手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

ひとりでできる!!関節モビライゼーション(直接法)練習法 その3

2011-04-30 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回、指先・手首・肘・肩の力を使って、DIP関節の側方すべりを練習していただきました。


ここまでできれば、さらに体幹を側屈させる力で検査をしてみてください。


写真は床方向へのすべり(尺側)ですが、反対方向に体幹を側屈させて天井方向へのすべりも調べましょう。





これは、一方の手を中節骨の固定するために使っているため、固定側の上肢を動かさずに、体幹から可動させる力を伝える必要があり、ちょっと難しいかもしれません。





側屈した時に、固定側も同時に動いてしまいませんか?


はじめはギクシャクするかもしれませんが、自転車に乗れるようになるのと同じで、そのうち慣れてスムーズに操作が行えるようになります。


このような練習を行うことで、自分の身体をバラバラに動かす技術を身につけることができます。





脊柱の操作のように、複雑な動きが求められるテクニックを上手く使えるようになるためには、自分の身体を細かい単位で分離して動かすことが求められます。


ですから、何度も練習してください。


私の感触では、体幹の側屈する力を利用した方法を用いた時が、もっとも自分が楽で、関節の動いている様子をありありと感じとれます。





今回の例を通して、同じ検査でも、身体のさまざまな部位から可動させる力を加えられるということ、それに伴って感じ方も少しずつ変わることを体験しましょう。


実際の臨床で可動させる力を加えるのは、肘から体幹の部位を使います。


肘と肩の力をミックスさせたり、肘を固定して肩と胸郭の力で検査したり、という感じです。


このような動きの分散が、意識してできるようになることで、セラピストの身体の負担が知らない間に局所に集中してしまうのを避けることができます。





手先の力だけに頼るのはもちろんいけません。


手首の力で可動させることも、できれば少ないほうがよいでしょう。


手首は、体幹から肘を通って伝わってきた力を、目標となる方向に転換させるという大切な役割があります。





理想はコンタクトしているところから、できるだけ遠い部位を使って力を加えられるようになることです。

今回は体幹まででしたが、肩や脊柱・骨盤、股関節などを検査するときには、セラピストの下肢の力も使います。





多くのテキストでは、骨のどこにコンタクトして固定し、どの方向に動かすかということは示されています。


しかし、今回ご紹介したような、セラピスト自身の身体をどのように操作して力を発生させていくのかというポイントの解説は、「体重を利用して」という程度で、たいへん乏しいように思います。


私は、このポイントをとても大切にしていまして、何度も繰り返し触れてきました「小さな操作は大きな動作で行う」ことは、関節モビライゼーションにとどまらず、手技療法のもっとも重要な基礎だと思っています。


ですから繰り返しますが、今回お伝えしたことは何度も練習しておいてほしいと思います。


次回から「可動性の増大していくことを感じとる」ためのモビライゼーションの練習に入っていきます。



ひとりでできる!!関節モビライゼーション(直接法)練習法 その2

2011-04-23 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回、可動性検査の復習を行っていただきましたがいかがでしたか?


『ひとりでできる!! 関節あそび検査練習法 その3』では、「小さな操作は大きな動作で行う」ために、体幹と胸郭の力を末節骨に伝えることで骨を動かしました。


でもいきなり、胸郭の力を末節骨に伝えるといわれても難しいかもしれません。


ちょっと分解して、スモールステップで練習してみましょう。





手先の力に頼るのは良くないとお話ししてきましたが、慣れない方でもやりやすいのが手先の力を使うことなので、比較のためにそこからはじめましょう。


では、中節骨と末節骨をつかんで固定してください。






つづいて、末節骨を固定している親指を曲げ、床方向に向かって押してみましょう。


指先の力を使うわけです。







セラピストの身体は、どのように動いて力を加えているでしょう?


筋肉が収縮している程度と範囲、セラピスト自身の関節が可動している感じを記憶してください。


検査の対象となっている関節を動かしている感触はどうでしょう?


