手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

ひとりでできる!!間接法の練習≪間接法について≫ その3

2012-02-25 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回は、間接法をどのように活用するのかを紹介しましたが、そこで私の場合は主に直接法を使い、間接法は補助的な方法として用いることが多いとお話ししました。


それは私の治療方針にも関係しているのですが、今回はその理由を少しお話したいと思います。





私の治療方針は「受けていてわかりやすい治療をする」ということです。


治療を受けていて、何をされているのか、どこがどうなっているから症状が出ているのか、患者さん自身が感覚的に理解しやすいものになるよう心がけています。


そうすることで、症状に関係している部位が自覚でき、また自分でセルフケアをするコツも覚えやすくなります。





さらに身体の異常が、自分の生活の中から生まれてきたということを感覚的に理解できれば、最終的に治すのは自分なのだということを自覚しやすくなります。


すると、セルフケアや日常生活上での注意なども実行しやすくなると共に、セラピストへの依存心が少なくなってきます。

依存ではなく、より快適に生活を送るためにセラピストを活用しようという、前向きな意識に変えやすいのです。





一般の方が受けていてわかりやすいのは、縮んだ組織を直接伸ばす、押さえるという直接法です。


そのため私は直接法を中心に用いていて、ハードな治療も少なくありません。





これに対して間接法は、一般の方にはちょっとわかりにくく、場合によっては不思議な治療法という印象を与えてしまうこともあります。


薬や道具を使わないで治療に伴う痛みがなく、症状としての痛みがなくなったら、患者さんにとっては手品か魔法のように感じてしまうのもムリありません。


そうなると、自分ではできないのでセラピストにお願いしようという、依存心を持ってしまいやすいように私は感じました。





もうひとつ問題だと感じたのは、間接法はとてもソフトなテクニックなので、その方法ばかり用いていると、患者さん自身の感覚も刺激に対して敏感になりすぎてしまうことがあります。


なかには「自分はソフトな刺激でないと具合が悪くなる」と思い込み、自己暗示にかかったようになってしまう方もおられました。


そうなると、やさしい刺激以外は受け付けなくなってしまうこともあります。





私たちも動物なので、世間の荒波にもまれながら生きていかないといけません。


ですから刺激に対する打たれ強さも必要だと思っています。





おまけでもう一つテクニックの持つ特徴として、間接法はスパズムなど急性の筋緊張には有効なのですが、関節拘縮など線維化を伴う短縮には不向きです。


ただしこれは、私の技術力ではという意味ですよ。





以上のようなわけで、私も一頃は間接法を中心に治療を組み立てていたことがあったのですが、今は直接法につなげるためのステップとして使っています。


繰り返しになりますが、あくまでこれは私のスタイルですので、間接法を中心に使っているなど他のスタイルも当然OKなのですよ。


患者さんからの依存についても、私が上手く対処できていないだけだともいえるわけです。





間接法について、私が感じる問題点をお話ししました。

これは良い悪いではなく、あくまで特徴だということを忘れないでくださいね。


またまた繰り返しになりますが、間接法は学ぶことはたいへん有意義で、覚えておくととにかく便利です。





私は間接法を練習していたときに、組織がリリースするという変化を、はじめてリアルタイムで感じ取ることができました。


おそらく直接法で制限に対して刺激を加えているとき、はじめのうちは不必要な力が入り、リリースを感じ取れなかったのです。


これに対して間接法は、セラピストの手の力は必要最低限しか用いないということが、テクニックを成立させる必要最低条件です。


「受け身の姿勢」「待ちの姿勢」でいるために、感じ取ることに専念できるのだと思います。





そのために硬くこわばっていた組織が、じょじょに緩んで柔らかくなり、血流が回復し温かくなって、フワッと広がるように伸びていく、そんなリリースによる変化を感じ取りやすいのでしょう。


