手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

ASTRの応用あれこれ

2009-04-25 20:00:00 | ASTRについて
前回はすでにあるテクニックを参考にしつつ、自由に発想して工夫を重ねて欲しいということをお伝えしました。


今回はその流れで、私がよく用いているASTRの応用や変法ともいえるような方法をいくつか簡単に紹介します。


そうそう、このように書くとASTRがベースにあって他があるという印象を与えるかもしれません


でも決してそうではなく、みんな同じ道具でプラスのドライバーとマイナスのドライバーの違いのようなものですよ






まずは、ストレッチした状態で圧迫をかけるという方法
 

私は指圧学校出身ということもあって、指圧や圧迫法をよく用います。


そのまま圧迫するだけでは機能障害を上手く捉えられないとき、あらかじめ組織をストレッチしておくと捉えやすいです。


最も緊張する角度に合わせてストレッチするのがコツです







次に、圧迫を加えたまま関節運動をくり返すという方法


伸張方向ではなく、圧迫方向に緊張が強い場合に用いています。


表層の緊張が強くて、上手くフックできないときにも使います。


関節運動(プレポジション⇔ストレッチポジション)をくり返す方向は、機能障害のある組織がよくストレッチされる方向です。







そして、圧迫を加えたまま筋収縮を行わせるという方法


前の技法と同様に圧迫方向に緊張が強い場合に用いますが、特に筋が慢性コンパートメントを起こして、筋腹がパンパンに膨れているときに行うと効果的です。


圧力を加えたまま患者さんに筋の収縮を行わせるなんて乱暴なようですが、決してムリはさせないようにすれば、自動運動であるために傷めてしまうほどの刺激は加わらず、安全に行えます。







以上の方法を用いた後、ASTRによって伸張刺激を加えるという段階的なアプローチももちろんOKです


参考になさって下さい

ASTRの応用と工夫

2009-04-18 20:00:00 | ASTRについて
ASTRの基本的なステップは


プレポジション…筋肉の起始と停止を近づけて、組織を弛緩させる。

フックポジション…制限に対して圧迫・伸張し、局所的に予備的な伸張刺激を加える。

ストレッチポジション…筋肉の起始と停止を遠ざけてストレッチを行い、フックした組織をさらに伸張させる。


というものです。


このステップに則ることで身体のあらゆる部位に対して、ASTRの特徴であるピントを絞った精度の高いストレッチをかけることができます


だからといって、このステップを金科玉条のようにしてこだわる必要はありません。


臨床では、機能障害に対して最も効果をあげるアプローチを行えばよいのです。







例えば私は、中立位でフックして筋の起始と停止を近づける ということもよく行います。

このようなイメージでしょうか









人間の身体をシンプルにみると、皮膚⇒皮下組織⇒筋肉という具合に層構造をしています。


触診をしていると、層どうしの滑り、いわば「滑動」が制限されているように感じることがあります。


調べ方は、皮膚に触れて横すべりさせるように動かして、動きの幅をみるというシンプルなものです。


滑動制限があるときに上図のような技法を用いると、層どうしの動きが改善し、機能の回復に伴って症状も良くなることがあります。


浅層で滑動が制限されている場合、皮下に軽い浮腫を感じることもあります。


これはもしかしたら、制限によって皮下のリンパ還流が低下したために浮腫が起こっているのではないか、などと考えています。






ちょっと脱線しました






大切なことはどのような性質の機能障害が、どの位置にどの深さで、どの方向に存在するかを導き出すことです。


繰り返しになりますが、評価によって制限の種類を導き出し、それを改善する技法であれば、直接法でも間接法でもマッサージでもストレッチでも何でもかまいません。


ASTRの基本的な技法も、導き出された機能障害に対するアプローチのひとつです。


今回紹介したようなASTRの応用といえる技法も、目の前にいる患者さんの機能障害を改善するにはどうすればよいかと、あれこれ工夫を重ねる中で行うようになったものです







私の願いのひとつは、それぞれの先生がすでに開発されたテクニックを参考にしつつ、自由に発想して工夫を重ね、新しいアプローチを生み出して欲しいということです


そして、そこからさらに第三者に伝えやすくするために整理してみてください。


ASTRでは3つのステップに分けるという方法をとり、伝達性や習得性が容易になるようにしました。


工夫し整理した成果を互いに教えあって分かち合えたら、さらに多くの患者さんの力になれることになります。


これってとてもステキなことだと思います。







私の想いはASTRの「序」に記してあるとおりです


お手元にある方は、ご一読いただければ嬉しいです

立派な枝ぶり

2009-04-11 20:00:00 | 治療についてのひとりごと
前回は身体の歪みについての記事でしたが、私があのような考えを持つに至ったのは、


「たとえ曲がっていても、枝ぶりが立派ならそれはよい盆栽だ」


という言葉を、整形外科医の松本不二生先生よりいただいてからです。


(松本先生は、私がお世話になった高野台松本クリニックの院長をされており、ASTRを共著させていただいた先生です。松本先生のご指導によって、私は臨床家として大きく成長することができました)







はじめて聴いたとき私は衝撃を受け、まさに眼からウロコでした


それまでは人間の身体は左右対称で、まっすぐ整っていなければいけないと思っていたからです


でも考えてみれば、顔にしても手足にしても完全に左右対称ということはありません。


それに、バランスが大切といっても動物にとって重要なバランスとは、静的に左右対称ということではなく、動的平衡が保たれているということであり、それが恒常性(ホメオスターシス)の維持であるというのは教科書にも書いてあることです。


筋骨格系にかんせば、きちんと曲がってきちんと反れるという動物としての運動機能の基本が発揮できるということが重要で、その上で力を抜いたときにまん中に来ていればそれに越したことがない、ということを表していると思います







では「立派な枝ぶり」とは何でしょうか?


