手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

ちいさな石ころ

2010-04-24 20:00:00 | 治療についてのひとりごと
私の治療院は、ひとりでやっている、ちいさな治療院です。

一日に診ることができる患者さんの数も多くはありません。

世の中全体から見れば、やっていることはちっぽけなことかもしれません。

でも、意外とそうではないかもしれないとも思っています。



患者さんは治療院の外に出ると、さまざまな方と関係されています。

ということは、ひとりの患者さんを元気にすることができれば、その先にいる人々にも影響を与えることになります。

症状が出て辛いときには気持ちに余裕が持てないために、家族にもきつく当たるかもしれません。

思ったように仕事もはかどらないでしょう。

そのためにイライラしたら、自分だけではなくまわりにいる人たちも不快な気持ちにします。



しかし、元気になれば、家族ともおだやかな気持ちで過ごすことができます。

家族も心地よく過ごすことができます。

その気持ちで家族が他の人々に接すれば、さらにその先にいる人にも心地よさを与えることになります。



仕事も効率が上がったり、新しい発想が生まれやすくなることで活気づくかもしれません。

職場やお店の雰囲気もよくなるでしょう。

すると取引先やお客さんにも、よいサービスを提供しやすくなるはずです。

よいサービスを受けた人は気分がよくなって、その先にいる人にもよい影響を与えます。



こうして、小さな小さな治療院だけど、その影響は地域から街全体に広がっていくことになります。

ちょっと楽観的すぎるでしょうか。

たしかにそうかもしれません。

でもそう思い、信じることができれば、毎日の仕事がとても楽しくなります。

そのような想像力は、臨床家にとって大切ではないかと私は思います。



私たちは、ちいさな石ころにすぎません。

でも池に落ちた石ころは、自分の大きさの何十倍も何百倍も大きな波紋を広げることができます。

私たちはちっぽけな存在ですが、自分たちが思っている以上に、世の中をより良くしていく力があるのではないかと、私は信じています。





≪おまけの話≫

「水芭蕉の花が咲いている~♪ 夢見て咲いている水のほとり~♪♪」

北海道に来るまで、水芭蕉は尾瀬にしか咲かないものだと思っていました。
それがナント、勝手に自分の庭にしている、西岡水源地で咲いているのを見かけたときは衝撃的でした
(完全な思い込みでした)

そして今年も、少し遅れているのですが、水芭蕉の季節になりました。

 


ここのところ、急に雪が溶けだし、貯水池も一週間でこの通りになりました(上が4/14・下が4/21)。

 

ようやく春が来たという感じです。

ところでこの水芭蕉、かわいい花のイメージがありますが、このあと驚異的な変化を遂げていきます。追って報告します


操作は身体のそばで ≪セミナーのご案内≫

2010-04-17 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
手技療法では患者さんの身体を、さまざまなかたちで操作します。


