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手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

初心者と経験者について ~ セミナー会場でのひとコマから

2013-10-26 17:17:32 | 学生さん・研修中の方のために
「すみません、まだ下手なので迷惑をかけてしまって」

セミナーが終わると、会場からこのような声が聞こえてくることが今まで何度かありました。

パートナーだった方にペコリと頭を下げ、気を使われているようです。



これも、人間関係の潤滑剤として理解はできるのですが、セミナーではそんな気遣いは無用。

「ありがとうございました」「お疲れ様でした」と気持ちよく挨拶すれば、それでいいのです。

下手だということを気にされているようですが、上手ならそもそもセミナーに来る必要もありません。



誰だってスタートは初心者から。

みんなはじめは赤ちゃんから。

寝返り、起き上がり、ハイハイから始まります。

生まれてきて、いきなり歩き出す人はお釈迦さんくらいでしょう。



そもそも、初心者から学べない人は経験者とはいえません。

ペアを組んだ初心者の、動きのぎこちなさや不自然さをみることは、動作分析そのもの。

それに基づいて、修正が必要なところをアドバイスすることが勉強になります。



はじめはテクニックの型をそのまま、教わったことをそのまま伝えることしかできないでしょう。

でも経験を重ねるにつれ、ペアを組んでいる人が、今いる位置よりもう一歩、二歩前進するためには、どの部分から修正を加えていくのがよいのか考えられるようになります。



いかにオーダーメイドのアドバイスができるかが勝負。

このプロセスは臨床そのものです。

これが勉強にならないはずはありません。



そういえば私がセミナーに参加したとき、「俺と組んだ相手が下手で参ったよ」などと仲間にこぼしている人がいました。

話を聞いていると、自分がされたことばかりに気が行って、相手のことをよくみていません。

そのようなことでは洞察力も鍛えられないでしょう。



下手なら下手で、どこが下手で、具体的にどのようにすれば改善できるのか。

そこまで考えなければ、せっかくの機会がもったいない。

それを考えることで、自分の動きも振り返ることができ、さらにスキルアップすることができます。

良きにつけ悪きにつけ、体験したことを味わい尽くさないともったいない。

そうですよね!経験者のみなさん。



というわけですから初心者の方も安心して、ドンの経験者の胸を借りるつもりで組んで練習しましょう。



ただ、初心者の方に注意していただきたいことがあります。

先ほど赤ちゃんのたとえを使いましたが、中には寝返り、起き上がり、ハイハイを飛ばしていきなり立ち上がろうとする人がいます。

小手先のかたちに囚われ、複雑な形のテクニックを早く身につけようとするのですね。

複雑なかたちのほうが、なんだか上等そうな、そんな錯覚を持ってしまっているのかもしれません。

積極的な向上心は大切ですが、焦りは禁物です。



赤ちゃんをあまりに早く立たせることは、発達上好ましくないという意見もあると聞きます。

昔の人は経験的にそれを知っていたのか、早く立とうとする子どもには米を背中に背負わせて重しをつけ、立たないようにしていたそうです。



ハイハイする時期には、しっかりハイハイして手足や体幹を鍛えておく。

これが大切なのでしょうね。



このハイハイというのが基本に当たります。

初心者の方はしっかりハイハイして基本を反復練習し、身体に染み込ませましょう。

そうしておけば、その後の成長もよりスムーズです。

複雑そうにみえるテクニックも、シンプルな基本の組み合わせに過ぎません。



基本を染み込ませることは、これから訪れるイレギュラーな状況にも対応できる応用力を身につけるための布石にもなります。



最後に私を含め、初心者・経験者の方、いずれも肝に銘じておきたいこと。

それは、セミナーに参加したことだけで満足しないということです。

セミナーに参加しただけで、あるいは修了証をもらっただけで、すっかり酔ってしまう方も中にはいます。

一日野球教室に参加し、記念品をもらっただけで、野球ができるようになったと思っている人がいたら、みなさんどのように思われるでしょうか?



