手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

母指圧迫:指紋部で押す工夫 その1

2013-11-30 18:17:26 | 学生さん・研修中の方のために
母指の圧迫法は軟部組織のテクニックとしては、たいへんポピュラーな方法です。

これまで寺子屋ブログでも、何度かそれためのコツやポイントを取り上げてきました。

「母指でのフック その1 ~フックの技法~」  
「母指の支え」
「「よい」もみかえしと、「わるい」もみかえし」
「母指での「押す」フックについて」  
「母指圧迫における「肘」の活用シリーズ」
「セラピストの母指を守る工夫シリーズ」
「母指圧迫における手首の活用」
「体重を乗せるということ」

こうして振り返ると、けっこう書いてきましたね。

今回は指紋部での圧迫についてのお話し。



母指の圧迫を行うときは指紋部で、と指導されます。


理由として指紋部は当たりが柔らかく、また触圧受容器が豊富なので、感覚が敏感なので触診に向いているから。

なるほど納得の理由ですね。



ところが実際にやってみると、人によって母指の中手指節関節(IP関節)が硬すぎたり、あるいは軟らかすぎたりすることで、上手く押せないことがあります。

IP関節の柔軟性が大きすぎる、あるいは少なすぎるために、ペタッと指紋部を当てると指が不自然な状態になることがあるのです。



まずは硬くて反らない指、これを伝統的に「にが手」と呼びます。




「少彦名のにが手にて 撫でれば落ちる毒の虫 押せば無くなる病の血潮 降りよ退がれよ 出で早く」

これは日本神話の中で、医術の神とされている少彦名神(すくなひこなのかみ)のことを詠った古歌です。

少彦名神はちょうど「ヒポクラテスの誓い」にも出てくるギリシア神話の医術の神々、アポロンやヒギエイアのような存在ですよ、というのは「知っておきたい!東洋の手技療法の歴史」シリーズの中で触れたことがあります。

日本でも古くから手技療法が用いられていたことを物語っていますね。

というより、痛いところに手を当てるというのは本能的行為のようなものですから、世界のどこでも古くからあったと言えます。

おっと、余談でした。



私の親指はとっても「にが手」、ほとんど反りません。

指紋部を広く使おうとすると、指が広がり過ぎてしまいます。


それに中手指節(MP)関節が適度に外方に出るようなかたちが理想ですが、完全に内方に入っています。

これでは母指丘の筋に大きな負担をかけてしまいます。

ムリして使い続け、指を傷める人もいれば、それを通り越して母指丘がカチコチにかたまっている人もいます。



反対に指が反りすぎる人、この指を「あま手」といいます。

動きが大きすぎて関節が安定せず、なかにはここまで反らせて使っている方もいます。


ひどくなるとIP関節の背面が黒ずんで、変色していることもあります。

ところが本人は痛みを訴えることは少ないようです。

今は何ともないかもしれませんが、明らかにムリな指の使い方なので、いずれ故障して変形を早めてしまうことは十分予想できます。



このようなことも他人から言われないと、ついつい「こんなもんだろう」でやり過ごしがちです。

また、指導する側も指紋部で押すことだけを教え、それ以外の部位に無理がかかっているのを見落としている場合があるので、そのままにされていることもあるでしょう。

みなさんはいかがでしょうか?



自分は「にが手」だ「あま手」だという方、この機会に対処法を考えてみてはいかがでしょう?

まずは1週間、無理なく指紋部で押せるよう、ご自分で工夫してみてください。

次回は「にが手」の方のアドバイスから。

≪次回に続く≫



開業準備の思ひ出ぽろぽろ その2

2013-11-23 18:37:04 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回からのつづき≫

