眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

園長の贈り物(かわいいのに甘い)

2020-12-24 19:09:00 | ナノノベル
 私は棺桶に入れ運ばれてきた。その日は雨にかわって鮫が降っていた。巨大とは言えないがこの街で唯一の動物園だ。平日の人々はキリンよりもむしろ不倫を見つめている。まあそれはそれでいい。愛とは代替することだろう。恋する時は他に何もないように思ってしまうものだ。
 とどのつまり。
 私に与えられた檻の中は1ページだけの小説みたいだった。じゃれ合う相手はいない。歩き出せばすぐに壁に突き当たる。そこが世界の果てだ。だからすぐに引き返さねばならない。引き返したところで結果は何も変わらない。できることなんて何もない。行ったり来たりの繰り返し。「こんなものか」生きるとは、自分の限界を見つめることだ。
 女の子が触れ合い広場のうわさを運んできたのは昨日のことだった。

(触れ合い広場!)
 その響きは私に夢のようなイメージを与えた。

 私は格子越しに園長に訴える機会を得た。

「ねえ、園長さん、あんたかわいいのに甘くないか?
 私のようなライオンには優しくできないと?
 そこに私のようなものの居場所はないと?
 園長さん、もうすぐクリスマスらしいね。
 ドッグランって何かな」

 わかっているのかいないのか……。
 園長は私の声をただ聞いているだけだった。


「園長からだよ」
 翌朝、飼育員さんが狭い檻の片隅に何かを投げ入れた。リボンを食い千切り包み紙を開いてみると、中にパンダの着ぐるみが入っていた。我を忘れて中に飛び込むと一瞬で生まれ変わったように思えた。ちょうどいいゆったりサイズだ。歩くとすぐに壁にぶつかった。だけどふわふわとする。これが優しい形なのか。

(ワォーーーーー!)

 クリスマスの日、私は客寄せとしてドーナツ・ショップの前に立っていた。イメージ通りに上手く演じることができるだろうか。自分が少し震えていることに気づく。人とのあまりの距離の近さに私は経験のない戸惑いを覚える。私は本当に大丈夫か? 
 その時、飼育員さんから聞かされた合い言葉のことを思い出した。そうだそうだ。

「メリークリスマス♪」
「かわいい!」
 ニット帽を被った女の子が私の元へ駆けてきた。

(かわいい? 私が?)

 私はぎゅっと彼女を抱きしめた。着ぐるみ越しにも温かい。生き物の感触がひどく懐かしかった。今日はなんて素晴らしい一日だろう。

 ありがとう、園長先生!
 ありがとう、パンダさん!

「メリークリスマス!」

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ダンスフロアに続く廊下

2020-12-24 16:50:00 | ナノノベル
 しばらくの間、迷子になっていた。街がすっぽり霧に覆われてしまったようだ。振り返るまでもなく、それは通い慣れた道だった。一時的に行方不明になるだけであって、なくなったわけではない。
「まだ行ける」
 魂はそう叫んでいる。はっきりしていることは、今はまだ前に進み続けているということだ。ゆっくりでもいい。僕は昔好きだったものに触れてみる。時の隙間は埋まらないとしても、好きだったものの中から再び「好き」を救出することはできるかもしれない。確信はない。だけど、濃い霧の向こうにだんだんと百貨店の形が浮かび上がってくる。

 開店と同時に人々は百貨店になだれ込む。そこに必ず求めるものがあるからだ。いつの時代も百貨店は人の期待を裏切らなかった。何百年もの間、人々に愛されながら街の中心地で輝きを放っていた。

「ノースフェイスは?」
「はい。ノースフェイスでございますね」
「豚まんは?」
「はい。豚まんでございますね」
 人々はそれぞれに目当てのものを探して、案内所の前に立つ。そこには百貨店に相応しい笑顔と淀みのない導きの声が待っているのだ。僕の目当ては宝石でも寿司でもない。

「踊れるところは?」
「はい。ダンスフロアでございますね」
 ダンスの中に僕の求める陽気が眠っている。
「下手でも大丈夫? 怒られない? 追い出されたりしない?」
「ふふっ」
「みんな踊ってるの?」
「踊っている人、見ている人、休んでいる人。色んなお客様がいらっしゃいます」
「上手い人ばっかりじゃないの?」
 僕はこれから的外れなダンスをする。

「皆様ダンスをこよなく愛する方ばかり。理解のある方ばかりでございます」
 ならば僕が入り込むことも許されるだろう。
「何階ですか?」
「はい。ダンスフロアは東館14階にございます」
 話を聞いて足取りは軽くなった。
 渡り廊下の上で僕の体はもう浮き始めていた。


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こんなものでどうなんだい

2020-12-24 03:52:00 | 短い話、短い歌
「こんなもの書いても誰も読まないよ」「こんなものとは失礼だ!君」


作品未満の下書きをみつけ
君は得意げに言い放ったものだ

もしも
僕のしていたことが
パズルだったら?
球蹴りだったら?
君は何と言ったのだろう

どうして
「書く」はすぐ
「読む」とリンクされてしまうのだろう

僕は物書きのようにみえただろうか
今を楽しんでいる人には
みえなかっただろうか

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