手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

母指での「押す」フックについて

2009-08-29 20:00:00 | ASTRについて
ASTRの、手指を用いたフックには「押す」フックと「引く」フックがあります。


今回は母指での押すフックについて、すこしお話ししたいと思います







セミナー会場などで、私はよく「押すフックの場合は、指節骨⇒中手骨⇒橈骨のラインが、できるだけまっすぐになるようにフックしてください」とお話しします。


理由は、そのラインに沿っていれば骨格で支えることができるのですが、外れれば外れるほど指先の筋に大きな負担がかかるからです。


では私自身が本当にまっすぐ、一本の棒のようにフックしているのかというとそうではありません







見る角度によっても異なります


このように見ればまっすぐですが…





回転させると、まっすぐではありません。





指圧では母指の圧迫をするとき「MP関節を外に出す」という教えられ方をしますが、それに近い形ですね


現実問題として、ポジションや角度によってはまっすぐのラインを保つのが難しい、あるいはかえって不自然なこともあるので、実際はこれくらい外れていてもOKです







では、なぜ「まっすぐ、まっすぐ」とウルサく申し上げるのかというと、慣れないうちはまっすぐのラインから大きく外れがちだからです。


夢中になって練習しているうちに、これくらい外れている方もめずらしくありません。





こうなると、母指の屈筋や内転筋には遠心性収縮の力がかかり続けることになります。


遠心性収縮は筋を傷めやすいものです







このような習慣が身についてしまったら後々たいへんです。


だからはじめのうちに、できるだけまっすぐのラインを保ってフックできるようになるよう、ウルサくウルサく言うわけです。


まっすぐのラインを保とうとする習慣が身についたら、たまにイレギュラーとして大きくラインから外れるフックをしても、すぐに修正でき、指を傷めるまでにはいたらないでしょう







指のラインが橈骨に沿うようまっすぐにする、という説明の真意は、「指先の力を最小限にしてフックする」ということです


私はこれを心に留めて練習し、工夫をするようにしています

迷ったときは「パッチテスト」

2009-08-22 20:00:00 | ASTRについて
ASTRに限らず、禁忌の判断はとても大切です。


ASTRの場合は体表から組織を引っかけるようにして伸ばすので、とくに出血傾向の方には注意が必要です


局所的な炎症や皮膚疾患の場合は判断しやすいのですが、ヘパリンやワーファリンなどの抗凝固剤の投与や、長期間のステロイド服用、あるいはもともとの体質によって、出血傾向がみられるときは、どの程度の刺激を入れてよいものなのか迷うことがあると思います


経験を重ねると加減を上手くコントロールできるようになるので、出血傾向のある方にASTRを使っても問題は起きにくいのですが、慣れないうちは心配になると思います。


それに内出血してアザだらけになり、患者さんが不安になったり、思わぬトラブルになっても困りますよね。







そんなときにオススメしたいのが、「パッチテスト」です


そう、薬剤などにアレルギー反応を起こすかどうかを調べる検査法ですね。


ASTRの場合は、塗ったり貼ったりするわけでないので「パッチ」とはいえないかもしれませんが、あの要領でテストをするわけです。


方法は、まず患者さんに「内出血するようだったら困るので、まずテストをしますねということをお伝えして同意していただいた上で、対象となる部位の一か所にASTRをかけます。


そして次回来院されたときに結果を確認し、問題なかったようでしたら自信をもってASTRを使っていくことができます。


また仮に内出血したとしても、あらかじめ患者さんにテストである旨を伝えてあるので不安になることもないでしょう。


アレルギーのパッチテストの反応として腫れたとしても、それを心配する人はいないというのと同じですね。







もちろん、はじめに問診で内出血しやすいかとか、ぶつけるとすぐアザになるかなどを確認しておくことも忘れてはいけません。


それから「もし内出血をおこすようだったら、すぐに教えて下さいね と、きちんと患者さんにお話ししておくことはとても大切です。


患者さんが医療不信を起こすきっかけは、ほんのわずかなことからはじまります


この一言があるかないかで、まったく違ってくるはずです。

新鮮なうれしさ

2009-08-15 20:00:00 | 治療についてのひとりごと
以前、中学生の女の子が、お母さんに付き添われてご来院されました


ご一緒に、小学生の妹さんもいらっしゃいました







中学生のお姉さんご本人は、特に症状を感じていらっしゃるわけではありませんでした。


ところがお姉さんの様子を見ていてお母さんが「身体が歪んでいるのではないか」と心配されたためにご相談にみえたのでした。


このようなことはときどきあります。


ご本人はケロッとしていても、学校の検診で側彎症といわれたことをご両親が心配して、ということが多いでしょうか。







このような自覚症状がないケースでは、ご本人に身体の状態を体感していただくことが大切になります


そうでないと自覚症状がないために、せっかくエクササイズをアドバイスしても継続するためのモチベーションが保てないからです。




「ほら、身体を右と左にたおしてみて。左右で動かせる幅がちがうでしょう?


