手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

治療中の姿勢 その3≪身体のつかい方≫

2009-01-31 20:00:00 | 治療についてのひとりごと
腰椎は軽く屈曲して骨盤を立て、膝は曲げる。




これで脊柱起立筋がリラックスできるはず…、とは実は限らないのです


というのも、いくらリラックスできる姿勢をとっていても力んでしまう方がいるからです


そうなると良い姿勢、楽な姿勢をとっている意味がありません


そこで、きちんと力が抜けていることを覚えて、その状態をキープする必要があります。







まずは上の写真の姿勢をとったまま、身体をブラブラゆさぶって力を抜いた状態をつくります。


つぎに、起立筋に手を当てて上体を前後にゆっくり動かし、もっとも起立筋の力が抜けている角度を探します。



そこが起立筋のリラックスできている姿勢、ということになりますね


ではそのまま上体をできるだけ動かさないで、起立筋に力を入れてみてください。


そうです。等尺性収縮をするわけです。





いかがですか?


同じ姿勢でも印象がずいぶん違うのではないでしょうか。


力が入りにくいという方は、それだけ上手くリラックスする姿勢をとれていたということなのでたいへんけっこうです。


でもここは実験なので、ほんの少し骨盤を前傾させてみてください。起立筋に力が入りやすくなると思います。


こうして、力が抜けている状態と入っている状態をしっかり身体で覚え、力んだらきちんと自覚できるようになっておき、仕事中に気づいたらすぐに修正するわけです


バイオフィードバックを用いたトレーニング方法ですね。







臨床でも、姿勢は良く見えるのだけれど、肩がこる、腰が痛いなどの症状を訴える方の中には、無意識の力みが原因となっていることもよくあります。


つまり、見た目のかたち(姿勢)だけではなく、身体の中でどのような力が働いているかが問題になります


この視点は、筋骨格系の機能障害の臨床でとても大切なポイントです。







ところで、みなさんは千本ノックというものをご存じですか?


野球の特訓法のひとつで、ノックされたボールをとってファーストに送球するということを延々と繰り返すものです


長嶋茂雄さんも受けたと聞いているのですが、今もあるのでしょうか


この千本ノックの目的は、体力をつける、あるいはド根性をつけるというのではなく、じつはうまく力を抜いたプレーができるようになる、ということだそうです。


私も意外に思いました


無駄な力みがある状態では、とてもとても千本ノックに耐えられません。


そのためには、力を抜いてプレーするということを覚えざるをえないわけです。


そういわれるとなるほど納得です


でもそこは昭和のトレーニング方法。そんなことまで教えられるわけはなく、本人が気づくまでのたうちまわらせたそうです。


まさに荒業ですね

治療中の姿勢 その2≪身体のつかい方≫

2009-01-24 20:00:00 | 治療についてのひとりごと
前回紹介した、腰椎が屈曲して骨盤は後傾している姿勢を取るときに、とくに大切なことがあります。


