手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

体性機能障害の評価の流れ3 ~ エンドフィール 1 ~

2010-06-26 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回の記事で、 「股関節の前捻角が大きいと外旋が、小さいと内旋の可動域が生理的に少なくなるので、その人の中で可動域を比較する必要がある」 というお話をしました。


実はこれだけでは不十分です。


というのも、前捻角が左右同じとは限らないからです。


そのために必要なことが 「関節終端感覚(End feel)」 の評価です。


これは専門書でも「エンドフィール」と表記されることが多いので、そちらを用いることにします。







エンドフィールは、関節のあそび検査で可動域の終端部に達したとき、弾力性があるか、硬いものがあたっているような硬さかという感触をみる検査です


このフィール(Feel=感覚)という表現を用いるあたりが、定量的に測定することが難しい、体性機能障害の性質をよく表していると私は思います。


このエンドフィールは、大きく3つに分けられます。

 軟らかい弾力性 ( Elastic Soft / ES )
 硬い弾力性 ( Elastic Hard / EH )
 骨性の硬さ ( Bony Hard / BH )
 







「軟らかい弾力性」 が正常になるわけですが、それが 「硬い弾力性」 であるとき、関節機能障害を起こしている可能性が高くなります。

でもそうはいっても、何が硬くて何が軟らかいのか、はじめのうちはなかなかわかりません


これがわからないと手がかりをつかめないので、まずは、硬い弾力性と軟らかい弾力性を感じ分けられるようになることが重要です。


その感触のちがいを、手関節を使って体感していただきたいと思います。







まず下の写真のように、一方の手を広げて手首の力を抜いて曲げ、その上にもう一方の手を乗せます。




上に乗せた手で、下の手に下方向に向けて圧力を加えていきます。


動いている途中の抵抗感と、動きが止まったところで軽く「もうひと押し」したときの抵抗感である、エンドフィールをよく覚えておきましょう


仮に、これが正常な「軟らかい弾力性」の硬さだということにします。







では、いちど上の手をゆるめましょう







続いて、今度は下の手で握りこぶしをつくります



この状態で先ほどと同じように、上の手で下の手を圧してみましょう。







いかがでしょう?

動いている途中の抵抗感と、エンドフィールがはじめと比べて「硬く」なったように感じられませんか?


この質的な変化が、「軟らかい」と「硬い」の違いです。


ついでに、可動域も減少していることが確認できると思います。







今回ご紹介した方法は、手関節伸筋の緊張を変化させただけなので、あくまでもたとえですが、大切なことは同じ関節で起こる質的な変化です。


質的な変化を感じるには、練習によって経験を積む、つまり場数を踏むしかありません。


ひたすら練習、練習です







幸い私たちには、ひとりに一体、自分の身体があるので練習相手に困りません。


(変な表現だったかな?


暇をみつけては、自分の身体のさまざまな関節に触れ、練習を重ねましょう。


そのときも、ただボンヤリと機械的に動かすのではなく、よ~く感触を味わいながら、経験値を上げていってください。







 エンドフィールに関係する過去の記事は、以下をご参考になさってください。

「ひとりでできる!! 関節あそび検査練習法 1~3」

「関節の構成運動を感じよう !! 1~4」

「操作は身体のそばで」 





 練習に関係する過去の記事は、以下をご参考になさってください。

「練習は大きく動かす」

「小さな操作は大きく動かす」

体性機能障害の評価の流れ2 ~可動範囲と動きの質~

2010-06-19 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
体性機能障害の評価では、まず 「左右の非対称性」 を評価して位置的変化を認めたら、次に 「関節可動域」 をみて、どこに、どのような運動制限があるかを調べます。