「あ~っ、ほんとうだ!


「脚の太さも確認してみて。左右でちがうでしょう?


「え~っ、気がつかなかった!!




このようなことを、ご本人はもちろんですが、お母さんにも確かめていただきます。


ご本人以上に気にしているのが親御さんであることが多いので、身体の偏りはどこがどのようになっているためなのか、その理由と対策方法を知っていただくことは大切です。







中学生くらいになると、親がどうこう言っても、「ウザイ」の一言で流してしまってもおかしくない年齢です。


(ちなみに、今回の患者さんはとても素直な中学生でしたよ。あしからず


でも、幼い時ほど親の影響を受けやすいものです。


とくに母親の影響が大きいです。


ですから、母親が不安になっていると、それが子どもに伝わって不安を呼び起こすことにもなります


今回は中学生のお姉さんでしたので、その辺は心配ないと思ったのですが、お母さんにはできるだけきちんとお伝えするように心がけました。







そんななか、マジマジとこちらを見つめる視線が…


そう。ご一緒にいらした小学生の妹さんです


好奇心旺盛なお子さんで、とても興味を持っている感じだったので一緒にみていただきました。







治療後、再び確認して、左右の動きの差などが改善していることを確認していただくと、ご家族みんなでよろこんでいらっしゃいました


こういう瞬間って、仕事冥利につきますよね


そして、セルフケアのメニューをいくつかアドバイスし、忘れないようにそれらを写メで記録していただきました(←この方法もけっこう使えますよ


まずは1か月間エクササイズを行ってみて、お母さんの目から見てまだ偏りが気になるようだったら相談してくださいと伝えて終了しました。








終わった後に妹さんがひとこと、「大きくなったらこの仕事をしたいとお話しくださいました。







ほんとうにうれしかったです








患者さんが良くなっていくことが一番うれしいのは確かですが、こういうのってなんというか新鮮なうれしさがありました。


子どもたちから、そういうふうに思ってもらえるっていいですよね。







そしてお会計のとき


おつりと領収書をお母さんにお渡ししたら、また妹さんがひとこと。




「これだけ楽しめてこの値段は安い















エ~ッ(←お母さん・お姉さん・私の三人)















すでにこの年齢にして、そのセリフがでるとは…


すえおそろ…、いや将来がたのしみなお子さんですね


お母さんもすっかり恐縮なさっていました







私は常々、人に感動を与えるような仕事をしたいと思っています。


どのような仕事でも、プロとして行う以上はそうありたいですよね。


そして今回の出来事から、子どもたちに夢を持たせられるような仕事をしたいなぁと思いも、より強く持つようになりました

手技療法習得へのステップ3‐ トリートメント その6

2009-08-08 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
この「手技療法習得のステップ」というシリーズでは、これまでテクニックの習得という技術的なコツ?や、学ぶ上での心構えをお伝えしてきました。


シリーズ最後となる今回は、私のベースとなっている考えを紹介したいと思います。


以下は、昨年「心理学ワールド」という雑誌に掲載された私の記事で、心理関係の方に、自分の仕事を心理学と絡めて紹介するというものでした


私の治療技術は、この思いの上に組みあがっています(内容を一部改変しています)







手技(しゅぎ)療法の理解を深めてくれた心理学
 心理学には心にまつわる多くのパラダイムがあります。これらに共通している基本的なことは、人間のとる行動から心の働きや意味を推し量り、人間理解のために役立てるということでしょう。この視点から自分の仕事をみつめ直したとき、私はそれまでよりも広い視野で考え、日ごろ何気なく行っていたことにも意味を見い出せるようになりました。


手技(しゅぎ)療法について
 私の仕事は、マッサージや整体の総称である手技療法によって、痛みやしびれなどの相談にのることです。手技療法では健康回復のために手を使って体を刺激し、適度な柔軟性をつけるよう働きかけます。その効果はどちらかというと、左右のバランスを整えるなど身体的な側面が強調されがちです。もちろん、スキンシップが心に与える影響などを少しは理解していましたが、心と体について自分なりの統一された考えを持つには至らず、何かスッキリしない気持ちで過ごしていました。しかし、心理学を学び、手技療法とは「サルの毛づくろい」と同じなのだと気づいたとき、ようやく自分なりの、仕事に対する考えの核ができたような気がしました。