それは、しっかり膝を曲げるということです。





このように膝を曲げることで、上体は棘上・棘間靭帯など非収縮性の軟部組織に支えられ、脊柱起立筋は最小限の働きになって休むことができます。






膝が伸びたままでは…





この姿勢を保つために脊柱起立筋が緊張するので、かえって腰痛を起こしやすくなります。


これに近い姿勢で治療されている方を、ちょくちょく見かけませんか。






「膝を曲げて腰を落とす」


スポーツや舞踊など運動をされる方は、このようなことをよく耳にされたのではないかと思います。


この「腰を落とす」というのは骨盤を後傾させる、ということでもあります。


う~ん、後傾というと極端に傾けることかと思われるかもしれません。


そうなると「腰が抜けた」状態になってしまうなぁ


後傾というよりも「直立させる」といったほうがいいかもしれません


スポーツでは「骨盤を立たせる」という表現で指導される方もいらっしゃいます。このことですね。







もちろんこれは状況によりけりです。


重量挙げのような瞬間的に力を入れて物を持ち上げるときは、骨盤が前傾して腰椎が伸展するいわゆる「腰が入る」ことが大切です。


しかし、「構え」のような姿勢をとる場合は、膝を曲げて腰を落とす(骨盤が立つ)状態がよいということになります。


治療中では反復刺激を送る、あるいは治療部位を変えるなかで、この間をユラユラ動くことによって腰にかかる負担を分散させるわけです







ところで、身体の動かし方なんて書いているので、私はさぞかし運動ができるのだろうと思われる方もいらっしゃるかもしれません


でも実は、何を隠そう大の運動音痴です


おまけに喜んで身体を動かすほうではありません。どちらかというと、物思いにふけってボンヤリしているほうが好きです


運動といえばせいぜいウォーキングぐらいで、夏の間は足にアンクルウェイトと巻いて歩きますが、冬は雪で道がツルツルになるので、おっかなくってやりません


さらに手も不器用ときていて、字も下手です


(セミナーで黒板に書いた字をご覧になった方はご存じだと思います)







そんな私が、どうして身体の使い方なんて大それたことを書くのか?


それは、私と同じように運動音痴で不器用な仲間のためです。


不器用な私が工夫してできるようになったことは、不器用な仲間にもきっと役に立つだろうと思います







もうひとつ、数学が好きでも計算の嫌いな人が数学者に向いているという話も励みになっています


なぜ向いているのか?


その理由は、計算が嫌いなのでもっと効率のよい解き方はないかと工夫して、新しい解法を発見するからだそうです。







私は手技療法が好きです


そして、運動嫌いで不器用だからこそ、要領や効率のよい動かし方を、誰にでもできる方法で行えないものかと考えています。


だから「向いているかも」なんて勝手に解釈してあれこれ考え、自己満足にひたっています


でもその自己満足が、たくさんの仲間の役に立ってくれれば嬉しいなぁ、と思っています

治療中の姿勢 その1≪身体のつかい方≫

2009-01-17 20:00:00 | 治療についてのひとりごと
治療中に腰が痛くなった経験ってありませんか?







私はあります。まわりに聞いてもチラホラ耳にします。


痛くても、患者さんには気づかれないようにしますよね。これって「ミイラとりがミイラになる」ですからちょっと恥ずかしいです


それも身体介助のように、いかにも腰に負担がかかる作業ならわかるのですが、ふつうにマッサージや指圧をしているうちに痛くなることもあります。







どうしてでしょうか?


前かがみの姿勢で仕事をしているから?


それもあるかもしれませんが、それだけが原因なら治療家は全員腰痛持ちのはずです。


同じ仕事をしていても腰痛になる人とならない人、あるいはなる時とならない時があるのはなぜか?


理由のひとつとしては、身体のつかい方が違うということが挙げられるでしょう。







手技療法のテキストに載っている写真などをみていると、とってもよい姿勢で治療している様子がたくさん写っています。


こんな感じで。



いや、もっと良い姿勢かな?

