Cafe de Kerm ~毒味ブログ~

物言いにも、珈琲にも、もれなく毒が混入している可能性が無いこともないです。

ニコニ・コモンズは何かを変えるのかも知れない

2008-07-06 22:50:16 | Thinkings

 MADムービーという文化があります。既存の映像や音楽を編集し、全く別の作品を作り上げるというものです。素材としては、アニメがやはり多めとなっていますが、特撮、映画、ニュース、ゲーム画面や静止画などジャンルを問わず利用されています。これまではネットの一部で流通していただけでしたが、ニコニコ動画やYouTube等の動画共有サイトの存在が一気に知名度を引き上げました。

 しかしながら、「既存の映像や音楽」を編集するという性質上、著作権的には”クロ”である場合が多く、先日ニコニコ動画は対象の削除を発表して物議をかもしました。

 ですが、「違法だから消す」という簡単な問題でもありません。MADムービーを目当てに動画共有サイトに集まるユーザーも多く、また、単純に著作権侵害でけしからんというだけでなく、その動画をきっかけに元作品に興味を持つ、といったPR効果も認められるため、そう単純に事が済まなくなっています。

 ただ、これらの問題の原因だけははっきりしています。根源的に「著作権上クロである」というところが最大のネックであるわけで、そのクリアがMADの性質上難しいから、こんなにも話題に上っているのです。

 著作権については、ネットワーク上での扱いについてこれまでもずっと議論をされてきましたが、識者と呼ばれる人たちや権利者、管理する側の話し合いでは全く要領を得ることはありませんでした。それに対して、その渦中にあるサービス提供者のニコニコ動画が示した答えは実に簡潔な物でした。

作品利用ルール「ニコニ・コモンズ」、8月中旬から ITmedia

 ニワンゴは7月4日、創作活動を支援するための著作物の利用ルール「ニコニ・コモンズ」に基づき創作物を公開できるサイトを8月中旬に公開すると発表した。クリエイターに自分の作品の権利の一部を開放してもらい、他のクリエイターがそれを新しい作品に利用する──といった、創作活動の輪を広げるための環境を整備するのが狙いだ。

 著作権的にクロなのがダメならば、シロの素材を使ってもらえばいい。MADムービーも重要なコンテンツの一つとなっているニコニコ動画にとって、MADムービーを手放してしまうのは惜しい。しかし、より公的なサービスへとなっていく過程において、法的にクロなコンテンツを黙認し続けるのはまずい。
 その答えがニコニ・コモンズであるようです。簡単にサービスの解説をするならば、MAD作者に提供するシロの素材集の運営となります。

 似たようなサービスに、初音ミク、鏡音リンの販売元であるクリプトン・フューチャーメディアの運営する、ボーカロイド専門の投稿サイト「ピアプロ」があります。クリプトンが発売しているボーカロイド関連の素材を自由に投稿するだけでなく、その二次利用を「営利目的ではない趣味の範囲で制作し頒布する場合」制限無しで認めています。(コンテンツに関するガイドライン

 投稿する素材、作品について、最初からそのような許諾を「権利者側にさせる」事で、素材の二次利用を促進するという方向性は2サイトとも同様で、現にピアプロの成果として、大量のコラボレーション作品がニコニコ動画などにあふれています。

 ニコニ・コモンズがニコニコ動画の答えならば、MADムービーの全削除というニコニコ動画の表明もきわめて明確な意図が見えてきます。新しい管理の枠組みを作り、素材を提供してもらうためには、権利者側を納得させる必要があります。つまりは、その枠組みが明確に機能しているという証明です。その第一歩として、枠組み外である既存ムービーの削除は絶対に必要な処置となります。

 MADムービーをこのまま日陰の存在として据え置くのか、それとも文化として認めていくのか。著作権法というもっと大きな枠組みが早急に変わることを期待できない以上、ニコニ・コモンズのような「自主的な枠組み」にこそ、現状を変えていく希望を見いだせる。少なくとも今はそう信じたいものです。