手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

歩行をみるトレーニング≪評価について≫ その5

2011-07-30 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪ステップ3≫マネたときの身体の感覚(緊張の分布)を感じとる


マネができるようになったら、次にそのマネした動きによって、身体がどのような感覚を覚えるのか、感じとってみましょう。


今回の例だと、膝関節のどのあたりに機械的なストレスがかかるか、筋肉のどの部位に力が入るのか、あるいは入っていないか、異常な緊張の分布をよく感じとるようにします。





異常な緊張の分布を感じることで、その患者の問題をセラピスト自身の実感として認識するわけです。


心理カウンセリングでは共感や受容が重要な要素ですが、それを身体的に行います。


身体的な共感ですね。


身体的な共感、体性機能障害の発生をよりリアルに体感することができます。





通常の評価は、関節可動域や筋力検査など客観的に示すことができるものを測定していきますが、それに加えて私はこの身体的な共感を大切にしています。


理由は三つあります。


ひとつは、手技療法のテクニックを用いる上で微細な機能障害ほど、それを感覚的に捉えておかなければ適切な刺激を与えるのが難しくなります。


身体的な共感をすることによって、感覚的によりはっきりと認識しやすくなるのです。


もうひとつは身体的な共感によって、その患者さんの心理的な苦痛も察しやすくなります。


痛みなどの愁訴は、さまざまな要因が組み合わさって感じる個人的な体験なので、すべてを理解することはできないでしょう。


それでもわかろうとする態度が患者さんの心に通じることが大切ですし、少しでも察することができれば不安に対して手を差し伸べることができます。


さいごに、身体的な共感によってその機能障害が、患者の生活環境とどのように結びついて発生・持続しているのかを想像し、考えるための助けとなること。


頭で理解するだけではなく体感しているので、実際に体を動かして負担がかかっている状況をシュミレーションしやすくなります。


(これについては「社会人アスリートの機能障害」もご参照ください)





身体的な共感によって異常の存在を感覚的に捉えることができたら、次のステップに移ります。


歩行をみるトレーニング≪評価について≫ その4

2011-07-23 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪ステップ2≫みた動きのマネをする

前回行っていただいたように、モデルの膝の動きを頭の中でイメージできたら、続いてそのイメージを自分の膝の動きとして再現します。


つまり、マネをするわけですね。


マネができるということは、モデルのありのままの状態をとらえているということです。


ありのままの状態をとらえているということは、臨床で患者固有の問題も発見しやすくなります。



そしてこの練習は、観察した歩行の記憶をより確実に定着させることにもなります。


ちょうど単語を覚えるとき、テキストをみるだけではなく、手を動かして書いて覚えるようなものですね。





余談ですが体性機能障害の評価では、ベテランのセラピストでも同じ患者さんをみたとき、意見が分かれることはめずらしくありません。


神経筋骨格系の診方についても、姿勢構造モデルをはじめいろいろな説明モデルがあります。


それぞれの説明モデルが科学的な根拠を引用し、すじ道だった論理的な説明をしていて説得力があります(なかには???というものもありますが)。


場合によってはあるモデルと他のモデルが、互いに矛盾するような考え方をしている印象を持つことがあるかもしれません。

そうなると、はじめのうちは一体どれが本当なのか、なにを信じればよいのかわからなくなってしまいます。





でも、心配することはありません。


ひとつのモデルは、それを考えた人の視点や、考え方の切り口が述べられているものです。


ちょうど絵でいうなら、似顔絵と似ています。





似顔絵は、モデルの姿そのものが写実的に描かれているわけではありません。


けれどもモデルの特徴がよくつかまれていると、誰のことを描いているのかよくわかります。


(誰のことを描いているのかわかるというのは、上手い人が描けばですが…。
私は絵がとても苦手です。
高校の美術の授業のとき、自分の描いた油絵の良いところをあげなさいと先生にいわれたことがありました。
誉めるところが見つからなかった私は、思わず「手ざわり」といってひんしゅくを買ってしまいました。


