年月に関守なし…… 

古稀を過ぎると年月の流れが速まり、人生の終焉にむかう。

陽射し<8>ハナモモ源平

2010-03-29 | フォトエッセイ&短歌
 モモと言えば味覚の女王様でジューシーな自然の甘味は逸品である。果肉の柔らかいの堅いのと好みはあるが、水のしたたる溶けるようなモモが好きである。じつは味覚だけでなく、中国の故事ではモモを食べると3千年も寿命を延ばすといっている。
 中国北部が原産地で日本にも古くから伝えられ、和歌などにも詠まれているが「3千年の寿命」ではなく、花の美しさを詠んだものが多い。実より花が観賞用として愛されたようである。そのために花の品種改良が積極的に取り組まれ江戸時代には観賞用ハナモモが出来上がっている。現在では、八重咲き・菊咲き・枝垂れ・箒立ちなど改良が進み、色彩も鮮やかに白・桃・緋紅色などのほかに紅白に咲き分ける品種もある。

<1本の木から紅色、白色、桃色、絞りの花が咲くハナモモ「源平」。新宿御苑>

 ハナモモの脇にはラッパスイセンが香りを漂わせながら咲き誇っている。地中海沿岸あたりが原産地で平安末期に中国を経由して日本に渡ってきたというから歴史は古い。
 学名の「ナルシサス」はギリシャ神話の美少年の名前。泉に映った自分の姿に恋をして毎日見つめ続けたらいつのまにか1本の花になってしまった。”ナルシスト”の名はここからだそうだ、ナルホド。

<スイセン(水仙)は世界中で愛され品種改良が進み今では1万品種以上とか>

 ハナモモが自然の美しさなら空には一本の人工の美が真っ直ぐに描かれていた。飛行機雲(ひこうきぐも)は、飛行機のエンジンの排気により生成される細長い線状の雲。
 石川啄木の「飛行機」を思い出す。
  『見よ、今日も、かの蒼空に /  飛行機の高く飛べるを。
   給仕づとめの少年が /  たまに非番の日曜日
   肺病やみの母親とたった二人の家にゐて
   ひとりせっせとリイダアの独学をする眼の疲れ……
   見よ、今日も、かの蒼空に /  飛行機の高く飛べるを』

<困窮の暮らしの中で、高々と青空を飛び去っていく飛行機に夢を託したのか>

陽射し<7>化粧宣言

2010-03-24 | フォトエッセイ&短歌
 春の陽気が2、3日続き、平年より1週間も早くサクラの開花宣言が関東地方の各地で出されている。堅い褐色の不細工な蕾が膨らみ、薄いピンクの珠のような花が開く様は感動ものだ。しばらくすると燃え立つ満開の花盛りを迎え、吹雪となって散っていく。
 子供の頃の記憶である。1日の入学式に校長は開花宣言に触れながら祝辞を述べ、始業式には満開になった。最初の授業はサクラ散る花びらでフラワーリングを作って隣座席の女の子と交換すること事だった。活発な子の花輪は大きく、動きの遅い穏やかな子の花輪は小さかった。先生はそんな花輪の大きさを見て生徒の特性でも見ていたのであろうか。いずれにしろ「サヨウナラ」の頃には教室の床はピンクの絨毯であった。歩くと花びらが舞い上がった。

<1木に5~6くらい花をつけると開花というのだそうだ。後、数時間で開花宣言>

 宣言が出るのはサクラだけではない。富士吉田市では「富士山初雪化粧宣言」を出している。今年というか、今期、山頂にうっすらと冠雪が確認出来た10月10日をもって初雪化粧宣言を出したという。霊峰富士のふもとの街の宣言で粋な計らいである。
 春、山肌に出現する農鳥に田植えの時期を知り、山裾の涼しげなススキの穂の揺れに秋風を感じる。厳冬期ともなれば、青い空に白く悠然とそびえ雪煙をなびかせる。富士山に自然の厳しさと自然に対して畏敬の念を持っている現れでしょうか。
 そろそろ山肌に農鳥の影が浮かびあがる頃だが、まだ富士山はまだ深い雪である。しかし厳しい雪の表情はなく穏やかな春の雪となっている。