セミナーを受け終えてからどうするか。

そこからが本当の勝負だと思います。



体重を乗せるということ

2013-10-19 19:37:53 | 学生さん・研修中の方のために
マッサージや指圧などを習っていると、「体重を乗せる」という表現で指導をよく受けると思います。

身体を使うということと、体重を乗せるということは、同じ意味かと思うくらいよく使われますよね。

今回は体重を乗せるということについて、少しお話ししておきたいと思います。



例としてモデルが伏臥位になり、背中を圧迫するという場面から。


背部を圧迫するために体重を乗せるというと、2通りの方法に大別できると思います。



ひとつ目は、重心をモデルの背中の上に移動させる方法。


長所は初心者でも覚えやすく、行いやすいということ。

習い始めにはこのようなかたちで操作するよう、指導された方も多いと思います。

手を置いてその上に体重を乗せるだけなので、さほど難しくありません。



欠点はいざという時、瞬間的に力を抜くスピードが遅くなるということです。

どういうことかというと、体重を乗せることによって重心がセラピスト側からモデル側に移っていくと、セラピストの身体の支えをモデルの身体に頼ることになります。

そのため、患者さんが咳をしたり不意に動こうとして、押さえた力をすぐに抜かなければいけない時にもワンテンポ遅れてしまいます。

いったん重心を、セラピスト側に戻さなければいけないからですね。



マッサージや指圧での最も多い事故は、伏臥位で背部を圧迫することで、肋軟骨を損傷させてしまうこと。

患者さんに力が入ったときに瞬間的に力が抜けないと、そのような事故を起こすリスクが高まると予想できます。



ふたつ目は、膝を曲げて腰を落とすことで、手に力が加わるようにする方法。


このやり方だと、力を加えても重心はセラピストの側にあるので、何かあったときでも瞬間的に力を抜きやすいです。



また、重心を患者の方に移動させるわけではないので、目標とする深さを保ったまま触診したり、微妙な操作で刺激を加えやすいので、技術の精度が上がります。



短所というかちょっと難しいところは、腰を落として手に力を伝えるとき、重心はセラピストの側にあるために肘を少し曲げておく必要があります。

この時、肘は力まずにその位置(角度)をキープさせなければいけません。

この操作がすぐにできる人もいるのですが、練習が必要な方もいます。

初めは肘を伸ばして突っ張ったほうが、体を支えやすいのですね。



肘を曲げた状態でも力まず支えられるようになると、先ほどお話ししたテクニックの微調整が行いやすくなります。

前回ご紹介した、殿部の圧迫でも肘が曲がっていました。


これによって、微妙な角度調整が可能になります。

ぜひ身につけておきたい技法です。



練習するときは、はじめにひとつ目を、それができればふたつ目という感じで進めばよいでしょう。

慣れて来ると、ひとつ目とふたつ目の割合を自由に変えて、刺激を加えることができるようになります。

いちばん上の写真は、ふたつの力を組み合わせて使っています。

ふつうはごちゃまぜになっていますが、このようにいったん分類して、それぞれを練習していった方が、技術を身につけ使いこなすためには良いような気がします。



ところで、背部の圧迫などを行っているとき、肩が上がってしまっている方がいます。


これはよくない方法ですが、なぜよくないのでしょう?

考えてみてください。



答えは、以下の記事に書いています。

ひとりでできる!!ステップ式筋膜リリース練習法 その4

今回のお話しは、この記事の復習でもありました。

基本はあらゆる操作に共通して生きていますね。



母指圧迫における手首の活用

2013-10-12 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回は母指圧迫の際、手首を活用するということについてのお話しです。

母指圧迫法は、マッサージや指圧などの軟部組織系へのアプローチでは定番の技法です。

自然と使用頻度も高いものとなりますから、母指を酷使しすぎないように注意しなければなりません。

ところが、実際に用いられている様子をみると、指を壊しかねない使い方をしているセラピストもいます。



よくあるケースを例にしてみましょう。

伏臥位で殿部を圧迫する場合です。


母指で殿部に触れてから、体重を乗せるなどして身体の力を伝えていきます。


問題なのは、ここからさらに力を加えるときです。



母指を屈曲させながら、力を加えている方がいます。


みなさんはいかがでしょうか?

