手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

ひとりでできる!!ステップ式筋膜リリース練習法 その9

2013-05-25 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回はリリースの感覚を養う練習法についてのお話しでした。

リリースの感覚は筋膜リリースに限られたものではなく、他のあらゆるテクニックにも通じるものです。

マッサージやストレッチなどの直接法なら、筋膜リリースと同じように組織の抵抗感が少なくなって伸びていく、あるいは手が組織の中に沈んでいく感覚となります。

関節モビライゼーションも組織の抵抗感が少なくなり、周囲の組織が伸びて、関節がすべっていく感覚を覚えます。

カウンターストレインなどの間接法なら私の場合、組織が弛緩して四方に広がるように感じます。



さらにリリースの感覚を感じ取ることができれば、反対にリリースしていかない感覚もわかるようになっていきます。

すると、あるテクニックを使っていて組織が思ったように反応しない場合、すぐにアプローチの仕方を変えることで、結果的により速やかに組織をリリースさせることができます。

あるいはリリースさせるつもりで刺激を加えているのに、反対に組織の抵抗がどんどん強くなっていった場合、禁忌である可能性が高い状態であることを示しています。

この組織抵抗が強くなっていく変化を早くとらえることが出来れば、組織にダメージを与えるリスクを低減させることができます。

これはとても大切なことですよね。



ですから、筋膜リリースの3つのステップでお話ししてきたように、手先の力ではなく、身体を楽に操作して力を作り出し、楽操によって感覚を保つことを練習するのは、触診やあらゆるテクニックを身につけていくためにも大切になっていくのです。

ひとつの練習は、ひとつの技術を身につけるためだけに役立つのではないということ。

そのつもりで練習をしてください。



ここからは大腿四頭筋をもちいてノンクロスハンドテクニックを練習したり、


下腿の内側面にクロスハンドテクニックを用いてみるなど、いろいろ工夫してトレーニングをし、経験を積んでいきましょう。
 



さて、ここまでの練習がきちんとできれば、筋膜リリーステクニックを用いる上での基本的なスキルを身につけたことになると思います。

ちょうどそれはゴルフでいうなら練習場で、狙った方向にまっすぐボールを打てるようになった状態だといえるでしょう。

次は、いよいよコースをまわることになります。



コースに出ると、なかなか練習場のようにはいかないはずです。

アップダウンがあり、深いラフもあり、バンカーや池もあります。

同じコースでも、雨や風によって条件が違ってきます。



人間の身体も同じように、大柄な人や小柄な人、太っている人やせている人、組織のあそびの多い人や少ない人がいます。

同じ人でも、その人を取り巻く生活環境の変化によってコンディションは異なってきます。

ですから自分なりに一生懸命やっても、なかなか上手くいかずに、戸惑うことがあるかもしれません。



しかし、基本は同じです。

初心者の方が上手くテクニックを使えない原因のひとつは、基本の技術を個体差に合わせて用いられないということです。

ときには焦りで基本を忘れてしまうこともありますが、これを克服するには練習しかありません。

熱心なゴルファーはコースで上手くいかないことがあると、打ちっぱなしでその状況をシュミレーションして練習するといいます。

そして、再びコースに出て同じ局面をむかえたときでも、より自然なスイングで上手く打てるようになるまで練習を繰り返します。



技術的なことは、真剣に練習を繰り返すことで上達していきます。

私たちもそのようなゴルファーを見習って練習していきましょう。




ひとりでできる!!ステップ式筋膜リリース練習法 その8

2013-05-18 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回は筋膜がリリースしていっているという感覚を、どのようにして磨いて行くのか、その練習法のお話です。

部位は前回と同じ、前腕の屈筋側を用いるのが練習しましょう。


もちろんこの部位以外のどこで練習しても構いません。



ステップ3(1)刺激する時間を決めて、前後の状態を比較する
手技療法のテクニックを用いるとき大切になるのは、加えた刺激に対して組織がどのように反応しているかということを、リアルタイムで感じ取っておくということです。