骨の動いている様子が、手を通してありありと感じることができるでしょうか?


この力を加えている感じと、動かしている感触を覚えておいてください。





次は手首の力を使います。


骨をつかんだ指先は固定したまま、手首を床方向に倒してください(尺屈)。






指先の力で動かしているときと比べて、力を加えている感じや、動かしている感触を比較してください。


いかがでしょう?なにか異なっているように感じるでしょうか?





こんどは指先と手首を固定して、肘の曲げ伸ばしで関節を動かし、先ほどと同様に比較してみてください。






さらに指先から肘までを固定して、肩(肩甲骨)の上げ下げ(挙上・下制)で関節を動かして下さい。



ここまで行った、それぞれの部位の動きを何度も比較してください。


ここは頭で理解するのではなく、体験しなければいけません。


塩(塩化ナトリウム)の化学式NaClを覚えることも大切ですが、ひと舐めしてショッパさを味わうことはもっと大切ですね。


それと同じです。





わかりにくければ、指先と肩というように離れた部位で比較するとわかりやすいかもしれません。


身体の動き、関節の動きの感触と、それぞれの動かし方の違いをしっかり味わってください。


≪次回に続く≫



ひとりでできる!!関節モビライゼーション(直接法)練習法 その1

2011-04-16 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
関節モビライゼーションとは、簡単に言うと関節の可動性を回復させるテクニックのことですが、これには数多くが存在し、次々と新しい名称のものが発表されています。


新しく公開されたテクニックでも、すべてが新しいということではなく、これまで知られている方法に新しい工夫を付け加えることで、独自の技法として公開されています。


新しい知見や独自の視点が加わって進歩していくのは結構なことなのですが、どんどんテクニックが細分化されると学ぶ側にとってはたいへんになります。





それぞれのテクニックが独自性を強調しているとはいえ、関節モビライゼーションという同じグループに属する以上、互いに全く異なるものではありません。


数多くの種類があったとしても、関節モビライゼーションに共通する基本があるはずです。


その基本さえ身につけておけば、どのような関節モビライゼーションのテクニックでも早く習得できるでしょう。


今回はそのような関節モビライゼーションの基本について、ひとりでできる練習法を紹介したいと思います。





理論的な背景はさておき、テクニックを実施する上で、あらゆる関節モビライゼーションに共通している基本とは何でしょう?


いくつか挙げられるかもしれませんが、なかでも私が重要だと考えているのは

可動域の制限を感じとり(評価)、
可動域が増大していくことを感じとり(治療)、
可動域が回復したことを感じとること(再評価)。


つまり「動きの有無を感じとる」というスキルです。





一昨年にアップした、「ひとりでできる関節あそび検査練習法 1~3」は評価と再評価を行うときの大切なポイントを紹介しました。


そこで今回のシリーズでは、特に、治療の段階で求められる「可動性の増大」を感じとるということにポイントを置きます。


この「動きが増大していくことを感じとる」というスキルを身につけておかないと、いくら理論を覚え、モビライゼーションのかたちを覚えても、十分な効果を出すことが難しくなります。