<彼岸が過ぎ、麓では桜が咲く春の訪れだ。農鳥宣言も近いかもしれない>

 水ぬるむ池の鯉、どうした事か哀れその生涯を終わってしまった。佳人薄命という。細身の白い肌に僅かな朱の斑紋を浮かび上がらせる綺麗な鯉だった。
 亀がユラユラと彼女を抱きかかえる行きつ戻りつしている。何とか料理して噛み付こうとしているのか、悲しみをいやしている惜別なのか。

<何とも深刻な事態だが、亀さんのユーモラスな動きが微笑ましい>

陽射し<6>辛夷咲く

2010-03-19 | フォトエッセイ&短歌
 春まだき冷たい風の中で、他の木々に先駆けて白い花を梢いっぱいに咲かせるのがコブシ(辛夷)である。葉に先立って花を咲かせる木々は少なくないが、コブシの花は特段の役割も持っている。
 北国では、その昔、農耕自然歴のめやすとし、辛夷が咲くと田の仕事にかかる準備をしたという。そのために「田打ち桜」「種蒔桜」と称して開花に併せて種を蒔いたといわれる。芳香を放つので香水の原料にもなり、漢方薬の原料の定番でもある。
 山里に湧き出る霞のように咲くコブシの風情は目を見張るものがある。雪白色の花は清純であり美しさの中にも寂しさ、侘びしさを感じさせる早春の花だよりである。

<千昌夫の「北国の春」~白樺 青空南風 こぶし咲くあの丘 北国の ああ~> 

 花は清楚であるが、実は何とも不格好でゴツゴツして、手を握った時の関節のようなところから「こぶし」と命名されたという。秋には朱の綺麗な実になって鳥たちに運ばれて行くのだが…。
 コブシは3月24日の誕生花で花言葉は「信頼」である。公園には多くの彫刻が並んでいる。辛夷の脇に中国から贈られたという花崗岩の大きな彫像がる。タイトルは「一衣帯水(いちいたいすい)」とある。

<石像の隆々たる作品だが、何か帯水を感じさせる穏やかな表情がいい>

 「一衣帯水」から少し離れた竹に囲まれたところには「?」がある。彫刻芸術はなかなかむずかしく観賞とまではいかないが、何かユーモラスなほのぼとした不思議な感じもなくはないのだが。

<腕とか手とかを表現しているのでしょうか。SFにでも出てきそうな形がだが>

陽射し<5>水ぬるむ

2010-03-13 | フォトエッセイ&短歌
 水ぬるむ時期となっている。陽射しを浴びて気持ち良さそうにカップルで新居を探しながらの散歩でもあろうか。初夏の子育ての事もあるしそろそろ考えないといけない。
 クチバシの先端が黄色くオスメスが同色なのが特徴のカルガモ。渡りをせず国内に住み着いているため、ヒナを連れ歩く微笑ましい子育ての姿に人気があつまる。地上を歩いて草の実をついばんだり、水中の水草を逆立ちして採ったりと多彩な芸も見せる。
 そのためか、人間様にもなにかと言われている。「カモがネギを背負ってくる」はポピュラーだが「いとこ同士は鴨の味」なんていうのもある。

<隣の不幸は鴨の味。隣の不幸は我が家の幸福だと!どうも人間って奴は…>

 水ぬるむ時期で早くも高知では桜開花宣言。オカミ(気象庁)がこの桜開花宣言を放棄してしまったので勝手宣言だから多少ずれようが早過ぎようが知ったこちゃない。開放経済、民営化はサクラにまで波及してきたか。
 とはいえ、まだ寒気団は日本海を隙あらばうかがって、前線の影響を利用して思わぬ大雪をもたらす。春の雪で交通網は寸断である。

<雪に煙る峠道である。上州無宿の三度笠でも通ると様になるのだが>  

 1860年、江戸幕府の大老井伊直弼が桜田門外で水戸の浪士に襲われたのが3月3日の大雪の舞う日である。幕府滅亡を物語る出来事となった。春の雪は珍事・事件が起こる。
 10日未明、関東地方を襲った雪は鎌倉八幡宮の樹齢千年と云われている大銀杏を根こそぎ引っ繰りかえしてしまった。たいした風雪ではなかった、実朝の怨霊か。ご神木も油断をしたのか。ご神木を加護するとなると…一体ダレなんだ。