局所的変化だけではなくよく観察していると、身体の力が抜けて呼吸が深くなり、表情も穏やかになっていくという全身の変化を感じることもあります。

 
これはセラピストとしワンステップあがる、たいへん貴重な経験です。


私の場合はこの体験によって、患者さんが生きているということを実感として知ることができました。





「生きているなんて、当たり前のことでしょ」そう感じられる方もいるかもしれません。


そう、確かにそれまでも頭ではわかっていたのですが、感覚的に理解しているとはいえませんでした。


塩の味はなめてみないとわからない、ということと同じです。





リアルタイムにリリースを感じるという体験は、私の中で何かがはじけて変わったと感じさせてくれる出来事でした。


摩訶不思議なことをお話しするつもりはないのですが、どのような仕事でも長い間真剣に打ち込んでいたら、それまでの価値観を揺さぶられるような転機というのが訪れるものだと思います。


ですから、学生さんや新卒の方にお伝えしたいのは、仮に学んだテクニックを中心に使うことがなくても、そこで練習したことは必ず意味があるいうことです。


自分が気に入ったテクニックの習得に専念することもひとつの方法ですが、さまざまな技法を体験してみるということもよいことだと思いますよ。





前置きがずいぶん長くなってしいました


次回から練習に入っていきましょう。





ひとりでできる!!間接法の練習≪間接法について≫ その2

2012-02-18 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
間接法をどのようなときに使うのか?


セラピストによって、活用法に違いはあると思います。


なかには間接法が専門で、直接法はいっさい使わないという方もおられるでしょう。


ですから今回の話は、私の場合ということで参考にしてください。





間接法のように、おだやかで組織をただちにリラックスさせる手技は、組織が過敏になっていたり、患者さんが治療に対して不安を感じているときにはとても有効です。


痛みを訴えて不安なときに、痛みを伴わないソフトな方法で症状が軽くなり、可動域も改善したら患者さんも喜んでくれますので、信頼関係をつくっていくのもスムーズです。





また、基本的に手技療法は、炎症のサインがみられるなど組織破壊を伴っている部位には禁忌ですが、場合によって間接法は適用でき、役に立つ場合もあります。


たとえば、炎症を起こしている組織を取り囲んでいる筋組織が、防御反応に伴う保護的なスパズム(=spasm:痙攣)を起こし、それによって痛みがさらに強くなっていることがあります。


痛みもあまり強くなりすぎると、睡眠障害を起こすなどして、回復の妨げとなります。


そのようなときは、間接法によってスパズムを除くことで痛みを和らげ、回復の手助けをすることができます。


(患者さんによっては、痛みが軽くなると「もう治った」と勘違いして、動けなかった間にできなかった用事を急に片づけ始め、無理をして痛みをぶり返させてしまう方がいます。局所的な熱感など、炎症を疑わせる反応が残っている場合、数日間は無理をしないように念を押してお話ししてください





急性の問題ばかりではなく、慢性的な固有受容器の機能的な異常によって、緊張が持続している場合にも効果を挙げます。


このようなときには、長い間なかなか改善しなかった症状がその場で変化するので、患者さんもビックリしてしまいます。


はじめて経験するときは、セラピスト自身も内心ビックリしてしまいます。


表面的には平静を装って「変わって当然」という顔をしている訳ですが。





または、短縮した組織に直接法を試みたとき、かえって緊張が強まるなど反応がよくないようなら、間接法に切り替えて緊張をいちど低下させ、再び直接法によって伸張性・可動性を回復させるという用い方もできます。


ちょうど、開けにくくなった扉を無理に開けようとするのではなく、引っかかったら一度閉め、再び開けると上手くいくということに似ています。


「押してもだめなら引いてみな」ということですね(ちょっとくだけすぎかな)。


このように間接法を身につけておくと、アプローチの幅が広がってとても便利です。





ところで、私の場合は直接法を主に使い、間接法は補助的な方法として用いることが多いです。


なせそのようにしているのか?それは私の治療方針にも関係するのですが、そのお話は次回に。




ひとりでできる!!間接法の練習≪間接法について≫ その1

2012-02-11 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
関節あそび検査や、その延長上にある関節モビライゼーションは通常、直接法で行われます。