市の融資制度の申請に必要な業者さんから必要な印鑑をもらえず、悶々としたままセンターに訪れた私は、事の顛末をオヤジさんに話しました。

オヤジさんは腕を組み、ただでさえ深い眉間のシワを、さらに深くさせて聞いています。

「いったいどこの業者だ。ちょっと見積書を見せてみて」



私が手渡した見積書を、しばらく見ていたオヤジさん。

不意にまゆ毛が段違いになりました。



「ここの社長さんと会ったのかい?」

「えぇ、そうです」と私が返事をすると、「こいつは高校時代からの仲間なんだ。先週も一緒に釣りに行ったばっかりだ」。



いわゆる親友というやつだそうです。

もちろん偶然。

私が「はぁ」と気の抜けた返事をすると同時にオヤジさんは立ちあがり、電話の方に向かって歩いていきました。



なにやら話しているようでしたが、最後に聞こえてきた大きな声は「いいから、とっと判をつきやがれっ!!」ガチャ。

私がなかば呆気に取られている間に、無事、問題は解決したのでした。



その後の書類関係はスムーズに進みました。

保証人については誰かにお願するつもりもなかったので、信用保証協会を利用しました。

北海道信用保証協会

こちらは一定の保証料が必要な代わりに、保証人になってくれます。

私の場合、保証料は10万ほどでしたが、人間関係を気にしなくていいのはありがたいこと。

ここでも事業計画書の審査はあります。



最後に融資をお願いするのは銀行です。

市の制度とはいえ、判断するのは銀行。

私の場合はとくに札幌に来て一年にも満たないので、そのあたりがどう判断されるかといったところ。



どこの銀行にお願いするか、オヤジさんと相談していたら「ところで今、通帳があるのは何銀行のどこ支店だい?」と聞かれました。

通帳がある、すでに取引をしているところのほうが、話をいくらかでも通しやすいそうです。

私が答えると、「あぁ、そこなら私の後輩が副支店長をしているから話をつけといてあげるよ」。



いや~、先ほどの見積書のことといい、そのようなことってあるんですね。

そして迎えた融資当日。

やはり緊張しながら銀行に赴くと、副支店長さんが出てきて 「話しは聞いていますよ」 と挨拶され 「はい。ここにサインして、こっちに印鑑を押して」と、私が持参した事業計画書にはサッと目を通しただけで流れ作業的に進み、あっさりおしまい。

こうして無事に融資を受けることができたのでした。



開業準備というのは毎日がドラマの連続です。

相当なエネルギーを使いますが、ひとつひとつのエピソードがよい思い出。

大変な思いをしたことほど印象に残って、味わい深いものになります(個人的には1回で十分ですが

今回ご紹介したエピソードも、大変という訳ではないのですが、思い出深いエピソードのひとつです。

ご縁や巡り合わせの面白さがわかる、そんなお話ではないかと思います。



開業準備中の方にお伝えしたい、ひとつ目のこと。

それは、何ごとも自分から動き出さないと始まりません。

ただ、自分の力でしようとすればするほど、他人の力なしには何もできないことに気づかされます。

お陰さまの力を思い知らされるわけですね。

とても大きな学びです。



そして、お陰さまのありがたみが身を持ってわかるようになると、人生観が変わります。

また変わらなければ、事業は続けられないでしょう。

オレが!オレが!!では、人は離れていってしまいます。



それから、もしいちばん初めにオヤジさんからバッサリ切られて計画書を突き返された時、私が嫌気をさして他の方が担当している曜日に変えていたとしたら、見積書の印鑑はもっと難航し、銀行からの融資もこんな感じで進まなかったかもしれません。

世の中逃げちゃいけない踏ん張りどころ、というのががあるのですね。

これがお伝えしたい二つ目のことです。



幸せの女神は、目が悪くて耳が遠いといいます。

一所懸命手を振り、声を張り上げてもなかなか届かない。

でもそれを続けた人にだけ、振り向いてくれるチャンスは訪れるのだそうです。



求めよ、さらば与えられん。

叩けよ、さらば開かれん。

求め続け叩き続けて、幸せの女神に微笑んでもらってほしい。

開業準備、そして開業を考えている方へのエールです。




開業準備の思ひ出ぽろぽろ その1

2013-11-16 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
少し前に「めずらしく経営のこと」というシリーズを書いたのですが、何人かの方から嬉しい言葉をいただきました。

