手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

こまめにしたい手指の手入れ その4

2012-06-30 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回からの続き≫


手部や前腕のセルフケアは、私たちにはもちろんですが、日ごろから手を酷使している患者さんにもたいへん役に立ちます。


仕事や家事で長期間くり返し手を使っているうちに、痛み、しびれ、こわばり感やむくみ感を覚えることがあります。


はじめのうちは少し休めると落ち着くのですが、そのうちなかなか治まらなくなってきます。


やがて痛みのために、ぞうきんがしぼれない、ペットボトルのフタを空けられない、フライパンが持てないなど、これまでふつうに行えていたことが出来なくなる。


このような症状を手や指にもたらす代表的な疾患が、腱鞘炎や手根管症候群です。


腱鞘炎や手根管症候群の患者さんのなかには、悪化と改善を繰り返し、慢性化してしまうケースも少なくありません。





筋肉は疲労が累積して緊張が持続すると、やがて短縮し始めます。


すると硬く縮んだ筋肉は、手首から指先についている腱を引っ張り、ストレスをかけ続けることになります。


これが、腱鞘炎や手根管症候群を起こすきっかけのひとつにもなり、また、慢性化させる一因になるのではないでしょうか。


そのため今回のように筋腹をリリースし、腱にかける負担を和らげる方法が有効になることもあります。





ご紹介した方法は、手関節付近に急性期の炎症が起こっている時でも、それが筋腹に及んでいないなら使うことができます。


関連痛の除くことによって症状を和らげ、腱にかかる機械的ストレスの減らすことにより回復の促進に役立つと思います。





また、このような相談を受けた経験を、みなさんもお持ちではないでしょうか。

起床時に手指のこわばりを感じるようになり、慢性関節リウマチになったかと心配になった。


病院の検査では幸い異常ではなかったけれど、その後もなかなか起床時の指のこわばりがとれず、手のむくみ感が続いている、という相談です。


この場合、睡眠中も前腕の筋肉の緊張が除かれていないために起こった循環障害によって、起床時の異常な感覚がもたらされている可能性も考えられます。


就寝前に前回のセルフケアをよく行っていただいて、その日の疲れをその日のうちに除いておくように患者さんにアドバイスしてみてください。


これで上手くいったケースを何例か経験しています。





そういえば以前、健康雑誌からの依頼でこの方法を紹介した時、腱鞘炎の手術をするように勧められていた方が、このセルフケアによって手術を受けなくてもよくなったという連絡を下さったことがありました。


関西にお住まいの方だったので、本来なら札幌で開業していている私とはご縁がなかったはずです。


それが健康雑誌という媒体によって、全国の方に役に立つかもしれない情報を発信できるというのは、ステキなことだとしみじみ感じたと共に、セルフケアの重要性を改めて認識しました。





このシリーズでご紹介している方法は、急性期との鑑別さえできれば安全な方法なので、何はともあれ試してみる価値はあると思います。


続いて前腕の伸筋です。

≪次回に続く≫

こまめにしたい手指の手入れ その3

2012-06-23 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
手技療法による治療を行うときには、セラピストの身体にかかる負担や無理は、できるだけ少なくなるように工夫する必要があります。


歩行がよい例かもしれません。


私たちは日ごろ、自分にとって自然で楽に歩いているはずです。


そのような身体の使い方が、仕事をする上でも理想になるのではないでしょうか。


技術を磨く上で「歩くように治療する」というのは、私の目標になっています。


(まだまだ道の途中ですが…




しかし、そうはいっても一日中歩いたとしたら、いくら自然で楽な歩き方をしていたとしても疲労は起こります。


そこで、お風呂の後のストレッチなどが必要になるわけですね。


私たちの手も一日中使っているわけですから、しっかり手入れをしておくことが大切です。





以前、「こまめにしたい指の手入れ」というタイトルで、2つのセルフケア法を紹介しました。

こまめにしたい手指の手入れ その1
こまめにしたい手指の手入れ その2


ちなみに「その2」では指のストレッチを、立った状態で行うと書きましたが、座った状態で伸ばす側の手指を反対の手で握り、両腕の重みをかけても上手く伸ばすことができます。



