手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

ひとりでできる!! 頚椎の触診と可動性検査 その1 

2010-10-30 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
長らく理屈っぽい話が続きましたので、久しぶりに実技のトレーニングをしましょう。





脊柱の機能障害を評価するためには、椎骨の分節的な検査ができる必要があります。


分節的検査とは、ひとつひとつの椎骨を検査するということですね。


臨床では、複数の分節にわたって連続的に制限を認めるという、グループ性の機能障害もよくありますが、それが分かるのも分節的な検査ができるからこそです。


そして、分節的な制限を感じ取れることによって、はじめてテクニックも効果的に用いることができます。





テクニックが上手くいかない原因はいくつかありますが、そのひとつが、どの分節がどの方向に制限されているかわからないために、効果的な刺激を加えることができないというものです。


(どこが・どの範囲で・どの深さの・どの方向に制限があるかという自分への問いは、ここでも生きてきます)


それさえ分かれば、あとはテクニカルな問題を解決するだけで、効果を挙げるようになってきます。


触診ができることは、評価と治療の要になるわけですね。





さて以前に、頚椎の可動性検査をひとりで練習する方法をご紹介しましたが、そのときは棘突起にコンタクトする方法でした。 ≪ひとりでできる!!触診練習法≫


頚椎の棘突起にコンタクトして治療するのは、マリガンテクニックなどがありますが、多くのテクニックは関節突起にコンタクトして検査と治療を行います。


そこで今回のシリーズでは、頚椎の関節突起を触診して、可動性を感じ取る練習法をご紹介したいと思います。





関節突起にコンタクトして検査・治療するためには、以下の3つのことができるようになる必要があります。


① 関節柱の触診
② 裂隙の触診
③ すべり運動の触診


関節柱とは関節突起の連なりのことです。


この確認ができたら、関節突起間の境い目、つまり列隙を触れて感じられるようにします。これによって分節的な検査をするための準備ができます。


そして、一椎の関節突起にコンタクトして、関節面のすべり運動を感じ取ることができれば、分節的な検査ができるようになり、頚椎のさまざまなテクニックを身につけやすくなります。





ではまず、関節柱の触診です。


下の写真のように関節突起は、より多くの筋肉に付着部を提供できるよう膨らんで表面積が大きくなっています。



ですから、関節突起の連なりである関節柱に触れると、文字通り「柱」状のものが確認できます。





はじめのうちは、立位や座位では、筋肉が緊張して触れ難くなることあるので、写真のように仰臥位で触れるとよいでしょう。



仰臥位になっても筋肉の緊張が除かれない場合は、ストレッチやマッサージなどで予め柔軟にしておくとよいでしょう。





触診の方法については、次回、ご紹介します。


それまで、上の写真の様子を参考にしながら、「ここで合っているのかな?」と、ご自分なりに探してみてください。




☆ブログの目次(PDF)を作りました 2014.01.03☆)
手技療法の寺子屋ブログを始めてから今月でまる6年になり、おかげさまで記事も300を越えました。
これだけの量になると、全体をみたり記事を探すのも手間がかかるかもしれません。
そこで、少しでもタイトルを調べやすくできるように、このお休みを使って目次を作ってみました。
手技療法を学ばれている方、興味を持たれている方にご活用いただき、お役に立てれば幸いです。

手技療法の寺子屋ブログ「目次」


徒手的テクニックの使い分け15 ~最終回~

2010-10-23 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回のシリーズで行いたかったことは、細分化されすぎて、全体としてのまとまりを欠いているようにみえる手技療法を、分類して再構成することでした


できるだけ現場で使いやすいものとなるよう、筋系や関節系などの各系統をまたがるような視点から、適用するテクニックを判断していく方法を模索しました。







その中でもっとも試みやすかったのが、視点をテクニック側に置き、「刺激を加える」という切り口から、「刺激を加える方向」と「刺激を加える力」の2つを手がかりとして分類することでした。


この2つを用いて、各テクニックの全体の中での位置づけを視覚的に理解する助けとするため、以下のような表を作成しました。


そして、A~Fまでのカテゴリーについて、大まかに内容をお伝えし、さらに表をどのように活用するのか例をいくつか示しました。









テクニックそのものを中心に据えてまとめるという方法はあまり取られていませんが、新しい気づきを与えてくれるなど、役に立つ一面があるのではないかと思っています。


ただし昨年にも書きましたように、患者の状況によるテクニックの使い分け方を知るには、この表ではその一部しか分かりません。

≪手技療法習得へのステップ3‐ トリートメント その5≫

その意味ではまだまだですが、昨年よりいくらか前進はしていると思います







ご覧になってきて、いかがでしたか?


