手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

プレポジションではどこまでゆるめる?

2008-07-31 21:51:21 | ASTRについて
ひさしぶりにASTRの記事です。


ASTRでは、はじめのプレポジションで、関節を屈曲させるなり伸展させるなりして、治療対象になる部位を弛緩させます。


そうしておいて組織を圧迫、横方向にけん引するというフックを行い、ストレッチしていくわけですね。





ではプレポジションをとるとき、どこまで組織を弛緩させればよいのか?そんな質問を受けることがあります


実際のところ、体は半分無意識に動いているので、あらためて質問されると、少しとまどって思わず考えてしまいます


ちょうど昔話にある、ムカデが「どうしてボクは、たくさんの足を動かして歩いても足がもつれないのかなあ?」と考えたとたん歩けなくなってしまった、ということと同じかもしれません。





体で覚えていることを、ことばで表現するというのはなかなかたいへんです





とはいえ、たくさんの方にASTRを伝えるためには避けて通れないところなので、あれこれ考えてみると結局はフックできる程度に弛緩させればよいということになるでしょうか





ASTRでは、プレポジション・フックポジション・ストレッチポジションと3つのステップに分けていますが、これはわかり易くするため便宜的にそうしているだけで、実施する時にそれぞれ区切って行わないといけないということはありません。


私が行っているところを振りかえると、プレポジションを取るために組織を弛緩させていくと同時にフックをかけていき、かかった時点で切り返してストレッチに入るという手順で行っています。



もちろん、はじめは分けて行ったほうが覚えやすいと思いますが、慣れてくるとこちらのほうが実践的です。


「ASTRの手順は身についたよ」という方、チャレンジしてみて下さい

触診で制限をみつけるコツ2

2008-07-26 21:33:13 | 学生さん・研修中の方のために
前回は、組織をストレッチしておいた状態で触れると、制限の部位がよりハッキリさせやすいというお話しでした。


今回は、それにもうひと工夫加えます





例えば咬筋の動き、ここではその伸び具合をみるとしましょう。


これをみるためには左右の頬に手を当てて、口を開閉すればわかるはずですが、脂肪が厚かったり、頬のようにもともと組織のあそびが大きいとなかなかわかりにくいこともあります。このように









いちど自分の頬で試してください。





いかがですか?





わからないときは、予め皮膚を横方向に引っぱっておいて、あそびを少なくした状態で調べるととてもわかりやすくなります









頬なら、下から上へ皮膚を押し上げて組織のあそびをとり、口をゆっくり開閉してみましょう。


口を開けた時に、左右を比較してより早く緊張するほうが、もともと緊張が強い方だといえます。





今度はこの方法で、もう一度試してみてください。





いかがですか?




ただ触れているだけのときよりも、わかりやすいのではないでしょうか



咬筋だけではなく、左右の下顎頭のどちらがはやく前方に移動するかということもわかりやすいと思います。





気づいた方もいらっしゃると思いますが、この方法はASTRの手順と同じですね。





テキストにも紹介していますが、はじめに手掌などの広い範囲で触れて、軽く組織のあそびをとる(フックポジション)。



そして、関節運動を行って組織を伸ばす(ストレッチポジション)。



この動きの中で、最も緊張している、あるいは伸びが悪い組織を治療すべきポイントの候補にする。






このようにすれば、制限が小さい部位でも短時間で検出することができます。





もちろん、ASTRだけではなくほかのテクニックを行うために検出法としても用いることができます。


今回紹介した動的な触診法は全身で応用できるので、それぞれの部位で工夫してみてください





触診で制限をみつけるコツ

2008-07-19 20:45:43 | 学生さん・研修中の方のために
手技療法では、最終的な治療部位を触診で決定します


ですから、触診はとても大切なのだということは何度かふれてきました。


ところが触診していても、ふつうに触れただけではどこに制限があるのかわからないことがあります


≪制限というのは圧痛・硬結・瘢痕・短縮・緊張亢進・トリガーポイントなどなど、手技療法が治療対象とする体性機能障害の部位ということにします。≫


触れたとき、下の図のように制限が逃げてしまうんですね








そんな時には、どうすれば良いのでしょうか?





組織を伸張して、やや緊張させた状態で触れると制限が逃げにくくなり、検出しやすくなります








このように伸張することで全体的に緊張させると、もともと制限があったところはいくらか固定されるからわかりやすくなるんですね


例えば頚肩部なら、側屈させた状態で触れると、最も緊張している組織がピンと糸が張り詰めるように、あるいは浮き上がるように感じられます。


上の図では制限をオレンジのだ円で表していますが、実際には線維性の索状に触れることもあります。


この方法は全身どこにでも用いることができるので、覚えておくとよいですよ





反対に深部にある組織は、起始と停止を近づけて、表面を弛緩させておくとわかりやすいです





例えば、中殿筋の奥にある小殿筋の場合、側臥位で股関節を外転させて触れるなどがこれにあたります。


ついでに覚えておきましょう



まっすぐの悲劇

2008-07-13 22:38:28 | 治療についてのひとりごと
健康を保つためには『背骨はまっすぐでないといけない』という考えがあります。


確かに正しい一面もあるのですが、あまりこの言葉にとらわれすぎると、かえってマイナスになることもあります。





以前、このようなことがありました





身体のあちこちが痛み、それがどんどんひどくなっているという方からの相談でした。


お話をうかがいますと、はじめに背中の鈍い痛みが起こったそうです。


病院で検査しても、骨には異常なかったもののなかなか良くならず、いろいろ健康関係の本を読んでみると「体のゆがみが病気を起こす」「まっすぐな背骨が健康の秘訣」ということがあちこちに書いてあります。