毛づくろいとしての手技療法
 サルの毛づくろいには2つの意味があるそうです。ひとつは皮膚を清潔にして、体の健康を保つこと。これは手技療法なら、筋肉を刺激してバランスを整えるという身体的な効果のことだといえます。もうひとつは、サル社会の一員として認められることによって、心の健康を保つという働きです。仲間から毛づくろいをしてもらえなくなったサルは、心もおかしくなってしまうそうです。サルの場合、心身の健康を保つための行動は、毛づくろいという直接的なふれあいによりますが、人間ではふれあいというと心理的な意味合いが強くなります。いずれにせよ「ふれあう」とは「つながっている」ことでもあり、この感覚は社会的な生物である人間にとって大切なはずです。

 ところが、現代は社会構造の変化に伴って人とのつながりが乏しくなり、過度の競争を強いられることによってそれぞれが孤立し、孤独感にさいなまれやすくなっています。このような状況の中で、つながっている感覚を取りもどすためには、直接的なふれあいというリアルな感覚によって、心のバランスを回復させるというのもひとつの手段かもしれません。近年の癒しブームにのって、リラクゼーション目的のマッサージ店が増加しているのは、このような欲求の反映ともいえるのではないでしょうか。手技療法には、身体的なふれあいを通して体の変調を整えると共に、人とのつながりを実感し、ストレスや孤独感をやわらげる働きもあるのではないかと私は思っています。

 また、患者との関りにおいて、手技療法では患者に自分の体を乗せるようにして刺激を送ります。視点を変えれば、このとき医療者の体は患者に支えてもらっていることになり、まさに医療者と患者は互いに支えあう関係にあるということを、肌で感じさせてくれます。このような経験をすると、患者とは立場の違いこそあれ互いに明日をも知れない人間どうし、地球というサル山の上で身を寄せ合って生きていくしかない存在なんだなあ、としみじみ思ったりするのです。医療者は、このような感覚を肌で感じておくことが大切かもしれません。 

 このように「手技療法とは毛づくろい」であるという概念?によって、私は自分の仕事に新たな意味を見い出すことができました。仕事に就くということは、社会から求められた役割を果たす責任がありますが、同時に自分の職業のあり方や意義を掘り下げ、拡大していくことも大切でしょう。私にとって心理学を学んだことは、より創造的に仕事をするための力になっているといえます。








みなさんは幼いころ、おなかが痛くなったときや転んでどこかをぶつけたとき、お母さんから手でさすってもらった記憶があると思います


手技療法とは、そのような手あての心がベースとなって、その行為を技術的により精錬させたものだといえます。


どのような仕事もそうでしょうが、人間同士のふれあいの中で行われる以上、手技療法もこれで完成ということはないものだと思います。


だからこそ、一生続けられる面白味のある仕事とだといえるのでしょう







ついでながら、私の父がよく言っていました。


「お前の仕事はエェ仕事やでェ、ホンマにィ。お客さんから『ありがとう』って直接感謝してもらえて、お金までもらえるんやからナァ 」 (←このへんは大阪の感覚です)


ホンマにそのとおりで、ありがたい仕事やと思います


これからもより多くの患者さんに役立てるよう、そして治療家自身の人生も実りのあるものになるよう、手技療法を発展させることができたらと私は思っています






さてさて、ようやく一区切りつけることができました


実は書き始めたとき、具体的な内容は考えていませんでした。


いざスタートしてみたものの、「何を書けばよいやら」と途方にくれたときもありましたが、最後はやや強引ながらも、何とかまとめることができました。


追いつめられればどうにかなるもんや、とあらためて思います


これまで手技療法習得のステップ化と称して、ああだこうだと好き勝手に書いてきました。


でもこうして振り返ってみると、みなさん、とくに後進の方々へお伝えしたかったメッセージは 「やろう と思ったことはひとまずやってみる、そういうことだったのかもしれないという気が今になってしてきました

手技療法習得へのステップ3‐ トリートメント その5 ≪おしらせ≫

2009-08-01 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回、私なりに整理した表をご紹介しましたが、分類しようとすればそこに当てはまらないものも出てきて、なかなか難しいところもあります。


もう一度、表を出しますね。



例えば、関節モビライゼーションも他動的なものばかりではなく、MulliganテクニックのMWMsのように、自動介助で行うものもあります。


さらに関節モビライゼーションには、Maitlandの振動運動法やKaltenbornの持続的伸張法のように直接的に行うものもあれば、それとは反対の間接的なものもあり、さらにMaigneが分類しているように半間接的マニュピレーション(Semi-indirect Manipulation)なるものまであります。


