「決定力を鍛える」(日本放送協会:ガルリ・カスパロフ著:近藤隆文訳)
元世界チェスチャンピオンが、
その勝負理論を一般向けに解説した本。
カスパロフは日本では「コンピューターに負けた世界チャンピオン」として知られている。
しかし実際は将棋における羽生善治のような存在であるらしい。
「決定力」というと一般にはサッカーで良く使われるので
「勝負(ゴール)を決める力」と勘違いされると思うが、
本書では「条件を判断」し、
そこから「意思を素早く適切に決定する力」という意味で用いている。
ビジネス、特にリーダーは当然必要とされる力だ。
その「決定力」をどう鍛え、用いるかについて
対局前の盤外戦術、研究も含めたチェスの実戦経験を中心に、
チェス史、戦史、政治史、経済競争といった
より読者に身近な事例も豊富に取り上げレクチャーしている。
特に経済競争、政治に関する事例は
自身のドットコムバブルにおける失敗(インターネットチェスサイト)や、
現在、反プーチンの旗頭として活動してる経験から取り上げられており、
内容に厚みがある。
一方でチェスの局面図は一切ない。
純粋にチェスだけの話が読みたい方には邪魔かもしれないが、
私は個人的に戦史や戦略、戦術論が好きなのでプラス評価。
また章末にコラム的に掲載されている「チェス偉人伝」は、
常人離れしたチェスプレイヤー達をコンパクトにまとめており、
ちょっとした息抜きとして申し分ない。
チェス史をほとんど知らない私には皆ユニークで大変面白かった。
先日紹介した、張栩プロ「勝利は10%から積み上げる」とコンセプトは一緒だが、
本書の方が受けた衝撃はケタ違いに大きかった。
チェスだけでなく将棋や囲碁は勿論、
人生の勝負術としても参考になる話が目白押し。
全世界のチェスプレイヤーのみならず
コンピュータにも追われる厳しい環境の中での、
チェスチャンピオンの凄まじい思考、対処法に、
読んでいて興奮を隠し切れなかった。
ただし張プロが人間として器が小さいという意味ではないので、念のため。
惜しむらくはチェスあるいは将棋の経験がないと、
紹介されている判断、決断の方法論が理解しづらい可能性がある。
特に本書の中でチェスにおける重要な判断基準と挙げられている
「マテリアル(material)」=「駒の損得」、
「タイム(time)」=「持ち時間、ヨセの手数、先手後手」、
「クォリティ(quality)」=「駒の働き」
といった用語がピンとこないと、
ちょっと本書の良さがわからないかも知れない。
私も時折出てくる「マヌーバリング(maneuvering)」という言葉が
ちょっと良くわからなかった。
「手待ち」、「陣形整備」のような意味合いと思うが…。
折角一般向けにとチェス以外の話も出しているのに…。
欧米ではチェスの知識は、
我々の思っているより「常識」なのかもしれない。
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