ですから筋膜リリースをしているときも、筋膜がリリースして伸びていっているという感覚を感じておく必要があります。

けれども筋膜のリリースは少しずつおこるので、慣れないうちはその変化をリアルタイムで感じるのは難しいかもしれません。

そこで最初は、あらかじめ伸張刺激を加える時間を決め、その前後を比較することで、はっきりと変化を実感するところからはじめるとよいでしょう。



まず手掌で前腕を押さえ、伸ばしていったときの伸びる範囲や動きの滑らかさ、エンドフィールを評価し記憶しておきます。

続いて、例えば1分間という決められた時間の間、筋膜リリースを加えます。

ステップ2で学んだように力任せで行わないように注意しましょう。

時間になればいちど手を緩め、再評価します。

はじめと比べて、伸びる範囲が広がった、伸びる動きが滑らかになった、エンドフィールがよりソフトになったという変化を認めることができれば、上手く軟部組織をリリースできたということになります。

この練習を繰り返すことによって、アプローチの前後ではっきりした差を感じ取れる経験を積めば、今度は微妙な差を感じ取れるように練習していきましょう。



ステップ3(2)リリースしている変化を感じとる
ステップ3(1)で、テクニックを行うことによって軟部組織の伸張性が変化し、改善したということを実感できれば、伸張刺激を加えている間に、組織がリアルタイムに少しずつ伸びていく感覚を感じとるように練習しましょう。

手順はステップ3(1)と同じですが、刺激を加えている間、手に伝わってくる感覚に集中します。目を閉じるのも感覚に集中するためによいでしょう。

これは微妙な感覚ですから、根気よく練習する必要があるかもしれません。



ここでも繰り返し確認しておきたいのは、ステップ2で練習した体の力を使って刺激を加えるということです。

手先に力が入ると、組織の変化を感じ取ることが難しくなります。

わからないとついつい手先に力を入れてしまいがちですが、それには十分注意して気長に待っているようにしましょう。

根気よく待つことができる、これも臨床で求められる力のひとつです。



もう一点気をつけていただきたいのが、息を止めないということです。

細かい操作や微妙な感覚を感じ取ろうとする時、無意識に息を止めてしまうことがあり、これが続くとセラピストの疲労を速めてしまいます。

シャボン玉をゆっくりとふくらますつもりで吐くなど、細く長い呼吸を練習するとよいでしょう。



感覚が身についてくると、水あめが伸びるように、手の下でゆっくりと組織が伸張していく様子が感じ取られるようになります。

さらに感覚が磨かれれば、ただ組織が伸びていくというだけではなく、いったん停止したり反対に収縮しようとしたした後、再びゆっくりと伸びていくというように、組織の自律的な動きも観察されるようになります。

このような動きがなぜ起こるのか?筋膜のなかに筋細胞が存在するという説もあるそうですが、本当のところは何なのか私にはわかりません。

最近の研究結果など、ご存知の方がいらっしゃったらぜひ教えてくださいね。


≪次回につづく≫


ひとりでできる!!ステップ式筋膜リリース練習法 その7

2013-05-11 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
ステップ3 リリースの感覚を覚える
ステップ2までは、セラピスト自身の身体を操作するトレーニングを行い、腕の力だけではなく身体の力を使ってテクニックを用いるということを学びました。

身体への負担がより少なく楽に操作できるようになれば、次に組織がリリースしていく様子を感じとる練習です。



前腕の屈筋側をモデルとして練習します。

前腕屈筋の筋腹に反対側の手掌部を当て、ステップ2で行ったノンクロスハンドテクニックの要領で、前方に筋膜を押し伸ばしていきましょう。




力が加わると、はじめは皮膚が移動して組織がスムーズに伸びていきます。

このような動きが起こるのは、皮下組織(浅筋膜層)などに多く存在するエラスチンを中心とした弾性線維によって、軟部組織のあそびが生じているためとみられています。

あるところまで伸びていくと抵抗が強くなりはじめ、やがて止まります。これは主にコラーゲンを中心とした膠原線維の張力や組織の粘性によると考えられます。



ちなみに、ここでもエンドフィール(=終端域の感覚:end feel)は、軟部組織の機能障害を判断する上で役に立ちます。

通常、エンドフィールは関節運動を伴う評価ですが、今回のように、筋筋膜を伸張した終端域の感覚も、関節あそびの評価と同様に膠原線維の弾力性に加え、組織の粘性も評価していることになるので、機能障害の程度によってソフトであったりハードであったりします。

