対局日誌

ネット囲碁対局サイトでの、私の棋譜を記録していきます。
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名勝負名観戦記(棋書評)

2007-01-09 23:55:23 | 棋書
名勝負名観戦記」(誠文堂新光社:三堀将)

絶版だが、図書館で比較的入手しやすいと思う。
長く手元に置いておきたいかは別として、一回は読んでみたい一冊。
田村竜騎兵氏による、同名の棋書があるのでお間違えなきよう

昨日の記事「鎌倉十番碁鼻血の一局の真相」は、この本を紹介するための前フリであった。
本書はその「鎌倉十番碁」の第1局、第4局の他、「岩本vs高川」戦、「小林vs趙」戦など計7局の、三堀氏による当時の観戦記をまとめたもの。
他に見開き2ページのダイジェストで、5局追加収録されている。

本書を読むと戦前から現代に至る、観戦記の推移が感じられて興味深い。
件の鎌倉十番碁では20譜以上に分けて観戦記を連載しているので、情景描写などが盛り沢山。
一方現代は10数譜程度であり、字面も狭い。

鎌倉十番碁第1局、第1譜で

『戦いの前夜は中秋の名月であった。
  月々の月見る月は多けれど
   月見る月はこの月の月』

などと美文調で筆を走らせている三堀氏も、時代が下るにつれて情景描写が少なくなっている。
現代の囲碁欄の難しさを感じさせる一面だ。

鎌倉十番碁に関しては、現在の参考図や「いろは」の記号で変化を示す方式がなく、「16の十、24、16の九」といった形で変化図を説明してる。
これは大変追いづらく、本格的な研究の対象として本書を手に取るのには、いささか不向きかもしれない。
三堀氏の「読ませよう」という意欲に満ち満ちた文を、素直に楽しむのが正解だろう。

本書の後半にはスペースを埋めるため、三堀氏が「局後の感想」「解説の棋士たち」「打ち込み制」「棋書の内幕」といったコラムが掲載されている。
また「ちょっと一言」と題した一口話も、ところどころに挿入されているのだが、これらが実に楽しい。
量はさほど多くないが、観戦記よりもむしろこちらの方が、三堀氏のユーモアあふれる感性が横溢していて、読みどころかもしれない。
その中の「『次の一手』珍談二つ」や、最後の「碁は力なり、詰碁推奨」などは実に愉快で、是非読んでいただきたいコラムだ。

尚、鎌倉十番碁中の他の対局も含めた当時全観戦記は、平凡社の「呉清源打ち込み十番碁全集」第1巻と第2巻で読むことが出来る。
十番碁について当時の様子を知りたい方は、こちらを読むのが良いだろう。