(一人で携帯カメラのセルフタイマーを使って撮ったのですが、ちょっとさみしかったです


とにかくこのように、背筋がピーンと伸びた状態です


なかには身体が反っているものもあるくらいです。


治療の流れの中で一時的にこのような姿勢をとるのはよいのですが、ずっとこのままキープしようとすれば、たいてい腰を痛めます


なぜかというと、常に脊柱起立筋を緊張させた状態だからです。


この姿勢で体幹を固定したまま、身体を前後に動かしてマッサージなどを行っている人もなかにはいます。


腰にとっては固定するようにふんばったまま、重心の移動にも対応しなければならないので、たまったものではありません







そこで、私はこのような姿勢もとっています。




見てくれはあまり良くないかもしれませんが、私は前者の姿勢に加えて、後者の姿勢も織り交ぜるようになってから腰痛は起きなくなりました。


白衣なのでよくわかりにくいのですが、はじめの写真は腰部が伸展し骨盤は前傾しているのに対して、こちらは腰部が屈曲して骨盤は後傾しています。


異なる表現を使うと、前者は脊柱起立筋などの筋力で支えているのに対し、後者は棘上・棘間靭帯などの軟部組織に引っ張ってもらっている、それらに身を委ねている状態です。


この二つを使い分けることで負担を分散させているわけです


これらの中間あたりの姿勢をとることも、もちろんありますよ。



大切なことは、身体の同じところばかり負担をかけ続けることは避けなければいけないということです


慣れてくると、無段階に調節して負担を分散できるようになります。


治療中に腰が痛くなるという方、どうぞ参考にしてみてください。






ところで、修行をしたお坊さんはなぜ坐禅を長時間組めるのでしょうか?


みなさんはどう思いますか?


その答えは、外から動いていないように見えても重心をじょじょに変えることで、負担を分散させているからです。


じつは以前、このテーマをテレビで取り上げていたのですが、それを見ていて私は思わず感心してしまいました。


座禅中のお坊さんは動いていないようでも、ある意味では動きのエキスパートなんですね。


おそらく自覚してではなく無意識に動かしているのだと思うのですが、これができないと身体を傷めてしまって、とてもじゃないけど精神力だけでは続かないはずです。


つまり、いくら良い姿勢とはいえ、固定された状態は決して良いとはいえないということになります








前傾姿勢を続けているようでも腰痛を起こさない治療家は、そのような負担の分散が身体の中で上手く出来ているのでしょう。


あらゆる仕事でも同じことがいえます。


いかに負担を分散させるかということは、腰痛などを繰り返す患者さんにアドバイスするうえでも大切な着眼点になります










それにしても、患者さんにはアドバイスするのに、私たち自身が実はできていないことって意外とあると思いませんか。

私もハッとすることがけっこうあります









このシリーズもしばらく続きますよ~

マネすることからはじめてみよう…その4 ≪評価について≫

2009-01-10 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回は前々回の記事、受動的短縮についてのおまけです。


「受動的短縮」とは、筋肉の起始と停止が近づいた状態のまま長い時間過ごすことによってその筋肉自体がが縮んでしまうことでした。


猫背の姿勢で座り続けることを例にして、後頚部や腹部、ハムストを受動的短縮が起きる部位としてあげました。


ここで、受動的な短縮を起こしたところは自覚しにくく、私も腹部やハムストは何も感じないと書きましたが、もちろん症状を出すことも少なからずあります。






例えばハムストの短縮があると、膝の完全伸展が妨げられます。


膝は、完全伸展位で下腿が外旋することによってロッキングが起こり、関節が安定します。


よって膝の完全伸転が妨げられると、関節の安定性が得られないために負担がかかり、膝の痛みが起きやすくなります。


(特に内側ハムストの短縮によって、下腿の外旋が制限されると影響はより大きくなります。)


実際に、何年もデスクワークを続けてハムストがすっかり短縮しているのに、急にジョギングを始めた結果、膝を痛めた患者さんにそれが起こっていたこともありました。






ジョギング中に腹痛を起こす原因が、実は腹直筋の短縮だったということもあります。


夜間、仰向けで寝ているときの腰痛を訴える方では、短縮した腹直筋の関連痛としてそれが起こっていたケースもありました。


同じ就寝時の腰痛が、腸腰筋の短縮によることもありますし、大腿直筋や大腿筋膜張筋の短縮によって骨盤が前傾して腰椎が過伸展し、動いた拍子に腰部多裂筋の反射的なスパズムによって腰痛になることもあります。


機能障害による発症パターンは、挙げればきりがありませんね






このように、受動的短縮などの機能障害が連続して起こっいていたとしても、私の場合は頭痛、人によっては腰痛や腹痛、あるいは膝の痛みと実際に発症する部位はそれぞれです。


なぜそのようなことが起こるのか?いちばん弱いところに出るとか、機能障害の程度が強いところから起こるとか、いろいろ考えられますが、ホントのところは私にはわかりません


この機能障害≠症状ということが、ややこしいところです。


だからこそ問診や視診、そして触診によって、その患者さん固有の問題を評価できることが重要になってくるわけですね。


そうなるためのひとつの練習法として、患者さんの動きや姿勢をマネすることは、とても勉強になります。







ちょっと強引なまとめ方だったかな?