マッサージやストレッチ、筋筋膜リリースやASTRも、ほぼ直接法で行われます。


これに対して、間接法という方法があります。


これまで 「ひとりでできる!!」 シリーズでは、直接法の練習が中心でした。


今回は間接法の練習法を、筋筋膜リリースを用いてご紹介したいと思います。





はじめに、直接法と間接法の違いについて少しお話ししましょう。


「直接法(direct technique)」とは、かたい方向、抵抗の強い方向、制限のある方向、動かしにくい方向に動かしていく治療手技です。


かたく縮んで制限を起こした組織を、直接伸ばしていくというものです。


縮んだ組織を伸ばすわけですから、刺激を加えるときも抵抗を感じます。





反対に、やわからい方向、抵抗が弱い方向、制限のない方向、動かしやすい方向に動かしていく方法が「間接法(indirect technique)」です。


かたく縮んだ組織をさらに縮ませて組織をリラックスさせ、それによって間接的に組織の伸張性を回復させるというものです。


縮んだ組織をさらに縮ませるわけなので、刺激を加えるときも抵抗はあまり感じません。


そのため間接法は、直接法に比べて刺激がたいへん緩やかで、組織にかける負担もより少ないのが特徴です。






ちょっとシンプルに書きすぎたかもしれませんが、実施する上ではこのように捉えておくほうがわかりやすいと思います。


直接法・間接法のいずれも、関節モビライゼーションなど関節面に沿った刺激を加える方法にも、筋筋膜リリースなど筋筋膜に対して刺激を加える方法にも用いることができます。





直接法と間接法の特徴をもう少し付け加えますと、組織にストレスを加えた後の、二次的な反応としてリラックスさせるのが直接法です。


これに対して、組織にストレスをかけることなく、一次的な反応としてリラックスさせるのが間接法といえます。





または、「関節機能障害の表記について」でもご紹介した、変位(病変)という考え方を用いると、関節機能障害によって生じた変位(病変)から、より正常とされる方向に戻すように刺激を加えるのが直接法です。


変位(病変)をさらに誇張・強調する、変位している方向に動かす方法が間接法となります。





作用機序の比較としては、直接法が機械的な刺激によって短縮した組織を直接伸ばす、あるいは、神経系の抑制(たとえばⅠb抑制)により組織を弛緩させ、伸張性・可動性を回復させます。


これに対し間接法は、固有受容器や中枢など神経系の抑制(たとえば伸張反射の抑制)により組織を弛緩させると考えられています。





なかには直接法が熱力学モデル、間接法が流体モデルに則っていると解説しているものもあった記憶があります。


こうなると私はお手上げです。


いくつか並べましたが、何となくイメージできたでしょうか。





ところで、先ほどお話した『変位している方向に動かす』ということを聞くと、「変位を強めることになるなら、状態はより悪化するのではないの?」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか?


はじめは私もそのように感じたのですが、実際に学んでみるとそうとは限らないということがわかります。


もちろん、例えば頸椎5番が左に側屈変位していて、明らかに神経根を圧迫しているようなサインがみられるとき、変位している方向に動かすことはよくありません。


このような器質的変化の影響による症状なら禁忌ですが、筋肉が伸び縮みしないなどの機能的な変化なら、間接法は組織に無理をかけることがほとんどありません。


ですから、組織がどのような反応を示すのか、よく観察しながら用いる必要はあります。





次回は、間接法はどのようなときに使えるのかをお話したいと思います。




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☆ブログの目次(PDF)を作りました 2014.01.03☆)
手技療法の寺子屋ブログを始めてから今月でまる6年になり、おかげさまで記事も300を越えました。
これだけの量になると、全体をみたり記事を探すのも手間がかかるかもしれません。
そこで、少しでもタイトルを調べやすくできるように、このお休みを使って目次を作ってみました。
手技療法を学ばれている方、興味を持たれている方にご活用いただき、お役に立てれば幸いです。

手技療法の寺子屋ブログ「目次」


ひとことでまとめると何かを考える その5

2012-02-04 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回のテーマを通して学生や新卒者の方には、まとめるという作業を通して、学んでいただきたいことがあります。