みなさんの中で整理し、まとめるための参考になったでしょうか







今回のテーマに取り組んだのは、学生さんや新卒者の方のためにも、テクニックの使い分け方を何とかして整理しなければならないという、はじめにお話した思いと共に、あらゆるテクニックを否定せず、存在の位置づけを持たせるためにはどうすればよいかという気持ちもあったからです。


現場では「あのテクニックは効かない」 とか「よくない」 という話をよく耳にします。

私はこの手の話を聞くと、何だか疲れてしまいます







効かないのはテクニックが悪いのではなく、テクニックという道具を使いこなせていないセラピスト側の責任だと思っています。


さらには、テクニックという各道具を使い分けるための道具箱の整理に力を注いで来なかった、この業界の責任ともいえるかもしれません。


そこで、どのようなテクニックでもむやみに否定されなくて済むように、刺激の入れ方と方向という、どのテクニックでも持っている要素で分類し、表の中のいずれかのカテゴリーに含まれるようにしました。


このような表を手がかりにして、それぞれのテクニックをどう生かすかという検討が今後進んで行けばと思っています







話は変わりますが、むやみに否定したくないのはテクニックだけではなく、治療の組み立て方も同じです。


手技療法の多くは、姿勢バランスなど構造モデルによって診立てを行います。


そこで登場するのが、頚椎や骨盤など特定の部位を中心に据える考え方です。


構造モデルにはあらゆる診立て方があるので、ここでもはじめのうちは振り回されてしまいます。


あらゆる構造モデルが共存できる考え方はないものだろうか?


今、それを 「量的モデル」 としてまとめていますので、来年にはお伝えできるかと思います






さて、15回にわたるシリーズをようやくまとめ終えることができました。

ご紹介した「表」の形になるまで、2年ほど試行錯誤を繰り返しました

そして、いざ文章としてまとめるのも、このシリーズはけっこう苦戦しました


こうして終わった今、やり遂げたという達成感と、まだ分類として不十分だというフラストレーションと、頭を使い切って何やらボーッとしている感覚が、まぜこぜになって身体中を巡っています。


昨年の「手技療法習得のステップ」と同様、今年の「徒手的テクニックの使い分け」も、このブログのサブタイトルで示しているように、手技療法の体系化という私が夢見ているものを形にしたものです。


このシリーズで作成した分類が、手技療法と、それを学ぶ皆さんのために役立てることを願いつつ、幕を下ろしたいと思います

徒手的テクニックの使い分け14 ~分類しても分解しない2~

2010-10-16 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回からのつづき≫

筋筋膜と関節を分けて分類することは、整理しやすくて確かに便利です。


けれども、関節の問題もつきつめれば関節包やそれに付着する靭帯、腱から筋肉の異常も関与していますし、筋筋膜のトラブルも関節の運動を無視するわけにはいけません。

相互に関連性があるわけです








ところが、現場では「僕は筋筋膜派」「私は関節派」と、何やら流派のように分かれていることがあります。


自分の立場やスタイルを決めるのは良いことだし必要だと思うのですが、筋筋膜と関節に分解されたまま視点が固定されると柔軟性がなくなり、さまざまな可能性を閉ざしてしまいます。

これも、もったいないことです







このようにお話ししている私も以前は、あるときは関節よりに、またあるときは筋筋膜よりにと、二つの間を行ったり来たりしていました


つられたり、流されたり、振り回された結果、いずれに偏ることも正しくないと思うようになりました。







ただ参考までにお話ししておきますと、脊柱・骨盤では経験的に筋筋膜をリリースしてから、関節にアプローチすることが多いです。


筋筋膜の柔軟性は比較的保たれているものの、関節の制限が明らかに強い場合は、関節からアプローチします。


四肢では、例えば五十肩なら、はじめに関節のあそびを確保して、次に関節周囲の筋筋膜の伸張性をある程度回復させ、さらに関節包内の運動を促すことで可動域を拡大するという流れが多いように感じています。


「感じています」 なんて、無責任な言い方に聞こえるかもしれませんが、それは理論先行ではなく、動きをみて触診で感じとるという、評価に基づいて治療を組み立てているので、そのような表現になってしまいます。


