先日、学会で広島を訪れた時、路面電車で修学旅行の小学生と乗り合わせることがあった。その時、ちょっと驚いたのだが、30人くらいの生徒の中に少し小柄な子が一人いた。
「あれ?あの子、ダウン(症)だ」誰にでもすぐわかる特異な顔貌。
どうやら、ダウン症の子が一緒のグループに入っているようで、静かに電車に乗っていた。
これは、とてもいいことだと思った。
私の弟に限らず、ダウン症の子はとてもおとなしく、明るく、礼儀正しく、きれい好きだ。奇声を発したり、暴れたりすることはないので、普通学級で一緒にいても、先生が学級運営に困ることはまったくない。
そんな、ダウン症の子と一緒に旅行をしているというのは、染色体数が46,XYである大多数の人にとって、染色体数が47,XYのダウン症の人を知るいい機会だ。
その子もほかの子たちと一緒になって談笑することはできないが、一生懸命(ダウン症の人は、なんでも真面目にするのでこちらが泣けてくる)電車に乗っていた。
ほかの子たちも、行儀が悪いとは言えないが、普通の小学校6年生の無邪気さで電車に乗っていた。その子たちはダウン症の人の礼儀正しさに、今は気がついていないだろうし、永遠に気がついてくれないかもしれないが、それでもダウン症の人が危険な人ではないということは知ってくれるだろう。
ダウン症の出生前診断が、血液検査だけからできるようになり、これまで以上にダウン症の出生前診断率が上がることになり、ダウン症と診断された胎児の中絶率が上がることになるかもしれないという。
高齢出産の女性には自分の遺伝子を持った子を持つチャンスというのはそれほど残ってはいない。もし、その数少ないチャンスの一人だった子がダウン症だったらどうするか。ということだ。NHKスペシャルでも先日、そんな特集を組んでいた。
今日のこのブログのこの記事で、私は命の軽重を論じたいのではない。無軌道な検査医学技術の発展も科学の進歩の一つの姿であり、致し方無いと思っている。
私が一番残念なのは、「ダウン症児=よくない子」という扱いをもっていられるということだ。
何度も言うが、ダウン症の子が一緒にいても、学級崩壊にはつながらない。それに、ダウン症の子が義務教育の過程を終わらせることができるほどではないにしても、生まれつき、自分たちと違う子がいるということを学ぶことは大切だと思う。
唯一心配なのは、学級崩壊させるような子がダウン症の子をいじめることだ。
決して、ダウン症の子は、人をいじめることはないのに。ひどい話である。
いじめをしたり、非行をして、学級崩壊をきたす子は普通学級に通い、そういった心配の全くないダウン症の子は、普通学級に進ませてもらいない。というか、そうすることで、普通学級に通う子はダウン症の子が特殊な子供に見えてしまう。
医療経済を含めた議論も大切とは思うが、まずは、ダウン症の人のことをよく知ってほしい。
そして、高齢出産とか染色体の不分離とかそういう単なる現象面のことではなく、なぜ、ダウン症の子が生まれてくるのか、私たちの遺伝子が何を語っているのかに思いをはせてほしい。
ダウン症の出生前診断:来月から妊婦血液検査を試行
毎日新聞2012年08月29日11時57分(最終更新08月29日12時49分)
妊婦の血液だけで、胎児にダウン症などの染色体異常があるかを99%の精度で調べる米国の会社が開発した新型の出生前診断を、国内の2病院が来月から試験的に開始することが分かった。流産の危険があった従来の検査に比べ、安全に調べることができる一方、異常が見つかれば安易な人工妊娠中絶にもつながることから、カウンセリング体制の整備などが課題になりそうだ。
検査を始めるのは国立成育医療研究センター(東京)と昭和大学病院(同)で、いずれも臨床研究として行う。対象は胎児の染色体異常のリスクが高まる35歳以上の妊婦などで、費用は21万円程度を予定している。日本人での検査の精度を調べるとともに、専門医によるカウンセリングのあり方を検証し、この検査が国内に普及した場合の課題やモデルケースを探る。31日に2病院や今後導入を検討している病院の医師らが研究会を発足させる。