手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

アゴの痛みと手技療法 

2008-08-30 21:30:28 | 治療についてのひとりごと
手技療法でアゴの痛みを治療するというと、不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。





「アゴの痛みというと歯医者さんじゃないの?





そう、そのとおり 


実際に虫歯・歯槽膿漏・顎関節症は歯科の3大疾病と呼ばれているくらいなので、アゴの痛みを起こす顎関節症は歯医者さんに診ていただくのがふつうです。





「ホントにアゴの痛みに手技療法なんて役に立つの?





実は立つんですよ 


顎関節症は歯の問題はもちろん、心理的なストレスや姿勢など、いろいろな問題が合わさって起こるので複合的なアプローチが必要とされています。


しかし、その中に手技療法が加わることはメジャーではなく、文献の中でも一部に紹介されている程度で、医療関係者の中でもまだまだ認識は低いです。


もちろん、手技療法だけで解決しないこともたくさんあります。心理的なストレスもそうですし、歯そのもの問題も対処できません。顎関節については円板が外れて、もとに戻らなくなっているようになると難しいでしょう。


このように限界はあっても、私は顎関節症のケアに手技療法は大いに役に立つと思っています




筋肉や腱、靭帯など軟部組織の異常な緊張は痛みをもたらします。


手技療法はこれら軟部組織の異常な緊張、つまり体性機能障害に対して有効です。


顎関節は特殊なところもあるものの、基本的には他の滑膜関節と同じ構造です。


ですから顎関節でも体性機能障害による痛みが起こっている場合、手技療法が役に立つわけです。


このように順序だてて考えたら、不思議なことではないと思います。






より具体的に3つあげると、ひとつは姿勢の改善


これに手技療法が有効なのは、よく知られていることですね。


姿勢の悪さによって、頭の位置が変わるとそれに伴って筋肉の緊張状態も変化し、それがアゴに負担をかけます。


姿勢を良くするのは最終的には患者さん本人の意識や努力によるのですが、体の中に余計な緊張があると、良い姿勢をとろうとしてもそれを続けることはなかなか難しくなります。


そこを手技療法でカバーすれば、姿勢のコントロールもより行いやすくなり、結果的に顎関節にかかる負担も減らすことができます。


 (これとは反対に、歯のトラブルから顎関節にムリがかかり、それが全身に影響する場合もあります。このように顎から全身に影響することを下向性の障害、全身から顎に影響することを上向性の障害と分類することもあります。)






もうひとつは、軟部組織の緊張による症状の持続を防ぐということ


アゴや歯が痛むというケースのなかには、筋肉が原因のこともあるのです。


例えば、歯は治療完了しているのに痛みが続いている場合、筋の持続的緊張が関係している可能性も考えられます。


また、歯科での治療と平行して軟部組織の緊張を除いていくことによって、より早く症状が改善することが期待できるケースもあるでしょう。





そしてセルフケアによる、悪化や再発の防止


顎関節症の原因が仕事や家庭でのストレスによる場合、「治す」ということはなかなか難しいことがあります


しかし、症状をコントロールすることができれば、患者さんは生活に「適応」することが可能になります。


手技療法の技法はそのままセルフケアで用いることもかんたんなので、症状をコントロールする手段の一つとして役立ちます。


また患者さん自身にとっても、症状を自分でコントロールできるという感覚は、心理的にもプラスに働くでしょう





このように、状況と使いかたによってはとても役に立つはずなので、何とかそれを伝えられないものかと思っています。


そのためにも、まず手技療法を使っている私達が、顎関節症への手技療法の有効性を認識できるようにならなければいけません。




フックとは!! と、こぼれ話

2008-08-23 20:37:03 | ASTRについて
ASTRでは、組織をフックするということが大切です。


「フック」という特別なことばをつくると、ナゼかそれがひとり歩きをして秘技だとか秘伝だとか、何やら大そうになることもよくある話ですが、そんなことはぜんぜんありません