この 「関節可動域」 をみるときには、「可動範囲」 「可動域内の動きの質」 「関節終端感覚」 の3つのポイントがあると思います








まずは 「可動範囲」 、狭い意味での「関節可動域」ですね


これには、「絶対的」 と 「相対的」 の2つあります。

「絶対的な可動範囲」 とは、解剖学やリハビリテーションのテキストに載っている可動範囲です



肩の挙上なら180°、水平外転位からの外旋なら90°、内旋なら70°というような、教科書的な可動範囲のことです。







「絶対的な可動範囲」 は一応の基準にはなりますが、実際の臨床でむりやり当てはめて、正常な範囲まで回復させようとすると事故を起こしかねません


可動範囲はもともと個人差がありますし、人によっては先天的な骨の形態から可動域が生理的に少ないこともあるからです。


例えば、股関節の前捻角が大きい・小さいなどです。


前捻角が大きいと外旋が、小さいと内旋の可動域が少なくなります。







ですから、その人の中で可動域を比較する必要があります。

これが「相対的な可動範囲」で、「関節可動域」の「非対称性」をみます



相対的な可動範囲のほうが、その人にとっての問題点を明確に示しています。


臨床では、絶対的と相対的の可動範囲を天秤にかけながら、どの範囲まで回復するのがその人にとって望ましいかを判断していきます。







続いて 「可動域内の動きの質」です

可動域をみるなかで、同時に、動きの協調性や滑らかさも調べます。



臨床では、見た目に明らかな可動域の制限がなくても、協調性の異常によって症状を起こすことも少なくありません。







例えば前回も紹介した下の写真では、右肩に可動域制限がありますが、左肩は完全に挙上できています




このようなケースでは、ふつうは可動域制限のある右肩に訴える方が多いのですが、なかには右ではなく左肩に痛みを訴える方もいらっしゃいます。


挙上前の状態をみてみると、左肩が下がっていることによって、肩甲骨は下制し、下方回旋しています





すると、挙上時に肩甲上腕リズムによって起こるはずの、肩甲骨の挙上と上方回旋が制限されてしまいます。


(肩の挙上運動180°のうち、120°が肩甲上腕関節、60°が肩甲胸郭関節によって行われます)


これがそのまま可動域制限として現れることもあれば、肩甲上腕関節が肩甲胸郭関節の可動域を代償し、上の写真のように、全体としての動きは確保できていることもあります。


後者の場合、一見するときれいに腕が挙がっているようにみえるのですが、実は肩甲上腕関節は過剰可動によって負荷がかかり続け、やがて痛みが現れてしまうということになります。


あくまで例えのひとつですが、このように全体の動きは正常でも、その内訳やリズムがおかしい、つまり協調性の異常も体性機能障害として起こります。


( 前回のおわりに書いた、明らかな可動域制限の部位に症状を訴えるというようなシンプルなケースばかりではありませんというのは、この例えのようなことが起こるからです







協調性の異常があると、自動運動も滑らかさがなくなり、ぎこちなさを認めやすいので、そこを注意して観察するようにします。 

ちなみに、ここまでの 「非対称性・可動範囲・可動域内での動きの質」 をみるのが 『動作分析(または運動分析)』 と呼ばれるものです



運動療法では、この動作分析に基づいて、可動域そのものを改善したり、運動のリズムやパターンなどを修正するプログラムを組んでいくということになります。







さて、続いての「関節終端感覚(エンドフィール)」、ここからは手技療法を実施する上で重要になる評価です。







 動作分析に少し関係する過去の記事は、以下をご参考になさってください。

「マネすることからはじめてみよう~評価について~ 1~4」

体性機能障害の評価の流れ1 ~左右の非対称性~

2010-06-12 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回のシリーズは、評価のおおまかな流れについてお話したいと思います。