伸ばす指以外の指を、しっかり包んで握り込むのがポイントです。



「その1」「その2」はいずれも手部のケアでしたので、今回は前腕のケアをご紹介したいと思います。


まずは屈筋からはじめましょう。

通常のストレッチと合わせて行うとよいでしょう。





≪右前腕の場合≫

1.テーブルの前に立ち、手のひらを天井に向けて右前腕をテーブルの上におきます。




2.左肘を右前腕の上に置き、肘から手首までの間を、体重をかけて圧迫し、硬く緊張した部分を探します。




・肘で押すのではなく、身体を預けるように、腕立て伏せをするようなつもりで乗せるのがコツです。


・肘は少し寝かせて、骨の平らな部分が当たるようにすると使いやすいです。




・緊張がわかりにくければ、左肘で圧迫しながら前後に動かして、筋肉を横切るように探すと見つけやすくなります。


        

3.ジーンと響くような感覚を覚える部位に当たったら、そのまま体重をかけ続けます。


4.5~10秒間持続したら離し、再び押さえるということを5~10回くり返します。


5.楽になってきたら、他の部位に移動して同じ事をくり返します。


いかがでしょう。手軽にできますが、なかなか効いている感じがするのではないでしょうか。



≪次回に続く≫

怖がる患者さんとの思い出(関係づくりについて)その7

2012-06-16 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回のシリーズでは私が経験したエピソードをもとに、患者さんとの関係づくりについて考えてきました。


モデルとなったおばちゃんは、はじめは私が近づくのを激しく拒否されました。


おばちゃんの場合、リハビリがどのようなものかを体験する前に、痛い思いをするというイメージが大きく膨らみ、自分がつくったそのイメージに対して恐怖感を抱いて興奮していらっしゃったのだろうと思います。





このようなケースは、リアクションの大きい小さいは別にして、けっこうあるのではなでしょうか。


実際に行ってみたらさほど大したことはない、受け入れられる範囲の痛みであったとしても、やってみるまではやはり怖いというのも無理ありません。


だって弱点を相手にみせるわけですから。


「案ずるより産むが易し」とは、実際に産んでからこそ言えることで、産むまでは不安はつきものです。


その不安をいかに和らげ、リハビリを進める上で心理的な受け入れがスムーズにいくように、働きかけ方を工夫していくというのも、私たちの大切な仕事になります。






私はおばちゃんとの関係を作っていくために、治療の意思の確認、気持ちの受容、コミュニケーションの蓄積、触診による身体への接触へと順を追って進めていきました。


それに伴い患者さんとの距離も、社会的距離(3.6m~1.2m)⇒個人的距離(1.2m~45cm)⇒親密距離(45cm以内)へと近づいていくことができました。


対人距離の近づきは今回の場合、信頼関係の高まりを表すものでもあったといえるかもしれません。


(信頼関係の高まりといっても、マイナスでスタートしたのが±0になったというわけですが…





セラピストと患者さんが信頼関係をつくるプロセスの中で、両者をつなぐ媒体となるものは、態度・言葉・触れることの3つではないかと思います


患者さんはセラピストの態度や言葉づかい、触れ方をとてもよくみていらっしゃると私は感じます。


ところがセラピストは、どちらかというと評価から治療のプロセスを重視します。


それが仕事ですから仕方のない面もあるかもしれませんが、あまりにも態度・言葉・触れることに無頓着だと、関係に溝が生まれたり、ぎくしゃくする原因になるかもれません。


今回のケースでも患者さんとの関係を作っていく上で、その3つが大きな役割を果たし、幸い上手くいくことができました。





だからといって、丁寧な対応をしていればOKというわけでは必ずしもありません。


たとえばセラピストが、笑顔でニコニコしながら好意的に 「前回の治療のあと、どうでしたか。調子はよかったですか?」 などとたずねたとします。


このような態度で接された時、患者さんによってはさほどの結果が出ていなくても、嫌われたくないという心理が働いて 「ええ、よかったです」 とおっしゃる方もいるでしょう。


反対に、セラピストの態度を押しつけがましく感じてかえって機嫌を損ね、わずかに変化しているにもかかわらず、「いいえ、別に」 と答える方もなかにはいらっしゃるかもしれません。