私は折にふれてこの言葉を思い出し、立派な枝ぶりとはどういうことだろうと考えてきました。


それは、つまるところ「その人らしさ」ということではないかと思います


身体にはみんなそれぞれ個性があり、加えてこれまでの人生を通して身につけた、立ち方、歩き方、動かし方など生活スタイルが現れています。


大げさにいえば、その人の生きざまが現れているなどといえるかもしれません。


ですから、多少の曲がりやゆがみがあっても、その人らしく元気に生活できていれば健康であり「立派な枝ぶり」だといえます。


ちょうど、ポリオの後遺症や先天性股関節脱臼があっても、立派に子どもを育て上げられた前回のお二人のように。







これに対して、痛みなどの症状が出ている状態というのは、仕事や家庭などでの環境との間にムリが生じ、今のままのその人らしさでは、立ち行かなくなっているというサインです。


そのとき私たちは、機能障害への直接的なアプローチを行うと同時に、どうすれば再びその人らしさを発揮しつつ、生活に適応できるようになるのかを考える必要があります。


つまり庭師のような視点で、その木が環境と調和しつつ、枝ぶりが映えるように剪定するということになります


偏りによってムリのかかるところを示して自覚を促し、使い方の工夫やセルフケアによって、それをフォローする方法を覚えることなども大切になるでしょう。







単純に、身体はまっすぐかつ左右対称ならよいというのであれば、その人がどのような状況に置かれているのかということを考えなくて済みます。


でも、生物は環境を無視して存在することはできません。


環境との兼ね合いを考えない治療は、問題を生むケースも多いと思います


単純に症状をとるというだけではなく、何がその人らしい身体であり、どうすればその人の置かれている環境に適応できるようになるのかと考える


やや抽象的ではあり、決まった答えはないものですが、このように考えれば、私たちの仕事の幅もさらに広がるのではないでしょうか。







いやはや、もっともらしいことを書きましたが、これは自分自身に対して言い聞かせているようなものです

私自身もまだまだ至らず、目指す道のりは遠いですが、臨床においてはこのような姿勢でありたいと思います

めずらしく腹が立ったこと

2009-04-04 20:00:00 | 治療についてのひとりごと
先日、腰痛の相談で女子高校生とその母親の方がご来院されました。


腰痛そのものは、両側の股関節前面の筋が短縮して骨盤が前傾し、さらに腹圧のコントロールが上手くいかなくなっているために起こったもので、さいわい特別大きな問題はありませんでした。


ところがお話しをうかがうと、他の治療院でマッサージ師か整体師から「骨盤が歪んでいるから、将来、子どもが産めないかもしれない」といわれてショックを受け、とても心配しているとのことでした






私はふだんは温厚なほう(だと勝手に自分で思っているの)ですが、この手の話を聞くと、ハラワタが煮えくり返りそうになります


いったい何を根拠にそんなことをいっているのでしょうか


おそらく骨盤の歪みによって、その中に入っている内臓、この場合は子宮にもストレスがかかり、結果として妊娠できないという単純な組み立てだと思います。


しかしこのような考え方は、骨盤の歪みがあるにもかかわらず出産して元気にしている方がたくさんいれば正しいとはいえなくなります。


確かに、体性機能障害はさまざまな問題を引き起こす可能性があります。


ですから、妊娠しずらいケースがある可能性も全否定はできませんが、はっきりしていない以上は慎重であるべきですし、簡単に患者さんに口にするなどもってのほかだと思います







実際に、私がこれまで出会ってきた患者さんの中には、重度の先天性股関節脱臼のため、あきらかに骨盤に左右差があるにもかかわらず、お子さんを2人出産されてしっかり育て上げて立派に独立させた方もいらっしゃいます。


足は引きずらないと歩けないのですが、ご自身はダンスを趣味とされていて、少しでもスムーズに踊りたいという相談でみえていました


幼少期のポリオ後遺症によって、片脚が萎縮してしまった患者さんも、出産して子育てもきちんとされ、お仕事もしながらたいへん朗らかに過ごしていらっしゃいます。


つまり多少骨盤に歪み、左右差があっても無事に出産され元気に過ごしている方はたくさんいらっしゃるということです







しかも、半分脅し文句のようなことを言うだけで、どうしていけばよいかという対策も立てないところなど、とてもプロフェッショナルとはいえません。


その歪みが機能障害によるのであれば、手技療法などによって改善する余地は十分にあるわけですから、せめて「将来にそなえて、骨盤のまわりのバランスを整えておきましょう」とかそういうことばでも出て来ないものでしょうか。


まったく無責任きわまりなく、腹立たしいかぎりです


このような話はつい数ヶ月まえにも聞いたのですが、意外と耳にします。


のうのうとこのようなことをいう治療家がいては、いつまで経っても手技療法が医療界の中で斜めに見られていても仕方ありません。




たいへん嘆かわしいことです