そんなわけで調子に乗って今回は、開業準備中の頃のエピソードを通して、開業準備をされている方へエールをお送りしたいと思います。

あくまで体験談ですが、何かの参考になれば嬉しいです。



私が開業を準備したのは、札幌に引っ越してきて一年にも満たないとき。

当然ながらお財布事情は寂しいものなので、融資を受けることにしました。

融資先で選んだのは、札幌市の創業・雇用創出支援資金です。



年利が1.10%以内で、利子の支払いのみで済む据置期間は最長2年。

日本政策金融公庫(当時は国民生活金融公庫)の同じような制度では、年利が3%前後、据置期間は半年ですからこれは助かります。

売り上げがある程度上がる前に、返済がはじまるのは厳しいものがありますからね。

各自治体にも、同じような制度はあるはずです。



ただし、融資を受けるのは銀行からなので、事業計画書はよりきちっと作らなければなりません。

とりあえず、商工会議所などが主催している創業塾に参加してその雰囲気をつかみ、作り始めました。

けれども数字となったら、私はハクション大魔王。

見たら泣けてきます。




それでもウンウン唸りながら事業計画書を書き上げ、向かった先は札幌中小企業支援センター

こちらは市の融資制度の窓口になっていて、相談無料です。



中に入り、相談した担当者は銀行OBのオヤジさん。

敬愛の意味を込めて、そう呼ばせて頂きます。



オヤジさんは、いかにもという気難しいオーラを醸し出していて、ふつうにしていても眉間のシワは取れません。

私の事業計画書をみたオヤジさんは「これじゃ全然ダメ。まったくなっていないね」とバッサリと切り捨て、精根込めた計画書はけんもほろろに突き返されてしまいました。



でも不思議と落ち込んだり、腹が立ったりしません。

むしろハートに火がついた感じ。



それからというもの、オヤジさんが担当している日をわざわざ選び、ちょこちょこ書き直した計画書を持ってセンターに訪れました。

はじめはつっけんどんだったオヤジさんも、少しずつ打ち解けはじめ「あなたみたいに熱心なのか、しつこいのかわからない人はあまりいないねぇ」と言われるように。

じつは私もこのようなクセのある…失礼しました、個性的な方が好きなのかもしれません。

オヤジさんに話を聞いてもらいながら、自分の考えを整理するような感じで相談を続けました。



そのうち世間話や身の上話、「最近、肩を上げにくくなっているんだわ」と身体の相談までされるようになりました。

これは役得ですね。

その場でちょっと拝見し、肩がスムーズに上がるようになると驚いて喜んでくれ、やがて私がセンターに行くと、ニコッと笑って手を挙げて挨拶してくれるようになったのでした。



親しくなってから、はじめはずいぶん素っ気なく対応されていたことに触れると「近頃は安易な気持ちで独立して、立ち行かなくなる人が少なくないからね。ちょっと厳しくされたくらいで滅入るようじゃ、独立なんてしないほうがいいんだよ。」

なるほどなぁ。厳しさの中にある、オヤジさんの優しさを垣間見た気がしました。

そして今となっては、オヤジさんがおっしゃる通りだと思います。



そんなある日のこと。

オヤジさんから、申請の時に提出する内装工事の見積書に印鑑が必要だから、業者さんに押してもらってきてほしいと頼まれました。



私は業者に向かい、社長さんにその旨お話しすると「見積書に印鑑を押すなんて聞いたことがない!!」と突っぱねられてしまいました。

渡されたのは印鑑のない見積書。

何度か話しても、らちが明きません。

社長さんもかなりガンコです。

でもその印鑑を押してもらえないと融資の手続きが進まないので、私も気が気ではありません。



まったくもう。

誰が聞いても大変なことなら仕方がないけど、このようなことで話が進まないなんて何ともやりきれません。

けれどそれが現実というもの。



その日は午後にオヤジさんと会う約束をしていたので、私は悶々とした気持ちのままセンターに向かっていったのでした。

≪次回へつづく≫


遠隔的アプローチに慣れる その2

2013-11-09 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回は遠隔的アプローチを体験するために、頭部の側屈が手首・肘・肩に触れることによって変化するかを調べていただきました。

可動域よりも動きのスムーズさのほうが分かりやすいかもしれません。

これで上手くいったなら、さらにいろいろ試してみましょう。



例えば、手首をつかんで動きが良くなったなら、手首のどの部分に触れたら変化するかを細かくみていく。


前・後・内側・外側面に触れて変化をみて下さい。



前腕・上腕の筋にも触れてみてみましょう。

どこかで頭部の動きが変わるところはあるでしょうか?



