手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

触れた手の離し方 その5

2014-04-19 19:32:50 | 学生さん・研修中の方のために
今回は圧迫した状態から手を離すとき、腰(体幹)からではなく手だけで引くような習慣になると、セラピストの腕や腰に負担をかけてしまうということのお話です。

以前、体重を乗せるには、身体を前傾して重心を前に移す方法と、腰を下に落として重心を下げる方法の2つがあるとお話しました。

「体重を乗せるということ」をご参照ください≫


    〈重心を前に移す圧迫法〉


    〈重心を下に落とす圧迫法〉



押さえた後に手を離すときに、手だけ引いて腰(体幹)の戻りが不十分な方がいます。

そうなると重心が前方や下方に残っているため、次に力を加える時に身体の力を十分に用いることができず手押しになりがちです。

これをくり返すと腕にかかる負担が大きくなり、トラブルを起こしてしまうことになります。



また、重心を前方に移動させていて先に手を離すと、体を支えるために働く脊柱起立筋の負担が大きくなり、腰痛を起こしやすくなります。


だから、腰から先に引いていく必要があるのですね。



以上ような話を聞くと「ふつうは腰を後ろに引いてちゃんと戻すでしょ」と思われるかもしれません。

でも、手元に気持ちが集中してしまうと、手先の動きだけになってしまい、知らないうちに自分の体に無理をかけている方もなかにはいます。

ですから油断できません。



余談ですが、重心を前方に移動させる方法を使っている方に、ぜひ注意していただきたいことがあります。

重心を元に戻すときに患者さんの体を押し、その反力を利用して身体を戻す方が時々います。

患者さんを台の代わりに使っているような感じです。



これは場合によってケガをさせる可能性もあって危険ですし、何より失礼です。

圧を加えいき、最終域で瞬間的に少し押して一気に離すリコイルという方法もありますが、わかった上で使っているなら構いません。

でも気づかずに、そのような使い方が習慣になっていたなら、そのクセはぜひ直すようにしてください。



今回のシリーズのテーマは「手の離し方」というあまり顧みられることのないテーマでした。

でもそれだけのことから、患者さんとの関係づくりや、テクニックにための体さばき、触診技術の向上、さらにはセラピストの身体の保護にも通じていきます。

このことは他のテーマでお伝えしてきたことと同じだということ、感じていただけたでしょうか。



手技療法の寺子屋ブログでは、いろいろなことをお話して来ました。

でも、同じことをくり返して来たとも言えます。

実は「同じこと」を、部位や方法ごとに「さまざまな表現」でお伝えしてきただけなのです。

みなさんに身につけていただきたいのは「同じこと」の部分で、それを伝えるための方便として「さまざまな」表現を用いてお伝えしてきました。

「同じこと」が基本と呼ばれるところです。



はじめのうちは「さまざまな表現」にとらわれてしまうのは仕方のないこと。

でも学びを重ねる中で「さまざまな表現」に共通する「同じこと」に気づいていって欲しい。

そのためにも、この機会に手を離すというシンプルな操作から、「同じこと」を感じとっていただきたいと思います。



次回は5月3日(土)夜に更新します。



若いセラピストのみなさんへ

2014-04-09 06:55:18 | 治療についてのひとりごと
20代のはじめ頃、「あなたはまだ若いから」と言われるのが、私はどういうわけかとても嫌でした。

現場では自分よりはるかに年上の方と接することが多い仕事ですが、若いというだけで古参の患者さんから軽く見られたり、敬遠されたりということがありました。
同じような経験をされた方も多いでしょう。
なかには、少しでも老けて見られようとしてヒゲを生やす仲間もいました。

患者さんにしてみれば、より経験を積んだ人に任せたいという思いがあって当然ですから、若くて頼りなさそうなセラピストに不安を覚えるのは当たり前のこと。
でも当時の私はそれが癪で、一生懸命背伸びをしていました。
見直してもらえるように、一目置かれるようになろうとして。

しかしその考えが災いし、功を焦って症状を悪化させたり、接し方に失敗して拒絶されたりして、先輩方にフォローを入れていただくこともたびたびありました。
悶々としながらも、変にガンコなところがあるので改めることなく過ごしていたのですが、無理をすればするほど患者さんとの距離は開いていきました。

避ける人がいる一方で、若い私に身体を任せてくださる患者さんもいました。
まさに捨てる神あれば拾う神あり、とてもありがたい存在でした。
その方たちから学び、そして先輩の指導を受けながら、私はセラピストとして育てていただいたのでした。
やがて、今のままの素直な等身大の自分で接すればよいのだ、ということが理解できるようになっていきました。

素直な自分らしさがなければ、どこかに無理が生まれます。
その無理が、患者さんとの間に壁をつくっていったのでしょう。

それが理解できてから、私と距離を置こうとする方には先輩方に任せて自分から無理な働きかけはせず、かといって避けることもせず、あいさつや世間話などはしながら、その方が安心できる距離を保つようになりました。
そのほうが、かえってよい関係を築けたようでした。

