手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

小さな操作は大きく動かす≪札幌ASTRセミナーのお知らせ≫

2009-02-28 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
ASTRに限らず、手技療法のテクニックを使うときは手先ではなく、身体全体の力を使うことが必要です。


手先だけの力で行うと、組織の状態をモニターしている手の感覚も落ちてしまうだけではなく、術者の手を傷めやすくなってしまいます。


…ということはこれまで何度も書いてきたので耳にタコでしょうか







今回は身体全体を使う感覚を養うために、私が行っている練習方法を紹介します。


とはいっても、そんなあらたまったものではなく、朝のそうじを練習に利用しているだけですよ


私の治療院では朝の床掃除でクイックルワイパー(のようなもの)を使っています。


ふつうグリップの部分をにぎる時は、こんな感じだと思います。



このようにしっかり握って前後に動かし、方向を変えながら床を拭いていくわけですね。


この握り方をしていて方向を変えるときは、主に手首の力でグイッと動かそうとするのではないでしょうか。







そこで、このように握り方にしてみます。



小指をしっかり、薬指を少し軽めに、中指から親指までは浮かすかごく軽く添える程度にします。


剣道の竹刀の握り方と同じでしょうか。


こうすると方向を変えるとき、親指やひとさし指が利かないために手首の力があまり使えません。


すると肘を張ったり、身体を大きくまわして動かすしかありません。


手先を使うよりめんどうだと思います







でもこの感覚こそ、身体を使って操作している感覚なのです


大きく動かす手間はありますが、どうでしょう?手先の力だけで動かしているときより微妙な方向のコントロールができるはずです。


これがテクニックを行うときには、とても大切になってきます。


例えば、関節モビライゼーションで頚椎の操作を行うとき。


手先の動きだけでは、頭部を支えるのも大変ですし、関節面に沿った刺激を加えるための微妙な調整も、よほど腕の力がないと難しいはずです。


でも肘を張り身体をまわりこませれば、動作は大きくなりますが、頭部を上肢~体幹~下肢で支えることができ、身体を動かすことで角度調整をより正確で楽に行うことができます。







つまり大切なポイントは、小さな操作を大きな動作で行うということです


くどいけれども、もういちどご一緒に。 ハイッ、小さな捜査を大きな動作で行う


めんどうなのでおろそかにしがちですが、これはとてもとても重要なポイントです。


ASTRやマッサージ、ストレッチを行う時も全く同じです。







そして、今回紹介したことで大切なことをもうひとつ。


それは、その気になればいろんなことが練習のために利用できるということです


実際に現場に出て仕事を始めると、練習のための時間は限られるようになります。


でもこのような工夫を重ねることで、いくらでも練習できるわけですね








ASTRセミナー(札幌)のおしらせ

3月8日(日)に札幌でASTRセミナーを開催いたします。

今回のテーマは「頚部・胸部へのASTR」です。
頚部は頚椎性頭痛、寝違えなど臨床的な重要性はいうまでもありませんが、胸部へのアプローチはあまり重要視されていないかもしれません。
しかし、大胸筋が短縮することで肩を前に引き、円背姿勢を持続させ、結果的に肩こりがひどくなったり、小胸筋のトラブルで上肢尺側へのしびれ感(小胸筋症候群)を起こしたりするので、とても大切なポイントです。
セミナーでは座位・側臥位での頚部へのASTR、および側臥位・仰臥位でのASTRを紹介いたします。
興味のある方は下をクリックしてください。


くつぬぎ手技治療院「手技療法の寺子屋」


社会人アスリートのスポーツ障害 ≪札幌ASTRセミナーのお知らせ≫

2009-02-21 20:00:00 | 治療についてのひとりごと
最近のマラソンブームのためか、社会人ランナーの相談も多くなっています


ランニング中に痛みが起こるなら、身体のバランスの他に、フォームが問題なのか?靴が問題なのか?などとランニングに関係する何かがおかしいとふつうは考えます。


しかし、他に原因があることもまれではありません。






例えば、数ヶ月前からマラソンを始めたという方から

「走っていると、右のアキレス腱が痛くなってくるんですよ

という相談がありました。


いろいろ調べて気になったのは、右の下腿三頭筋です。


不思議なことに腓腹筋はさほどでもないのに、ヒラメ筋だけ異常に緊張していました。


当然、ランニングでは腓腹筋も働くので奇妙なことです


反対側の左腓腹筋・ヒラメ筋は、ともにほぼ同じ状態です。


念のため、ふだん履いている靴の底を見せてもらいました。


右のヒラメ筋を特に強く働かせる動かし方をしているなら、靴も前足部の減りが大きいはずです。


しかし、それもはっきり差が出ているというほどではありませんでした






治療をしながらいろいろ話を聞いたのですが、なかなかピンとくるものがありません


仕事はデスクワークで一日中イスに座っているということから、ふと思うところがあり

「座っているとき、右のつま先を立てているなんてことはありませんか?

