ストレスや関連痛により母指の背側に痛みを起こすことがあります。

更に調べるために、上肢を水平外転させて筋筋膜に軽くテンションをかけ、橈骨茎状突起付近に軽く触れて筋膜を横に往復して滑らしながら、反対の手で前腕、上腕へと筋膜の動きを確認していくと、大胸筋筋膜の緊張が手首の筋膜の動きに伴って変化します。

手首の制限に大胸筋が影響を及ぼしている可能性があります。



胸郭は左へサイドシフトし、骨盤は右に重心が移っており、それによる左上肢帯の動きの変化なども考慮しなければいけませんが、ここでは割愛します。

以上の機能的変化から、機能障害による痛みの可能性が高いと判断しました。



私は、急性期のような鋭い痛みの場合は離れたところから、慢性痛の鈍い痛みの場合は近くからアプローチしますが、今回は離れたところにある大胸筋からスタートしました。

大胸筋をリリースすると、母指の屈曲角度が広がり、手背部の過敏性が低下しました。

こうなると患者さんは喜ばれて安心し、こちらを信頼してくださるようになります。



続いて、手関節の関節モビライゼーションを行った後、母指丘の筋を伸張しました。

それぞれのアプローチごとに痛みと可動域が改善し、最後に茎状突起周囲の筋膜の制限をリリースした後には、5ヶ月間続いた痛みは、ほぼなくなった状態になりました。



このエピソードで、大きな役割を果たしたのは触診です。

軟部組織に限れば、皮膚・皮下組織・筋・腱・靭帯・関節包などあらゆる組織が異常を起こす可能性があります。

それなのに例えば仮に、フィンケルシュタインテストが陽性だからドケルバン病と判断するとしたら、それはSLRで下肢痛が出たから腰椎椎間板ヘルニアだとするのと同じくらい乱暴な話しです。

はじめは腱鞘炎によるものかもしれませんが、時間の経過と共に慢性期に入り、線維化やそれに伴う癒着、周囲の筋緊張や筋膜の滑走制限、関節のマルアライメントにより、同様の痛みを出すことがあるからです。

この場合、触診による異常な部位の特定が役に立ちます。



反対に、今回は即時的変化がみられましたが、腱や腱鞘に炎症を伴い、動きと共にギシギシと軋轢感を触知するような場合はそうはいきません。

周囲のアライメントなどを改善させた後、患部は炎症の処置により安静を保っていただくことになります。



また、いくらいろいろアプローチをしても、狭窄が陳旧化している場合は手技療法による回復は難しいでしょう。

私も力及ばず、病院への受診を勧めて手術によって良くなった患者さんもいらっしゃいます。

このような禁忌の場合も、触診による情報が重要な役割を果たします。

ですから筋骨格系の異常を評価する場合、触診はとても大切なのです。



とくに手技療法を用いる場合、最終的な刺激の範囲、強さ、深さ、方向は触診により決定するので尚更のこと。

触診技術、もっと磨いていきたいと思います。