手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

「押す」「引く」「まわす」という身体の基本操作 その5

2015-06-27 17:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回は「まわす操作」です

前回のように仰向けになったモデルの股関節を屈曲させた状態から、内回しにまわしてみましょう。

その時どのように身体を動かしてまわしますか?



下図のように、腕の力だけでまわすのではないということはもうお分かりですね。




はじめにお話したでんでん太鼓のように、あるいはラジオ体操のように、身体を回転させる力を手に伝えて操作してみてください。




動きを分解すれば、外側の腰(写真の場合は右腰)を前に押す力を、外側の手(右)に伝える。

内側の腰(左)を後ろに引く力を、内側の手(左)に伝えて操作する。

このような感じです。



なぜこのようなひと手間をかけて面倒な操作をするのでしょうか?

股関節をまわすくらいなら、腕でヒョイとまわしたほうが手っ取り早いですよね。



身体を使う理由についてこれまで、体幹側の大きくて疲労しにくい筋肉を使うことで、セラピストの身体にかかる負担を軽くすること。

次ぎに、手先で操作するより身体を大きく使って操作したほうが、組織の抵抗感をより細かく感じることができる、触診の精度を上げることができるということ。

そのようなことをお話してきました。



最後にもうひとつ。

身体を大きく使う習慣を持つことで、小さく細やかな操作も安定して行いやすくなっていくからです。

このブログやセミナーなどで「小さな操作は大きな動作で」行うことを繰り返しお話してきました。
ひとりでできる!!関節あそび検査練習法シリーズもご参照ください≫



頚椎など小さな関節のモビライゼーションや、狭い範囲の軟部組織の異常に対するマッサージなど、小さく細やかな操作でアプローチする必要があります。

小さな操作を行うときは、身体を大きく動かしたほうが微妙なコントロールが行いやすくなります。



ただ最初は小さな操作を、大きく身体を動かして操作するという感覚もなかなか難しいかもしれません。

そのためまずは、日頃から何気なく行っている「下肢を屈曲させる」「頭部を側屈させる」といった大きな操作を、大きな動作で行えるよう習慣にさせておいたほうがよいのです。


「大きな操作は腕の力でやっているけど、いざ小さな操作をするときはきちんと身体を使うから大丈夫ですよ

なんて思っている方いませんか?


器用な方ならそれも可能かもしれませんが、ふつうの人はなかなか難しいでしょう。

集中力が必要な細かな操作をするときは、慣れ親しんだ動きが出てきてしまうからです。

ですからぜひ常日頃から「大きな操作を大きな動作で」行う習慣をつけるようにしてください。



スポーツや武道を習う時、はじめはコンパクトな動きを練習するのではなく、大きな動きで練習するはずです。

そして、身体を使って操作するということを身体で覚えたら、徐々にコンパクトな動きを練習していく。

そのような段階を経ることによってコンパクトな動きでも、自動的に身体を使って操作できるようになります。



きめ細やかな「小さな操作」を、身体から力らを伝える「大きな動作」で行えるようになるために、「大きな操作を大きな動作」で行う習慣をつけておく。

しつこくお話しましたが、とても大切なポイントだと思います。


次回は7月11日(土)更新です。


「押す」「引く」「まわす」という身体の基本操作 その4

2015-06-13 17:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回は「押す操作」です。

仰向けになったモデルの股関節を屈曲させる操作を行いましょう。



股関節と膝をある程度屈曲させ、外側の手は膝蓋骨付近を、内側の手は足首付近を持ちます。

そのまま押して股関節を屈曲させるのですが、これも何気なくやっていると、肘を伸ばす力を主に使って屈曲させていることがあるのではないでしょうか。




では身体を使った動かし方のひとつとして、外側の腰を前に押し出し、その力を外側の手を介してモデルの膝に伝えて屈曲させてみてください。

このシリーズの最初にご紹介した、でんでん太鼓の要領です。

もしくは、前進しながら腰を前に押していく操作でも結構です。




はじめの肘を伸ばす力で股関節を屈曲させる方法と比べて、どちらのほうが楽に操作できるでしょう?

おそらく後者ではないでしょうか?



もしかしたら身体を大きく使うことに慣れていないと、ぎこちなく感じてやりにくいと思う方もいらっしゃるかもしれません。

それでもできるだけ、身体を大きく使って動かすことに慣れておいたほうがよいでしょう。



これはセラピストの身体を傷めないようにするためだけではなく、触診の精度を高めるためという目的もあります。

ひとりでできる!!関節あそび検査練習法シリーズもご参照ください≫

今回は股関節を屈曲させましたが、可動域だけを調べるなら腕の力だけで押しても調べることはできます。

しかし手技療法を用いるなら、どこに異常があって股関節の屈曲が制限されているかというところまで調べなければいけません。



股関節が屈曲するに伴って関節はスムーズに、軸が不自然に変化することなく回旋しているのか?

どの角度で組織の抵抗感が強まってくるのか?

抵抗感を強めているのはどの筋線維の緊張や短縮によるのか?といったことも大よそ検討がつくように感じ取れるようになっておいたほうがよいでしょう。

そのためには手先で操作するより、身体を大きく使って操作したほうが、組織の抵抗感をより細かく感じることができ、異常がどこにあるのか見当をつけやすいのです。



あらゆる操作を触診として活かす。

そうすると少ない労力でより多くの情報を手に入れることができ、また、患者さんの負担を減らすことにもなります。

患者さんの立場になれば体がつらいとき、必要以上に時間をかけてあれこれ調べられるのは苦痛なもの。

可能な限り効率よく情報を集めるためにも、できるだけ多くの操作を触診の機会として活かすことが理想です。



そのためには繰り返しになりますが、セラピスト自身が身体のさまざまな部位を使うことによって、楽に操作出来るようになっておくこと。

そしてもうひとつは、操作しながら微妙な感触の変化を「意識」して感じるようにすることが必要です。



はじめから細かいところまでわかる必要はありません。

しかし、感じ取ることを意識し、集中してかつ地道に練習しなければ、触診の感覚が鋭くなることはありません。

バットやラケットの素振りをぼんやりしながらやっていても、上達しないことと同じです。

技術の上達は、何をどのように意識して練習するかが、とても大切だと思います。



次回は6月27日(土)更新です。