<今はなき鎌倉八幡宮石段脇の大銀杏の威容。新年の写真が最期となった>

陽射し<4>春告草

2010-03-08 | フォトエッセイ&短歌
 梅の花、別名の一つに春告草(はるつげぐさ)というのがある。梅園の霞のようにたなびく白梅の様は春の訪れを確かなのもにすが、路地を歩いていてどこからともなく密やかに漂ってくる梅の香にも季節を感じる。古武士の鎧を思わせるゴツゴツした幹に清楚な透き通る花びらが清々しい。
 幹のゴツゴツには理由がある。「桜伐(き)る馬鹿、梅伐らぬ馬鹿」と云われるように、桜は伐ると切り口から腐敗してしまうが、梅は切り詰めない樹形が雑然となり、実の付き方も悪くなるという。
 屋敷から小枝を差し出した風情ひとしおの雨に濡れた紅梅が可憐だ!

<しかし、ご注意。青い果には青酸配糖体が含まれ痙攣に陥る有毒性があり>

 「東風(こち)吹かば にほひおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ」  菅原道真(すがわらのみちざね)が大宰府に左遷されるとき、道真の愛した庭の梅の花に別れを惜しんで詠んだ歌として有名である。聖徳太子の頃、中国から伝えられ奈良時代には花と云えば梅を指すまでにもてはやされた。万葉集では梅に関する百首以上が詠まれているという。
 花の観賞ばかりではなく、梅干し、梅酒、梅酢やジャムなどの飲食用。健胃、整腸、駆虫、止血、強心作用などの漢方薬としても重視されている。更に、江戸時代には、各藩が非常食として梅干を作ることを奨励したため、梅林は全国に広がっていった。

<梅の字は木に「母」。中国ではつわりのときに梅の実を食べる習慣があるから>

 梅の花が何だかんだ云っても、マア「花よりダンゴ」です。花を背に弁当を開くカップルさん。このところの天候不順で晩冬の陽は貴重なもので土の感触を楽しんでいるか。

<モグラの出現も始まった。黒土の小さな山が緑の雑草の中に築かれている>

陽射し<3>マンション

2010-03-03 | フォトエッセイ&短歌
 何ともシンボリックな風景である。建設続く天空に聳える高層マンション、分譲なのか賃貸なのか、いくらくらいの価格なのだろうか。テッシュが付いているので(セコイナ~)チラシを受け取って見入ってしまう。箱根連山越しに霊峰富士山を眺望できるゴージャスなリビングルーム… 
 眼下の野宿生活者の青テント群も睥睨(へいげい)出来るとは書いてなかった。工事現場で使用されるブルーのビニールシートでテント風簡易家屋を設営して居住するホームレスの住宅。景気は浮揚せず慢性的な雇用の悪化でこちらも好調な建設ラッシュ!だ。

<二子玉の再開発地域。テント風家屋地域は台風の度にいつも再開発してます>

 最近の社会現象として中間層の空洞化とか、中間層の劣化とかが指摘されている。簡単に言えば金持ちと貧乏人とに分極化しているという事だ。社会の基幹を形成する中間層が社会の活力の源泉で牽引力としての役割を担っている。その階層の弱化が現在の社会の閉塞と停滞の原因であるとも云う。
 子育て真っ最中の運動公園の井戸端会議。子供手当は大丈夫か、年度末は春闘の時期、トーサンのベア大幅アップしてもらわないと… 

<高層マンションの住めるかしら。いえ~うちの子、高度恐怖症なもんでして>

 チビッコは高層マンションも井戸端会議も関係なくボール蹴りに夢中である。最近のアスリートは幼児教育、秀才指導で育っているからチビッコといえどもおろそかには出来ない。ゴルフズケ漬け・野球ヅケ・卓球ヅケと見事な漬物が並ぶ。
 バンクーバーオリンピックが壮麗なファンタジックな氷上で閉幕した。味を出し切れなかった選手もいたが、味を出し切ってもなおその先の秘伝の味に「一敗地にまみれた」選手もいた。

<おむつが取れているのか。チビッココーチが熱心にボールのキックを見ている>