眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ダンスホーム

2012-11-06 19:48:57 | ショートピース
天井が落ちそうだった。「上でダンスをしているから、ご飯は200グラムしか炊けませんね」客人は天を仰いだがどうしてと訊かれても家の構造だからとしか答え様がない。「せっかくだから皆で外に出かけよう!」と父。私は胸中でダンサーに感謝すると小躍りしながらマフラーを巻いた。#twnovel

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2012-11-06 00:21:05 | 夢追い
 ディスクを持って自分の町を出た。見慣れた景色が薄れていき、道を行く人々がみんな知らない顔に見えてくると少し落ち着きを取り戻すことができた。どこかの町の四丁目で小さなコンビニに入った。狭くて、とても暗かった。冷凍庫は扉ごと凍っており、ATMは電源が切れていた。子供が何かの機械を使っていたが、黒く長い髪が機械全体を包んでいて、眠っているのかもしれない。黒い髪の中に広がったキッチンで、ご飯を作っているのかもしれない。少なくとも、他者を寄せ付けない強い力で、機械を所有していた。陳列棚には、食品よりも、ファミコンのカセットが並んでいるのが目に付いた。こういうコンビニなのだ。それらしき人がいるがまだ店員かどうかは定かではない。声を出して、店長を呼んでみようか……。そして、ディスクをコピーしてくれるように持ちかけようか。けれども、そうすれば自分のディスクに干渉されてしまう。たとえ仕事上のものだとしても、一瞬だとしても、できることならそれは避けたいことだった。カタログだけを手にして、しょぼくれた店を出た。
 店の前に置いてあった紙袋をみた。あまりに暗くて、どれが自分の置いていたものだったのか、自信がなくなる。紙袋の中身にしても、どれもみな漫画とお菓子の組み合わせなのだから、それにしても被ることさえあるかもしれない。手を探り入れると何か赤いものが、触れたような気がした。とんがりコーン。それは僕のお菓子ではない。おーい。誰かの声が、店の裏から押し寄せる。僕は泥棒扱いされて、逃げ出した。「すみません」悪くもないけど、争う意思のないことを示しながら、逃げ出した。

 風と季節について話す2人の後をついて歩いた。2人は家にたどり着くことも、どこかの店に呑み込まれることもなく歩き続けた。自分と同じ旅人なのかもしれない。歩きすぎて帰れなくなる。本気でそう心配し始めた頃、2人は道を折れ、その坂を上っていった。僕はその坂の上り具合に惹かれて、少し離れたところから見上げていた。自転車だったら、勢いをつけないと上り切れないような、坂。2人が坂を上り切り、建物の中に消えるのを見届けて、振り返った。後ろの景色を気に留めながら、ここまで来たのだった。そこは銭湯だろうか、図書館だろうか。入り口まで行ってみたが、ドアは開かなかった。硝子の向こう一面は黄金色のカーテンに覆われていて、長く人が立ち寄った気配はなかった。
 上った時よりも緩やかになった下り坂にスポンジが落ちていた。つま先に触れるとすぐに犬に変換されて、まとわりついた。変換されたことがよほどうれしいのか、その人懐っこさは、野生のものとは程遠い。つれて帰りたい。色々と名前を考えてみる。昔の犬の名前が、思い出されてしまう。ミルク。離れる。何かを感じたように、犬は離れていった。犬溜りに集合した犬たちを見つめた。顔色も毛色も違う大勢の犬が互いに身を寄せて、戯れていた。犬はいいなあ……。帰り道は、足元に注意しながら歩いた。白手袋を見つけて、つま先を近づけてみた。

 カタログを広げてデジカメを選んだ。フィルムを手にする機会が失われることに備えたのだが、なかなか決められなかった。電車の時間が、迫っていた。
「早くしないと」
 カードとカメラとドッグフードの3点セット。迫られてようやく、決断した。かなりのお買い得価格だったし、おすすめの商品だったし、最初から一番気に入っていたのだが、一通り見て回りより良い選択を模索する内に、思わぬ時間がかかってしまった。荷物をまとめなけばならないというのに。
「もう先に送ったぞ」
 兄の手回しの早さには、舌を巻く。
 白いタオルケットを広げて、母を包んだ。靴を一緒に中に入れて、足りないところはバスタオルを継ぎ足して包んだ。
「見えてない?」
 包む内に布が引っ張られて、母の一部が現れてしまう。母は敏感に、それを指摘する。
「あとでちゃんとする」
 母を包む内に、自分も一緒に入院したらどうだろうかという考えが浮かんできた。今までは何も浮かばなかったのに、体を動かしているせいだろうか、よしあしはともかく、それは初めて浮かぶ考えだった。外来だけだと色々とどうしても上辺だけのことになってしまうから。
「高い? 1日いくら?」
 母は、高いとも高くないとも答えなかった。

 病院で食後に決まって出されるクイズはみんな簡単だった。
「雨が降ったあとに道に残る物静かなまとまりは?」
 なぜなら、僕は歴史の証人だったから。
 マニュアルがないカメラの使い方にも慣れてきたけど、それは絶対に見つからないところに隠してあった。
 次は、何を撮ろう……。
 自分の家を撮ろう。自分の家、あとは空。空ばかりを撮ろう。
 病室の窓から、一番遠いところをみていた。
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