評価で最も大切なのは、適応と禁忌の鑑別なのですが、今回はそれをあえて外し、機能障害を特定するまでの流れに重点をおきます。


先月アップしました 「触診五話:その三」 のなかで、体性機能障害は、

「非対称性 (Asymmetry)」
「関節可動域 (Range of motion)」
「組織質感 (Texture of tissue)」


の3つを評価するとお話しました。







実はこの3つ、何気なく並んでいるのではなく、評価の順番も示しています。


「非対称性」 ⇒ 「関節可動域」 ⇒ 「組織質感」 という順で評価していくわけです


英語の頭文字をとって、『 A R T 』 と記憶する方法もあるようです。







それでは、はじめましょう


まずは 「非対称性」 です。


最初は、基本的に動かない静的な状態で姿勢を評価します。


ランドマークとなる指標を手がかりに、位置的な上下・左右・前後のちがいをみるわけですね。







正面から見て、鼻とヘソを結ぶラインがまっすぐか


背面から見て、脊柱のラインがまっすぐか。


側面から見て、耳孔と肩峰のラインがまっすぐか。


肩や骨盤の高さは地面に対して平行か、などをみるわけです。







そして、もうひとつは肥大や萎縮など、筋の発達の程度も調べます


萎縮や肥大をみるときは、反対側との比較が参考になります


もちろん、両側とも萎縮していることもありますから、他の人と比べてという視点から診ることもときに必要ですよ






姿勢の非対称性について注意しなければならないことは、この段階では、どこに、どのような機能障害があるかを決定することは、まだできないということです。


位置が左右でちがう、背骨が曲がっているというだけで何か判断せず、情報としてはあくまで手かがり程度にとどめましょう


たとえば、下の写真をみただけでは、「右肩が上がっている」 といえるのか 「左肩が下がっている」 といえるのか、わかりません。

機能障害が、どちらにあるのかわからないからです









この点を明らかにするには、動かしてみる必要があります。


つまり、「関節可動域」 をみるわけです。


では、両腕を挙上してみましょう。





左腕は、完全に挙上できているのに対し、右腕は制限を起こしています。

ここではじめて、「上がっている右肩が挙上制限を起こしている」 という表現を用いることができるわけです


実際の臨床では、他にもさまざまなパターンの機能障害が起こりますが、まずは、シンプルなこのかたちを基本として押さえておいてください。


次回は、「関節可動域」 に含まれる項目をみてみましょう。







 左右対称性に関する過去の記事は以下をご参考になさってください。

 「『ズレ』という言葉の認識のズレ」

 「まっすぐの悲劇」

 「めずらしく腹が立ったこと」

 「立派な枝ぶり」










≪おまけの話≫

6月の札幌は、「ポプラのわた毛」 が街中を舞います。
わた毛と書くと聞こえはいいのですが、ぱっと見た目は 「わたボコリ」 です



治療院の窓を開けていると、さわやかな風と一緒に入ってくるので、院内はわた毛だらけになります。

北海道に来てもうすぐ6年ですが、1年目はじめてみたときは、「なんでこんなにホコリが多いんや」 とボヤいていました。

けれども、理由を知った今では反対に気に入っています

札幌の初夏の風物詩です



「自然にみる」 ことの難しさ

2010-06-05 20:00:00 | 治療についてのひとりごと
わたしは筋力検査を封印しています







「なんのこっちゃ?


そう感じられた方も、いらっしゃるかもしれません。







とはいっても、いわゆる徒手筋力検査(MMT)ではありません。


それは必要に応じて行っています。


では何なのかというと、オーリングテストや、カイロプラクティックのアプライドキネシオロジー(AK)で用いられる筋力検査です。


患者さんが力を入れた瞬間の、筋肉の反射的な反応をみるので、筋力反射検査といった方がよいのでしょうか?







じつは一頃、AKをほんの少しだけ勉強したことがありました。


セミナーに出たり、考案者のグッドハートDCが来日した時には、話を聞きにノコノコと出かけたりもしました


AKで用いられる筋力検査では、反応が弱化した筋肉を調べ、何らかの刺激を加えた後、筋力が回復しているかを検査します。


治療後に筋力が回復していたら、治療成功というわけです







ある日、大腰筋の筋力検査を行っていたとき、自分が恐ろしいことをしていることに気がついてしまいました







なんと私は、治療前の筋力検査ではしっかり力を加え、治療後の筋力検査では軽めに加えるということをしていたのです


同じように検査しなければならないのに


若気の至りでしょうか。


私の中の、デビルくつぬぎ のささやきに負けていたようです。







そこに、エンジェルくつぬぎが

「お前っ!! チョロまかしとるやないか~

と、後ろからハリセンで頭を叩いてカツを入れてくれました


どうやら、デビルくつぬぎ よりも、エンジェルくつぬぎ のほうが厳しいようです。


ようやく目を覚ました私は 「アカン、こんなスケベ根性丸出しの、煩悩のかたまりやったら、筋力検査を使う資格がないわ」 と封印することにしました。







あれから10年ほど経ちましたが、未だに煩悩が抜けきらないので、封印したままになっています。


かといって筋力検査を否定しているわけではなく、(できないのだから肯定も否定もしようがないのですが)、いつかまた勉強し始めるかもしれないと、自分の中で保留にしています。


そのようなわけで、セミナーなどでお会いした方に、筋力検査のことを質問されることがあるのですが、正直困ってしまいます







とにかく今は、自分が納得して行える評価の方法、触診に磨きをかけるよう心がけています


しかし、これも自分が納得できたとしても、客観的に示すのは難しい…。


しかも、先入観を持って触診すると、そのように見えてしまうから不思議です


たとえば、左短下肢が多いという頭で触診すると、本当にそう見えてしまいます。


これは、左短下肢に見えるような視点で見たり、触れ方や、動かし方をしてしまうからだと思います。


私が筋力検査で行っていたことと、似たような誤りですね







触診にせよ筋力検査にせよ、先入観や思い込みを持たず、鏡に映るのように、自然にありのままを見なければなりませんが、これが一番難しいことだと思います


茶道でも、自然が一番だが、それが一番難しいと教えていたと思います


ゴルフでも、自然なスイングが一番といわれるそうですが、やはりそれが一番難しいのだそうです


何ごとにも通じることなんですね







「自然にありのままをみる」とは一体どういうことなのか?


まったく悩みは尽きません










≪おまけの話≫
自宅から車で1時間ほどはなれた、石狩湾の海岸沿いにある 「はまなすの丘」 に行ってきました

お目当ての 「はまなす」 という花は6月ごろから咲き始める…のですが、今年は寒かったためか、まだ姿かたちも見あたりませんでした

でも、のどかな景色なので、木道をブラブラ散歩して気分転換してきました



右手が石狩灯台で、その奥に石狩川が、そして、左手奥の丘の向こうには日本海が広がっています。



ようやく、小さな花が咲き始めていました。
海浜植物という種類らしく、多くの植物名のあたまに「はま~」とついていました。



「はまにんにく」、どんな味か食べてみたいナァ。