あくまで抵抗感の強い、運動制限の強い方向を探索した結果、それが筋筋膜の方向だったのか、関節面の方向だったのか、という違いです。


はじめから、どちらかの側に立つと決めてみているわけではありません。







しかし、そうはいっても私も広い意味では、軟部組織の機能障害をみる、という限定された視点でみているといえるかもしれません


あらゆることをカバーするのは、個人の力では不可能です。


だから大切なのは、以前にも述べましたように、自分の限界をわきまえておくことです。


その上で、偏ったり、とらわれたり、分解して考えがちになる自身の視点に注意しつつ、相互の関連性や共通性などのつながりを忘れないようにみるということでしょう。







いよいよシリーズの締めが近いてきました。そこで、私が今回お伝えしたいことを、ちょっとかたい表現でまとめてみますね。


みなさんがこれからテクニックや身体構造など、何かを新たに分類したり、統合しようとするときには、「分類は統合を、統合は分類を包含し、志向する」ようにしてほしいと思います


分類のための (またはそれを前提とした) 統合であり、統合のための分類であるという、一見矛盾することをいっているように感じるかもしれません。


分類と統合のいずれの方向にも考えを働かせ、かつ両者をコントロールする、という言い方もできるでしょう。


こうすることによって分類による分解を、統合による混乱を避けることができ、さらに二者の間を留まることなく往復していくことによって、よりシンプルでわかりやすい整理ができていくのではないかと思っています。


それを成り立たせるのは、繰り返しになりますが、相互の特徴を踏まえつつも、関連性や共通性によってつながりを見出していくという考え方です。



このシリーズでも、カテゴリー間の関連性、カテゴリー内の共通性を忘れず、つなげて考えることを心がけました。


このような、つながりを持たせるという考え方が、人間という、何かとつながりを持たなければ生きていけない社会的な生物を診ていく上でも、必要なことではないかと私は思っています

 
みなさんにこのようなことをお話しする以上は、誰よりも自分自身にもよく言い聞かせたいと思います







次回は、いよいよこのシリーズの最終回です。

徒手的テクニックの使い分け13 ~分類しても分解しない1~

2010-10-09 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
このシリーズでは、手技療法の 「刺激の方向と加え方によるテクニックの分類」 を表として作成したわけですが、ここでご注意いただきたいことがあります


それは、分類しても分解しないということです。


分類することは、知識の整理と理解に役立ちます。







しかし、それはあくまで便宜上の話で、実際はあらゆるものが分かれて機能しているわけではありません。


これのようなことはどなたでも理解していることなので、もしかしたら「大きなお世話だ」 と思われるかもしれません。


けれども私たちは、分類することで無意識のうちに線を引き、別々のものであるように認識してしまっている、ということがあるのではないでしょうか。







今回も、テクニックの使い分けを理解しやすくするための手段として分類を試みましたが、それらはきっちりと線引きできるものではなく、繰り返しお伝えしてきましたように、互いに関連性や共通性があります。


常にそれを認識しておかなければなりません。


これを忘れて分解し、バラバラにしてしまうと問題を起こすかもしれません







例えば、マッサージのなかに、リンパマッサージというテクニックがあります。


リンパマッサージという概念によって、リンパ還流というポイントがクローズアップされ、リンパ系の機能と手技療法が及ぼす効果を、より効率よく理解することができます。


このように分類し、特定の概念を構成するのは、「伝え」「学ぶ」手段としてやむを得ないことです。


しかし、リンパマッサージを行うからといって、リンパしか意識していない、つまりリンパ系と筋骨格系が分解されているとすれば、リンパ系以外に身体へ及ぼしている影響を考慮しないために、他への効果を見逃しやすくなるかもしれません。

これは、とてももったいないですね


リンパマッサージは、リンパにしか作用しないということはないはずです。






効果を見逃すならまだしも、他の部位への配慮を怠ることで事故を招くこともあります。


マッサージで多いのは、伏臥位で肋骨を傷めることです。


特に伏臥位になったとき、患者さんの胸部がベッドから浮いているときは注意が必要です。


リンパ還流に気を取られ、胸部がベッドから浮いたまま、不用意に背部から力を加えると危険です。







関節包内運動を考慮せずにストレッチを行うことで関節を傷めたり、筋筋膜に配慮しない関節モビライゼーションによって、周囲の軟部組織を傷めてしまうケースなども、他への配慮を怠ると起きてしまうことです。