というのも、治療を行う上で必要な刺激の強さや方向を適切にコントロールできないということになるからです。





まずは本題に入る前に、「ひとりでできる関節あそび検査練習法」の1~3をしっかり練習しておきましょう。


「ひとりでできる関節あそび検査練習法1」

「ひとりでできる関節あそび検査練習法2」

「ひとりでできる関節あそび検査練習法3」





これらは「評価」と「再評価」だけに関係するのではなく、治療としてのモビライゼーションを行う上でも、必要なことが含まれています。

とくに重要なポイントは、「骨をつかんだ感触をつかむ」「小さな操作は大きな動作で行う」というところです。


ずいぶん前の記事なので、忘れている方もいらっしゃるのではないでしょうか。





「わたしはバッチリですよ」という方は、次のことを意識して練習してみてください。


「ひとりでできる関節あそび検査練習法」では、以下のように示指の中節骨と末節骨を固定し、DIP関節の側方すべりを検査します。






はじめに表皮に触れ、圧力が皮下組織、腱を通過し、やがて力が骨に及び固定します。


つづいて、末節骨に側方すべりの力を伝えると、徐々に関節が動き始めると同時に、関節包が少しずつ伸張され始め、やがて抵抗が強くなって動きが止まります。


このプロセスにおけるすべての感触を、感じ取るようにしてみてください。



過去の記事では動かし方を重視していましたが、それが出来たら感じ取ることに集中するわけです。





エンドフィールだけを感じるのではありません。


骨に触れて固定するまで、関節が動き始めて、側方にすべり、やがてエンドフィールとなって止まるまで、さらに中立位に戻るまでのすべてを感じます。


この練習には高い集中力が求められるので、はじめはしんどいです。


けれどこれが上達してくると、検査をしているとき、どの段階で、どのあたりの組織に異常があるか見当がつけられるようになり、機能障害を検出できる力が高まります。





何はともあれ、まずこの1週間、可動性検査の復習がんばってみてください。




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これだけの量になると、全体をみたり記事を探すのも手間がかかるかもしれません。
そこで、少しでもタイトルを調べやすくできるように、このお休みを使って目次を作ってみました。
手技療法を学ばれている方、興味を持たれている方にご活用いただき、お役に立てれば幸いです。

手技療法の寺子屋ブログ「目次」


関節機能障害の表記について その3

2011-04-09 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回からのつづき≫


脊柱のラインなど、局所ではなく広い範囲をとらえるとき、なぜ「制限」より「変位」で表現したほうが状態をイメージしやすいのか?


前回は、「T12に右側屈制限があって、そのまま胸椎は右へCカーブを描き、T1で左側屈制限がある」という例から、「制限」では全体をイメージしにくいとお話ししましたが、その理由を考えられたでしょうか。





全体の状態をイメージするとき、私たちは骨の位置を立体的にイメージします。


そのため制限で示すと、骨の位置が素直にイメージしにくくなるのです。



言葉ではいうと、ちょっとややこしいかもしれませんが、前回の例を下の図で表すと、対象となる椎骨の表記が脊柱カーブのラインに沿っていません。

T12右側屈制限 ‐ 胸椎は右Cカーブ ‐ T1左側屈制限


何だか、違和感がありませんか?





では、同じことを変位で表してみましょう。


「T12に左側屈変位があって、そのまま脊柱は右へCカーブを描き、T1で右側屈変位がある」





いかがでしょう?こちらのほうがイメージしやすかったのではないでしょうか。


変位で示すと下の図のように、脊柱のラインに沿った表現になっているので、制限と比較してイメージしやすいのです。

T12左側屈変位 ‐ 脊柱は右Cカーブ ‐ T1右側屈変位





この例は脊柱でしたが、四肢でも同じです。


「肩甲骨の下制制限と肘関節の伸展制限がある」というよりも、「肩甲骨の挙上変位と肘関節の屈曲変位がある」としたほうが、身体の状態を連続的変化としてイメージしやすいはずです。