さらには指をつかんでみたらどうでしょう?

私の場合は、人差し指をつかむと倒しやすくなります。

中指ではそれが起こりません。



ここまで来たら頭部の前屈・後屈でも調べてみましょう。

前屈では身体の背面を、後屈では身体の前面を触れてみましょう。



私の場合は仙骨底に触れておくと、頭を前屈させやすくなります。

仙骨尖では起こりません。

また立位でのみ変化し、座位では変わりません。



とにかく、まずは自分の手でいろいろ調べてみましょう。

もし何かの理論を勉強していても、この時点ではそれを当てはめたり、理由を考えないで下さい。

ひとまず理論は脇において置きましょう。



セラピストの中には、学んだ知識をすぐに当てはめて、原因と結果を安易に結び付けてしまう方もいます。

例えば、人差し指を握れば頭を倒しやすくなったのは、東洋医学の経絡でいう大腸経を刺激した『から』。

あるいは、仙骨底に触れたら頭部を前屈しやすくなったのは頭蓋仙骨系に働きかけた『から』、などというように。



そのように考えた方が知的な労力も少なく、実践的な面もあるでしょう。

理論が示すパターンにピタッとはまった時というのは、とても気持ちの良いものです。



でもホントにそれが正しいとは限らず、あくまで可能性に過ぎませんし、他の説明方法もあるはず。

可能性の一つであることを承知の上で当てはめるのはよいでしょうし、そのようなトレーニングも意味がありますが、特定の理論を固執しすぎるようになると、極端に偏った考えを持ってしまう可能性があるかもしれません。

また、身体が示してくれる他の現象を見逃すこともあるでしょう。



このようなお話をしているからといって、私は理論化することを否定しているのではありませんよ。

当然必要なものだと思っています。

理論が問題なのではなく、何度か上手くいっただけで、全体をよく吟味せず簡単にそれを正しいと思い込んでしまいやすい、私たちの頭に用心しなければいけないと言いたいのです。

それを防ぐ力を養うためにも、ここでは手探りで身体の反応をありのまま感じ取り、「習うより慣れろ」で地道に行来たいと思います。



それに前回も少しお話ししましたが、さまざまな遠隔的アプローチの理論を聞いて右往左往してしまうというのは、その現象に慣れていないためにどれもスゴイことのように感じてしまう、というような理由もあるのかもしれません。

たとえば、多くの方は自転車に乗れると思いますが、もし乗れるようになる前に、運動学や力学、姿勢制御などのことを勉強しなければならないとなったらどうでしょう。

自転車に乗るということがスゴイことのように思え、相当身構えてしまうのではないでしょうか。



でも自転車に乗れたなら、難しい理屈を聞いたとき、仮にさっぱりわからなくても冷静に聞いていられるはず。

同じように、離れたところを刺激して変化するという現象に慣れておけば、さまざまな理論を聞いた時でもある程度の距離を置き、気持ちに余裕を持ってそれと向き合い、考えられるのではないか。

大切なのは理論にのまれず、自分の主体性を失わないということ。

そこだと思っています。







手技療法の寺子屋セミナーのお知らせ≪札幌≫
以下のテーマと日程で手技療法の寺子屋セミナーを開催いたします。

セミナーⅠ『ASTRの基礎セミナー』 
13年12月21日(土) 18:00~20:30  
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開催日時 13年12月22日(日) 15:00~20:00  
受講費用 10,000円 

詳細につきましては、弊院サイトをご覧ください。
どうぞよろしくお願い致します。
『手技療法の寺子屋セミナー』



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どうぞよろしくお願い致します。
「北の治療家セミナー」



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2013年12月1日(日)『ASTR:痛みの臨床』

詳細につきましては以下のサイトをご覧ください。
どうぞよろしくお願い致します。
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遠隔的アプローチに慣れる その1