相手があることなので、その距離感、関係を意識しながら、今の自分が責任を持って行える範囲のことを精一杯行っていく。
それに尽きるということを学びました。

時が過ぎ、経験を重ねるにつれ、次第に「あなたはまだ若いから」と言われるようなこともなくなり、より多くの方に任せていただけるようになっていきました。
気づいた時には、後輩達を指導する立場にいました。
きっと、みんなこうして成長していくのでしょう。

若いから軽く見られるというのは、若いからこそ守られているということでもあります。
もし自分が何か失敗しても、周囲の先輩方がフォローしてくれ「あの人はまだ若いから」で済むことも少なくないはず。
信頼を回復する機会だってあります。

けれども、科長や分院長などの管理者になったり、自分で独立したときに何かあると「あそこはダメだ」と言われるようになります。
他の誰も助けてくれません。
そうなったら、その患者さんの信頼を回復するのはなかなか難しくなります。
その意味でも、若さはチャンスです。

かといって、若さや経験が浅さに甘えてはいけません。
プロとして現場に出る以上、自分がやることの責任は自分にあります。
その覚悟があるからこそ成長でき、周囲もサポートしてくれます。

もしかしたら、無謀なこともしてしまうかもしれません。
でも無謀を経験してこそ、チャレンジとの違いを知ることができます。
それはできるだけ早いほうがいい。

学びは一生ですが、学びにも成長期というものがあると思います。
成長は痛みを伴い、チャレンジには失敗がつきものです。
けれども、それらは麻疹やおたふく風邪のように、早めに経験しておいたほうがまだ軽く済み、対処スキルという免疫もできていきます。
自分の適性や限界も理解でき、進むべき方向性をより早く見い出し、適切なペースで進めるようになるでしょう。

新年度を向かえ新卒として、あるいは転職で新しい職場に就く方も多いでしょう。
若いからと言われるうちに、周囲が助けてくれるうちに、いろいろなことにチャレンジしていって欲しいと思います。
成長の栄養素は本気のチャレンジですから。

触れた手の離し方 その4

2014-04-05 18:21:48 | 学生さん・研修中の方のために
関節の可動性検査でも、手の離し方から情報を得ることができます。

関節なら手の離し方というより、動かし切ったところから戻す時の感触といったほうがわかりやすかもしれません。

でも感覚は同じです。




関節の可動性検査は関節終端感覚(エンドフィール)が重視されますが、判断が微妙な場合は戻す時の感触も役に立ちます。

可動性の制限なら戻す時の抵抗感は強く、可動性亢進なら抵抗感が弱く、すぐ抜けるような感じ。

ふつうはエンドフィールさえ感じたらパッと戻してしまいがちですが、ゆっくりゆっくり戻すことでこのような情報も手に入れることができます。

でもそのためには身体の力を使って操作する必要があります。

手先の力を使って操作しているなら、組織の抵抗感を感じながらゆっくり戻すことは難しいでしょう。



脊椎のスプリングテストの場合にも、手を離す時の情報を活かすことができます。




スプリングテストとは、伏臥位になった患者さんの脊柱を、手掌部や手根部で押圧を加えては離してそのしなり具合をみます。

それによって、動きが減少している分節に目星をつけていくという検査法です。

片手のこともあれば、両手を重ねて行う場合もありますが、個人的には片手で手根部を棘突起に沿わせて検査する方法を好んで用いています。



その際、手を離す時の感触をより意識することで、ただ弾ませて動きがある・ないだけではなく、さらに細かい情報を得ることもできます。

写真は腰部のスプリングテストですが、押圧を加えた時は腰椎には伸展方向に力がかかり、手を離したときは屈曲方向に戻ることになります。

脊椎のある分節に屈曲制限がある場合は、屈曲方向への動きが鈍くなります。

そのため、手を離したときの戻り方、復元のスピードが遅い場合には屈曲制限の存在が疑われるので、その分節を細かく検査していくという流れで評価を進めていくことができます。

もっとも、屈曲制限のある方は腰椎の前彎が強いことが多いので、視診でも見当はつきますが、触診によってより詳細に検討していくわけですね。



以上のように手を離した時の感触を意識することで、同じ操作でもより多くの情報を入手でき、触診による評価の質を高めることができます。



ただ、はじめのうちはムリせずに、押さえた時の感触に集中するとよいでしょう。

慣れないうちにあれこれやっても、情報を上手く処理できないことがあります。

これまでもお話ししてきたのですが、「身の丈に応じた臨床」をすることが大切だと思っています。



身の丈に応じるとは、わかる範囲のことをきちんと処理するということ。

それができるからこそ、わからないところもハッキリして次の課題が浮き彫りになり、ステップアップしていけるのだと思います。



『わかる』ところから、『できる』ところから、『浅い』ところから対処していく、というのを私は勧めています。

ですから押さえることが十分にできてから、離すときの感触に注意するようにしてみましょう。

≪押さえる操作については以下のシリーズをご参照ください。
「かたい」ときほど「やさしく」触診する 【 触診五話 その一】 ≫



さて、触れた状態からさらに力を加えると圧迫することになるのですが、圧した状態から引くときに、身体を使って動かしていないとセラピストの身体にも負担がかかります。

次回はそのお話をしましょう。


次回は4月19日(土)夕方に更新予定です。