非常に几帳面な方でしたので、いろんな本でそのように書いてあると「とにかく人間の体はまっすぐでないといけないんだ」と思い込んでしまったのでした。


その後は、立っているときも座っているときも、背中を張り詰め緊張させるようになったそうです。





ところが、痛みは治まるどころかますます広がり、そのうち少し振り向いただけで、腰やわき腹に痛みを感じるようになったのでした。


「自分は注意して生活しているのになぜ良くならないのか」、患者さんはだんだん途方にくれてしまいました。





初診で調べてみると、背中を緊張させ続けたためでしょうか、筋肉がかたまって伸びにくくなっているようでした。


そのため、少し動かしただけで動かせる範囲の限界に達してしまい、あちこちがひきつれて痛むようになったのです。


一度こうなってしまうと、自分からはなかなか動かさなくなるために、なお筋肉が硬くなって痛むという悪循環が起こっていました。





私は「動かすと痛いのではなく、動かせないから痛いのだ」ということを、繰り返しお話しながら治療を進めました。





ところが「動かしたら悪くなってしまう」という思い込みがあったために、なかなかスムーズにいきません。


このメッセージが受け入れられるまでには時間が必要でした。


やがて、動きが広がるにつれて痛みが起こりにくくなる、ということをご自身で実感されるようになってから、明るい表情がもどり、回復への道のりを歩んで行かれたのでした。





考えてみれば、私たちは人間である以前に動物です。


動物は「動く物」と書くように、動かせてナンボなわけです

人間にとって大切なことは、動物らしく前後左右にキチンと体を動かせることです




その上で力を抜いて元に戻したときに、まっすぐの位置だったらなお良いということではないでしょうか。


ところが、どういうわけか姿勢をまっすぐにという言葉が独り歩きしてしまうと、なかには誤解をまねいてしまい、今回のようなケースに陥ってしまうこともあるのでしょう。





こうなったら悲劇です





この経験も、言葉について考えさせられた出来事でした。







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くつぬぎ手技治療院「手技療法の寺子屋」


『ズレ』という言葉の認識のズレ

2008-07-05 19:16:46 | 治療についてのひとりごと
触診で感じる背骨のズレについて前々回の記事に書きましたが、背骨が『ズレる』という言葉は、お医者さんがレントゲンの説明をするときにもよく使われます。





「4番目の腰の骨が、ちょっとズレていますねぇ」という具合に。





多くは関節の変形や、椎間板がうすくなったなどの年齢的な変化のために背骨の並びが悪くなった結果、画面上ではそのようにみえているという意味で使われています。


年齢的な変化があるからといって、元気にすごしている人はたくさんいますから、これがすぐ大問題になるというわけではありません。


お医者さんも『ズレ』という言葉を、説明のための方便、言葉のあやとして使っているはずで、決して大ごととして話されているわけではないでしょう。


ほとんどの患者さんは、お医者さんの意図したところを理解され、受け止められます





ところが、性格的に非常にデリケートな方のなかには『ズレ』という言葉を重く受け止め、ショックを受けてしまう方もいらっしゃいます





私が経験したケースでは、


「背骨がズレる」
  
「脊髄を圧迫して脊髄損傷を起こす」
  
「いずれ車イスか寝たきりの生活になる」


というところまで、考えていた方もいらっしゃいました。





おそらく『ズレ』をいう言葉を聞いて、それまで見聞きしてきた情報と合わさり、頭の中で想像が膨らんだ結果そうなったのだろうと思います。


まわりからみると「そんなオーバーな」と思うのですが、実際に症状が出ていて悩んでいるご本人にとっては現実的な問題となっています。





その結果、例えば腰椎4番がズレているといわれた人なら、「とにかく4番を何とかして欲しい!!」「4番をもとに戻してっ!!」という訴えが執拗になり、腰椎4番に気持ちが集中して他が見えなくなってしまいます。


実際には、その方の感じている腰痛を治すためには、骨盤や脚の筋肉の状態を良くする必要があったとしても、はじめからそうすることはかえって不信感を持たれてしまうかもしれません。


こうなると、治療するにも身体の状態とは別に根気が必要になり、時間をかけて少しずつ視野が広がっていくように働きかけないといけません。





医療者が発する言葉の意味と、それを受け止める患者さんの認識のズレ。


頻繁にあることではないのですが、このような状況に出会うと言葉の難しさを改めて感じてしまいます。