手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

テニスボールマッサージは悪いのか? その1

2016-03-19 14:09:57 | 治療についてのひとりごと
「テニスボールを使ったセルフケアは良くないのでしょうか?

かえって悪くなったり、身体を硬くするという話を聞いたのですが

先日、若いセラピストの方から尋ねられました。



最近ではテニスボールをはじめ、商品化されたボールや筒状のツールを使い、セルフケアとしてマッサージをする方法が、一般でもよく用いられるようになってきました。



それらは古典的には「コリをほぐす」、ちょっと前では「トリガーポイントをリリースする」、最近のトレンドでは「筋膜をリリースする」と表現されていますが、理論的な背景は異なっていても実際にやっていることは似ています。



私も10年ほど前から、臨床でもテニスボールマッサージを好んで紹介するようになりました。

結果はおおむね良好で、なかには劇的な改善をみせたこともあり、私自身のセルフケアとしても気に入ってよく使っています。



身体の背面の手が届きにくいところでも、自分の体重を使ってコントロールをしながら簡単に刺激することができる。

トゲのある言い方かもしれませんが、下手なマッサージを受けるよりよっぽどいいと思っています。



たくさんのセラピストによってその方法が紹介されるなか、私もご縁があって健康雑誌でお伝えする機会を何度かいただきました。

「困っている方々に役立てていただければ」というのはもちろんのこと。

それに加えて一般のレベルを上げることで、業界の底上げを図ろうとするのも狙いのひとつでした。

一般の方がきめ細かいケアができるようになれば、セラピストはさらにその上をいかなければ行かなくなります。

テニスボールに負けてなんていられないわけですね。



何はともあれテニスボールは、安く手軽に入手できて使い勝手もよく、自分で調整しながらできる。

万能ではもちろんないけれど、経験上とても役立つアイテムです。



ただ、「よくない」という話も、最近チラホラ耳にするようになりました。

私も記憶に残る失敗が、これまでで2例あります。

ひとつは、患者さんが腰の下に入れたまま眠ってしまい、4時間ほどして目が覚めたら腰痛を起こしていたということ。

幸い数時間で痛みはなくなりました。



もうひとつは、腕の下に入れたまま寝てしまい、目が覚めたら腕の神経がマヒしていて手首がダラリと垂れ下がっていたという患者さんです(橈骨神経麻痺)。

このケースは回復に2~3週間かかったのですが、患者さんが看護師さんだったこともあって理解があり、不安にならずに過ごしていただけたのがせめてもの救いでした。



以上のケースから言えるのは、テニスボールを入れたまま寝てはいけないということ。

寝返りを打っているうちに外れてしまうことも多いのですが、先ほどのケースのようなことも起こり得るので避けたほうがよいでしょう。

寝るまでいかなくても、1カ所につき2~3分も刺激すれば、日々のケアとしては十分です。



何ごともやりすぎはよくありません。

食べすぎ、飲みすぎ、使い過ぎはよくないということと同じ。

常識的なことですね。



他には、炎症を起こしている部位、過敏になって触れると飛び上がるような部位、テニスボールを使うことに不安を覚えるときは控えるべきです。

また、首や腰が反りすぎている場合(過前弯)、首や腰がさらに反るような当て方はしないように注意も必要でしょう。



あらゆる治療法や健康法、トレーニングには長所と短所、身体の状態に対する適応と禁忌があります。

それらを見極め、使い分けることが大切なのですね。

テニスボールマッサージもそれは同じこと。



冒頭の質問に戻りますが、もしテニスボールマッサージが誰にとっても良くないことなら、果たしてこれほど普及するでしょうか?



仮に「テニスボールでマッサージをすれば身体が硬くなる」 という表現が、みんなに当てはまるようなニュアンスで使われているとしたら。

それは 「定年退職をしたらボケる」 ということと同じくらい、いささか乱暴な話ではないかという印象を持ってしまいます。

反対に「コレさえあればすべてOK!」という通販のCMのようなことを言われても、うさんくささを感じます。

残念ながらこの業界には、良きにつれ悪きにつれ、極端な表現が用いられることが時々ありますが、本当のところはその間にあるはず。



妥当な話の中に飛躍した話がまぜこぜになることで、もっともらしく聞こえるようになるもの。

さらに感情に訴えかけ、共感を誘う表現に飲み込まれると、コロッといってしまうかも。

冷静に批判的にみて、よく考えなければいけません。



今回のシリーズは、私にも馴染みのあるテニスボールマッサージを取り上げながら、それに対する個人的な経験と考えをお話しすることで、みなさんにとって考え方の参考になればと思います。



