手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

関節の構成運動を感じよう !!その2

2010-03-27 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回から実技に入ります。


知識はというのはもちろん必要ですが、ここでは「どのように感じるか?」ということを大切にしてお話したいと思います







まずは、「凹の法則」で起こる「すべり運動」を触診によって感じる練習です


左示指の中手指節関節(MP関節)を使って練習しましょう。


右手で左指をくるむようにつかみ、左示指の中手指節関節上を、背側から示指でコンタクトします





右手で左示指を背屈させましょう








このとき 正常なら、基底骨の基部が背側に「出てくる」ような感触を覚えます 


下のイラストなら、右の関節窩が背側に出ているような感じです




まずは、この「出てくる」感覚をしっかりつかみましょう







その上で余裕が出てきたら、関節面をコンタクトしている右示指だけではなく、保持している他の指の感覚も働かせて、MP関節全体をイメージしながら動かしてみましょう。


中手骨の上で基節骨がすべっている様子を、立体的に感じることができますか?
 


そこまでできればOKです







このMP関節に機能障害があるときは、関節窩がスムーズに前へ出て来ず、動きがぎこちなかったり、引っかかったりする感じがします


下のイラストのように




このような異常を感じたら、次に正常な動きを妨げている抵抗感が、関節面のどの位置にあるのか感じ取るように集中して動かしてみて下さい 


腹側でしょうか? 背側でしょうか? 内側、外側、それともこれらの組み合わせでしょうか?


それをはっきり認識することが出来たら、関節モビライゼーションなどを使って治療するときも、その抵抗感がある方向に向けて行えばよいでしょう。


こうすることで、ただ漫然とモビライゼーションを行うよりも、より精度の高い刺激を加えることができます







もしかしたら、関節面にそのような抵抗感はなく関節をまたいで感じるかもしれません。


そのようなときは、緊張している組織に対してマッサージを行うのもよいでしょう


ちなみにASTRは、このようなとき特にオススメできます


というのもこの場合、通常のストレッチなら、関節の引っかかりを感じた角度(制限)から伸張刺激が加わります。


そうなると、関節の異常運動を起こして関節面を傷める可能性があります


上のイラストの状態がまさにそうですね。







ところがASTRは、はじめに弛緩させた組織に対してフックを行うために、予めある程度伸張しておくことになります。


そのため次のストレッチに入ったとき、制限がある角度に達する前に、緊張した組織に対して十分な伸張刺激を加えることができます


関節包外の問題によってすべり運動の制限があった場合、ASTRを行った後に再び評価すると、関節がスムーズに動いていることを確認することができます。


ぜひ、お試しください







次回は、「凸の法則」による関節構成運動の動的触診です



関節の構成運動を感じよう !!その1

2010-03-20 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
関節の「あそび運動」を触診で練習する方法について、以前「ひとりでできる!! 関節あそび検査練習法」としてご紹介しました。


今回からは4回シリーズで、「ひとりでできる!!関節構成運動の触診練習法」をお伝えしたいと思います


まずは、かんたんに知識の整理からはじめましょう







 関節構成運動とは、自・他動動運動によって起こる、意識して動きを出すことが出来ない関節包内の運動のことで、「滑り」「転がり」「軸回旋」の3つの運動があります。







「すべり運動」とは、一方の関節面の接触部位は変わらずに、他方の関節面の接触面を変えながら運動が起こることです。 


このように書くと難しいのですが、氷の上を滑ったときに、足の裏は地面についたまま変わりませんが、地面の氷はどんどん場所が変わっていきます。

これが「すべり」です


生活感覚では簡単でも、文章で定義づけると何だか難しくなりますね







「転がり運動」とは、関節面相互の接触部位が一対一の割合で変わりながら動くことです。 


ちょうど前方へでんぐり返りをしたとき、背中と地面の着く位置は互いに変わりながら回転していきます。


これが「転がり」です







「軸回旋運動」とは、一方の関節面に対して他方の関節面が、ある軸を中心として回転することです。


フィギアスケートで、最後にクルクル回っているアレですね。







関節構成運動のなかでも、機能障害としてよくみられ、症状としても大きな影響を及ぼすのが「すべり運動」の減少・消失です


「すべり運動」が消失すると、どのようになるのでしょうか







「凹凸の法則(concave-convex rule)」に基づいて確認しておきましょう。


凹凸の法則とは、骨運動と関節面の運動との間に起こる一定の法則のことです。


関節は基本的に、凹の関節面と凸の関節面の組み合わせで出来ています。


骨運動が起こる側の関節面が凹か凸かによって、凹の法則と凸の法則に分かれています。







まずは「凹の法則(concave rule)」です。


凸側の関節面を固定し、凹側の関節面が運動する場合、関節面は骨の運動と同じ方向に滑るというものです。


下のイラストのように、頭側へ骨運動が起こると共に、すべり運動も頭側に起こることで、関節面は適合性を保ったまま運動することができます。






では、ここですべり運動が起こらないとどうなるか?