関節の状態を「変位」で示すと、周囲の軟部組織の状態まで想像しやすくなります。


上の例なら、上部僧坊筋の緊張亢進・短縮と、下部僧坊筋の弱化・筋力低下、そして、上腕二頭筋の緊張亢進・短縮と、上腕三頭筋の弱化・筋力低下など。





このように、全体を捉えるときには、位置や状態を示している「変位」で表したほうがわかりやすのです。





全体をイメージした上で、個々の関節にアプローチするときには、変位と反対の制限の方向を見極めてアプローチするわけです。


変位と制限の使い分けについて、おわかりいただけたでしょうか。





ところで、ぜひ注意して覚えておいていただきたいことが、「機能障害」と表記されている場合です。


最近では「機能異常」という表し方もありますが、この場合、変位と制限の意味が文献によって異なっていることがあります。


そうなると前後の文脈から判断するしかありません。





このような混乱を生じないよう、手技療法の業界内で用語を統一しようという動きがあります。


最近の業界の流れでは、制限で表記する、もしくは機能障害の意味を制限の意味と同じにするという考え方が優勢になっているようです。


伝統的に変位で表記することが多かった、カイロプラクティックですら制限で示すことが増えてきているそうです。





混乱を避け、広く情報を共有するためには用語の統一というのは必要なので、やむを得ないことかもしれません。


ただ私としては、変位で表記することのメリットもあるわけですから、変位と制限の違いを明確に示して誤解の生じないようにし、使い分けたほうがよいようにも感じています。



関節機能障害の表記について その2

2011-04-02 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
関節機能障害を表記するのに、なぜ変位と制限という逆さまの表現を使うのかという、先週の答えをお話しする前に補足のお話があります。


関節機能障害には、緊張や短縮による位置の異常やかたさ以外にも、弱さや不安定さ、運動パターンの異常などがありますが、手技療法にはかたさを除くテクニックが多いので、わかりやすさを優先して、「変位」と「制限」に限定しました。


この2つの意味の違いさえ理解しておけば、他のものはさほど紛らわしくないと思います。





さて本題の「変位」と「制限」を使う理由ですが、それは局所と広い範囲をみるときで、使い分けたほうが便利だからです。





まず、ひとつの関節など局所をみるときには「制限」で表現したほうが便利です。


なぜなら、表記のなかに「治療の方向」という、何をすべきかということも示されているからです。



例えば右側屈制限なら、右側屈できるように治療すればよいということになります。


スッキリしてわかりやすいですね。





変位で表現しても問題ないかもしれませんが、注意しないと誤解や弊害を生んでしまうことが実際にあります。


左に側屈変位しているという知識だけ頭にあると、下の図の中立位まで戻せばよいという考えで固まってしまう方が、中にはいらっしゃるのです。



ズレている骨を、もとにもどす、という発想ですね。


この発想から、まっすぐなのが正しくて、ズレている、ねじれている、歪んでいるのは良くないという考え方に陥ってしまう可能性があります。

(過去の記事「まっすぐの悲劇」 「めずらしく腹が立ったこと」をご参照ください)





それに、左に側屈変位しているということは、右への側屈制限があるということなので、制限された可動域を回復させる必要があります。


直接的に動かすなら、中立位を超えて反対方向まで動かしていくということになるのですが、変位にのみこだわってしまうとテクニックが中途半端になってしまう可能性もあります。


(カイロプラクティックのアクティベータ・メソッドのように、反対方向まで動かさなくても、瞬間的に制限の方向に向かって感覚入力さえす加えれば、反射の作用によって制限が解除されるという考え方も中にはあります)


これに対し、制限で示したら右に側屈できるところまで動かそうとするので誤解は少ないです。





また実際にも、器質的に重大な問題がなければ、中立位から多少の偏りがあっても「動き」という機能が保たれているなら、大きなトラブルをおこすことは少ないです。

(過去の記事「立派な枝ぶり」をご参照ください)


ですから、ひとつの関節をみるときは、動かないということに着目している「制限」を用いるほうが実用的です。





では、より広い範囲の状態を把握する場合、「制限」ではどうでしょう。


胸椎の下位から上位への状態を示した次の例を、頭で立体的にイメージしてみてください。


「T12に右側屈制限があって、そのまま脊柱は右へCカーブを描き、T1で左側屈制限がある」





いかがでしょう。スムーズにイメージできたでしょうか?





おそらく、ちょっと難しかったのではないかと思います。


広い範囲の状態をイメージとしてとらえる場合は「変位」のほうがわかりやすいのです。


なぜでしょう?つづきは次回に。