たとえば可動性検査や、その延長上にある関節モビライゼーションなどなど。


そのとき注意しなければならないのは、上肢や下肢や頭部など患者さんの身体を操作する時は、セラピストの身体のそばで行うということです


これは「鉄則」といってもよいくらいです







その理由は、本当はみんなわかっています。


荷物を持つときに、身体から離していれば重くなり、そばなら楽に持てるということを生活の中で経験しているからです。


ところが、いざ触診やテクニックの練習をするとなると、とんでもなく離れたポジションで操作している方もいらっしゃいます


私も、自分がそうだった記憶があるので分かるのですが、かたちをつくるのに夢中になるため、自分の身体のポジションまで気が回らないのです







しかし、離れたポジションで練習しても、なかなか上手くなりません







たとえば、仰臥位で頭部を保持して頸椎の可動検査をするとき、脇が開いて両肘も離れているくらい遠くで支えているとします

≪悪い例1≫


まだ頸椎の触診に慣れておらず、とにかく夢中で調べようとしている方に時々みられます。







なかには手の感覚に集中しようとするあまり、このように頭まで下げている方も、まれにですがいらっしゃいます

≪悪い例2≫







その真剣さはとても大切だと思います







しかし、このように身体から離して操作すると、重い頭部を支えるうえで必要な力を、手先の筋力に頼るために、


① 細かい動きを感じ取ることができず、正確なパルペーションやモニターが行えない。


② 細かい動きをコントロールすることができず、テクニックを用いる上で、適切な刺激を与えることができない。


③ セラピストの腕が早く疲労し、支え続けることができない。


④ 患者は不安定な感覚を覚え、緊張して力が抜けない。


せっかく頑張っているのに、以上のようなマイナスのことが起こります


特に④は、正確な評価や治療にも妨げとなり、場合によっては治療によってかえってダメージを与えてしまいます







できるだけセラピストの身体の近くで保持し、操作するようにしましょう。


この場合なら、肘が身体の横側に来るまで引いて保持します。

≪良い例≫


高さとしては、みぞおちから下腹部の間くらいです



こうすることで、体幹側にある筋を働かせやすくなり、手先の筋にかかる負担が少なくなるので、①~④のような問題も起こさなくなります。


他の部位でも基本的には同じです。







はじめてのうちは、自分の前腕や手を腹部につけて操作するくらいの気持ちでもよいかもしれません。


とても大切なことなので、ぜひ習慣づけるようになさって下さい







≪おまけの話≫
自宅から、10分ほど車を走らせたところにある西岡水源地は、私が自分の庭にしている公園です

北海道に来て以来、この公園の木々や草花にはずいぶん慰められ、励まされてきました。

予定のない休みの日には、ブラブラと散歩をするのが私の楽しみです。

この日(14日)は、4月半ばだというのに雪でした

今年は春が遠いですね。

今は閑散としていますが、あっというまに草花が育ちだし、生命力の強さを感じさせてくれます。



木道の下は湿原になっていて、雪解け水が流れています。
冬の間、雪に押されていたススキが横倒しになっています。


貯水池の氷もようやく溶けてきました。
冬の間は、動物たちが歩いて渡っています
手前にみえるのは、明治時代に建てられた貯水塔です。





手技療法の寺子屋「ASTRセミナー」のお知らせ


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くつぬぎ手技治療院「手技療法の寺子屋」

関節の構成運動を感じよう !!その4

2010-04-10 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回は、膝関節の構成運動を触診で感じる練習です。


膝関節では大腿骨に対して脛骨は、伸展に伴って外旋が、屈曲に伴い内旋が加わるという動きになります。


いろいろ試してみたのですが、もっとも感じ取りやすかったのが、屈曲90°以降の下腿の内旋でした。







ではさっそく、両手の示中指で内顆と外顆にコンタクトします。





仰臥位で下肢を挙上し、そのまま屈曲させ、内顆と外顆の動きを比べてみてください。





               





内顆が外顆に比べ、より「沈んでいく」ような感じを覚えるのではないでしょうか







屈曲90°以降は脛骨の外側関節面の動きが止まり、内側関節面のみが背側に滑ることによって、下腿の内旋が起こります。 


この動きが、内顆が外顆よりも沈んでいくような感覚になるわけです。


これは前回までに紹介した、MP関節や肩関節に比べてより微妙です。


よ~く練習してくださいね







ちなみに完全伸展位から0°~15°までは、外側上関節面を中心に内側上関節面が背側に滑りと転がり運動が起こることで、脛骨の内旋が起こります。


その後15°~90°までは、脛骨の内・外側上関節面はそろって背側に滑ります。


そして、90°以降の動きにつながっていきます。







ちょっと脱線しますね。


私の考えですけれども、動的な触診を練習するとき、はじめのうちは「内旋する」とか「骨頭が下方に滑る」、という知識を意識しながら行わないほうがよいと思っています。


手が慣れていないのに、このようなことを考えると、感覚に集中しにくいからです。


知識があっても触れることが出来ないと、手技療法を用いて効果を挙げることが難しくなります。


はじめは「出てくる」とか「沈む」など、体に馴染んだ身近な表現によって感じ取ることに集中し、それが出来た上で知識を当てはめても、まったく遅くありません。


むしろ「急がばまわれ」で、そのほうがより確実に身につくのではないかと思っています。







もちろん、すべての動きが触れてわかるわけではありません


私も、膝関節の完全伸展位で起こる脛骨の外旋を、確実に感じとれていません。


( 座位や仰臥位では、脛骨の外旋よりも大腿骨の内旋が起こりやすいようです。
膝が完全伸展するとき大転子を触れていると、前方に動こうとするからです。 )


でも、やはり手技療法に携わっている以上は、できるだけチャレンジしたいですよね。







さて、今回のシリーズでは関節の構成運動を触診で感じ取る練習をご紹介しました







ついでに、治療のことも少しお話ししましょう。


構成運動に異常が見つかったら、関節モビライゼーションが適応になる可能性が高まります。







なかには、他動的に動かして調べる「関節のあそび」は比較的保たれているのに、「構成運動」の制限が認められるケースもあります。


このような場合、マリガン(Mulligan)テクニックの運動併用モビライゼーション(MWMS:Mobilization with movements )が役に立ちます。


これは、モビライゼーションに合わせて、関節周囲の筋収縮による自動運動を加えることで運動の協調性が修正され、関節運動に伴う軌道が正しい状態に戻るというものです。


ちょうど自動運動に合わせて、構成運動をサポートしてあげるようなかたちになります。


ただ個人的な経験としては、周囲の筋筋膜の緊張が非常に強い場合は、そちらを先に解決したうえでMWMSを行ったほうが効果的であるように感じています。







ここまで書いてきて手が止まりました







機能障害に対する徒手的なアプローチではふつう、関節包外の異常はマッサージやストレッチのグループ、関節包内の異常は関節モビライゼーションをおこなうというのが基本です。