迎春:タイトル変更しました

2009-01-03 10:41:55 | よもやま話
あけましておめでとうございます






新しい年を迎えたのを期に、ブログのタイトルも変更してみました。


その名も「手技療法の寺子屋」です


そう、当院で開催しているセミナーと同じタイトルです。






今月でブログを開設して1年になろうとしていますが、あらためてバックナンバーを見てみると、なんとほとんどが手技療法の記事でした


そういえば、私は生まれてこのかた日記が苦手で続いたためしがなく、夏休みの宿題の日記も8/31にでっち上げて書いたものでした


しかし手技療法のことなら、あれこれ頭を悩ませつつも書くことができます。それならということで、いっそタイトルも変えてしまうことにしました。






寺子屋といえばその昔、読み・書き・そろばんなどの基本を繰り返していねいに教えたそうです


私が当院のセミナーを「寺子屋」としているのも、手技療法の基本的なところをじっくり大切に伝えたいと思ったからです。


今の世の中は忙しいためなのかインスタント感覚が主流のようで、てっとりばやく身につけようとする方が多いように思います




しかし、やはり手間ひまかけないと身につかないことはたくさんあります




評価にせよテクニックにせよ、技術的なことは繰り返し練習しなければなりません。


球技のドリブルやシュート、格闘技の突きや蹴りなどの基本練習というのがどれほど大切なものなのか説明はいりません


ところが手技療法は、その基本を習得するステップすら整備されているとはいえないのではないでしょうか






基本の中でも私がいちばん重視しているのは、何度も書いて来ましたが「身体の使い方」です。


テクニックを使うとき、身体の力を使ってということはよくいわれます。


ではどう使うかというと「体重を乗せて」にとどまっていることが多いようです。


そのため、体重を乗せにくいところは手先の力を用いがちです。


手先の力を使うと、組織の緊張状態を感じ取るモニターの感度が落ちるとともに、微妙な力のコントロールをしにくいので患者さんによけいなダメージを与える可能性があります。




そして、治療家自身の身体も傷めやすくなります




せっかくこの業界に入ったのに、指などの身体を傷めて離れてしまう方と今まで何人も会ってきました。


自分の身体を傷めるというのは、たいへんマジメな方です。


手を抜いて適当にやっていたら、自分の身体を傷めるなんてことはないでしょう。


(そういえば手抜治療院と領収書に書かれたこともあったなあ… くわしくはこちら)


そんなマジメな方が、業界から離れてしまうなんて私はとても悲しいです






そのようなことが起きないよう、習得方法をステップ化していく必要があります。


センスがものをいう面があるのは何ごともおなじですが、それを技術化して、より多くの後進が努力さえすればきちんと習得できるように整備していくのは、先にこの道に入った者の務めだと思います。




そして、それが多くの患者さんのためでもあります




ですから私は、いろいろなテクニックの共通要素をまとめて、どのテクニックを行うにせよ身につけておかなければならない技法を整備したいと思っています。


まずは私自身も考案にかかわったASTRを主として、試行錯誤しつつその成果をお伝えするつもりです。


「手技療法の寺子屋」にはそのような思いを込めています。


セミナーと合わせて、ブログでもそのようなことができたらいいなと思います。


でも考えが煮詰まって、更新が滞ったときはご勘弁してくださいね


それでは、今年もよろしくお願いします