年月に関守なし…… 

古稀を過ぎると年月の流れが速まり、人生の終焉にむかう。

花蕎麦

2012-08-30 | フォトエッセイ&短歌

 山形県の山間部に入ると国道・県道といってもトラックが走れない街道の面影を残したつづら折りの道が多い。高速道の排ガスとスピードと喧噪からおさらばした山間のドライブは快適である。クーラーを止め窓から腕を伸ばすと雑木の小枝に触れる。さすがに、涼しいとは言い難いが、緑陰に遮られた日差しは真夏のものではない。
 「スクール・ゾーン 子ども注意」なんて立て札があるのが面白い。集落を越えると黄み帯びた菜穂が揺れる谷戸田が拓けてくる。実りの秋が近づいている。そんな広がりの中に山に向かって淡い白のジュータンが敷かれている。緑に囲まれたソバ畑は輝いてもいるようだ。赤い色のソバ花もあるが山形では見かける事はなかった。
 夏ソバが終わり、十月頃に収穫する秋ソバの花の時期である。「新そば」を心待ちしているソバ好きな御仁もおられようが、芭蕉さんも言っている。『蕎麦はまだ花でもてなす山路かな』。蕎麦ファンは多い。
 ソバが親しまれたのは<救荒作物=飢饉の時に命を救う農作物>であるからだ。痩せた土壌・冷涼な気候・乾燥した土地でも2~3ヶ月程度で収穫が可能で凶作期を乗り越えられたからである。
 しかし、最近では栽培から石臼の粉挽き、蕎麦打ち、秘策のツユとか「蕎麦道」を極めんとする蕎麦名人が蘊蓄を傾けている。こうなると、蕎麦が好きなのか、食するまでの過程を楽しんでいるのか判らなくなる。私は、野菜天の更科蕎麦(さらしなそば)が好きであるが、蕎麦通ではない。どころか、蕎麦オンチで「もりそば」と「ざるそば」の相違は何かなどと悩ましい疑問を抱いていた。
 蕎麦通が曰く。「もりそば」に海苔を刻んで載せたのを「ざるそば」という。いいのかナ~こんな簡単な事で!そもそも何故、海苔なのか。
山形を縦貫する羽州街道(13号線)から宮城県に抜ける街道をススキの穂を見ながらドライブする。沢山のそば畑が続く。みちのくの小さな旅をしてきた。

<ソバの蜂蜜は黒色で鉄分が多く独特の香りを持つという。試食してみたい>

  羽州路の野辺に広がり香り立つ淡き花そば残暑に負けず

  山間のおぼろげなるや蕎麦の花緑陰を背にし華やぎてある

  蕎麦枕ザクリと凹む感触を老いの頭によみがえる

  車駐め窓開けみれば一陣の花蕎麦の風ハチ乗せて来る

  緑堅いススキ葉なれど穂が揺れる羽州街道秋の気配に


ブルーの少女

2012-08-16 | フォトエッセイ&短歌

 『ヒヤシンス・ブルーの少女』:スーザン・ヴリーランド著(長野きよみ訳)は1999年発表されたアメリカのベストセラー小説である。現代アメリカのある街の数学教師が同僚の美術教師におおやけには出来ず秘かに所有している、フェルメールの「ヒヤシンス・ブルーの少女」の名画を見せる。美術の教師はこんな所にフェルメールの絵があるわけない「贋作だ」と否定するのだが……、実は世界大戦の折りナチストだった数学教師の父親がアムステルダムでユダヤ人狩りをした時にある家庭から盗み出した絵を息子が譲り受け隠し持っていたのだ。
 物語はこの名画を取り巻く歴史とそれにまつわる人々の人生を社会性鋭く過去にさかのぼっていく。そして、1660年代の「ヒヤシンス・ブルーの少女」を描いた画家とモデルの少女にまで辿り着き、ミステリアスな展開は余韻を持って終わる。日本で言えば良質のサスペンス風の社会派タッチの作品で極めて硬質で魅力的である。本の表紙には「真珠の耳飾りの少女」が使われている。
 いつかの日にかフェルメールの絵を見る事があるのかと漠然と思っていたら機会は意外に早く訪れた。上野の東京都美術館で「マウリッツハイル美術館展」が開かれヨハネス・フェルメールの作品が公開される事になった。「真珠の耳飾りの少女」と「ディアナとニンフたち」の二点が展示される。
 酷暑の昼下がり上野の森は干上がり、さしもの桜の老木も悲鳴をあげて葉をよじっている。並ぶこと一時間「真珠の耳飾りの少女」の前に立つ事になるが、立ち止まりは禁止でゆっくり歩む事になる。じっくり観賞が出来ないでご不満の人もいようが、これは思わぬ効果を生み出した。振り返った少女の物問いたげな大きな瞳と去りがたく振り返る視線がぶつかりあうのだ。少女が語りかけようと一瞬、朱き唇を動かしたようにも見える。
 フェルメールブルーと云われる、ターバンのウルトラマリンブルーの青が、う~ん、やはり印象的で、官能的な唇にも想像力をかきたてられます。

<東京都美術館フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」>

 

