i氏の海外生活体験記

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世界に優位な日本技術分野

2012-04-19 00:12:13 | かわうち湖の海水揚水発電
4/18PHP Biz Onlineで伝えておりました。

-世界に勝つ! 「日本の環境技術」最前線/加賀谷貢樹(ジャーナリスト)-

◆日本の火力発電の環境性能は高い◆

 昨年3月の東日本大震災以降、太陽光発電や風力発電、バイオマスをはじめとする再生可能エネルギーやリチウムイオン電池などの環境技術が脚光を浴びている。だが日本にはそれ以外の分野でも、世界トップレベルの環境技術が数多く集積していることはあまり知られていない。三菱総合研究所環境・エネルギー研究本部の西村邦幸主席研究員によれば、その筆頭に挙げられるのは、CO2削減効果の高い高効率の火力発電技術だと語る。

「かつて“環境汚染”が懸念された火力発電も、技術の進歩により環境性能が著しく向上。とくに日本の環境技術を世界に輸出するという視点からみた場合、火力発電がその主流となっています。一方、太陽光や風力発電などの分野では、中国メーカーの攻勢ですでに価格下落がそうとう進み、将来的にも日本メーカーの苦戦が想像されます」

 火力発電技術のなかでも特筆に値するのが、日本の発電電力量の約3割を占めるLNG(液化天然ガス)火力発電である。石炭と比較した場合、LNGのCO2排出量は4割減、光化学スモッグ等の原因となるNOx(窒素酸化物)は6~8割減。酸性雨をもたらすSOx(硫黄酸化物)とばいじん(煤や燃えかす)の排出はゼロである。

 こうしたクリーンな化石燃料であるLNGを燃料に用いる、高効率のガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)発電設備を備える中部電力(本店:名古屋市)の新名古屋発電所(名古屋市、総出力約300万kW)を訪ねた。同発電所が生み出す発電量は、名古屋市内で1年間に使用される電力量に相当する規模だ。

 コンバインドサイクルとは、高温高圧のLNG燃焼ガスでタービンを回して発電したあと、その排熱を利用してつくった蒸気で蒸気タービンを回し、再度発電を行なう方式。二種類のタービンを組み合わせて発電することで、熱エネルギーの利用効率を大きく高めることが可能だ。

 従来の火力発電所の熱効率は35~45%だが、新名古屋火力発電所が2008年に導入した最新鋭の8号系列の熱効率は58%へと大きく向上。ガス入り口温度(燃焼温度)を1500℃まで高温化することでこれを実現した。熱効率が高いほど燃料消費量が減り、CO2排出量も削減できるという。同8号系列のCO2削減効果は、年間120万tを超えるという。

 中部電力によれば、1970年の運転開始から40年以上が経過した西名古屋火力発電所(愛知県海部郡飛島村)7号系列の設備更新が進められており、世界最高水準の熱効率60%に達するGTCC設備が2019年度に運転を開始する予定だ。

 鉄の融点(1535℃)前後の高温高熱にさらされるタービン羽根などに使用される耐熱合金や遮熱コーティング、冷却システム等の技術をとっても、研究開発のハードルは高い。日本の技術力の結晶の一つといってよいだろう。昨年、三菱重工業(本社:東京都港区)では、アゼルバイジャン、韓国、タイ向けのGTCC設備を受注している。

◆日本の年間CO2排出量を中印米で削減可能◆

 ちなみに現在、世界の発電電力量の内訳をみると、石炭火力が最も多く、約41%を占める。再生可能エネルギー先進国であるドイツやデンマークでも、じつは発電電力量の半数近くを石炭火力に頼る。それゆえ地球規模でCO2の削減を推進していくうえで、石炭火力発電の効率化を進めることは大きなポイントだ。中国は発電電力量の約8割、インドは約7割、アメリカは約5割を石炭火力に頼っており(2008年)、三国の火力発電所に日本のベストプラクティス(最高効率技術)を導入すると、日本国内のCO2排出量に匹敵する約13.5億tが削減できるという試算もあるほどだ。

 なかでも有力な技術が、日本が世界最高水準の発電効率を誇る超々臨界圧(USC)石炭火力発電である。石炭を燃やして蒸気をつくり、蒸気タービンを回して電力を得る石炭火力発電では、蒸気が高温高圧になるほど効率がよい。なおUSCとは、蒸気圧力が218気圧以上で、蒸気温度が566℃を超えるものをいう。