この方法は、短母指屈筋など手内筋を酷使することになるので、たいへん危険です。

手内筋は大きな力を持続して出すようには出来ていませんから、傷めるリスクが高くなります。



手内筋は、できるだけ手のかたちをキープさせるためだけに用いるようにしましょう。

そこで、身体から肩、肘の力を伝えた後、さらに力が必要なら手首を使うようにします。

いちど試してみましょう。



母指で触れて身体の力を伝え、手首を伸展か尺屈方向に力を加えてみてください。


母指が勝手に前に出て力が加わっていくのがわかるでしょうか?

このように「力を加える」のではなく、「力が加わる」ように操作するのがポイントです。

そのとき母指丘には、支える以外に変に力が入っていないはずです。



いかがでしたか?

手首だけでも相当大きな力が加わるということが、体験を通して理解することができたでしょうか?

これは全身どの部位でも同じです。

部位によって伸展方向を強めるのか、尺屈方向を強めるのか自分のやりやすいように調整してください。



ここでご注意頂きたいことが二点あります。

まず、伸展や尺屈と言いましたが、それは手首の伸展や尺屈方向に力が生まれていればよく、伸展や尺屈運動をムリに起こさなくても構いません。

等尺性収縮が起きていればよく、ムリに等張性収縮を起こさなくてもよいということです。

ムリに動きを出そうとすると、脇が締まり過ぎて窮屈な姿勢なるなど、ポジションそのものがおかしくなってしまいます。

写真では手首に動きがありますが、これはわかりやすくさせるための方便です。



もう一点は、ここでお伝えしたいのは「手首を使え」というのではなく「手首を使うならこうしたらいいのでは」ということです。

ムリして手首ばかり使うようになると、腱鞘炎や外側上顆炎を起こしてしまいます。

それに通常なら刺激としては身体の力を伝えることができれば十分で、手首は身体を支持して方向の微調整に用いる程度です。



大切なのはいろいろな使い方ができるようになって、負担を分散できるようになること。

ある時期にテーマを決めて集中して練習するのは良いのですが、決まった使い方、固定された使い方はしないようにしてくださいね。




以前、「セラピストの母指を守る工夫」と「母指圧迫における肘の活用」というテーマの記事を書きましたが、すべて連動するものですので、今回のテーマと合わせて復習しておきましょう。

セラピストの母指を守る工夫シリーズ

母指圧迫における肘の活用シリーズ



ところで、いちばん上の写真をみていて、私の背中は丸まっていると思います。

ふつうは姿勢を正して施術するようにと指導されますよね。

なぜこのような姿勢を取っているのでしょうか?