まずは「やりすぎると硬くなる」ということについて。

次回に続きます。





☆ブログの目次(PDF)を更新しました。 2016.02.20☆)
寺子屋ブログを開設して8年が過ぎました。
この機会に目次を追加更新し、記事を整理しました。

・手技療法に共通する基本とは何か?
・技術という感覚的なものを、いかに身近な言葉で表現するか?
・治療の考え方を、日常の常識的判断になぞらえてどう示すか?
そのようなことを問いながら続けてきました。

「はじめに」でも述べているのですが、セラピストとして目指すスタイルは人それぞれぞれ。
ただ、今いる場所から歩みを進めようとした時、このブログが足元を照らす「灯」になれることを願っています。

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医療情報研究所






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慰安的マッサージは悪いのか? その2 《目次が新しくなりました》

2016-03-05 15:23:59 | 治療についてのひとりごと
一部のセラピストから何かとやり玉に挙げられる慰安的マッサージ。

では、慰安的マッサージの何が問題とされているのでしょうか。



よくよく話を伺うと、実は慰安的そのものではなく、決められた手順に従って、ただ漫然とマッサージをしていることにダメ出ししているようです。

フムフム、それなら納得できるかな。



慰め安らぎを与える「慰安的マッサージ」が悪いのではない。

「機械的・流れ作業的マッサージ」がよくないということですね。



女優の故・森光子さんが、ある日の舞台を終えた後、途中のセリフが言えていたか思い出せなかったことがありました。

仲間の俳優にそれをたずねて「きちんと演技していたよ」と言われた時、ゾーッとしたそうです。



何を考えなくても、機械的に演技は出来ている。

でもそこには、心が込められていない。

心の伴わない演技は演技ではないと反省し、以後、気持ちを改めて舞台に立たれたと述懐されています。



手技療法の場合なら、心が伴わないというのは相手を見ないで行うということです。

相手の状態を見ず、ただ機械的に刺激するだけでは効果としてもそれなりでしょうし、場合によってはかえってダメージを与えてしまう可能性もあるでしょう。



また評価をせず、小手先に頼るようになれば技術は堕落します。

ちょうど伝統的に評価と治療の体系であった古法按摩が、江戸時代に小手先だけの「曲手」が普及したことで衰退したように。

≪こちらの記事もご参照ください。知っておきたい!東洋の手技療法の歴史 その3



もちろん機械的なマッサージも、初学者の方がある程度の形や流れを覚えるまでは必要な道です。

技術をスムーズに覚えるには、手順が決まっていたほうがわかりやすいでしょう。



また現実問題として、現場で均一なサービスを提供できることを求められているなら、手順を覚えてその通り行っていく必要があります。

リラクゼーションを目的としてチェーン展開しているお店はなどは、この手法を取らざるを得ないでしょう。



そのようなリラクゼーションのイメージと、機械的なマッサージが混同されて入れ替わり、一部のセラピストから慰安的マッサージは良くないという指摘されるようになったのかもしれません。

もしそうだとしたら慰安的マッサージは、とんだ濡れ衣を着せられていることになりますね。



機械的なマッサージは整骨院や病院でも、とにかく数をこなさないといけない(良くない表現ですが)ときに用いられることがあります。

忙しくて忙しくて、どんどん済ませていかないと現場が回らなくなる。



でもそのような現場であっても、プロのセラピストとして自立してやっていくつもりなら、かたちを覚えたら状態や個体差をみながら進めていけるようにステップアップしなければいけません。

機械的に流されず、またパターンを無理やり当てはめるのでなく、相手に合わせて部位や方法を変えていけるようになることが求められます。



だから、まずは勤めている施設や、学んでいるメソッドで決められている手順をきちんと覚える。

手順を覚えたらその流れの中で、わかる範囲でかまわないので、異常を見つけるように意識しながら行う。

相手をみることの第一歩です。



やがて、その手順に収まりきれない異常が気になり出したら、枠を広げて他の方法を学んだり、自分で工夫を重ねていく。

いわゆる「守・破・離」ですね。

このように進めれば、身の丈に応じながらステップアップできるでしょう。



「慰安的なマッサージは良くない!!」と見聞きしたら。

それはプロとしてやっていく上で、ある段階まで来たら「機械的・流れ作業的なマッサージ」をやっていてはいけないよ。

そのような意味に受け止めるとよいと思います。

できれば表現を改められたらいいですね。