 現在、Jパワー(本社:東京都中央区)が2009年に運転を開始した磯子火力発電所(神奈川県横浜市)の新2号機(60万kW、USC)が、石炭火力として世界最高水準の熱効率約43%を達成している。同社は全国7カ所に総出力841万kWの火力発電所をもつ、石炭火力発電シェア国内トップの卸電気事業者。これまでに国内市場で培った技術やノウハウを活かし、1960年代から海外コンサルティング事業を行なっており、90年代後半からは海外発電事業にも取り組んでいる。2011年12月末現在、同社はアメリカ(10件)、タイ(9件)、中国(4件)をはじめとする世界7カ国で29件、持分出力合計約360万kWの海外発電事業を行なっている。

 昨年10月には、Jパワー、伊藤忠商事、インドネシアのアダロ(PTADARO POWER)社の3社が共同出資した発電事業会社が、インドネシア国有電力会社(PLN)とのあいだに、中部ジャワ州に合計200万kWの高効率(USC)石炭火力発電所を建設、25年間電力供給を行なう長期売電契約(PPA)を締結した。インドネシア初のUSCにして、アジア最大級の高効率石炭火力によるIPP(卸電気事業)案件の受注に成功したのである。

 同社国際営業部IPP営業室長の水本明彦氏は、「高効率で石炭の消費量が少なく、CO2排出量を大きく削減できる技術力が評価されました。国内で15年間にわたるUSCの運転実績をもち、事故率が低く、熱効率が10年経ってもほとんど落ちないという、ソフト面も十分にアピールできたのではないでしょうか」と話す。

 かつてインドネシア市場では、複数の中国企業が中国政府の政治力を背景に、合計1000万kW規模のIPP案件を受注したことがある。だが、スケジュールどおり営業運転が開始できず、仕様どおりの性能を出せないケースが頻発。インドネシア政府当局者が「中国製は安いが信頼性の面で問題がある」と感じていたタイミングで入札を迎えたことが、今回有利に働いたようだ。

 とはいえ、年来の円高が日本勢にとって大きなハンディキャップになっていることも事実。「日本の環境技術を輸出するのですから、日本製品をできるかぎり採用したいのですが、品質とコストの両立は難しい。コア部分については日本製を維持しますが、汎用品を利用できる部分については、海外製品も積極的に活用していく必要があります」と、水本氏は語る。

 一方、Jパワーでは低炭素技術の研究開発にも積極的に取り組んでおり、木質ペレットや下水汚泥燃料などを石炭に混ぜて燃やすバイオマス燃料の混焼も推進。加えて同社では、USCよりもさらに高効率な石炭ガス化複合発電(IGCC)およびCO2回収・貯留(CCS)技術の研究開発も積極的に行なっている。こうした次世代の低炭素技術により、将来的には「ゼロ・エミッション石炭火力発電」の実現も可能だといわれている。

 なお、火力発電の技術以外で日本の有望な発電技術はないのか。三菱総合研究所の西村氏によれば、地熱発電も日本勢の国際競争力が強い分野。世界で使用されている地熱発電用タービンの約7割が日本製だという。200℃以上の熱水が地上に噴出する際に蒸気を取り出し、タービンを駆動する「蒸気フラッシュ型」の発電設備を得意としている。

「海外の有望市場は、世界最大の地熱資源をもつインドネシアを筆頭に、フィリピン、アフリカ、中南米、ニュージーランドなどです。一方、日本も世界有数の地熱資源大国ですが、国内で地熱発電所を新設する際、環境アセスメント(影響評価)に時間がかかるほか、温泉資源の保護のため、開発が制約されてきました。3月下旬、環境省は国立・国定公園内での地熱発電のための採掘を許可するように方針転換しましたが、とくに保護が必要な地域は引き続き開発を制限する予定です」(西村氏)

 たとえば、富士電機ホールディングス(本社:東京都品川区)は1970年代から地熱発電設備の海外展開を始めており、地熱用蒸気タービン発電機で世界トップクラスのシェアを誇る。昨年5月には、世界最大の発電出力(14万kW)をもつ地熱発電設備をニュージーランドに納入し、運転を開始している。

◆新興国で急成長する水ビジネスでの強み◆

 経済産業省が2009年8月に設置した水ビジネス国際展開研究会がまとめた「水ビジネスの国際展開に向けた課題と具体的方策」(2010年4月付)によれば、2007年時点で36.2兆円だった世界の水ビジネス市場規模は、2025年に86.5兆円まで成長する見通し。世界市場のボリュームゾーンは上水道分野(38.8兆円)と下水道分野(35.5兆円)で、工業用水・工業下水(5.7兆円)や海水淡水化(4.4兆円)が成長ゾーンになるとみられる。