次の過去記事も参考になります。

治療中の姿勢≪身体の使い方シリーズ≫

大切なことは手と同じ、分散させるということです。

大切なことは共通しているわけですね。



めずらしく経営のこと その5~「自費の治療院を経営する」ということ

2013-10-05 19:09:10 | 治療についてのひとりごと
シリーズ最終回。

今回は「自費の治療院を経営する」というテーマですが、ちょっといろいろ書こうと思います。


☆ 独立するということ

まずは自費や保険に関係なく、自営で独立するということ。

とても夢やロマンのあることです。

ただ現実は、どのようなかたちで独立しても、経営していくのはなかなかたいへんです。



どこかに勤めていたときと比べると、月末に給料としての一定額の入金なんてありませんから、来院数が減ればすぐに生活を直撃します。

何もしなくてもテナントなどの経費はかかるので、通帳残高はどんどん減っていきます。

そうなると焦ってきて、悪魔のささやきが聞こえたりすることもあるわけです。

そこでふん張れるかどうか、それが分かれ道になるのですが、そのときに支えになるのが経営理念なのだということは、このシリーズでも触れてきました。



有給もありませんから体調が悪くて休む、入院するなどということになったら、そのぶん収入は止まります。

ある程度長期の療養に備えて、私は民間の所得保障を利用しています。
日本治療協会

退職金ももちろんありませんから、廃業した時のことを考えて自分で積み立てなければいけません。
中小企業退職金共済

このように自営業は、勤めの時にあったような保証はなにもありません。



その反面、いつどれだけ働き、そして休もうが自由です。

仕事の仕組みや、やり方もすべて自分で決められます。

保証もないけど、組織の中ではあった制約もありません。



その意味で独立するとは、イカダの船長になるようなものです。

すぐに転覆する可能性はありますが、大海原を気ままに旅することができます。

100%の責任を負うと共に、組織の中ではなかった自由を手にすることができます。



勤めと独立、どちらが良いという問題ではありません。

好みの問題であり、向き不向きの問題であり、生き方の問題です。



☆自費の治療院について

自費の治療院については、整骨院など保険診療が行える施設と異なるところがあります。

それは患者さんに対して、「なぜ毎月高い保険料を払っているのに、わざわざ保険の使えないところに行く必要があるのか?」という問いに納得のいく答えを、一回目から出さなければいけないということ。



つまり、『一回目で結果が出なければ二回目はない』ということです。

できるだけよくなって欲しいというセラピストの気持ちは、保険でも自費診療でも同じです。

でも受診される方は、自費のほうをよりシビアにみています。

立場を反対にして考えてみれば、当たり前のことですよね。



ただシビアなだけに、来院される患者さんは、治そうとすることに意欲が高い方が多いようにも感じます。

ですから、セルフケアなどへのモチベーションも上げやすく、患者さんを自立させやすいという印象はあります。



さらに自費の治療院でよかったと思えることは、役所や保険組合などのことなど気にせず、患者さんのことだけ考えて仕事をしていればよいということです。

レセプトに頭を悩ませることもなく、また書類のための書類は必要ありません。

書類関係が苦手な私にとって、これはとてもありがたいことです。

ケアマネをしていたときに感じたのですが、利用者さんのための書類ではなく、役所から突っ込まれないための書類作りは、エネルギーをかなり消耗するような気がしていました。



独立したのはいいけれど、どこかの会でのしがらみに縛られるということも、自分が関わりを持たなければありません。

会合などが煩わしい私にとって、こちらもありがたいことです。

軌道に載せるまで、保険を使えるより自費のほうがたいへんですが、載ってしまえばこのような気楽さもあります。



☆ 成功するということ

最近、成功とは何か?について尋ねられることがあります。

何をもって成功とするかなんて人それぞれ。

また成功にも個人的成功や人間的成功、社会的成功など、さまざまな分類やステージがあります。



ただ私は独立するなら、まず「スキなことしてメシを食う」、すなわち「スキメシ」がまず第一段階の成功の姿ではないかと思います。

ちょっとスケールが小さいでしょうか



もちろん勤めていても「スキメシ」はできますが、そうではない、生活のためにその仕事をしているという人も、世の中にはたくさんいます。

それもひとつのあり方です。



ただ、せっかくすべてのリスクを背負って独立したのだから、「スキメシ」でなければもったいない。

「スキメシ」はとても贅沢なことだと思います。



「スキメシ」ができた上で余裕があるなら、さらに世のため人のためと、幸せにできる範囲を広げていくというのも、よいのではないでしょうか。



さて、今回のシリーズはめずらしく経営についてのお話しでした。

思いつくまま書いて来たので、案の定まとまりのない話しになりまたね。

私にできるのは体験談だけですが、経営には向いていない自分がこれだけは実践してきたということです。



さいごに私が開業準備中に出会い、8年お店をやってきて、経営する上で大切だと思う言葉をご紹介します。

「右手にロマン 左手にソロバン 心にジョウダン」

理想を持ちつつも、現実から目をそむけず、あそび心と余裕を持つこと。



今回のお話しが、開業を考えている、とくに小さなお店をはじめようと考えている方にとってお役に立てば嬉しいです。