頭側へ骨運動のみが起こると、下のイラストのように、ビンの詮を、栓抜きで空けたときのようなテコの運動になってしまいます。


その結果、関節面の適合性が悪くなって関節同士がぶつかり合うかたちになり、やがては損傷に至ってしまうことになります











つづいて「凸の法則(convex rule)」です。


これは、凹側の関節面を固定し、凸側の関節面が運動する場合、関節面は骨の運動と反対方向に滑るというものです。 


ちょうど下のイラストのように、頭側に骨運動が起こるのに対して、すべりは尾側に起こります。







このとき、転がり運動は頭側に起こっていますが、尾側へのすべり運動が起こっているために、関節の位置はズレずに適合性を保ったまま運動できるわけです。


ところが、すべり運動が起こらないと、頭側への転がり運動によって、骨頭の位置が頭方に移動し、関節窩から飛び出そうとする動きになります。


そして、関節面同士がぶつかり合うようになり、やはり損傷するに至ってしまいます










このように、「すべり運動」が確保されているかどうかは、関節の機能にとってとても大切になってきます。


それでは次回から、この「すべり運動」を感じるとるための練習法を紹介します。





☆ブログの目次(PDF)を作りました 2014.01.03☆)
手技療法の寺子屋ブログを始めてから今月でまる6年になり、おかげさまで記事も300を越えました。
これだけの量になると、全体をみたり記事を探すのも手間がかかるかもしれません。
そこで、少しでもタイトルを調べやすくできるように、このお休みを使って目次を作ってみました。
手技療法を学ばれている方、興味を持たれている方にご活用いただき、お役に立てれば幸いです。

手技療法の寺子屋ブログ「目次」


使えるかな? 入院中のふくらはぎのケア ≪セミナーのご案内≫

2010-03-13 20:00:00 | 治療についてのひとりごと
今回は、みなさんにぜひお試しいただきたいことがあります


それは、テニスボールを使ってふくらはぎをケアする方法です。


脚のだるさや疲れはもちろんですが、むくみやこむら返りの予防にも役に立ちます


とくに病院や老健施設などでお仕事していらっしゃる方、「 もしかしたらいいかも 」と感じられたら、入院・入所中の高齢の方におすすめしていただけたらと思っています。
 







方法は簡単です


あおむけで寝て、ふくらはぎの下にテニスボールを置き、反対の脚を組むようにしてのせます。





もちろん刺激が強いようなら、片脚だけでもかまいません。


そのままで気持ち良いなら、乗せておくだけでもよいですし、金魚運動のように脚を左右にモゾモゾ動かして刺激してもいいでしょう。


けっこう気持ちよくないですか?







≪これで物足りないようなら、正座をして行う方法もあります。こちらをご参照ください。
くつぬぎ手技治療院 「身近な道具を使って、かんたん! スッキリ!! コリとり体操」







高齢者の方にとってポイントとなるのは、この「気持ちよい」 ということと「金魚運動」です。


ご高齢で入院・入所中の方に、配慮しなければならない大切なことのひとつが廃用の予防です


とくに、体幹筋力の維持はとても大切なテーマです


しかし、予防のために運動を行うとなっても、体力が落ちていたり、何より気力がわかないと継続は難しいというのが実際のところではないでしょうか







そこで、このテニスボールを使ったふくらはぎのケアをおすすめしたいのです。


このケアのポイントである「気持ちよさ」というのは、人間の意欲に対してプラスに働きます。


そして、もうひとつのポイントである「金魚運動」は、体幹筋を働かせることになります。


実際に行ってみるとわかりますが、意外と腹斜筋や腰方形筋を使います。







入院・入所中の方で脚のだるさやツレを訴える方は少なくないと思います。


リハビリでカバーしようとしても、他のメニューが優先されると、なかなか手が回りにくいのではないでしょうか


そこで、患者さんご本人に自分でテニスボールを使ってふくらはぎケアをしていただきます。


この刺激が「気持ちよい」と感じてもらえるようなら、自発的に継続させやすいはずです。


そして、モゾモゾ動かしている間に体幹筋も刺激され、廃用をいくらかでも防ぐことができるのではないか!そのように考えています。


廃用を予防するために運動するのではなく、「気持ちよい」ことをしていたら、勝手に運動になっているという状態にするわけです。







もちろん身体状況にもよりますし、意識があって自分でコントロールできるということ最低条件になります。


ですから、全員に適応というわけにはいかないはずですが、この方法が役に立つ方もなかにはいらっしゃるのではないかと思います。







私は入院・入所施設で仕事をしたことはないのですが、以前、ケアマネージャーをして施設を回っていたころ、脚のツレのような、積極的な治療やリハビリの対象にはならないけれど、患者さんが困っていることを何とかできないものだろうかと考えていました。