2013-11-02 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
手技療法によるアプローチには、患部またはそれに近いところへ直接刺激を加える直接的アプローチと、離れたところに刺激を加える遠隔的アプローチがあります。

それらについては過去の記事でも触れたことがあります。
『直接的治療と遠隔的治療(直談判と根まわし)』もご参照ください≫

今回は遠隔的アプローチの体験に、チャレンジしてみたいと思います。



遠隔的アプローチは筋膜や運動の連鎖、あるいは反射、東洋医学の経絡など、さまざまな理論的背景をもっている方法があります。

それぞれが独自の理論を展開し、また結果も出しているので一定の有効性があるはずです。

でもそうなると、新たに学ぼうとする人は何をどれから学べばよいのか迷ってしまいますね。

どのコンセプトも、自説の正しさを主張していますからなおさらのこと。



今回は(というよりも毎度のことながら)理論的なところはさておいて、とにかく離れたところを刺激して身体が変化するということを経験し、その現象に慣れていただくことを目的にしたいと思います。



頭部(頚部)の側屈で試してみましょう。

まずは頭部を左右に倒し、スムーズさと可動範囲を比較してください。


刺激による変化は微妙なはずなので、じっくりゆっくり丁寧に味わうように感じて覚えておいてくださいね。

目を閉じて行ってもよいでしょう。



抵抗感がより強い、あるいは可動域が狭いほうを対象として、制限のある側の上肢に触れて行きます。

今回のケースでは、右に倒すと左の首筋に抵抗感が強かったとして、左上肢に触れることにします。



まずは反対の手で手首をくるむようにつかんだ状態で、ゆっくり側屈してみてください。


スムーズさや可動範囲に変化はみられるでしょうか。

上手くいけば触れる前と比べ、抵抗感がより少なくスーッと動く感覚を得ることができます。



手首に変化がなければ、肘に移ります。


触れた状態で、同じようにゆっくり頭を倒してみましょう。

肘の前面と後面を分けて触れるとよいでしょう。



続いて肩に移ります。


こちらも前・後面と分けて触れても構いません。



手首・肘・肩に触れながら動かしてきましたが、いかがでしたか?

どこかで変化を感じることができたでしょうか。

ここでは可動範囲という量的なものより、動きのスムーズさという質的な変化のほうが感じやすいかもしれません。



何度も繰り返しているうちに、何が何だかわからなくなったという方もいるでしょう。

そのときはいったん休憩して、しばらくしてからリトライしてみてください。

微妙な変化なので、にぎやかな場所よりも、ひとり静かにできるところのほうが集中しやすいかもしれません。



もしかしたら、何度やってもさっぱりわからないという方もいらっしゃる方もいるはずです。

決してガッカリする必要はありません。

遠隔的刺激で変化するところがなかったのかもしれませんし、上手く見つけられなかっただけなのかもしれません。

しばらく保留にして、またリベンジするとよいでしょう。



中には、身体が遠隔的な刺激に反応し難いタイプの方もいらっしいます。

セラピスト側の向き不向きもあるでしょう。

もしそうだったとしても大丈夫。

ムリして遠隔的なアプローチができなくたっていいのですよ。



余談ですがこの業界の中には、離れたところを刺激して変化させるのが、より良い治療という雰囲気もある気がします。

よく聞くのが、離れたところに本当の原因があるというお話し。

確かにそのような側面はありますが、臨床では直接的に刺激するところから始めて、隣接部位に移り、徐々に範囲を広げていくという方法でも十分対応可能です。

私は今でもそのようにしています。



大切なのは良くなるための手助けができること。

結果が出ればそれでよいと思っています。

とくに経験が浅いうちは、局所の制限を確実にリリースできる技術を磨いた方が良いと私は考えています。



反対に上手くいかなかったことで、遠隔的アプローチをうさん臭く思う方もいるかもしれません。

批判的に考えるのは大切ですが、今の段階で否定してしまったとしたらそれはもったいない。

いつか芽が出る日がくるかもしれませんから、保留にしておきましょう。


さて、手首・肘・肩のいずれかで変化を感じた方、まずは「こんなこともあるんだ」と思っていただいた上で次に移りましょう。

次回に続く。