とはいえ、上手い人みんなが同じような似顔絵を描いているのではなく、描く人の特徴のとらえ方、表現の仕方によって作風は異なります。


この、同じモデルを描いても作者によって作風が異なるというところが、説明モデルの違いにも当てはまります。


同じ患者を診ていても、セラピストのもつ視点や考え方の違いによって、異なる特徴が浮かび上がるわけです。







さまざまな体性機能障害の説明モデルも、それぞれが身体に起こった変化をとらえる診方のひとつ、一枚の似顔絵です。


似顔絵がモデルの姿そのものではないように、ひとつの説明モデルで体性機能障害による変化を説明しつくすことはなかなか難しいでしょう。


また、あるひとつの描き方で、すべての人が誰のことを描いているのか理解できるとは限らないように、そのモデルが万人にあてはまるとは限りません。


だからといって特徴のとらえ方が理にかなっているなら、まったく見当違いということはありません。


ですからこの際、正しい正しくないという判断はさておいて、ひとまず仮として自分が納得できるような説明モデルを、好みに応じて選んでおいて構わないと思います。


どのような説明モデルでも、破たんしたホメオスタシスを回復させることができれば、症状は良くなっていきます。





ただし、そのモデルで対応しきれないときは、状況に合わせて考え方を変えなければなりません。


状況に合わせて変えるためには、患者さんの状態をありのままにとらえる基本的な力が養われている必要があります。


ありのまま姿をとらえることができれば、そこがベースとなって他の説明モデルも柔軟に取り入れやすくなったり、または自分で新たにモデルをつくりだすことができるかもしれません。


これが、同じ似顔絵しか描けない、同じ説明モデルしか使えないでは現場に対応しきれません。




今回のトレーニングによって、患者さんの状態をありのままにとらえるための基礎的な力を養うことができます。


抽象的な似顔絵を描く人も、はじめのうちはありのままを写実的に描くことができるように、何百枚も何千枚も描いてトレーニングを重ねていたはずです。


ですから私たちも、観察したことをありのままに再現できるよう、身体を動かしてマネしてしましょう。


さあ、チャレンジしてみてください。





上手くマネすることができる人、できない人がいると思います。


私もはじめは下手くそでした(今でも決して上手い部類ではありませんが…


でも、このような練習を繰り返すことで、記憶の定着だけではなく、自分の身体感覚も養われたように思います。


それによって、テクニックを使いこなす力も養われたように感じます。


このように、動きをマネすることはとても勉強になります。





ものまね名人を目指すわけではありませんから、自分なりで結構です。


楽しんで練習して欲しいと思います。


歩行をみるトレーニング≪評価について≫ その3

2011-07-16 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回は右膝をモデルにして、街行く人の動きをよくみていただきました。


すでに知識がある方は、膝が内側に入る動き(=外反:knee in)をしていないか、外側へまわしながら歩いていないか(=ぶんまわし歩行)など異常な運動を考えながら観察したかもしれません。