 こうしたなか、日本勢が目立った活躍をみせている分野の一つが、一般工業用途や上下水道、排水処理、海水淡水化など広範囲の水処理に用いられるRO膜(逆浸透膜)。日本のRO膜メーカーの世界シェアは非常に高く、売上高ベースで1位の日東電工(29%)と2位の東レ(16%)を合わせて45%に達する。RO膜には1ナノメートル(100万分の1mm)を下回る微細な孔が無数に空いており、バクテリアやウィルスはおろか、液中のイオン類までを除去可能。そのため海水中のナトリウムイオンやカルシウムイオンを除去して真水をつくることができる。

 日東電工(本社:大阪市)は1973年にRO膜の研究・開発を開始。同社技術の特徴は、処理水をろ過する際に必要な圧力を低く抑えられる(超低圧RO膜)ため、省エネ性が高く、設備全体の小型化に貢献できること。RO膜を筒状のケースに収めたエレメントの単体納入が中心で、中東・インド、アメリカ、中国、シンガポール、オーストラリアなど数多くの輸出実績をもつ。

 日本、アメリカ、中国の三極生産体制を構築し、世界に20カ所以上のセールス・テクニカル拠点とR&D(研究・開発)拠点がある。昨年10月にはシンガポールの中空糸膜メーカー、メムスター社と業務提携。中国向けに、耐薬品性およびコスト競争力の高い商品ラインアップの拡充を図るという。

 また同社は昨年6月、ノルウェー国営の電力会社スタットクラフト社と、世界初の「浸透膜発電」の共同研究をスタートさせた。本来は水処理に使われる膜を、発電に利用するという斬新な試みである。2015年の稼働が目標だ。水が浸透膜を通って濃度の濃い海水に向かって流れることで生じる圧力(浸透圧)を利用してタービンを回し、発電する。海水と淡水の濃度の差を利用するもので、日照や風の具合、天候などに左右されない再生エネルギーとして注目されている。

 一方、下水処理の過程で生じる下水汚泥の処理技術に強みをもつ月島機械(東京都中央区)が、中国を中心に海外展開を活発化させている。

「中国における下水汚泥処理は待ったなし。いま中国では大量に発生する汚泥の捨て場所に困り、大きな社会問題になっています」と、同社海外水インフラ室の高橋正純室長はいう。

 下水処理設備から出る汚泥は一般に、汚泥濃縮→消化槽(汚泥中の有機物を分解)→脱水というプロセスを経たあと、(1)汚泥乾燥→汚泥焼却、または(2)汚泥乾燥→汚泥燃料化という流れで処理される。同社は汚泥乾燥・汚泥焼却分野で国内トップシェア。また乾燥させた汚泥を低温で蒸し焼きにして、石炭の代替となるバイオマス燃料をつくる汚泥燃料化技術を、Jパワー、メタウォーターと共同開発し、まもなく国内1号機が供用を開始する。

 同社は昨年5月、上海市から下水汚泥乾燥・焼却プラントを受注し、同9月には広東省佛山市向けに汚泥乾燥機を受注。中国市場を熟知し人脈も豊富なパートナーである、北京機電院高技術股フン有限公司(北京市)との共同受注だ。

 いまのところ、汚泥の乾燥以降のプロセスを提供できる中国メーカーは限られている。同社の技術力は中国側にも評価され、3月20、21日に清華大学で行なわれた「第5回中国環境産業大会」で、同社は「2012環境企業競争力大賞」を受賞している。

 先の上海市および佛山市の案件についても、当局側に、社会問題化している汚泥処理で失敗したくないという思いがあり、「汚泥乾燥機および焼却設備で安定した運転実績があること」という事項が入札条項に盛り込まれた。今回の受注の背景にはこうした「追い風」があったわけだが、技術的優位がいつまで続くかは予断を許さない。

 こうしたなか同社は、2010年11月にJFEエンジニアリング(本社:東京都千代田区)と業務提携の基本合意を行ない、海外における上下水道設備、バイオマス関連設備、産業廃棄物処理設備などの分野で受注拡大を図っているほか、今後の収益源として汚泥燃料化の事業スキームを中国でも構築する考えだ。

◆インドにリサイクル技術をパッケージとして輸出◆

 もう一つ、日本が世界的に高い技術をもっているのが「静脈産業」と呼ばれる廃棄物処理・リサイクル分野だ。環境省では2011年度から「日系静脈産業メジャーの育成・海外展開促進事業」を開始した。

 アジアをはじめとする途上国では、急速な経済発展の一方で、廃棄物の適正処理が追いつかず、環境汚染が進んでいる。そこで政府がアジア各国と「3R国家戦略」の策定、法制度整備の支援や政策対話を進めつつ、「日本の先進的な廃棄物処理・リサイクル技術を制度とパッケージにして海外展開」を図るというわけだ。環境省では、アジアの都市ゴミ処理の市場規模が2020年に約600億ドル(1ドル=83.3円として4兆9980億円)に達すると見積もる。