このような注意点は、習うときに指導されるはずですが、個人の思い込みや、とらわれによって忘れられてしまいがちです。


なかには頭では配慮していると思い込んでいるものの、実際はできていないという方もおられます。

そうなると、自分が原因で招いた事故も、降って湧いた災難としか受け止めなくなります



とくに経験を重ねているセラピストがこうなってしまうと、注意してくれる人が誰もいないので、本人は知らないまま、陰で恐れられるようになってしまいます。

これは悲しいことですね







分類によって分解されている、その最たるものが筋筋膜と関節です。

≪次回に続く≫

徒手的テクニックの使い分け12 ~表の活用例2-3~

2010-10-02 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
テクニックを学んでいると、得手不得手はどうしても生まれてしまいます


共通する基本は同じでも、やはりそれぞれの特徴があるので、合う、合わないが起こってしますのは人間関係と同じかもしれません。


不得手なものでも、練習してある程度できるようになっておいたほうがよいのですが、あまり上手くできないからといって、引け目に感じることはありません







体性機能障害の治療というのは、ゴルフに似ていると私は思います


ゴルフは、スタート地点であるティーグランドからクラブでボールを打ち、グリーン上のカップを目指すスポーツです。


短いコースを除いて、通常はグリーンに乗せるまで何打か打ちます。







ここでは、3打で480ヤード(1ヤード=80センチ)先のグリーンまで乗せたいとしましょう


ある人は、第1打で200ヤード、第2打で170ヤード、第3打で110ヤードを打ってグリーンに乗せました。


またある人は第1打から3打までを、240⇒200⇒40でグリーンに乗せました。


さらにある人は、190⇒160⇒130でした。


それぞれの飛距離は異なりますが、3打でグリーンに乗せていますから結果は同じです。


ふつうは、なかなかないと思いますが、160⇒160⇒160だってルール上は問題ありません。







ゴルフで例えましたが、グリーンを「治療の目標」のひとつである関節可動域の回復とし、第1打~3打をそれぞれ用いるテクニックに置き換えてみましょう。


仮に第1打を他動運動のメイトランド法、第2打を自動介助運動の筋肉エネルギーテクニック、第3打を自動運動のマッケンジー法とするといかがでしょう。










メイトランド法で大きく回復させ、筋肉エネルギーテクニックでさらに寄せ、マッケンジー法を少し加えて可動域を元に戻す。


メイトランド法ではさほど振るわなくても、筋肉エネルギーテクニックある程度寄せ、マッケンジー法で挽回して可動域を回復させる。


または、3つのテクニックをバランスよく使う。


この3つのパターンいずれでも、またはテクニックの順序を反対にしても、さらにはそれ以外のパターンでも問題ありません。


ですから、苦手なテクニックを用いなければならないときは最低限だけ行い、後は他のテクニックでカバーしてもよいわけです。


表に示している、異なるカテゴリーのテクニックを学ぶことによって、カバーできる範囲が広がります。







それに、ゴルフの1打目で主に用いるドライバーは距離を飛ばせますが、バンカーや池、深いラフからボールを出すにはちょっと大変です。


また、気候や風、コースの条件によって、さまざまなクラブを使えた方が便利です。


手技療法のテクニックも、それぞれ特徴があります。


そして、患者さんの病態や回復段階、刺激に対する感受性、不安などに合わせて、さまざまなテクニックを使えた方が便利です。

いろいろなテクニックを学んだほうがよいというのはそのためです







しかし、ただやみくもにたくさん種類を覚えても、使いこなせなければ意味がありません


ゴルフクラブもフルセットそろえただけでは、役に立ちません。


そこで、はじめは8番アイアンなど、ひとつのクラブを用いて徹底的に打ち方を練習します。


ゴルフは多くのクラブを使い分けますが、打ち方の基本は同じはずです。


そこをしっかり練習しておけば、他のクラブの習得も早いそうです。







んっ、どこかで聞いた話ではありませんか?







そうです。このシリーズでも同じようなことをお話ししてきました  ≪徒手的テクニックの使い分け6~筋筋膜への他動運動~≫


私はゴルフの基本的な打ち方の練習は、手技療法なら「押す・引く・まわす」操作だと考えているわけです。

各テクニックに共通する技法を整備したいという理由が、ゴルフの例えによってよりお分かりいただけたのではないでしょうか







ちなみに… 


私はゴルフができません。

打ちっぱなしに行ったことがあるだけです。







いろいろ脱線してきましたが、「どれから手をつけて良いかわからない」 「こんなにあるのを全部覚えないといけないの?」 という疑問を感じている方、参考になりましたでしょうか?


次回は、この表を用いるときに注意してほしいことををお話したいと思います。