ちょっとした工夫とか、アイデアといったところです






テキストにもあるとおり、フックとは「組織に対して、圧迫を加えたまま横方向(あるいは縦方向)へ牽引し、予備的な伸張刺激を与えた状態」です。

でも、この表現ではちょっとムズカシイという方もいらっしゃいます






そこで、下にイラストで表してみました


フックはこのように、圧迫+横すべり(点線矢印)から成り立っています。





まず、組織に対して圧迫を加え、制限に触れて抵抗を感じたところで横すべりして牽引するという感じです


その結果、合力は実線矢印の角度にかかっていることになります。


この角度が鋭角か鈍角かによって、フックの強さなり、刺激の深さが変わるというのが前回の記事の内容でしたね。






どうでしょうか?イラストにしたら、分かりやすくなったでしょうか






ところで、こんな話をすると「これは引っ掛ける(Fook)というよりは、押し伸ばしているんじゃないの?」なんてことをおっしゃる方がいるかもしれません。


それには、こんないきさつがあるんです






ASTRという名前もできる前のことでした。


共著者の松本先生と、この新しいテクニックについて大胸筋のセルフASTRをモデルにして、いろいろと話しをしていました。


大胸筋のセルフASTRでは、示~小指までの四指を曲げて起始側に向かって引っ掛けるようにして使います。


この状態が、Fookということばにピッタリなので、フックと呼ぶことにしました


フックを全身のあらゆるところに用いると、押すこともあれば引くこともあるのですが、ややこしくなるので統一しています。


そして、「フックポジション」の前後をそれぞれ「プレポジション」・「ストレッチポジション」として、3ステップに整理することでより伝えやすくなるのではないか、ということで現在のかたちになったわけです。





できてしまえば、ことばだけが表に現れますが、それが生み出されるまでにはいろいろなエピソードがあるものですね


ちょっとしたこぼれ話でした

フックの角度

2008-08-16 19:52:16 | ASTRについて
ASTRでは、フックの角度によってその強さを調節します。


組織に対して鋭角にフックすると強いASTRがかかり、鈍角では弱くかかるという具合に。

(このあたりはテキストを参照してください





角度調節の判断はそれ以外に、組織中の制限がどの位置にあるかによっても変わってきます





制限が浅い位置にある場合は、鋭角のフックを用います


        ≪オレンジ色が制限です≫


例えば、皮膚や皮下組織に残った瘢痕をとる場合などはこれがよいでしょう。








制限が深い位置にある場合は、鈍角のフックを用います




深層にある筋は、こちらで行う必要があるかもしれません。








理屈でいうとこうなるのですが、実際の臨床では瘢痕を取るから鋭角のフック、深部だから鈍角なフックと、はじめからパターン化したものを当てはめているわけではありません。


あらかじめ必要な評価を行ってから、触診して制限をみつけたときに、頭側か尾側か、外側か内側か、鋭角か鈍角かなど、どの方向に最も動かないのか調べます。

そのうえで、この手ごたえを与えている組織は何なのか? どういう状態なのか? というように、知識や経験に照らし合わせます



そして手技療法を適用してもよいか最終的な判断をしてから、触診によって導かれた方向に向かってフックをかけASTRを行う、というふうに私は使っています。






触診の大切さについてはくり返し述べてきましたが、こういうところでも生きてくるわけですね

フックもいろいろ

2008-08-09 20:04:03 | ASTRについて
ASTRでのフックは、組織を圧迫して横方向にけん引(←これはタテですが)するという技法です。


どこを使ってフックするのかは、以前このブログでも「フックの技法」というシリーズで紹介しました。


母指やそれ以外の四指で、あるいは肘・膝で、という方法だったと思います。


では、それ以外のところは使えないのでしょうか。





そんなことは全くありません。


フックの目的にかなうなら、どこを使ってもよいのです


決して、型にハマッてしまわないでください(もちろん、はじめのうちは型も大切ですが)。





私も状況によって使い分けています。


手掌や手根、小指球や第五中手骨の尺側縁、これらは大胸筋や内転筋群に使いやすいです。




≪手根でのフック≫




≪小指球でのフック≫




≪尺側縁でのフック≫



大胸筋や内転筋群は三角筋や殿筋などに比べて、日ごろから何かに当たったりぶつかったりすることが少ないので、物理的な刺激にはちょっと弱いところです


そこにアタリが鋭い刺激を不用意に送ると、余計な緊張を与えかねません


この点、手根や小指球ならアタリもマイルドですから、緊張する可能性も低くなります





それ以外にも、ナックルを使うこともあります。



≪ナックルでのフック≫


これは、伏臥位でのハムストリングスや腸脛靭帯に対して用いています。





また、同じ肘でも鋭角にして肘頭を使うと非常に強力なフックがかかり、鈍角にして尺骨縁を使うと広い面であたるのでマイルドになります。



≪肘頭をつかった鋭角な肘のフック≫




≪尺側縁をつかった鈍角な肘のフック≫


適度な刺激になるように、角度によって調節するわけです。

肘というと、刺激が強いイメージがありますが、コントロールすることでやさしく使うこともできるわけです。





このようにいろいろできるわけですが、現場でどのように使い分けているかといえば、しっくりくるかどうかで判断しているということになるでしょうか


とたんに曖昧な言い方になってしまいましたが、こればっかりは試行錯誤して経験を重ねて身につけるしかありません


でも、地道に積み重ねていけば、しっくりくる感触は必ずつかめるはずですよ