 同事業の一環として、具体的な廃棄物処理・リサイクル技術の海外展開を想定した実現可能性調査に対する国の支援が行なわれている(静脈産業の海外展開促進のための実現可能性調査等支援事業)。昨年度、「インド国グジャラート州における携帯電話を中心とする小型家電リサイクル事業」が採択された日本環境設計(本社:東京都千代田区)を訪れた。

「3年前の話ですが、いま現地で一緒に事業を進めているパートナー企業が、日本のリサイクル技術に興味をもっているから一度会わないか、と調査会社から電話がありました」と、同社専務取締役・高尾正樹氏は話す。

 当初、同社が独自技術をもつ繊維製品のリサイクルをインドで行なう話が進んだが、同国内における環境法整備が未成熟で、事業化するのは難しいと判断。インドで急速に普及している携帯電話のリサイクルに注目し、同事業に応募した。

 高尾氏によれば、インドにおける携帯電話の回線契約数は日本の3倍。各州で料金体系が異なるため、一人で携帯電話を複数台もつことが多いという。同州で使用済み携帯電話を回収して日本に送り、同社の今治工場にあるリサイクルプラントで、携帯電話のプラスチック部分を熱分解して重油相当の燃料に再生(油化)し、ボイラーの燃料などに利用する。携帯電話の金属部分は、専門のリサイクル技術をもつ鉱山会社などに処理を委託し、回収された貴金属やレアメタルを売却する。こうした適正処理の仕組みを構築しつつ、事業の採算性を調査した結果、同社はたしかな手応えをつかんだようだ。

 高尾氏は、事業の採算性もさることながら、「資源外交」を担う一人としての自覚を大切にしている。

「インド国内では(電子基板などから)金を抽出する際、水銀が使われており、中毒などの健康被害が絶えません。私たちはこの問題について、現地当局に対して『日本では廃棄物処理法のもとで、こんな処理を行なっている』などの情報を提供しました。そのかいもあって、今年5月に電子基板類の廃棄に関する法律が施行されることになりました。政府担当者も現地にもっと足を運び、『日本はこうやって廃棄物処理の問題を克服してきた』という経験を伝えてほしいですね」

技術開発の手をひとときも休めるな

 ところで、CO2排出削減効果の高い日本の環境技術の輸出を促進するうえで、排出権取引をいかに活用するかを考える必要がある。京都議定書に基づき、途上国でCO2削減プロジェクトを実施し、そこで削減したぶんを排出権(クレジット)として先進国に売却するCDM(クリーン開発メカニズム)が普及しているが、問題も多い。

 富士常葉大学総合経営学部の山本隆三教授は、「これまで日本政府と電力業界、鉄鋼業界が、CDMを含む4億t分の排出権を約1兆円で購入しましたが、それで日本の環境技術はどれだけ海外に売れたのでしょうか」と指摘する。

 たとえば、世界のCDM発行シェアの7割を占める中国のCO2削減プロジェクト案件は、価格競争力の面から、日本の技術や設備はほとんど使われず、中国製、欧州製のもので行なわれているのが現状だ。こうした反省を踏まえ、政府は「二国間クレジット」制度の構築をめざしている。同制度は二国間約束のもとに、日本の優れた環境技術や製品を利用してCO2削減プロジェクトを相手途上国で実施し、達成された排出削減量を日本の排出権として認定するもの。すでにインド、ベトナム、インドネシアを対象に、二国間約束の締結に向けた政府間協議が行なわれている。これによって、日本の環境技術の国際展開に大きく弾みがつく可能性がある。

 とはいえ、山本氏によれば、日本の電力会社は昨年の震災後、厳しい経営を余儀なくされており、政府予算も厳しいいま、いったい誰がクレジットを引き受けるのか、という問題があるという。

 もともと日本の環境技術は、戦後粛々とインフラの整備を進め、公害を克服してきた経験のなかで育った貴重な技術シーズ。日本の環境産業は、そのシーズを活かして世界市場にチャレンジし、停滞が続く日本経済に新たな成長の可能性をもたらすプレーヤーになりうる。だが、世界市場で成功するためには、日本製品と現地製品をいかに組み合わせてトータルなコストを削減するか、というノウハウを学ぶ必要もあろう。相手国の市場を知り、現地のニーズに合った研究開発を、技術者が現地に足を運んで行なうことも重要だ。

 さらに、日本の環境技術が世界のトップレベルにあることは間違いないが、次世代の超々臨界圧石炭火力発電技術である「A-USC」の開発のように、日本が欧州勢に後れを取っている分野もある。中国や韓国の追い上げも厳しい。技術開発の手をひとときも休めてはならない。

-引用終わり-
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