この場合、患者さんに対して失礼な態度をとっているわけではないので、誤っているとはいえないでしょうが、それでも正しい情報が入らない可能性があります。


ですから、このようなときは目もとの力を抜いて軽くほほ笑むていどの表情をし 「ご様子はいかがですか」と、ごくふつうの淡々とした態度で、偏った反応になりにくいようなたずね方をするほうが、より望ましいのではないかと思います。





私たちが患者さんをみるということは、患者さんも私たちもみているということになります。


私たちは、態度・言葉・触れることが持つ意味と影響について、よく考えなければいけないと思います。







最近では学校や職場で、コミュニケーション技法の講義や研修なども行われていますが、そのような機会を持たず、経験だけで現場をこなしているという方もいらっしゃるでしょう。


もちろん経験はとても重要なのですが、何気なく交わしている患者さんとのやりとりを振り返り、その意味を振り返ることはとても大切だと思います。


経験を積んで現場に慣れ、その中で何気なく使っていた言葉や態度が、じつは患者さんとの関係にマイナスの影響を及ぼしていたという可能性もあるのではないでしょうか。


経験を積んだ方ほど、いちどセルフチェックしてみる必要があるかもしれません。





一日でたくさん交わされている、コミュニケーションのすべてをチェックするのは不可能です。


そのなかのスポット的なもの、ほんの数分間の出来事だけでも、振り返ってみてはいかがでしょう。


今回のエピソードが、そのためのお役に立てば嬉しいです。


おばちゃんもきっと喜んでくださると思います。

怖がる患者さんとの思い出(関係づくりについて)その6

2012-06-09 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回からの続き≫


おばちゃんの左となり、健側に座ることができた私は次の提案をしました。



「リハビリで、痛いほうの右肩を動かされることが怖いわけですよね


『そう


「では、痛くない方の左肩を使って、どのようなことをするのか体験してみましょうか」





ここで私はことば掛けの仕方を「体験しませんか」ではなく、より積極的な誘いである「体験してみましょうか」に変えています。


おばちゃんとの関係も少しずつできていたので、抵抗や拒絶はありませんでした。


それに、痛くない方を触れられるわけですから、おばちゃんにとって怖いことではありません。


この提案には、すんなりOKが出ました。





健側の左肩に触れて、まずマッサージなど関節を動かさない状態で周囲の筋肉をゆるめる操作を行い、続いて、長軸方向への牽引などを体験していただきました。


ここではマッサージなどの内容より、触れることができたというのが大きなポイントです。


私たちは患者さんの身体に触れる触診によって、組織の状態を知ろうとします。


一方で患者さんは自分の身体に触れられることで、セラピストの手の柔らかさや温かさ、親和的な触れ方などを実感することができます。


この意味はとても大きく、場合によってはことばによる説明がほとんどなくても、信頼関係が出来上がってしまいます。





治療院を開業してからのこと、ある患者さんが知人の方を紹介したいとお話し下さいました。


ただその知人の方は、病院に行ったら相手が医師だろうが誰だろうが、自分が納得できるまで徹底的に質問して離さないスッポンのような方だというのです。


そのため患者さんは、かえって私に迷惑をかけるようなことがあるのではないかと心配していらっしゃいました。


ところが実際にいらしてみると、とくに質問攻めをされることもなく、すんなり終わってしまいました。





 
あとで 「じつは紹介して下さった方が、スッポンだからと言って心配していたんですよ」とお話しをしたら、笑ってこうお答えになりました。


『身体に触れられて、大丈夫だと思いました』


それを聞いたとき、触れるということはやはりたいへんなことだと改めて思いました。


患者さんはセラピストに自分の身体を任せてよいかどうか、触れられた瞬間に感じとっていらっしゃるわけです。





また、ある患者さんがこのように話していたことがありました。


「あそこの病院は、身体に触りもしないで判断したんですよ


医師が診断をするうえで、身体に触れるということは必須ではないかもしれませんが、この患者さんはそれを不満に感じていらっしゃったのでした。


触れるということは、患者さんの情緒に大きな影響を及ぼすようです。





だからといって、ただ触れればよいというわけではなく、このようなことを話す患者さんもいました。


「あの先生の触り方がキライ


触れるということは難しいことです。


