このところ787型機のトラブルが多発しております。工業製品の故障発生率は時間の経過と共にバスタブ曲線を描くと言われております。故障発生率が高くなるのは、初期不良と経年劣化が主要因であることを表しております。これはあくまで、学問的、一般的なお話であります。
ところが、ANAが「新型機には初期不良はつきもので、運航しながら改善し、B787を成長させていく。」とコメントしているようです。車中のラジオで初めてこの発言を聴いたとき、俄かに信じられませんでした。後でネットで調べてみると、同様の報道記事が掲載されていましたので、どうやら事実のようです。運行会社であるANAとしては、口が裂けても言ってはならぬことであると考えます。初期不良がつきものあることは、それは確かに事実でしょう。しかし、この発言の裏を返せば、当社としては初期不良が発生することは認識、あるいは承知の上で運行させていましたと言うことになります。即ち、乗客乗員を危険にさらしてでも、運行を継続し、トラブルを発生させることによってトラブルシューティングしていくということになります。極端な言い方をすれば、乗客乗員はモルモットのような扱いを受けていたということにもなります。
さて、専門家の間から色々な問題点が指摘されております。中には行き過ぎた電気・電子制御への移行が最大要因であり、設計ミス等の重大な原因が内在するのではないかとの主張もあります。これは、従来は油圧を主体とした制御システムが主流であり、これを一気に電気・電子制御に置き換えたことによる構造的問題だといったことかと思われます。要は、油圧制御は枯れた技術であるから何ら問題なかったのに、何故に新しい技術を持ってきたのかといったことでしょう。しかし、電気・電子制御にもこれはこれで歴史がありますし、色々なところで採用されております。身近な例では自動車の電子制御などがありますし、宇宙船の技術にも利用されております。また、飛行機のコントロールなどに関する重要なシステムは、二重三重のシステムで構成されるなど、フェールセーフに対する考慮もなされているものと考えます。従いまして、油圧であろうが電気・電子制御であれ、こと安全性に関しては大きく異なることはないものと考えます。
では何故問題が発生するかということになりますが、飛行機でも原発でも同様ですが、システムの強靭性は、最も脆弱な部分に依存するということなのではないかと考えます。システムの重要な部分は、当然のことながら多くの検討が加えられ強化が図られます。しかしながら、余り重要ではないと考えられる要素については、前者ほどの考慮や対策が取られることはありません。ですから、この部分がシステムのウイークポイントともいえます。このトラブルが局所的なものに留まれば良いのですが、システム全体に影響を及ぼせば壊滅的な結果となってしまいます。
昨日の事故は、直接的にはバッテリーが焼損したもののようですが、その原因はバッテリーそのものにあるのか、あるいは周辺機器にあるのか原因究明が待たれるところです。私の直感としては、バッテリー本体と言うよりも、その周辺機器に問題があるのではないかと考えます。と言うのは、バッテリー本体については、性能評価試験や生産管理等々が厳格に行われているものと考えます。ただ、充電器等々の周辺機器に関しては、単体ではかなり厳格に試験されているとは思いますが、実運用で起こりうるあらゆる要因を想定することは不可能であると考えます。特に充電器を制御するソフトウエアなどが要因として最も疑わしいのではないかと思っております。(あくまでも私の勘ですから、開発者の方々は気分を害しないでください。それくらい難しい仕事であるということを言いたかったのです。私も制御機器や制御プログラムの開発に従事しておりましたので、その辺りの事情は理解しているつもりです。)
ともあれ、早期の原因究明と安全運行を願うばかりです。