でもここでは、知っていることを当てはめながらみるのではなく、歩行サイクルの動きそのものをイメージとして記憶してください。


自分の知っている範囲のことしかみなくなる可能性をなくすためです。





また、たとえば膝が内側に入る動きをみて、「あっ、外反している」と確認したら、それだけでわかったかのように感じてしまうことを避けるためでもあります。


同じ外反でも、人によって角度は違います。


角度が違えば、負荷のかかる関節の部位や筋線維が異なります。


それをひとくくりで膝の外反としか記憶せずに手技療法によるアプローチを行うと、とてもラフな治療になります。


ですから、モデルの動きをありのまま記憶する必要があるのです。





余談ですが、かんたんにわかった気にならない、かんたんに見切らないというのは、あるていど慣れて自信がついてきた方が特に注意しなければならないことだと思います。


なぜなら私たちも人間ですから、必ず見落としはあるからです。


筋骨格系の機能的な異常は、複数の変化が同時に起こっているのに、わかったと思い込み、それ以上みようとしなくなると、他の大きな問題を見逃しているかもしれません。


私たちの成長も止まってしまいます。





ついでに触れておくと、臨床で注意しておきたいのが、学習の「構え」です。


これは、たまたま同じようなパターンが続くと、新たにみる患者さんにも同じパターンを当てはめてみてしまうことです。


結果的に見誤ってしまうことになります。


簡単にわかった気になることや学習の構えは、私自身も経験し、苦い思いをしました。


経験の少ない方が「わかった」と思うのはモチベーションを上げるためにも必要だと思いますが、あるていど経験を積んだ方は簡単に見切らないで、ひたすら観察し続けることが大切だと思います。


私も肝に銘じるようにしています。





毎度のことながらまた脱線しているので話を戻して、テーマは歩行をみることですね。





もしかしたらなかには、自分ではちゃんとみているつもりだけれど、どのように記憶してよいかわからないという方もいらっしゃるかもしれません。


その場合、膝の主な生理的運動は屈曲と伸展なので、「どのように膝を曲げているのか?」「どのように膝を伸ばしているのか?」という質問を手掛かりにみるとよいでしょう。


それぞれの過程で、動きの範囲・角度の変化・スピードの変化・向きを観察し、立体的なイメージとして記憶してください。





記憶できたと思ったら、視点を患者さんから他に移して頭の中でその記憶を再生し、あやふやならもう一度見直すということを繰り返します。



目を閉じても、イメージが浮かぶようになるまで、頭に焼き付けましょう。


これは、患者さんの瞬間的な動きを記憶するためのトレーニングになります。


臨床では患者さんのしぐさなど、一瞬の動きが問題を特定するヒントになることがあります。


その瞬間を逃さないで記憶できるように鍛えておきましょう。





よりはっきりイメージできるようになったら、頭の中でその映像を回転させて考えることも可能になります。


このような力を養うことは、評価・分析し、治療方法を検討する上でとても役に立ちます。


とにかくここでは判断を加えず、ありのままをみることがポイントです。


まずはよくみて練習してください。


余裕があったら、反対の左膝に視点を移して、同じことを行いましょう。



歩行をみるトレーニング≪評価について≫ その2

2011-07-09 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回は、街ゆく人の中から不自然な歩き方をしている人をモデルとして選び、みなさんの見方でみていただきました。


そのときにお願いした、みなさん自身の視点や考えの組み立てかたなど、思考過程を振り返ることができたでしょうか。


これから私がご紹介する方法を練習していただいた上で、ご自身の方法と比較して、よいと思うところを取り入れてください。





このトレーニングは7つのステップから成っています。


ひとりでもトレーニングができるよう、段階的に習得できるように工夫しました。


そんな奇抜なことではありませんので、同じような練習をされていた方も、きっともいらっしゃると思います。





≪ステップ1≫ 局所の動きをみる

手技療法で評価するものは身体の「非対称性」「可動範囲」「組織質感の異常」ですが、歩行分析など動きを「みる」ものでは「非対称性」と「可動範囲」を評価することになります。


しかし、歩行をみるといっても、慣れないうちはどこから、どのようにみてよいかわからないという方もいらっしゃると思います。


はじめは全体をみようとするのではなく、局所からみるとよいでしょう。


「全体をみることが大切だと思うのですが…





もちろんそうなのですが、まず大切なのは自分のわかる範囲で、できることから行っていくということです。


局所をきちんとみることができ、じょじょにできる範囲が広がって、やがて全体をみられるようになります。


私はこのように、身の丈に応じた臨床を行っていくことが大切だと思っています。





部位はどこからでもよいのですが、末梢に行くほどスピードが速くなりますから、目に自信のある方は足関節を、そうでない方は股関節からみていけばよいですよ。


ここでは間をとって、膝の動きをみることにしましょう。





両脚同時にみるのも、はじめはなかなか大変なので、片脚からでかまいません。


仮に右膝をみるとして、どのような動きをしているでしょう?