数多くの組織に触れることで、制限の有無やその程度を判断できるようになりますよ。



組織を持続的に伸張したまましばらく待っていると、組織が少しずつ伸びていくクリープ現象と呼ばれるものが起こり始めます。

この変化がリリースと表現されているものです。

この、わずかにジワジワっとした(あるいはフワッとした)感触は独特のもので、感じ取れるようになると面白いですよ。



組織に触れてから、伸びはじめた感覚、スムーズに伸びている途中の感覚、抵抗が強くなり始めた感覚、伸びきって止まった時の感覚、そのまま待っていると再びわずかにジワジワと伸びていく感覚、このプロセスのすべてをじっくり注意深く味わいながら感じ取って練習してください。

手技療法の実践では、このように組織の質が変化している感覚を養うことがとても大切になります。

可動域という量的な変化が起こる前に、質的な変化が起こるので、治療によってそれが起これば、まだ量的には変化していなくても良い兆候だと判断できます。

また、可動域制限など量的な問題が起こっていない場合でも、質的にスムーズな動きが起こっていなければ、もしかしたらいずれ量的な異常を引き起こしてしまう可能性があると注意することが出来ます。

ですから、このように質的変化を感じ取る感覚を磨くということは、筋膜リリースというテクニックに限ったことではなく、手技療法のすべてにかかわることなのですね。



次回は、リリースの感覚を養う練習方法をより具体的に紹介します。



ひとりでできる!!ステップ式筋膜リリース練習法 その6

2013-05-04 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
☆ クロスハンドテクニック(= cross hand technique)
さて、いよいよクロスハンドテクニックの練習です。

この技法は筋膜リリースで、たいへんよく用いられるポピュラーなものです。

前回までのノンクロスハンドテクニックで練習した身体の使い方ができれば、決して難しくありません。

ここまで来たら、「押さえる」と「伸ばす」を分けずにいきましょう。



クロスハンドテクニックは、両手を交差させて力を加え、組織をリリースさせる技法です。

基本的にはノンクロスハンドテクニックのときの、肘を曲げてコンタクトしたかたちと同じなのですが、肘を外に向けて張り出してコンタクトします。
                        


指先の方向はノンクロスハンドテクニックの縦から、横方向に向きが変わっています。

そして、反対の手を交差させて同様のかたちをつくります。

どちらの手を前に出すかは好みですから、自分の取りやすい方法で行ってください。

これでテクニックを行う準備ができました。



つづいて膝を曲げ、腰を床方向に落としていきます。


このとき、肩と肘の角度ができるだけ変わらないように注意してください。

そうすることで、身体の力が両手に伝わり、外方に向けて伸ばす力が加わり出します(赤矢印)。




腕の力でむりやり「押し広げる」のではなく、身体の操作によって「押し広がっていく」ようにすることがポイントです。

力を「加える」のではなく、力が「加わる」ようにするわけですね。

これによって次のステップ3で学ぶ、リリースの感覚を体感しやすくなります。
  


押し広がっていく感覚をつかむことができたら、今度は肘の角度を変えて練習します。

肘を曲げる角度を浅くして、ベッドに対する前腕の角度が鈍角になれば、押さえる方向への刺激の配分が多くなります(上図緑矢印)。

反対に、肘を曲げる角度を深くして、ベッドに対する角度を鋭角にすれば、伸ばす方向への刺激の配分が多くなります(上図赤矢印)。

ノンクロスハンドテクニックのときと同じですね。



繰り返し練習する中で、手の下で力の方向が変化していく様子を、よく感じ取ってください。

こうして、上手く身体を操作して必要な刺激を加えられるようになったら、いよいよ次は基本ステップの最終段階、変化を感じとる、リリースの感覚を覚える練習に入ります。