眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

犬と星のドラマ

2012-11-02 00:19:49 | 夢追い
 余裕を持って浮遊する。ここまでは来れないはず。犬はただぼんやりと敵意も見せず浮き上がってくる。その落ち着きに汗が滲む。紙で出来ている? あるいは機械仕掛けの犬なのかもしれない。ついには抜かされてしまうと、犬の乳白色の腹を眺めながら、一度気持ちの整理が必要と考え家に帰った。冷蔵庫を開けて、コーラを一気に飲むと少し落ち着きを取り戻した。再び浮遊して、犬の気配に注意を払いながら屋敷の上空を漂った。特別な気遣いが続いたためか、睡魔が襲ってきた。これでは犬と張り合うことなどできず、仕方なく炬燵の中で夜を越すことに決めた。次に恐ろしいのは、犬が狼に変換されてしまうことだった。群れを成してやってきたら、どうなるだろう……。取り囲まれた炬燵を想像しながら、僕は炬燵の中に潜り込んだ。

 戦いが済むと背景が変わってゆく。余分なものたちの整理がついて、消えてゆくものは、消えてゆく。
「クイーンを山奥へ逃がします」
 アナウンスが復唱したのを、「銀河の奥の間違いでした」母は涼しい顔で訂正する。暗黒の中から、新しい光が生まれクイーンのための流れを作ると、長く伸びた指がクイーンを持ち上げた。一瞬指が巨大化して銀河を押し潰しそうに見えたが、激しく発散し始めた光の渦がクイーンを優しく導いて運んで行った。コツは、ポーンを敵陣三段目に侵入させること。そこで初めて他を奪えるユニットが誕生するのです。天井の図解に参考手順が光を放った。
「礼を言いなさい」
 父が言ったが、僕は気が遠くなるばかりだった。
 先の教材を見るためスクロールさせるとトンネルの中に星々が流れた。星の歴史は際限のない舞踏のようで、いつまでも同じ光を見ている内に、それは止まっているように見える時があったし、自分が眠っているように思える時もあった。指を止めるとスクロールが止まった。少しだけ、星は逆戻りしたようにも見えた。期待せずに指を動かしていると星が途絶えて闇になった。続いてルパンが登場した。ルパン、ルパン、ルパン……。ルパンが続く時代に変わったようだった。テーブルに着いたルパン、銃を放つルパン、宝石を集めるルパン、ルパンと愉快な仲間たち……。やっぱり人のドラマも見たい。自分の気持ちに気がついた時には、ハンドルを握っていた。
 前の車は、子供か。不安定に揺れながら中央に寄った。加速してその左を追い抜いた。駅前を通り、Uターンする時に一つの標識が気になったが、どうしても意味が思い出せない。一本道を進んでいると不安げな犬が追いかけてきて、「ここは行ってはいけない」と言った。

 母はカーテンを開けてしまう。おかげで学校中から丸見えになった。
 8時間も動くなんて無理だ。4時間だったら、まだいい。社会は狂っている。
 隠れ部屋の中に逃げ込むと、今度は父が追いかけてきた。
「人の心がわからない」
 僕は泣いた。
「そうか」
 父はつぶやいた。
コメント
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