手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

支えを作って負担を分散させる その1

2015-01-24 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
治療しているときの体勢というのは、とても大切なもの。

不安定な体勢をとると、セラピストの身体が不必要に緊張して負荷がかかり、傷めてしまいやすくなります。

ただ状況によっては、決して悪い体勢をとっているつもりはなくても、負担のかかりやすい状態になっていることもありますよね。

そのような時は、支える場所を増やして負担を分散させるようにしましょう。

今回はその工夫の一例をご紹介します。



例えば、肘を深く曲げたまま手で刺激を加えるとき(写真は角度が浅いです。これくらいならそのままでも大丈夫)、胸郭から肩にかけての力が少ないと上肢の支えがツラくなる時があります。


上肢の支えが安定していないと、テクニックを用いる際に力が逃げてしまい、目標としたところへ効率よく刺激することが難しくなります。



そのようなときは、肘を体幹(わき腹)につけましょう。


こうすると、上肢にかかる負担が減って楽に支えられるようになります。

もしくは片足を立てたりベッドの上に乗せ、膝に肘をつけて安定させてもよいでしょう。




このような話は一見地味ですし、聞いただけだと当たり前のことのように思われて、「ふ~ん」とスルーされることもあります。

ところが実際やってみると出来ておらず、手にムリをかけてしまっている方はけっこういらっしゃいます。

今読んでいて「ギクッ」としませんでしたか? 

技術として身につけるためには、身体がわかるまで練習しなければなりません。



非力な人は、ムリをすると身体をすぐに傷めるので身をもって理解しやすいのですが、マッチョで丈夫な人は力も出せて傷めにくいぶん、なかなかピンと来ない場合があります。

そのような方は気がついたら大きな問題となって現れ、かえって回復までに時間がかかることもあるので、ぜひ注意していただきたいところです。



支えを作るなどして身体を安定させるというのは、仕事として長期間、繰り返し作業するにはとても大切な操作です。

もし手に変な力みやしんどさ、やりにくさを感じたなら、腕の支えをつくる工夫を考えてみるのもひとつです。



次にいきましょう。

訪問マッサージなどでは、介護ベッドに横になっている患者さんを治療する機会が多くあります。

その際、ベッド脇から立って治療をしては、身体が伸びてしまい腰に負担がかかるので、ベッドの上に乗って片膝立ちになることもあるでしょう。

けれどもマットが柔らかく、さらに毛布まで敷いてあれば、足元が不安定になって膝を立てているとブルブル震え、とくに殿部の筋に無理がかかりやすくなります。




そのような時は、立てた膝を胸につけてしまうのもひとつの方法です。


こうすると下肢の負担が減ると同時に、体幹の支えもできて楽に治療することができます。

また反対の膝をついている脚も、まっすぐついたままではバランスを取りにくいなら、両脚を外に広げて支える幅を広げるようにし安定させると上手くいくこともあります。


ベッドの上で正座をするというのもひとつの方法ですが、私の経験では正座をすることで大腿部が前に出るぶん前傾姿勢を取らねばならず、腰背部に負担がかかる印象があります。



次回もこのテーマのつづき、2月7日(土)に更新します。

ASTRと似ているテクニックについて~テクニックについての考え方

2015-01-10 17:01:35 | ASTRについて
セミナーなどで受講生の方から「ASTRと同じような手技が他にもありますが、どのように違うのでしょうか?」というご質問をいただくことがあります。

ASTR(Active Soft Tissue Release)とは、組織を押さえて伸ばした状態で関節を動かしてストレッチをすることで、ピントを絞った限局性の高いストレッチを行うテクニックである、としています。

同じような方法を用いるテクニックに、ARTや機能的マッサージなどがあります。



ASTRは、私が整形外科クリニック在職時に、師匠の松本不二生先生と考案しました。

師匠と一緒につくっていくというのはとても楽しく充実していました。

ですから私個人的には、思い入れはとても深いものがあります。



だからといってASTRならではの特徴を見つけ出して、他との違いを強調しようとは思いません。

テクニックというのはオリジナリティーがないとその存在意義を問われるわけですが、わずかな違いを強調したところで本筋から外れていくだけでしょう。



それは、勉強するセラピストにとっては混乱を招くだけでいい迷惑ですし、患者さんにとってはどうでもいいことです。

ひょんなことから世に出たASTRですが、他にも同じようなことを考えて世に広めている人達がいるということは、その方法が本当に役に立つ可能性が高いということを示しているはず。

むしろそこを喜びたいと思っています。



大切なのは原理となる基本が共通しており、それによって実際に効果を上げているということ。

それさえクリアしていれば、細々したところや名前は枝葉です。



釘を打つ道具の形はメーカーによって微妙に違うけど、釘を打つところは平らになっていて重みがあるという基本は共通しています。

そしてその道具のことを、カナヅチと言おうがトンカチと言おうが、ハンマーと言おうが同じこと。

それと一緒ですね。



名前はインパクトがあるけど似たようなテクニックというのは、これからもどんどん出てくるでしょう。

それぞれ特徴があり、またセラピストによって向き不向きもあるはずです。

ですから、自分が取り入れる治療法を学ぶときも「正しさ」というより、「好み」や「相性」で決めてよいと私は思っています。

テクニックはトンカチと同じ、あくまで道具に過ぎないのですから。



ただ学ぼうとするとき、断定的なもの言いをするセラピストには注意したいところ。

「独創的(独走的?)な治療法と出会ったときには」もご参照ください。≫

そのためにも学ぶ側が、多様なテクニックの共通するところを見抜けるようになる必要があると思います。



私の想いとしては、ASTRというテクニックを伝えながら、あらゆるマニュアルセラピーに共通する技術的な基本を伝える。

それによって新しいテクニックと出会っても、上辺に惑わされない目を養ってほしい。



またASTRは、ストレッチと筋膜リリースなどを組み合わせて出来あがっています。

ASTRを学ぶことで工夫の仕方を知り、さまざまな状況に合わせて自由にアレンジできるようになってほしい。

そう願っています。



『アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない』
ジェームズ・W・ヤング




次回は1月24日(土)に更新です。