ルーマニアで行われた一人芝居フェスティバルについての記事が、5月2日東京新聞に掲載されましたのでご紹介します!
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ルーマニア・バカウ市で一人芝居の国際大会
今年1月、EUの仲間入りを果たした東欧のルーマニア。
共産主義時代から演劇活動は盛んで、今や世界三大演劇祭の開催国としても知られる。
そのルーマニアで4月中旬、一風変わった国際演劇祭が開かれ、日本からも女優一人が招待参加した。主催者、参加者とも大きな意義を見いだしたフェスティバルとは…。
(安田信博)
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ルーマニアは、国が演劇活動を支援した東欧の旧共産主義諸国の中にあっても、とりわけ演劇の盛んな国として知られ、チャウシェスク大統領の独裁政権末期には、「『リア王』などの古典劇の上演で、巧みな演出によって体制批判を行い、民主化に大いに貢献した」と現地在住ジャーナリストは解説する。
民主革命の余塵(よじん)がくすぶる1994年、国土のほぼ中央、トランシルバニア州の古都シビウで始まった国際演劇祭は、いまやエディンバラ(英国)、アビニョン(仏)とともに、世界三大演劇祭と並び称されるまでに発展した。日本への関心も高く、2007年欧州文化首都にも選ばれたシビウでは、日本紹介月間が開催される予定だ。
首都ブカレストから車で北方に約4時間。モルドバ地方にある人口約20万人のバカウ市が、一人芝居の国際演劇祭というユニークな試みの舞台である。
◆身体表現や声のトーン「観客に十分伝わる」
主催は来年創立60周年を迎える地元劇団「バコビア市民劇場」。市の財政的支援によって、昨年から始めた。フェスティバルの総括責任者アドリアン・ガズダールさんは「国際演劇祭自体はシビウ以外にも国内に(ティミショアラ、クライオバなど)いくつかあるが、一人芝居に限ったものは、欧州全体でもほぼ唯一といっていいと思う。」と胸を張った。
一人芝居は、責任が分散される通常の舞台とは違い、一人芝居の役者が舞台の全責任を負う。「じかに観客にさらされ、全く守られることのないはだかの条件で、自らの価値を表現する機会を持つことは、役者の成長のためにも極めて重要」とガズダールさんは熱く語る。他国の作品や演劇人に触れることで、「世界の鼓動を知ること」も大きな目的の一つという。
今回は英国、フランス、ブルガリア、米国、トルコ、コンゴ民主共和国、日本の7カ国から参加申請があり、映像などによる事前審査で英国2人、ブルガリアと日本各1人が招待参加。ルーマニア国内の10人を加えた総勢14人が6日間の日程で競った。
日本から参加したのは、「東京演劇集団風」の辻由美子。これまで紀伊国屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀女優賞に輝くなど名実ともに劇団を代表する看板女優である。劇団は2003年から東京・東中野の拠点劇場で隔年で国際演劇祭を開催、海外の劇団との交流を図っている。今回のフェスティバルでは、演劇祭を通して相互に信頼関係を築き上げたモルドバ共和国(旧ソ連)「ウジェーヌ・イヨネスコ劇場」のスタッフが演出、舞台装置、音楽、照明を担当。国境を越えた共同作業による舞台となった。
上演したのは、天才画家ピカソとかかわった女性たちの回顧と愛情を描いた「ピカソの女たち」(ブライアン・マキャベラ作)。
辻は、最初の正妻となった元バレリーナを字幕なしで演じた。1時間20分の熱演に客席は総立ちとなり、「ブラボー」の掛け声が飛び交った。ブカレストの演劇評論家クリスティーナ・ルイスキーさんは「はじけるようなエネルギーの感じられる舞台。身体は小さいが偉大な女優だ」と称賛。5人の審査員による厳正な審査の結果、辻は見事、最優秀大賞の栄に浴した。
劇場の芸術監督として、自らもモルドバで国際演劇祭を開催している演出のペトル・ヴトカレウさんは「観客のレベルを上げ、われわれとの対話を深めることがフェスティバルの大きな意義。言葉は分らなくてとも、身体表現、声のトーンや抑揚などで、観客には多くのものを伝えることが今回の舞台であらためて実証された」と評価した。
ロシア、モルドバの演劇祭にも参加している辻は「人間同士の関係性がどんどん希薄になっている今の世にあって、国境を越えた演劇祭は、人と人とがつながっていくエネルギーのようなものが感じられ、同じ演劇人としての連帯感も生まれる」と意義を語った。
主催者側は、来年からは、大道芸など屋上での上演機会も設けて、フェスティバルの幅をさらに広げていく構想を温めている。
劇団「風」の浅野佳成さんは、今回のフェスティバルを踏まえて、さらにしっかり前を見据える。
「コマーシャリズムを全否定はしないが、日本国内だけの舞台では著名と本質の境目が分らなくなってしまう。俳優たちに舞台と客席の関係性を勉強させ、世界の劇団、演劇人とのネットワーク作りを進めるために、機会があれば、これからもどんどん海外に飛び出していきたい」