(余談ですが、Maigneの考え方は「痛みのある方向とは反対に動かす(Role of no pain and opposite movement)」ということなので、必ずしも制限に対して直接か間接かという観点から捉えていません。いろいろな見方があるものですね


ASTRも術者がフック・ストレッチを行えば他動的ですが、術者がフックして、患者がストレッチを行えば自動介助となり、患者がフック・ストレッチを行えば自動的テクニックとなるわけです。


ですので、この分類はあくまでもひとつの目安として捉えてください







治療を進める手順として、例えば、自力では解決しにくい機能障害に対して、まずは他動的テクニックで筋疲労や関節可動域など量的な問題を回復させる。


続いて、自動介助的テクニックで可動域をさらに広げるとともに運動の質を高めていき、自動的テクニックで良いコンディションを維持するとともに、心理的にも自立できるように支援する。


このように、大きな流れとしては他動から自動に向かう方向で治療を組み立てます。


後者になればなるほど、よりアクティビティーを高めていくといえますね


まずは、構造的バランスの改善に対し、次に生理的機能を高め、全体を通して心理的安定を図っていくという言い方もできるかもしれません。







ちなみに私自身の技量としては、手技療法好きなためか他動的テクニックのほうが得意で、エクササイズ(自動的テクニック)を指導するようなスポーツトレーナーやジムのインストラクターが行うことは、どちらかというと不得手なほうです


ついでに、包帯もテーピングはさっぱりダメです(自慢になりませんが)。


このように分類・整理することで、自分自身をよく知ることもできるわけですね







今回紹介した分類法を、私は便宜的に使っていますが、実はまだまだ満足していません


身体への働きかけ方、つまりテクニックの特徴から分類しているので、習得する上での参考として役には立つのですが、臨床的にはイマイチ使い勝手が悪いように感じています。


臨床では「このような状況の時には、このグループに属するテクニックを用いるとよい」という具合に分類・整理されていたほうがきっと使いやすいでしょう。


ですから、「身体にどのように作用するか」という視点から分類できないものかと考えています


断片的にはできるのですが、体系的に分類して整理するのはなかなか難しく、今の私の課題となっています。


以上、私の場合ということでご紹介しましたが、みなさんもそれぞれの視点・切り口からご自身が使いやすいように整理するといいかもしれません。







さて、これまで手技療法習得のステップ化と称して「リラクゼーション」「メンテナンス」「トリートメント」と3段階に分け、雑駁ながらもまとめるという試みをご紹介していきました。


ずいぶん大それたことを書いてきたのに、今さら言うのもなんですが、私もありとあらゆる手技療法を学んだわけではありません


ではなぜチャレンジしようと思ったかというと、私がこの世界を志して15年が過ぎ、これまでの経験をまとめることで、後に続く人たちの道しるべになればと思ったからです


内容としてはまだまだ不十分ですが、大まかな枠組みというか、「だいたいこの順序で進めばいいんだな」という方向性を、参考にしていただければ嬉しいです。


今後は、このステップをベースにそれぞれを肉付けしていこうと思っています。







さて次回は、このシリーズの最終回です。


上で「心理的安定」と述べましたが、テクニックから少し離れて、私の臨床家としてベースになっている考え方をお伝えしたいと思います。










 身近な道具を使って、かんたん!スッキリ!!
        「コリとり体操」公開のおしらせ
 


これまで、当院ホームページで「コリとり体操」というエクササイズを公開して参りましたが、このたび当院で紹介している「道具を使ったコリとり体操」をいくつかまとめて冊子をつくりました。

体性機能障害は、ほとんどが毎日の生活習慣の中からうまれるので、日ごろのセルフケアがとても大切になります。しかし現実として、体操をなかなか習慣にできない方、仕事から帰ってくると体操をする気力も残っていない方、子育てに追われて気持ちに余裕を持てない方などもいらっしゃいます。私はそのような方のために、より簡単なセルフケアとして、道具を使う方法もアレコレ考えて紹介しています。

患者さんへのアドバイスとして、みなさんご自身のセルフケアとしてお役立ていただければと嬉しいです。PDFとしてダウンロードできるので、どうぞご活用ください。

自分でいうのも何ですが、やっているとけっこう楽しいですよ(親バカでしょうか)

ちなみにこの中の一部が、健康雑誌「はつらつ元気」さんの今月号にも紹介されます。こちらもよろしければご覧下さい。





くつぬぎ手技治療院 「身近な道具を使って、かんたん! スッキリ!! コリとり体操」