   振り返る真珠が揺れて反射する光を捉えるフェルメールの筆が

  フェルメールの光と影に魅力ありターバンの青深く沈みて  

  「内緒なの」真珠の乙女は振り返り光りの中へフェードインする

  ターバンのマリンブルーの落ち着きが瞳の輝き引き立たせしか  

  フェルメールの光と影の息遣い17世紀のオランダの彩り


原発も原爆

2012-08-11 | フォトエッセイ&短歌

 8月9日、長崎に原爆が投下され7万4千人がその年に亡くなった。その被爆から67年経った今年の「長崎・原爆の日」は新たな高まりと緊迫感を持って迎えられた。福島第一原発事故と長崎の原爆が結びついて、放射能に脅かされる恐怖と理不尽さが訴えられた。ノーモア長崎・ノーモア福島・ノーモア広島!田上長崎市長は、福島の人に「放射能の不安に怯える日々に心を痛めている。長崎市民は寄り添い応援し続ける」と誓った。
 長崎を焼き尽くした原爆は広島のウラン型ではなくプルトニウム型で、約1キロのプルトニウムを爆発させたものだという。常石神大教授は云う。現在、日本の原子力発電は使用済み核燃料として長崎原爆5000発分のプルトニウムを所有しているが一体どうするのだと危機感を述べている。
 しかも、原子力発電所から出続ける「核のゴミ」と云われる放射性廃棄物を処理する技術も貯蔵する場所も限界になっているのである。原爆も原発も被曝の恐ろしさは同じであり、爆発後の破壊された環境が回復するのは2世代3世代と永い長い年月を必要とする。
 どちらも人間が創り出した科学の産物である以上、使用をやめて破棄する事もその気になれば出来るのである。今度の福島の原発事故は安全性どころか末代に禍根を残す危険この上ない殺戮兵器であることをはからずも知らしめた。被爆国の政府として原発再稼働には特段の慎重さが求められる。
 原発ゼロと核兵器廃絶は人類の共通の課題として改めて提起されなければならない。取り敢えずノラリクラリ、クネクネと再稼働を黙認し原発許容ににじり寄るドジョウ内閣にはSTOPのレッドカードで退場してもらう事だ。

<夕暮れに影を落とす永田町の国会議事堂>

 

  潮見坂歩み登れば塔頂が権威を肩に威し聳ゆる 

  霧雨に議事堂けむりはかなげに霞が関の水無月尽きる  

  今日もまた三党合意で審議なし議場閉鎖で政策もなく

  原発に消費増税通過させ裏切り続ける内閣の野田

  閉塞の時代を撃ちし啄木が生きししあれば何を詠うか


一億総特攻

2012-08-02 | フォトエッセイ&短歌

 江戸幕府の法令に『生類憐みの令』という「生類万般を大切にしなさい」という趣旨の法令が発布された。しかし、この法令はエスカレートし「下水を道路に打つとボウフラを踏み殺すから撒水を禁止する」という莫迦らしいものになっていった。それが正しい事であれ社会的な常識の範囲で運用しないと人間の命を貶める事になる。
 戦後、動物を愛護しようと『動物虐待法』が参院法制局で議題になったのは1951年、宮城タマヨ先生の絶大な尽力があったからだという。タマヨ代議士(56歳)は1947年の第1回参議院選挙全国区で戦後女性初の当選を果たした一人で後に緑風会に所属し女傑振りを発揮した。
 タマヨ先生のスゲ~ところは、この間まで大東亜戦争の八紘一宇を信奉し、本土決戦を主張していたことである。米軍に竹槍で一億総特攻隊で突っ込むのが皇国臣民の不朽の道であると、究極の人間虐殺を主張していたのである。大日本帝国の神国不敗の神話を信じ「本土決戦」「一億総特攻隊」を絶叫していた戦争大好き人間が動物愛護を主張したのが面白い。
 大本営も二の足を踏むような好戦プロパガンダを展開したのが婦人雑誌『主婦之友』であるが、各ページの上欄には「アメリカ人をぶち殺せ」「米鬼を一匹も生かすな!」「寝た間も忘れるな米鬼必殺!」凄まじい殺人フレーズが記されていたのだ。
 真珠湾奇襲攻撃に成功し浮かれていた時期ならともかく大都市は大空襲で焼け野原になって敗戦濃厚な原爆投下目前の日まで『主婦之友』は「本土決戦」「一億総特攻隊」を大和なでしこに厳命していたのである。『主婦之友』の印刷所が空襲で焼失すると静岡新聞社に応援を頼んで7月号(特集:勝利の特攻生活)を発行している。「皇国と共に苦難を突破して」「勝ち抜く壕生活」「焦土菜園の手引き」と本土決戦の戦意は些かも衰えず。
 そして宮城タマヨ先生もペンを銃にして「敵の本土上陸と婦人の覚悟」を執筆している<本土決戦は、地の利からも、兵員の上からも、我が方は決して不利ではありません。… 一億一人残らず忠誠の結晶となり、男女混成の総特攻隊となって敢闘するならば、皇国の必勝は決して疑ひありません。大義に徹すれば火の中、弾の中をもものともせぬ献身の徳は、肇国以来の日本婦道でございます> 8月には原爆に見舞われ、忠誠の結晶がならない間に皇国は敗れ去った。
 人間虐待の先頭に立って、女達の母達のオッカア達を突撃させたタマヨ先生は恥じることも反省する(事もなかったのであろうか)。う~む、人間は特攻隊で死すとも動物の生命は守られねばならん。動物虐待法で挽回したつもりかもしれんな~。

<タマヨ先生。また、日本の一番長いあの八月が訪れました>

  夏休み声も姿も影もなし遊び奉行は人材不足

  坪庭は水撒き遅れ白々とミミズ黒く干上がりて 

  ジリジリと葉月の光いや増して敗戦告げる慟哭と笑い

  八月は特別の月と暦見る酷暑の中の敗戦記念日

  うざったい猛暑の空のヘリコプター「水とりなさい」伝え飛び去る