とたずねました。


このポジションは腓腹筋を弛緩させ、モゾモゾ動かすときはヒラメ筋が緊張します。


しかし、患者さんも首をかしげるばかりでした


結局その日は、ヒラメ筋へのセルフケアをお話しして終了となりました。






そして次の来院日。


やって来るなり患者さんは開口一番で

「いや~ビックリしましたよ。自分でも気がつかなかったんですが、右のつま先を立てて座っていました

とお話しされました。


どうやら仕事中、無意識につま先を立ててヒラメ筋を短縮させ、しかも、仕事が忙しくなると力が入って緊張させていたようです。


それが歩く程度なら影響なかったのですが、ランニングをするくらいの負荷になると、耐え切れなくなって痛みを起こしたというわけでした。


それからは仕事中の右足の位置に気をつけながら、ヒラメ筋のストレッチを続けることで症状は起きなくなりました






他の相談では、走っていると身体が左に寄っていくという原因が、フォームや身体のバランス以前に、職場で身体を左に傾けてパソコン入力を続けていたためということもありました。


ランニング中に痛みが起こるなら、ふつうはランニングに関係する何かがおかしいと考える…というよりも、ランニング関連のことに考えが固定されてしまいやすいといったほうがいいかもしれません。


しかしそれ以外の生活の中でも、身体のトラブルを起こす可能性は十分にあるはずです。


社会人の場合なら、いくら頑張っても仕事時間より多く練習はできないはずです。


そのため、仕事中の身体のつかい方によってムリを重ねたところが、ランニングなど趣味のスポーツで痛み出すというのはよくあります


これは大切なポイントですよ~









ASTRセミナー(札幌)のおしらせ

3月8日(日)に札幌でASTRセミナーを開催いたします。

今回のテーマは「頚部・胸部へのASTR」です。
頚部は頚椎性頭痛、寝違えなど臨床的な重要性はいうまでもありませんが、胸部へのアプローチはあまり重要視されていないかもしれません。
しかし、大胸筋が短縮することで肩を前に引き、円背姿勢を持続させ、結果的に肩こりがひどくなったり、小胸筋のトラブルで上肢尺側へのしびれ感(小胸筋症候群)を起こしたりするので、とても大切なポイントです。
セミナーでは座位・側臥位での頚部へのASTR、および側臥位・仰臥位でのASTRを紹介いたします。
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転んでもタダでは起きず

2009-02-14 20:00:00 | 治療についてのひとりごと
私が住んでいる札幌は今、雪の季節です


ふつうに積もるだけならそうでもないのですが、いちど気温が上がって雪が溶け、再び下がって凍結すると街はツルツル地獄になります。


最悪なのは凍結した路面の上にうっすらと雪が積もったとき…


「アイススケート場よりすごいかも」と思うくらい、ツルツルになります。


当然、すべって転びやすくなります。


私も気をつけてソロソロと歩いていました。






ところが先日の朝、凍結した自宅の駐車場で車に乗ろうとドアを引いたときです。


ドアを引く力に足が踏んばりきれず、横方向にすべって転び、左の大転子をおもいっきり強くぶつけてしまいました




星が飛びました


北海道に来て4年半、いちばん痛かったです。




ジッとしていてもズキズキ痛み、足を引きずらないと歩けません


そのままガマンして治療院に向かいました。


患者さんにはバレないよう何食わぬ顔で仕事をしていましたが、動きはギコちなかったと思います。







でも…、こんなときこそ生きた勉強のチャンス!!