再び街ゆく人を観察して、ご自分なりに練習してみてください。


くれぐれも、マジマジみすぎて変な人と誤解されないようにご注意くださいね。


歩行をみるトレーニング≪評価について≫ その1

2011-07-02 14:23:15 | 学生さん・研修中の方のために
手技療法の寺子屋ブログでは、これまでテクニックの基本的な練習方法をはじめ、触診のポイントやコツについて力を入れて紹介してきました。


しかし、触診に至るまでには、問診によっておおよその状態を把握し、動きの評価を視診によって行い、問題点をピックアップしていく必要があります。


そこで今回は、触診以外の評価として、動きをみるという視診のトレーニング方法をお話ししたいと思います。





対象にするのは歩行です。


マニュアル・メディスンの大御所であるフィリップ.E.グリーンマン D.Oは、自身の著書「マニュアル・メディスンの原理」のなかでこのように述べています。


「著者の経験では、姿勢構造モデルの最も重要な要素は、歩行サイクルにおいて最大の骨盤力学を回復させることであった」


人間を人間たらしめたのは直立二足歩行である、という説もあるくらいですから、歩行が重視されるのはもっともです。


リハビリテーションでも、歩行分析をとても大切にしています。





歩行分析は、学校やセミナーでの指導や、テキストを通して学ぶことができますが、多くは「知る」ことからスタートします。


正常な歩行サイクルや、異常な歩行の知識を吸収した後に「みる」こと、観察することを学びます。


歩行分析に限らず他の分野でも、例えば解剖学を学んでから触診を練習するなど、知的な理解の後に感覚的な理解という順序で学習するのがふつうです。


これが合理的な進め方なのかもしれません。





でも学ぶ側の立場に立つと、みんなそれぞれ個性があるので、知識から入るのが得意な方ならともかく、感覚から入るのが得意な方にはちょっとしんどいと思います。


私はみんなひとつの方法論で歩まされるのではなく、さまざまな学び方があってよいと思っています。


とくに学生のうちは「知る」「覚える」という知識の吸収が優先されて、「みる」「感じる」という感覚的なトレーニングがおろそかにされがちな気がします。


みることができないまま臨床に出ても、たくわえた知識をどのようにして目の前の患者に結びつければよいのかわからないために、何もできずお手上げということになりかねません。


「みる」こともひとつの技術ですから、そのためのトレーニング行う必要があります。





評価するということにおいて、知ること、みることは自転車の両輪と同じです。


両方動いて、はじめて自転車をこぐということに相当する「考える」ことができ、患者固有の問題点を導き出すために前進することができるわけです。


というわけで、よくみて感じることに重点を置いた、歩行観察のトレーニングをしたいと思います。


感覚的な理解が得意な方はまずこれから、知的な理解が得意な方は知識の吸収に続いて、ご紹介する方法をお試しになってみてください。





練習の舞台は、街中です。


通勤時やお出かけなどで外に出ているとき、道行く人の歩き方をよくみる所からはじめましょう。


ふつうなら、はじめは正常な歩行をみるのが良いと考えるかもしれません。


正常とはいえ、歩き方のクセはさまざまで、よくみていると面白いからです。





ただ、不自然な歩き方のほうが特徴をつかみやすいですし、ご紹介するステップを解説しやすいので、そのような方を探してみてください。


意外と多いと思います。


みなさんなら、モデルの方の歩行をどのようにご覧になりますか?


まずはこの1週間、ご自分なりの方法で歩行をよくみておいてください。





可能なら、ご覧になっているときに自分がどのような視点や方法でみて、考えを組み立てているのか、振り返って覚えておいてください。


自分の思考過程をモニターするわけです。


これをメタ認知といいます。


自分の思考過程をモニターするなんて、日頃は慣れないだけになかなか大変ですが、上手くいくと「自分はこのようにみて、考えていたのか」と、新たな発見があると思います。


頑張ってトライしてみてください。





(このシリーズは、「マネすることからはじめてみよう ~評価について~」シリーズがベースになっています。合わせてそちらもご参照ください。)