手は言葉よりもなお、ごまかしが利きません。


そのためには練習あるのみです。





おばちゃんは、どのような印象をもたれたのでしょうか。


ひととおり終わって「このような感じなのですがどうでしょう。いちど右肩でも受けてみますか?」とおたずねしました。





コクリ。


おばちゃんはうなずいてくれました。


幸い良い印象を持っていただけたようです。





これでようやく、本格的にリハビリをはじめることができます。


まずは、疼痛の解消と可動域を回復させるため、保護的なアプローチからスタートしていきました。





おばちゃんはやがて数回のリハビリを経るうちに、顔をしかめるくらいの積極的なアプローチにも冗談を言いながら耐えられるようにもなられました。


どのような話をしたのか今では思い出せないのですが、とにかく発想が面白くて私も笑いながらリハビリをしていたのを覚えています。


その後、可動域も回復して痛みもなくなり、ふたたび元気に生活をされるようになったのでした。





今回ご紹介したケースは、はじめはネガティブな反応が激しくても、短期間で関係をつくることができたので、わかりやすいモデルだったのではないかと思います。


もちろん、もっと時間がかかることも多いですし、いろいろ働きかけても上手くいかず、心を閉ざしてしまった患者さんもいらっしゃいました。


とくに自費での治療を行っている現在では、回復に時間を必要とし、かつ患者さんもネガティブな反応を示している場合、上手く関係を作ることの難しさをより感じています。





次回は、このシリーズのまとめです。

怖がる患者さんとの思い出(関係づくりについて)その5

2012-06-02 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回からの続き≫

おばちゃんがベッドに腰をかけて、しばらくの間はそのままの距離でコミュニケーションを交わしました。




それがスムーズになってきたころ、おばちゃんに私はたずねました。


「痛い治療が怖いようでしたら、そのようなことはしませんから、ちょっととなりに座ってもいいですか





座っている患者さんのとなりに座るということは、2つ大きな意味があります。


ひとつは、親密距離に入るということ。


この距離に近づくことで、より踏み込んだコミュニケーションがとりやすくなります。



何より、手技療法を使うにはこの距離に入らなければ治療ができません。





ふたつめは、患者さんと目線を合わせるということです。


親密距離に近づいて患者さんが座り、セラピストが立っているというのは、セラピストが上から見下ろすことになり、場合によって威圧を与えてしまうことになります。


ふたたび身構えさせてしまうかもしれません。


それを避けるために、セラピストも座って目線を合わせるようにします。


小さい子どもと関わる保育士さんや、小学校・幼稚園の先生が、大切なことをしっかりと子どもに伝えたい、あるいは子どもの気持ちを受け止めようとするとき、腰をかがめて目線を合わせるのと同じです。


(そのために腰痛を起こす、保育士さんや先生もいらっしゃいますが…。みんな身体を張って仕事をしているのですね。





病院など医療施設となると、患者さんはどうしても弱者の立場に立たされがちです。


(そうでない強者の方もなかにはおられますが…


治療をする側と受ける側という立場の違いこそあるものの、治療をする側はそれによって生活の糧を得て、受ける側はより健康になるという、互いに持ちつ持たれつの対等な立場なわけなので、これは望ましいことではありません。


とくにリハビリは最終的に、患者さん自身がセルフケア・セルフコントロールを行って自立していくことが求められます。


弱者のままでいるということは、依存を強める可能性があるので、なお望ましいことではありません。






ちなみに今回の患者さんは座っていますが、腰痛や膝の痛みなどのときにあらかじめベッドに横になっている場合があります。


そのようなとき顔に近づいて話をするときは、しゃがんでできるだけ目線を近づけるようにしています。





余談ですが、今回のような肩の痛みを訴えるデリケートな患者さんに近づく場合、私が心がけていることがあります。


それは、健側から近づくということです。


おばちゃんの場合、右肩を傷めているので、左側に座るようにするわけです。



まだこの段階で患側である右側に近づいて座るのは、患者さんを緊張させる可能性があります。


これは経験上感じていることですが、けっこうポイントになるのではないかと私は思っています。





さて、となりに座ってもよいかという私の問いかけに対して、おばちゃんはコクリとうなづいてくれました。


これでまた一歩前進です。


≪次回に続く≫