冷やしもしないでほったらかしたまま、仕事を終えて家に帰ってから触診をしてみました


ぶつけていない側と比べると、なるほど腫れて熱を持っているのはすぐにわかります。炎症性浮腫ですね。


ふつうの浮腫と比べて緊張感が強いようです。


さらに注意深く触れて奥に意識を持っていくと、骨の表面がほんの少しブヨブヨしています。


骨膜が腫れているようです。そりゃ痛いわけだよ、トホホ






続いて皮膚から手を放して、手を患部にかざします


こういうふうに書くと「気功ですか?」と聞かれるかもしれませんが、とくに何かエネルギーを出しているつもりはありません。


MTD(Manual Thermal Diagnosis)といわれるものです。直訳すると「徒手温度診断」となるでしょうか。


ここでは体表から出ている輻射熱(ふくしゃねつ)を感じます。


ストーブに手をかざすと暖かく感じる、あの理屈と同じです。


そう考えると不思議なことではありません






炎症を起こした部位は温度が高くなっているはずなので、それを感じられるように練習します。


はじめのころ私は、蚊に刺されたときに手をかざして練習していました。


当時は東京に住んでいたので虫刺されには不自由しなかったのですが、北海道にきてからはめっきり少なくなりました。


蚊やゴキブリ、スギ花粉がダメな方には北海道はオススメです


その代わり、ツルツル地獄が待っています。世の中、すべてOKとはなかなかいきません






それはさておき、実際に手をかざしてみると… アレアレ?


ぶつけた左の大転子はもちろんですが、外側広筋のほうにも熱を感じます。触れてみると大転子ほどではありませんが痛みがあります。


思い返すと、転んだ時に身体をひねって回転しようとしていました。そのときにぶつけたのでしょう。


いろいろ気がつくことがあるものです






そして仕上げの実験。炎症のとき、手技療法はそれを悪化させる恐れがあるので禁忌だといわれています。


でもそれって本当でしょうか?


そこで、外側広筋を一生懸命もんでみました。


痛みをこらえつつ、痛みをこらえつつ








翌朝、太ももはズキズキ痛み、炎症は悪化していました


みなさ~ん、やはり炎症のときに手技療法は禁忌ですよ~


アホみたいなことをしていますが、こんなことからときに大きな拾いものをすることも (たま~にですが) あります。


その後、毎日触診してどのように治っていくのか観察しました


とってもよい勉強になりました。


みなさんも、打撲をしたときにはぜひお試しください

治療中の姿勢 その4≪身体のつかい方≫

2009-02-07 20:00:00 | 治療についてのひとりごと
前回でも紹介した、腰椎は軽く屈曲し骨盤を立て膝を曲げた姿勢から、いざ身体を伸展しようとするとき、みなさんならどのような順序で行いますか?





背筋を伸ばしてから、下肢を伸ばす?






これは×××!! ありがちですが間違いです


この動かし方は腰椎‐骨盤リズムに逆らっていて、脊柱起立筋に大きな負担がかかります。


腰椎‐骨盤リズムというのは、屈曲するときは腰椎から骨盤(股関節)の順に、伸展するときは骨盤(股関節)から腰椎の順に動くという運動の流れですね。


このリズムにしたがって動かすことで、より負担が少なく合理的に動かせるわけです。







というわけでこの場合、股関節そして腰椎と伸展させていくわけですが、意識して順に動かすと何だかギクシャクしませんか?


このときに、動かし方のイメージとしてちょっとしたコツがあります。


それは、骨盤を前に突き出すように動かすということです。



これはちょっと大げさです。実際はほんのちょっとしか動きません。それにしても不格好だなぁ



ヘソの下、あるいは丹田を突き出すでもよいでしょう。


そうすることで、股関節は伸展し骨盤は前傾方向に力がかかります。


骨盤が前傾しようとするということは、腰椎は屈曲位から自動的に伸展し始めます。


このときに働いている筋は強力な殿筋です。


いってみれば殿筋の力で腰椎の伸展を誘導するわけですね。


そしてこの運動の最後に、少し起立筋に力を入れて上体を起こしきってあげれば完了です。


どうぞ、やってみてください






いかがでしょう?はじめは妙な感じかもしれませんが、この動かし方のほうが楽ではないでしょうか?


私達は仕事で、一日何回も前傾姿勢から身体を起こすという動作を繰り返します。


1回2回はたいしたことなくても、累積疲労で機能障害を起こすことはよくあります。


RSI(Rpeattive Strain Injury=反復性ストレイン障害)というものですね。


そして、こういった何気ない動作は、本人にとっては当たり前すぎて意識すらしないのでなかなか気づきません。


そのために治療しても治療しても、負担がかかり続けるためにすぐに再発してなかなか良くなりません


同じ問題は、私達が相談にのっている体性機能障害を持った患者さんには非常に多くみられるものです。


ですから慢性的な痛みを繰り返す患者さんには、治療と平行して何かムリのかかる動かし方を無意識に行っていないかどうか、よく診ていく必要があるわけです。






いや~、こうして手技療法の寺子屋ブログを書いていると、セミナーでは伝えきれないような細かい話ができるものですね


このようなある意味マニアックな内容は、セミナーでは「ふ~ん」という感じで、あまり受けは良くないかもしれません

でも私はこういう地味なところこそ、とても大切なところだと思っています