手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

深部の筋をどのように触知するのか?

2013-08-31 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
以前、小殿筋をどのように触診で感じとっているのか?というご質問をいただきました。

質問された方は、書籍で調べても小殿筋は中殿筋の深層にあって、走行も中殿筋とはっきりした違いはなく、また中殿筋前部とは働きも同じ。

そのため、小殿筋を区別して触診することは難しいとする文献が多いのですが、やはりそうなのでしょうか?という疑問をお持ちでした。



ご指摘の通り、小殿筋は中殿筋(大腿筋膜張筋も)と重なっているために、通常の状態では小殿筋のみを触知するというのは難しいですよね。


これを理解できるようになるためには、小殿筋に異常がある方と、そうでない方を触診して比較する経験を積むのがよいのではないかと思っています。

私の場合、触診によるトリガーポイントの関連痛の再現と、深さの感覚との一致という経験を重ねることから、およそ判断できるようになりました。



中・小殿筋の存在する部位に触れ、力を加えていくと、はじめに中殿筋、続いて小殿筋に圧がかかっていきます。

患者さんによっては、殿部にトリガーポイントが存在し、その刺激によって関連痛が再現される場合があります。

その場合、以下の図に示しましたように、中殿筋なら腰・殿部に関連痛は留まり、下肢まで及ぶことはないとされます。

これに対して小殿筋は殿部から下肢にまで及び、場合によっては足底まで広がることもあります。



         中殿筋の関連痛             



         小殿筋の関連痛
(Travell & Simons' Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manualより)



臨床で圧痛検査を行って下肢に関連痛が再現された場合、その時の深さを記憶し、経験を重ねると小殿筋の深さに達した時の感覚というものがわかるようになっていきます。

もちろん中・小殿筋のいずれも緊張しているために、浅いところに圧を加えた時点で、殿部から下肢にまで関連痛が再現されることもあります。

その場合は表面からアプローチしていき、どの深さで組織がリリースした時、下肢への関連痛が消失したかということから判断することができます。

下肢の関連痛の消失した深さに存在するのが、小殿筋ということですね。



緊張が強ければ中殿筋から小殿筋がリリースするまで、数回の治療が必要になることもあります。

表層の中殿筋が先に柔らかくなると、深部にあって緊張が残っている小殿筋はよりハッキリとわかりやすくなり、その輪郭がたどれることもあります。

この体験をすると、より小殿筋の触診に自信を持てるようになります。



小殿筋を触診する時、表層は弛緩させておいた方が触れやすいので、側臥位で天井側の下肢を外転させて触れるようにします。


もしくは伏臥位で、股関節を外転外旋して触れてもよいでしょう。

(写真はASTRの資料を触診として用いています。モデルのポーズを参考になさって下さい。)



症状を出していなくても、刺激すると関連痛を起こすこともありますので(潜在性のトリガーポイント)、セラピスト仲間に協力(実験台?)してもらい、練習してみて下さい。

はじめは個人差で混乱するかもしれませんが、数を重ねて自分の手にデータが蓄積されると、深さの感覚がつかめるようになって、何となく「これがそうだろう」というものが理解できるようになると思います。



深さの感覚を養う触診の練習をセルフで行うなら、梨状筋を中心とした股関節の外旋筋群で練習するとよいでしょう。

伏臥位で膝を屈曲し、殿部に触れます。

そのまま股関節を内・外旋をさせ、外旋筋群の動きを感じとることで、深部にある組織の状態を把握する練習になります。

大殿筋の奥に意識を集中させ、感じ取るのがポイントです。


          ≪ 外旋 ≫


           ≪ 内旋 ≫

これなら一人でも自動運動で練習できますよね。



小殿筋など深部の筋を触知することは、簡単にすぐわかるというものではないかもしれませんが、このように地道に練習することでわかるようになっていきますよ。

あとは繰り返し練習して、経験を重ねるのみです!!