2007年5月2日 東京新聞掲載記事より。
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ルーマニア・バカウ市で一人芝居の国際大会
今年1月、EUの仲間入りを果たした東欧のルーマニア。
共産主義時代から演劇活動は盛んで、今や世界三大演劇祭の開催国としても知られる。
そのルーマニアで4月中旬、一風変わった国際演劇祭が開かれ、日本からも女優一人が招待参加した。主催者、参加者とも大きな意義を見いだしたフェスティバルとは…。
(安田信博)
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ルーマニアは、国が演劇活動を支援した東欧の旧共産主義諸国の中にあっても、とりわけ演劇の盛んな国として知られ、チャウシェスク大統領の独裁政権末期には、「『リア王』などの古典劇の上演で、巧みな演出によって体制批判を行い、民主化に大いに貢献した」と現地在住ジャーナリストは解説する。
民主革命の余塵(よじん)がくすぶる1994年、国土のほぼ中央、トランシルバニア州の古都シビウで始まった国際演劇祭は、いまやエディンバラ(英国)、アビニョン(仏)とともに、世界三大演劇祭と並び称されるまでに発展した。日本への関心も高く、2007年欧州文化首都にも選ばれたシビウでは、日本紹介月間が開催される予定だ。
首都ブカレストから車で北方に約4時間。モルドバ地方にある人口約20万人のバカウ市が、一人芝居の国際演劇祭というユニークな試みの舞台である。
◆身体表現や声のトーン「観客に十分伝わる」
主催は来年創立60周年を迎える地元劇団「バコビア市民劇場」。市の財政的支援によって、昨年から始めた。フェスティバルの総括責任者アドリアン・ガズダールさんは「国際演劇祭自体はシビウ以外にも国内に(ティミショアラ、クライオバなど)いくつかあるが、一人芝居に限ったものは、欧州全体でもほぼ唯一といっていいと思う。」と胸を張った。
一人芝居は、責任が分散される通常の舞台とは違い、一人芝居の役者が舞台の全責任を負う。「じかに観客にさらされ、全く守られることのないはだかの条件で、自らの価値を表現する機会を持つことは、役者の成長のためにも極めて重要」とガズダールさんは熱く語る。他国の作品や演劇人に触れることで、「世界の鼓動を知ること」も大きな目的の一つという。
今回は英国、フランス、ブルガリア、米国、トルコ、コンゴ民主共和国、日本の7カ国から参加申請があり、映像などによる事前審査で英国2人、ブルガリアと日本各1人が招待参加。ルーマニア国内の10人を加えた総勢14人が6日間の日程で競った。
日本から参加したのは、「東京演劇集団風」の辻由美子。これまで紀伊国屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀女優賞に輝くなど名実ともに劇団を代表する看板女優である。劇団は2003年から東京・東中野の拠点劇場で隔年で国際演劇祭を開催、海外の劇団との交流を図っている。今回のフェスティバルでは、演劇祭を通して相互に信頼関係を築き上げたモルドバ共和国(旧ソ連)「ウジェーヌ・イヨネスコ劇場」のスタッフが演出、舞台装置、音楽、照明を担当。国境を越えた共同作業による舞台となった。
上演したのは、天才画家ピカソとかかわった女性たちの回顧と愛情を描いた「ピカソの女たち」(ブライアン・マキャベラ作)。
辻は、最初の正妻となった元バレリーナを字幕なしで演じた。1時間20分の熱演に客席は総立ちとなり、「ブラボー」の掛け声が飛び交った。ブカレストの演劇評論家クリスティーナ・ルイスキーさんは「はじけるようなエネルギーの感じられる舞台。身体は小さいが偉大な女優だ」と称賛。5人の審査員による厳正な審査の結果、辻は見事、最優秀大賞の栄に浴した。
劇場の芸術監督として、自らもモルドバで国際演劇祭を開催している演出のペトル・ヴトカレウさんは「観客のレベルを上げ、われわれとの対話を深めることがフェスティバルの大きな意義。言葉は分らなくてとも、身体表現、声のトーンや抑揚などで、観客には多くのものを伝えることが今回の舞台であらためて実証された」と評価した。
ロシア、モルドバの演劇祭にも参加している辻は「人間同士の関係性がどんどん希薄になっている今の世にあって、国境を越えた演劇祭は、人と人とがつながっていくエネルギーのようなものが感じられ、同じ演劇人としての連帯感も生まれる」と意義を語った。
主催者側は、来年からは、大道芸など屋上での上演機会も設けて、フェスティバルの幅をさらに広げていく構想を温めている。
劇団「風」の浅野佳成さんは、今回のフェスティバルを踏まえて、さらにしっかり前を見据える。
「コマーシャリズムを全否定はしないが、日本国内だけの舞台では著名と本質の境目が分らなくなってしまう。俳優たちに舞台と客席の関係性を勉強させ、世界の劇団、演劇人とのネットワーク作りを進めるために、機会があれば、これからもどんどん海外に飛び出していきたい」
2007年5月2日 東京新聞掲載記事より。