それは、主体的な判断力を養っていくということです。




まとめ方というのは、視点や考え方などの切り口によって異なるので、さまざまな種類が生まれます。


数多くあるテクニックやメソッド、コンセプトというものも、その考案者自身の考え方の切り口でまとめたものです。


何に対する切り口かといえば、私たちの分野なら神経筋骨格系をみる上での切り口となります。


切り口ですから、ひとつのまとめ方ですべてを説明できるものはありません。


必ずその方法から漏れているところがあります。





何か魅力的な方法と出会ったとき、「これさえ学べば、自分はもう大丈夫だ」なんて思わないようにしましょう。


それはただの錯覚です。


私たちはさまざまな切り口の考え方を学ぶことで、漏れを少なくしていく必要があります。





そして、学んだ方法が役に立つものか、確かめようとする姿勢も求められます。


仮に権威ある方がお話しされたことだったとしても、鵜呑みにしないほうがよでしょう。


専門家個人の意見だけでなく専門家委員会の報告ですら、エビデンスレベルは「レベル6」と最も低くなっています。





確かめるといっても何も実験のような難しいことではなく、まずは実際に使ってみて、みなさん自身でその実用性を確かめるということです。


まず手始めに、今回のテーマで紹介した「私なりのまとめ方」を試みて冷静に見極めてください。





「けっこう整理しやすいかも」という方、そう感じていただけたら私もうれしいです。


ついでに、どういったところが整理しやすいと感じたのか、考えてみてください。


「こう変えたほうがいいんじゃないかな」という方、いいですね~。


その方法で、いろいろなことをまとめてみてください。


「よくわからない」という方、少なくとも私が紹介した方法ではわからない、ということがわかっただけでも前進です。


これを手がかりにして、他のものも試しつつ、どうすれば自分が理解しやすくなるか、工夫してみてください。





こうして自分なりにまとめるという作業を通して、主体的な判断力を養っていくということができます。


まとめた結果うんぬんよりも、まとめるプロセスを通して判断力がトレーニングされることのほうが、大切なことのような気がします。





ところで話は変わりますが、今回の 「私なりのまとめ方」 なら考えるだけでよいのですが、テクニックについて見極めるためには、基本的な技術を身につけておくようにしなければいけません。


とくに技術が未熟だから上手くいかないのに、「この方法は使えないや」では、考案者が気の毒です。


ですから私は、この手技療法の寺子屋ブログでも基本をうるさく言っているわけです。





コンセプトにせよ、テクニックにせよ、自分で主体的な判断ができるようになれば、これまで見落とされていたことにも気づくかもしれません。


そこから新たな切り口でまとめたことを臨床研究によってつみ重ねていくことで、神経筋骨格系に対する診方の漏れをより少なくし、学問を進歩させることになると思っています。





それからもうひとつ、学生さんや新卒の方に覚えておいてほしいことがあります。


いろいろなまとめ方を学んでいく中で、それぞれ考えが異なっているようにみえるかもしれません。


けれども、同じ人間をみているという共通するところがあるわけですから、常に他とのつながりを忘れないように意識しておいてください。


リンゴを縦に切っても横に切っても、見た目の切り口が違というだけで、リンゴはリンゴです。





たとえばシリーズ「徒手的テクニックの使い分け」では、「動き」をという視点から、それを回復させるための「刺激の種類」と「刺激の方向」で切り分け、以下のような表にまとめました。




これに対し今回のシリーズでは、人間の「疲れ」という切り口から以下のようにまとめました。




一見すると、異なる表です。


しかし、きちんとつながりはあるのですよ。





私たちは、「疲れ」ると「動き」が悪くなりますし、「動き」すぎると「疲れ」ます。


また「疲れ」のなかには「動く」ことで回復するものもあります。


このように「疲れ」と「動き」も結びつきが深い関係です。


上の2つ表は、同じ人間に起こる現象を、違う視点でまとめただけで、互いにつながっているといえるのですね。





日本の禅文化を海外に紹介した鈴木大拙博士は「人間の精神が幼い間は違いを憎む。ところが成熟してくると違いを楽しむようになる」ということばをのこされています。


これは、より広い視野で考えられるようになることで、互いの異なるところと共通するところがよくみえるから楽しめるのようになるのではないかと思います。


私たちも自分と異なる考え方やアプローチに、楽しんで接することができるようになりたいですね。





そうなるために、さまざまな考え方に触れながら多様性を理解すること。


それぞれの共通性を主体的に判断してまとめていく力を養っていけるように、私も自分なりにトレーニングしています。


今回のシリーズでご紹介した方法が、みなさんの力を養うことに役立てば嬉しいです。