早く結果を得ようとして焦らず、ただ感じ取ることに集中して根気良く続けましょう。

そのうち感覚が養われていきます。




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☆ブログの目次(PDF)を作りました 2014.01.03☆)
手技療法の寺子屋ブログを始めてから今月でまる6年になり、おかげさまで記事も300を越えました。
これだけの量になると、全体をみたり記事を探すのも手間がかかるかもしれません。
そこで、少しでもタイトルを調べやすくできるように、このお休みを使って目次を作ってみました。
手技療法を学ばれている方、興味を持たれている方にご活用いただき、お役に立てれば幸いです。

手技療法の寺子屋ブログ「目次」


適応と禁忌の鑑別について その12

2013-08-24 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪まとめのチャート≫

さて、適応と禁忌の鑑別法について11回にわたってお話ししてきましたが、いかがでしたか?

ご覧頂きたいのですが、いちばんはじめにご紹介した図の、左端の立ての点線は100%の位置にありません。





これは、どれほど「この判断で間違いない!」「いける、大丈夫だ!!」と思っても、完全ということはないことを表しています。

ですから臨床では安易に決めつけず、いつでも暫定的な判断と考え、患者さんの状態を見つめ続ける態度が大切です。

自分たちには限界があることを、十分に理解しなければなりません。



当たり前のことながら手技療法で、何でもかんでも良くできるではありませんが、一般に理解されている以上に役に立つものではないかと思っています。

まだまだ可能性があるはず。

それをさらに拡げていきたいですね



ただ、臨床での責任は各セラピストにありますから、私たちは自分の身の丈に応じたことを行っていくことが大切です。

そのためには、このシリーズのはじめにお話ししましたように、自分の手に負えるのかどうかをまず見極められないといけません。

一歩一歩を大切にしながら、進んでいきましょう。

今回ご紹介した鑑別法が、そのためのひとつの方法としてお役に立てば嬉しいです。



さいごにこれまでの流れを、チャートとしてご紹介し、このシリーズを終えたいと思います。






適応と禁忌の鑑別について その11

2013-08-17 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪ステップ4 反復運動によるチェック≫のつづき

前回までご紹介した身体の疾患がみつからなくても、心因性の疼痛によって改善が難しい方もおられます。

私のところにも心療内科に通院しながら、治療院も利用することで、生活に適応できるレベルを保っている方もいらっしゃいます。



日常生活の環境の中に理由がみつかることあれば、はっきりしないこともある。

また理由がわかったところで、仕事や家庭などその環境をすんなり変えるわけにはいかないこともあります。

そんなとき私たちにできることは、冬のコートの役割と同じだと思っています。



寒い冬にコートも着ずに外に出れば風邪をひいてしまいます(北海道なら凍死するかな?)。

冬が寒いのは仕方がありません。でもコートがあれば、寒いながらも外に出歩くことができます。

同じように、患者さんを取り囲む環境がストレスフルで、かつ変えるのは難しいこともある。

けど、サポートを受けることで、何とか適応できて暮らしていける方もいる。

そのような適応するための手段のひとつとして、治療院やセルフケアがあります。

ですから心因性の影響が強いと考えられる方には、私は冬のコートのようなイメージで、あるいは隣に並んで一緒に散歩をするようなイメージでお手伝いしています。

やがて春が来て、コートがいらなくなることをを願って。



ところで、心因性の疼痛のことで気になることがあります。

しばらく前に、新聞でも慢性の腰痛には抗うつ剤が強く勧められる、といったガイドラインが発表されたという記事が載っていました。

うつなどの精神的な問題によって痛みが出るということも、エビデンスが固まりつつあることなので確かなことでしょう。

その一方で、機能障害による痛みが長期間続くことによって、気持ちが沈んで抑うつ状態になるという方も少なからずいらっしゃると思います。

仮に身体の問題から心の問題が生まれている方に対して、慢性的な痛みが続いているからといって、すぐに抗うつ剤に結び付けるというのはいかがなものでしょう?