しかし、筋筋膜の制限(関節包外の異常)を除くことで構成運動(関節包内運動)が回復することもあれば、その反対が起こることも珍しくはありません。


前々回の記事(その2)でも同じようなことを紹介しましたし、今回の例として挙げた、膝関節屈曲に伴う脛骨内旋の制限でも、前処置のつもりで行っていた大腿四頭筋の緊張を除いたら、内旋が回復したということもあります。


さらには、筋筋膜の制限を除いただけで、関節包内運動のみならず、動的安定性やリクルートメントパターンなどの協調性まで一気に回復するケースもあります。


そうかと思えば、筋筋膜の制限をASTRによって除き、関節包内運動をモビライゼーションによって再開させ、動的安定性を保つためのエクササイズまでアドバイスしなければ回復しないこともあります







こうしてみると、体性機能障害の治療というのは「教育」に近いものかもしれません。


いったい何が効果を挙げるのか、本当のところはやってみないとわからないこともある。


一を聞いて十を知る、という人もいれば、一から十まで手とり足とり教えないとわからない、出来るようにならない人もいるなど、たくさんの個性がある。







ウ~ン、体性機能障害というのはつくづく「 人間くさい 」ものだなあ、と思います










≪おまけの話≫

新年度を迎えたので、何か新しいことをと思い、ひとこと「後記」を付け加えてみました

ありがたいことに、最近ではセミナーなどでお話させていただく機会が増えてきました

昨年までの徒手医療協会さん、ケアプラスさん、北海道全身咬合研究会さん、北海道高等盲学校付属理療研修センターさん、北海道ハイテクノロジー専門学校さん。

今年に入り、3月は国立函館視覚障害センターさん。

そして、来週は保健医療科学研究会さん、月末には札幌音楽家協議会さん。

人前でお話しするのには慣れていなかったので、はじめのころはセミナー当日の朝、吐き気をもよおし、緊張してお尻に汗をかき、ズボンがサルのお尻みたいになっていたこともありました

おかげ様で、今では少し落ちついてお話できるようになりましたが、それでも舞い上がってしまいます。

教えることは好きなので、少しずつ工夫を重ねながら、わかりやすいセミナーができるよう頑張っていきたいと思います。

これからもよろしくお願いいたします

関節の構成運動を感じよう !!その3

2010-04-03 20:20:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回は、「凸の法則」で起こる関節構成運動を動的触診によって感じる練習をしましょう。


部位は、おなじみの肩甲上腕関節(左)です。


まず、肩の力を抜いたまま外転位をとれるように、何かにつかまりましょう





机の上に、腕を乗せてもかまいません。


このとき、肩の力が十分に抜けているのがポイントです。


壁に手をつくのは慣れれば大丈夫ですが、はじめのうちはオススメしません。


そのまま反対の手で、肩甲上腕関節にコンタクトします


肩峰と上腕骨頭の間の溝を、はっきり感じるように意識を向けてください。







つづいて、膝を曲げて腰を落とすことで、肩関節を外転させます





このとき正常なら、上腕骨頭が奥に「沈んでいく」ような感触を覚えます


この感覚をきちんとつかんでください


この場合、上腕骨は外転によって上にあがってくるので、はじめのうちはその感覚が紛らわしいかもしれません


肩峰と上腕骨頭の間の溝に意識を集中させて、よく感じ取ってください。







慣れてきたら、前回ご紹介したMP関節の時のように、肩関節全体をイメージしながら動かしてみましょう。


上腕骨頭が関節窩の中で上方に転がりながら、下方に滑っているのを感じ取ってください










関節が拘縮などを起こしているときは、上腕骨頭が下方に滑らないために、沈んでいくような感触がありません





異常を感じたら、MP関節を検査したときと同様に、正常な動きを妨げている抵抗感が、どの位置にあるのか感じ取りながら動かして下さい。 







肩関節の痛みを訴える患者さんをみるときには、下のような他動的な外転検査をよく行うと思います。





そのとき、ただ外転の角度を測るのではなく、これまでお話ししてきましたように骨頭の動きも同時に触診してください







合わせて、周囲の筋肉組織の状態も把握しておきましょう。



他動的に外転しているだけなら、三角筋など肩関節の前・上・後方にある筋は弛緩しているはずです。


これらの筋が緊張しているということは、何らかの機能障害を示すサインです。


そのような部位がないかどうか調べましょう







また他動的な外転によって、大円筋や広背筋など、肩の下方要素の筋はストレッチされています


ストレッチされながらも、不自然に緊張が強まっている部位がないかもよく触診しましょう。


このように評価することで、外転の制限が、関節包内の問題によるのか、包外の筋筋膜の問題によるのか、おおよそのところを把握することが出来ます。







忙しい現場では、時間に追われて仕事をするということも少なくありません


そのため、いろいろ評価したいと思っても、それがなかなか難しいという状況もあると思います。


今回ご紹介した方法によって、通常行っている評価に少し意識して触診を加えるだけで、時間をかけずより詳細で役に立つ情報を入手することができます


ご参考になさってください