治療院を開業してここ数年は、疲れきっていてエクササイズをする気力がわかなくても実行しやすいように、身近な道具を使ったケアの方法にも力を入れてきました。


とくにテニスボールを使ってケアする方法は、日ごろ運動をしない方、運動嫌いな方でも気に入って習慣にされることが多く、手ごたえを感じていました。


そして、たまたま他の病気で入院して方が退院してきた後、「同室の人たちは背中がしんどそうだったり、脚がつって大変そうだったけど、自分はベッドの上で、テニスボールでケアをしたらそのようなこともなく、快適に過ごせた」というお話をうかがい、今回のようなことを思いつきました。







私の治療院を利用して下さる看護師さんたちにもお話しするのですが、なかなか勝手に取り入れるのは難しいようです。


コストもあまりかからず、よい方法だと思うので私としては何とか広めることができないものかと考えています


このブログをご覧になっているみなさん、興味を持っていただけたら、ぜひお試しになってみて下さい。


結果や感想をお教えいただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いします







寺子屋セミナー「手技療法の基礎講座」のお知らせ

2010年1~3月は、ASTRなどの手技療法を用いる上で、私がもっとも大切にしている基本的なことをお伝えしたいと思います。

3/20(土) 18:00~ 2時間セミナー『手技療法に役立つ身体の使い方~治療の効率を高め、術者への負担も少なくするために大切なこと~ 』
3/21(日) 10:00~ 5時間セミナー『腰椎の可動性検査と関節モビライゼーション』

興味をお持ちの方は下記リンクをクリックなさって下さい。


くつぬぎ手技治療院「手技療法の寺子屋」


ASTR応用の実際 その2 ≪セミナーのご案内≫

2010-03-06 20:00:00 | ASTRについて
前回、宿題?にしました、菱形筋、中・下部僧房筋(左)へ中立位でフックし、起始と停止を近づけるというASTRを実際に行ってみましょう。





①モデルは右側臥位になる。





②セラピストはモデルの背側に位置し、左手でモデルの肩を保持し、肩甲骨を中立位にさせる(プレポジション)。



プレポジションは筋肉の起始と停止を近づけて組織を弛緩させることを目的にしますが、その程度はフックできる程度弛緩させればOKです。


写真のようにモデルの身体が後ろに倒れないよう、セラピストの膝で支えてあげるとよいでしょう。








③セラピストは右手の手根部で肩甲間部の菱形筋、中部僧房筋に押圧を加え内方に滑らせる(フックポジション)。 


皮膚に大きなシワを作るつもりでフックしましょう。





④左手で保持している肩を前方から後方に向けて押し、肩甲骨を内転させつつ、フックした部位をさらに内方に滑らせ伸張することで、筋膜を滑走させる(ストレッチポジション)。




 
ちょうどこのような感じになります








⑤ ②~⑤を数回繰り返す。









いかがでしたか?同じようなかたちだったでしょうか?


これはあくまで一例ですので、他のかたちでももちろんOKですが、私がいろいろ試してみて、この方法がいちばん行いやすかったです







このタイプの筋膜の制限は、意外と見落とされがちで、そのため患者さんの症状がなかなか良くならないこともあります。


強い苦痛を強く訴えているものの、触診で押さえてみても、それほど緊張は強くないというときに、筋膜の滑走が制限されているということもあります。


実際にASTRを行ってみると、手根部で押さえているだけなのに、患者さんは 『つねられている』 ような感覚を覚えてビックリすることがあります。


ですからあらかじめ、「手のひらで押さえているだけですけれど、つねられている感じがするかもしれないですよ」 とお伝えしておくとよいでしょう。







はじめはつねられているような感覚でも、何度か治療を行っていくうちに、何ともなくなってきます。


そうしたら 「以前はすごくつねられた感じがしたけど、今はぜんぜん平気です」 とお話され、自分の身体が軟らかくなり、良くなっているのだと感覚的に理解されるようになります。


その頃になると、背部の不快感も少なくなっているはずです。


ここで必要に応じて、肩甲骨を内転させるエクササイズも行っていくとよいでしょう







そうそう、猫背のために菱形筋や中部僧房筋が伸張されていたということは、大胸筋は短縮していることが多いです。

大胸筋の短縮をとっておくことも大切ですよ~










寺子屋セミナー「手技療法の基礎講座」のお知らせ

2010年1~3月は、ASTRなどの手技療法を用いる上で、私がもっとも大切にしている基本的なことをお伝えしたいと思います。

3/20(土) 18:00~ 2時間セミナー『手技療法に役立つ身体の使い方~治療の効率を高め、術者への負担も少なくするために大切なこと~ 』
3/21(日) 10:00~ 5時間セミナー『腰椎の可動性検査と関節モビライゼーション』

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