実際に、慢性的な痛みがあり気持ちも沈んでいたけれど、それは機能障害が発見されていなかっただけであり、それさえ改善したらすっかり患者さんの様子が明るくなったという経験は、みなさんもお持ちではないかと思います。

このような方が抗うつ剤を服用していたら、果たして良い結果が出ていたのでしょうか?

私は疑問です。



身体由来の痛みで抑うつ状態になっている方に、どんどん抗うつ剤が処方されるような世の中になるのを私は心配しています。

かといって本当に心の問題の影響が大きくて、痛みが出ている方もおられます。

心から身体に、あるいは身体から心へと、互いに影響を与えあっているといわれますが、どちらがどの程度というのをはじめから見抜くのはとても難しいこと。



そうなったら、より侵襲性の低い方法から用いるのが理想となるでしょう。

薬物療法よりも手技療法・運動療法のほうが、侵襲性はより低いと思うのですが、そのような声はなかなか通りにくいです。

みんなの力で少しずつ実績を積んでいけたらいいですね。



  電子書籍の本屋さん「Dopub」

適応と禁忌の鑑別について その10

2013-08-10 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪ステップ4 反復運動によるチェック≫のつづき

手技療法によるアプローチが効果を挙げにくいのは、内科的な異常の他に、帯状疱疹などの皮膚疾患、さらには稀なこととはいえ、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など難病の可能性もあります。



帯状疱疹の場合、発疹や小水疱が出現し神経痛様の痛みが強くなる前に、前兆として違和感やピリピリした痛みを感じることが多いです。

痛みに発疹が伴っていればわかりやすいのですが、前兆の段階ではそれを見分けるのは難しいです。

そのため、師匠の松本先生からご指導いただいた「ピリピリした痛みを感じて、機能的な異常が特になければ、予め患者さんに『しばらく観察して、赤いブツブツが出てきたらすぐに皮膚科に行ってください』と伝えておくように」ということをお話しするようにしています。

これは3回ルールではなく、1回目でもお話ししています。



今のところ、前兆の段階で治療院に見え、その後に帯状疱疹だと分かったという方はいないのですが、予め伝えておくことで、患者さんもいざというときの気持ちの準備と、取るべき行動を理解しているので安心していただけるようです。

それから「帯状疱疹になったんですよ」とお話しされた患者さんがいたら、それがわかる前にどのような前兆があったか伺い、参考にさせていただいています。



難病の場合、初期に気づくのはとても難しいとされています。

これについては苦い思い出があります。



病院で五十肩の診断を受けて、肩が挙がらないという相談でみえた男性患者さんがみえました。

自宅のある東京方面でもあちこち訪ねたそうなのですが、なかなかよくならないので、札幌に出張でいらしたとき、紹介されて来院されたのでした。

五十肩という相談は珍しくないのですが、不思議だったのは両手の手のひらの筋肉が少し萎縮していたことです。



五十肩というだけで、手内筋が萎縮するというようなケースはそれまで経験がありません。

字も書きにくそうで、いくらか巧緻運動障害もみられ、よく診ると、上肢の筋全体がやせているような印象を持ちます。

頸椎など他の部位も診ていただいたかをお尋ねしたら、MRIなどの検査も受けいろいろ調べたとのことでした。



五十肩については関節の拘縮があったので、何はともあれ出張で来札される1~2か月おきに拝見し、筋や関節へのアプローチとセルフケアによって、可動範囲と痛みはじょじょに改善していきました。

しかし、手内筋をはじめ上肢の萎縮は変わらないので、おかしいおかしいと思いながらも、病院で検査を受けられていたことを理由として治療を6~7回続け、半年以上の時間が過ぎました。

そのうち、反対の肩の痛みを訴えるとともに萎縮が進んできたように感じたので「やはりこれは」と思い、東京の松本先生に診察をお願いしました。


その後、患者さんは大学病院に紹介され、筋萎縮性側索硬化症の疑いがあるという連絡をいただきました。



私が反省しているのは、おかしいおかしいと思っていながら、なぜもっと早く再度医師の診察を受けることを強く勧めなかったかということです。

過去に検査を受けたときは問題なかったとしても、身体の状態は時間の経過と共に変化するものなので、その時どうなのかはわかりません。

私自身が、ひとつの考えや思い込みに囚われてしまっていたのでした。

これは苦い経験となりました。

そのようなこともあって、3回で手応えを感じない、自分で納得のいく説明ができない、あるいは何か疑問が頭をよぎるなら、病院への受診をお願いするというルールを自分の中で決めています。



