「昼行くか」
「ラーメンか」
一斉に昼の空気が満ちた。誘われるかもしれず、僕は少しどきどきしていた。
「混ぜてくれ」
その時、チーフが鍋を混ぜるように言ったので、僕はその場を離れることになった。大きな鍋に入った具の多いカレーだった。混ぜるといっても簡単ではなく、強い抵抗があった。こ、これは……。
「パンツが入ってます!」
他にも布製の物が色々と入っている。Tシャツ、タオル、見覚えのある物が。僕のじゃないかな。冬用のパジャマじゃないかな。
前田さんが、ははーんと言った。思い当たる節があるようだった。しばらく前に大家さんが頭を痛めていたのは、2階の兄が引っ越しの時に色々と置いて行ったことだとか。
ラーメン屋は3部屋構造になっていた。僕のいるセカンド・ルームは薄暗く、他に客はいなかった。第3の部屋はもっと暗く、閉鎖している様子だった。食券を買うために券売機に接近したが、どうも電源が切れているようだ。仕方なくファースト・ルームの券売機を使うことにした。
「ききにきてやー」
チーフの声がした。どうやら注文の仕方がわかっていないようだ。
千円札を投入するが、すぐに戻ってきた。裏返してみたがやはり戻ってくる。もたもたしている内に、他の人が買いに来た。前田さんだ。
「お先にどうぞ」
しかし、前田さんが握りしめているのは万札で、それはここには入らない。
ウィーン、ウィーン、ウィーン……
頑なに拒まれる千円札のかなしみ。
店のメニューはたった1つ。しょうゆラーメンだ。