≪他の苦い経験については『患者さんを気絶させてしまった苦い思い出』もご参照ください≫




適応と禁忌の鑑別について その9

2013-08-03 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪ステップ4 反復運動によるチェック≫のつづき

関節モビライゼーションによって試行的に反復刺激を加え、組織抵抗が少なくなっていき、痛みの程度が弱まったり、範囲が減ったり、可動域が広がっていくようなら、この異常は組織の緊張や短縮による機能的な問題で、ひとまず直接的アプローチの適応となります。



前回でも触れた、首の痛みを訴えるケースから確認すると、安静時痛はないが首を側屈したら終端時に痛みを訴えた。

分節的な検査でエンドフィールをチェックすると硬い弾力性だったので、試行的にモビライゼーションを行ったところ、痛みの減少と可動域の拡大をみた。

よって直接的アプローチの適応と考え、治療を継続したという流れになります。

これで運動機能の改善と共に、症状もなくなって行けばOKということになります。



でも治療後の反応は一見良いようでも、経過をみているとすぐに戻ってしまうということもあります。

それを繰り返すなら、考えられる理由はいくつかあります。



・まずは、セラピストが局所にきちんとアプローチできていないということ。

・他の部位に存在する、影響の大きな機能的異常を見落としていること。

・患者さんが、誤った使い方や負担のかかり具合を変えていないこと。

・患者さんがセルフケアを行っていないこと。

・変形など退行性変化の影響が大きいこと。

・心因性の影響が大きいこと。

・そして、器質的変化を伴う疾患が存在していること。



最も警戒しなければいけないのは、最後に挙げた他の疾患の存在です。

これは、腰椎椎間板ヘルニアに伴う(ホンモノの)腰下肢痛や、重度の肘部管症候群・手根管症候群などの末梢神経絞扼障害など私たちに馴染みのある整形外科領域の疾患や、肩手症候群などの中枢性疼痛だけではありません。

内臓痛とよばれる、内科的な疾患に伴う内臓体性反射によって、肩こりや腰痛を起こす場合もあります。



ちなみに、オステオパシーの内臓マニュピレーションなどでは、内臓を包む膜の制限でも腰や肩の機能的な異常を起こすと考えますが、それはひとまず脇に置いておきます。

ここでは内臓の炎症や、痙攣、腫瘍などによる内臓痛のこととします。



内臓痛も激しい症状なら禁忌だとはっきりわかりますし、治療院が第一選択として選ばれることはないのですが、困るのは症状があまり強くないときです。

そのようなときは、安静時持続痛もはっきりわかりにくいです。

仮に内臓由来だったとしても、筋骨格系にも機能的な異常が認められることが多いので、体性機能障害による問題ではないかと考えやすくなります。



そのような場合は、3回程度治療してみて、改善が思わしくないようなら病院に受診していただくように勧めています。

これは私の中で、大切なルールになっています。



この業界にはいろいろな人がいて、なかには「私がなんでも治してあげましょう」と自信満々に豪語する猛者や、神の手と称されるセラピストもいます。

個人のスタイルはさまざまですし、世の中いろいろな奇跡もあるのだろうと思います。

ただ私には特別な力はありませんし、「神の手」よりも、かゆいところに手が届く「孫の手」のようなセラピストになりたいと思っています。

「神の手よりも孫の手」をご参照ください)



そんな平凡な私は、自分は何ができて何ができないかを知り、身の丈に応じた治療を行うことが大切だと考えています。

ですから、ここまでの判断でたとえ禁忌でなかったとしても、3回で手ごたえを感じないならいったん病院を受診していただくというのは、私にとって大切なルールなのです。